「エミーお前、この村出身じゃなかったのか!」
「……え、ソレ今聞く事?」
「ジョッシュさぁ……」
ジョッシュの反応に、他の皆が毒気を抜かれ呆れ顔になる。
まったくこの阿呆の子は、空気の読めぬヤツじゃの……2人とも15と言うとったから出会いは8歳の時。それを覚えておらんとは、記憶障害を疑うぞい。
「ジョッシュはしばらく黙っておれ。姉妹の会話に挟まるのは失礼じゃぞ」
「あー、そうだな。わかったぜ」
……うむ、まぁ、素直なのは好ましいし、張り詰めてばかりよりは良い、と思おう。今は張り詰めてた方がよい状況なのには目を逸らす。
「そんな事より。アルアジフ聖女のお姉ちゃんが、なんでこんな何もない村に1人で来てるの?」
「ズベリーと仲良しこよししてるし、そこのメイドからも話を聞いてるんでしょう?」
「……。聖女が、ううん、マトモな人がする事じゃないよ」
「そう! 役目を放棄したその可愛くて妬ましい風使いを、確実に処分するためよ。これは大聖女ジェシカ様直々の栄誉あるお役目なのよ!」
「……ルリは仮にも側仕えだったんでしょ? そんな人を殺してお姉ちゃんは平気なの?」
「全ては大聖女様のため! 星辰の導きに逆らってはならない! ジェシカ様は常に正しいの! あの方が間違う事はないのよ!」
「……っ」
アビゲイルの返答に、終には言葉が出ずに口をパクつかせるしかなくなるエミー……数年振りの姉妹の会話とは思えぬ、とも違う。アビゲイルは、応え返しているようで、まったくズレた返しをしている。
「完全に邪神の魔力に魅入られ、狂心していますわね」
「……エミー、そこまでじゃ。ここまで精神汚染されておる者は、もう殺すしか救えないのじゃ」
「……っ……わかった」
……事前に言ってはあったが。実の姉妹を手にかけねばならぬのは、大層辛かろう。
「カタリナに全て任せるかの?」
「ううん、やるよ……お姉ちゃんを救うためなら、私が……!」
だが、エミーの決意は固いようじゃ。ならば止めるのは無粋。
「……さっきから聞いてれば、私を殺せる事前提で話してるみたいだけど……アハッ! アルアジフ聖女のこの私を! 殺せるわけないじゃない!」
「聖女とて、せいぜい超越者未満。不死でないなら殺せるのじゃ。皆、頼んだのじゃ!」
「おう!」
「うん……!」
「「承知しました!」」
そう言ってから、我は彼奴から大きく離れる。我は何故か戦闘能力がほぼないし、元々治癒術による後方支援が本領じゃ。なんじゃったか、餅は餅屋とかいうヤツじゃな。
それに、「世界への接続」には、流石に我でも少々時間がかかる。コレをしなければ、ただの悲しい姉殺しにしかならぬからの。時間稼ぎをして貰わねばならぬのじゃ。
「はあああっ《
「……モード: 短剣。フッ!」
早速近接戦闘組が前に出て攻撃を繰り出すが、相手は仮にも聖女に選ばれ力を与えられし者。
「起きなさい、『
ギャンッ!
アビゲイルも、強力な霊力と魔力を放つ星霊剣を腰の鞘から抜き放つ。
独特な泥色をしたその刃は形状も特徴的で、まるで蛇のように波打っている。フランベルジュ、じゃったかの。
剣の名と形状は、ルリから聞いておった通りじゃが。これは……
(我の霊力感知から察するに、星霊剣としての等級は3級程……しかし魔力を内包しておる事から、総合力としては2級程……)
我は「接続」に集中しながらも、相手の戦力分析をする。
(等級は予想の範囲内……しかし高い等級故に固有剣星術を持っておるじゃろうから、高く見積もり1級に近い2級。だが聖女という役職からして実践経験自体は低いと思われる事を加味して……彼奴の戦闘力は2級上の下程、かの)
「だりゃああ!」
「アッハハァッ!」
「フゥッ」
ジョッシュが大振りで切り込むがアビゲイルの高い身体強化術ゆえ余裕で避けられ、返す刃はスルリと間に割り込んだカタリナが受け、流して隙を作り、立て直したジョッシュが切り込むを繰り返す。
(ふむ……剣の腕は並程度……彼奴の筋肉の動き・体内霊力の流れからして星霊剣に体の操作権を渡して身体を使わせておるな……やはり聖女の星霊剣も、最初から魔剣だったか魔剣化させられたか、なようじゃ)
ジョッシュとカタリナが攻撃し続けている間、我は「接続」に集中、エミーとルリは強力な大星霊術を練り上げるために集中。
後衛3人共無防備ゆえ、前で剣を打ち合わせている2人はアビゲイルをその場に縫い付け続けなければならない。
(我はあと約30秒。後ろの2人は……同時に放つなら約1分。まぁ余裕じゃ——)
ザシュ!
