「ここどこかのぅ……」
「大海原ですわ」
「まぁ、ですねぇ……」
急に暴風音が止んだと思ったら、我等はどこかの海原に放り出された。
(まあ、星の外や深海ウン千メートルの海溝よりはマシじゃの)
とはいえ。カタリナが深海の圧力耐性特化の結界系星霊術をいつでも発動出来る状態にしておったから、宇宙以外なら問題なかったりする。
ちなみに今はカタリナの補助系星霊術、《
……3人と言った通り、着水(正確にはカタリナが即時展開した結界の上に着地、といった感じじゃったが)してすぐ、ルリを《
のじゃが…… 邪神の
アビゲイルを蘇らせた時のように、
海上じゃと我の星霊属性が地属性ゆえ相性が悪く、海と大地の狭間にある地下霊脈の特定に滅茶苦茶時間がかかってしまうでの、陸に上がってから治す事にしたのじゃ。
そこで、ひとまず3日程この場に留まり、後回しにせざるを得なかったルリの修行をする事にしたのじゃ。
何故敢えてこんな海上でするのかと言えば、理由としては2つ。
一つに、海には魔物がおらず、変な邪魔が入らずに修行を行えるからじゃ。
正確に言えば海にもいるらしいが、海魔獣のほとんどは浅瀬付近を生息域にしており、水深深めの海域には滅多に来ないらしいのじゃ。
そしてもう一つ。
「……ん? うん〜ん……」
「どうしましたルリ、 こ ですか?」
「違います! むー…………うん! この香りです!」
「やっぱり◯◯◯じゃないですか、汚い流石メ◯ガキ汚い」
「なんですかまるまるまるって! 潮の! 香りです! この香りのした方向へ進めば、陸地が見えてくるはず!」
「でかした!」
今のルリに、眼球はない。つまりは五感の内一つが完全にない状態なのじゃ……そのままだと可哀想なので、眼球隠し用に少し大きめの黒眼鏡(カタリナはバカデカサングラスとか言っとったの)を装備しておる。まぁそれはともかく。
視界が絶無じゃと、他の四感が鋭くなる。普通ならば流石にすぐにそこまで鋭くはならぬ、のじゃが。
ルリは風属性。元より視界以外の感覚が鋭いゆえ、復活させて精神が落ち着いてから、四感を更に研ぎ澄ませるため敢えて目を復活させずに置いた。ちと可哀想ではあるが、その方がルリの修行効率が段違いゆえの。
そんなこんなで。3日程ルリの四感強化と風探知能力向上のためその場に留まり、本日なんとなく地下霊脈があるっぽい方向へ歩み出して半日。ルリの鋭くなった嗅覚と触覚が、潮の香り——即ち、陸地のある方向を感知した。我の霊脈感知的にも合致しておるので、確定じゃろう。
「……こほっ。確かにめっちゃ口内乾きますけど、味は良いですね。嫌いじゃないです」
「我はその水分持っていかれる感じが苦手なんじゃよなあ」
「わたくしはむしろこの感覚が好きです……モサモサ、コクコク」
「「ごくごく」」
で、現在。口内水分を奪われる携帯食をカタリナとルリが食しつつ、3人でカタリナの星霊術で生成した純水を飲みながら陸地のある方へと移動しておる。移動は、カタリナが生成した水の足場をスライドさせてしておる。
スィーと滑らかに座ったまま移動するこの感じは奇妙なものじゃが、波に揉まれ気分が悪くならずに済むのでありがたい。まぁ我は酔わぬから良いが、ルリは四感が鋭くなっておるため酔いやすいからの。
(海原に放逐されて数日間。カタリナのルリへの感情も軽減されてきて仲が深まったようで、何よりじゃ。うむ、やはりユウジョウ!)