「む」
——とか考えておったら、我の腹部に剣線が走り鮮血が吹き出す。
アビゲイルの魔剣は、見た目や名の通り蛇のように形状変化させられるらしく、ほんの僅かな隙を見出し鞭のようにしならせ我を斬ったらしい。
「アッハ♡ 無能な部下のせいで、ご主人様が致命傷よぉ♡ ねえ戦闘メイドさん、大切なご主人様を守れなかったってどんな気持ちぃ!?」
だが、この程度の傷は無意味じゃ。
「「……」」
一応、我に攻撃を届かせてしまった自身への怒りがあるのだろう。2人は無言のまま、再び打ち合いを再開する。
「なっ無反応!?ってぇえ!?」
チラと見えた我の姿に驚いたのであろう。すでに我の傷(服含む)が何事もなかったかの様になくなっておれば、動揺するのも無理はない。斬った手応えもあったようじゃしの。
さて、後ろの2人も準備完了したようじゃ。そしてアビゲイルは動揺で隙だらけ。やはり、実戦経験の少なさが勝敗の分け目か。
「今じゃ!」
「おう!!」
我の合図に、ジョッシュは大きく一歩踏み込むと、アビゲイルは慌てて剣をジョッシュに向ける、が——
「ほっ」
「なっ」
——ジョッシュはバックステップで大きく後方に下がり、
「《
「ぎっ!?」
ガァンッッ!!
いつの間にか両手に短剣を構えたカタリナが低姿勢で真下にまで迫り、掬い上げる様に両腕を振るいアビゲイルの手から『怪蛇』を弾き飛ばし、
「フッ!」
ガッ!
「グゴッ!?」
その飛び上がった勢いを乗せてアビゲイルの顎を爪先で蹴り上げ、双方共に空中で一回転しカタリナは華麗に着地、アビゲイルは顔面から地面に落ちる。
うーむ、素晴らしき連携に連撃。流石じゃあ。
「せ、せいよをあしえ……は、はえ?」
アビゲイルは急いで起きあがろうとするが、上手く立ち上がれず片膝を付き呂律もおかしい。脳震盪を起こしておるな。
致命的な隙。今なら、単体に直撃させるのが難しい大星霊術でも簡単に当てられる。
「トドメ!」
我は身を屈め、最期の指示を出す。
「《
「《
ゴバアッッ!!
「があああああ!!!!」
エミーが超高熱の火柱を、ルリが超圧縮された竜巻を放ち、混ざり合い火炎竜巻となりアビゲイルを包む。
「肺まで焼け爛れ、もはや生き残れまい……」
……普通の人間ならば。
「……お姉ちゃん……」
「や、やったの?」
火炎竜巻が消え去った後に出来上がったのは、人型の黒炭。人肉の焼け焦げる嫌な匂いが漂うが……僅かに、生命力を感じる。
そして、此奴はアルアジフ聖女。
「……ロス」
「えっ」
小さな呟き。それは徐々に大きくなっていき——
「……ォロス……ォロスォロスコロスコロス! 殺すっっっっ!」
「ひっ!」
「嘘でしょ……」
——明確な言葉として聞こえたと同時、アビゲイルの炭化した頭部の黒炭がボロボロリと剥がれ落ち、そこだけ綺麗な状態で現れる。
「流石に聖女。《
言霊を発さずに回復している事からして、つまりはそういう事。
恐らく顔が先に治るよう集中したのじゃろうが、身体の方の黒炭も徐々に剥がれ落ちてきている事から、数分の内に全回復するじゃろう。
しかし、エミーとルリ程の実力者の合体大星霊術を受けて、辛うじてとはいえ生き残るとは……やはり、半分人間辞めておると感じたのは間違いではない、か。邪神め。
(……まあ、そのための殺害、そのための「接続」なのじゃが)
何にしても、エミーとルリの心を汲んで任せたが。アレで死なぬのならば、カタリナの星霊術で即死させる以外に殺せぬか……仕方ない。
「カタリナ——」
もう即死させてやろうと命じようとした時。
「……死ね」
パンッ
「アガッ」
アビゲイルの一言と同時。水風船が破裂したかのような音と共に、唐突にルリが前のめりに倒れ込み、手で押さえていた右目から血が溢れ出しあっという間に赤い水溜りが出来る。
「え……ル、リ?」