「怒りの感情をいつまでも抱き続けるのも地味に疲れますし、建設的とは言えません。心の健康を自ら害し続けるのも不毛ですしね。ですのでルリに友情が芽生えた訳ではありませんよ?」
「心の声を読むでない」
「アル様のとても愛らしい顔は、表情から感情を読み取りやすいですので」
「あ、あはは……」
⏳
そんな雑談をしつつ進んでいき、日が暮れ始めた頃。進行方向に、島らしき影が見えてきた。まだ遠いが、結構デカい。
「……推測ですが。エミーさんからいただいた国の情報、村で見せていただいた地図からして、あの島は獣人族の国であり聖地でもある、クレイン島である確率が高いと思われます」
「ふむ、獣人の島か。国としては一応イースパイン王国に属してはいるが、実質獣人の自治区扱い、じゃったかの」
「……んー。言われてみれば……潮の香りに、僅かに獣人特有の体臭が混じっているような? まだ遠いので、私も断言は出来ないです」
「獣人の体臭のう」
ふーむ……ハイスロープ村では、牛獣人のマシューと、あとは確か……もう1人くらい居たような、いなかったような。
「……村には2人いましたが。獣人と言ってもケモ度の個人差が結構あるんですね、という感想しかありませんでした。ルリさん、具体的にはどのような臭いなのですか?」
「ああ、やはり2人おったか」
マシューは人間の身体に牛頭の牛人じゃったが、もう1人はー……あぁそうじゃ、馬耳娘じゃ。馬耳と馬尻尾だけが生えている成人女性、という印象しかなかったからか、すぐに思い出せんかったわい。
「どの動物の獣人かで、多少変わりますけど。例えば猫獣人なら、猫臭と人臭が混ざったような、て感じです。ちなみに今感じ取った臭いがソレです」
「なるほどのぅ。流石に我も臭いでは判別出来ぬ。流石じゃの、ルリ!」
そう褒めて優しく頭を撫でてやる。
「あ、ありがとうございます! えへへ……」
「ちなみに、村にいた馬女性は耳と尻尾以外ほぼ人間といったケモ度でしたが……完全に馬頭の方もいるんですか?」
「はい、いますよ。というか、話に聞いただけですが、クレイン島に定住している獣人の方は、カタリナさんの言うケモ度? 獣度合い高めな方がほとんどらしいです。だから、島に着いたら完全に馬頭の獣人に会える確率は高いです」
「……そうですか」
「?」
声は平坦じゃが、ルリの鋭くなった聴覚は、カタリナの声に僅かに混じった「残念」の感情を聞き取っておるようじゃ。流石に、何が残念なのかは分からぬようじゃが……表情を合わて、我は理解した。
(……カタリナ的には、村にいた馬の娘くらいの獣感が好みのようじゃの。間違いなく、ロリならなお良しなんじゃろな……ポニー娘とかいるなら、成人しても見た目ロリなんじゃろか? まぁカタリナの好みをわざわざルリに教える理由もなし……いやむしろ、合法ロリ人種の貞操の危機になりかねんなら話さぬ方が良いのか……?)
まぁ何にしても。我からすれば全ての人間は、人種に関係なく等しく隣人、「今を生きる愛すべき人類」じゃ。姿形など些細な事よな。
ただし邪神と徒、ぬしらはダメじゃ。生命に対する冒涜は、我がどうしても許せぬ数少ない所業故に。
(しかし、アレがクレイン島となると、随分と北の海原に放逐されたようじゃ。ルリ1人(遺体)であったなら、すぐに魚の餌となっていたじゃろう)
改めて、カタリナとルリを引き寄せたのは正解じゃったの。我、ナイス判断。
⏳
島を目視した時間が日暮れ直前だったゆえ、黄昏時になるまで進んでから早めの夕食と睡眠を取り、明日早くに起きて昼前までに上陸する事にした。
まぁ我は寝ずとも問題はないのじゃが、普通の人間であるルリと、超越者未満のカタリナには必要じゃ。急いては事を仕損じる、というヤツじゃな。
何より、ルリはまだ視界のない状態での戦闘が出来ぬじゃろう。ので、現在唯一の戦闘員たるカタリナには万全の状態でいて貰わねばの。
そう予定を立て、朝食を終えてから進行再開してからだいたい半刻程。島の浜付近にて、小さくなっていく人間の生命力を感知した。
「……何やらきな臭いのう」
「えっ? それはどういう……っ! 鳥獣人の体臭、それに混じったこの臭いは……血臭……?」
どうやら、魔獣の集団との戦闘が起きている上に、死傷者もいるらしい。
というか。
「こっちにも魔獣接近中じゃ。カタリナ、」
「いつでも戦闘可能です」
「うむっやはりカタリナは頼もしい従者じゃの!」
はてさて。どうやら獣人側が劣勢のようじゃが……まぁ、致し方なかろうな。
敵は、普通の魔獣ではないからのぅ。