ふふんふ〜ん♪ 着替え〜させられ中〜な〜のじゃ〜♪
「……ふーむ。あ〜、今更なんじゃが……」
「どうかいたしましたか?」
「……おぬし、名前はなんじゃったかの?」
「……。そもそも名付けられていませんわ」
「おぉう、そうじゃったか。それはすまんかったのぅ」
しかしそれも致し方なき事。あの頃は、
とはいえ、名は大切じゃ。
(言動に棘がある気がしたのは、その辺りもあるかもの……今後は気をつけねばな)
うむ、流石に可哀想じゃったな。反省じゃ。
「一応、地上で活動する時に名前を尋ねられた時などは、カタリナと名乗っておりました」
「ほう。確かおぬしは、我の一番弟子であったカトリーヌの
「だいたいそんな感じですわ」
「では我も、今後はカタリナと呼ばせてもらおうかの」
「どうぞ、アル様のご自由に」
ちなみに、従者——カタリナには、我が美少女に転性完了後の世話と、我が地上に出てカルチャーショック的なのを受けぬよう、100年毎に起きだして地上へ出て世界情勢の変化を調べる役目を与えた、
ようするに。カタリナも、不老の存在である。
とはいえ不死性はないので、暴漢に襲われても自衛出来る程度の戦闘技術も教育しておいた。
ゆえに、滅多な事では命の危険に晒されたりはしておらぬはずじゃ。
「して、現在の地上世界はどんな感じなのかの」
「わかりませんわ」
「ぬむ?」
「アル様は、予定より91年108日と4時間ほど寝坊してくれやがりましたので。なので私が所持している地上世界の記録は、約91年前のものですわ。普通の人間なら統治者は世代交代していますので、世界情勢が大幅に変わっているかもしれませんわ」
「あぁ、そうじゃったのう」
「せめてあと10年程寝坊していただけていれば、多少は調査していたのですが。本当、間の悪いご主人様ですこと」
「我とて人間、多少の計算間違いはする。まぁ91年もズレてしもうたのは、若干不可解に思うが」
「それは確かに……はい、着替え完了いたしましたわ、アル様」
「うむ、ご苦労!」
「にしてもこれは……くふふっ……ご主人様、とても愛らしいですわ!」
満足げな微笑で着替え完了を告げるカタリナ。なぜか怖気の走る笑い方じゃが……そんなことより服の確認じゃ。
早速、姿見でくまなく観察する。
「ふむ……ほうほう……」
これは……ふーむ?
「91年前には、このようなヒラヒラの沢山付いた衣服が流行っておったのか?」
「ヒラヒラの名前はフリル、そしてご主人様が着用なさっている服のジャンルは、ロリータファッションですわ。ロリータ系にはフリルがかかせませんので」
「ロリータのう。響き的に人物名が元かの」
「91年程前のジュクブクロのお嬢さん方が好んで着ておりました。今のご主人様の見た目ならバッチリ合うだろうと思い、チョイスしました。ガッチリ合致していて大満足ですわ!」
むぅ、我の知らぬ現代語が続々と。
「お気に召しませんか? 召さなくともロリータ系しか用意しておりませんが」
「極端じゃのー……じゃがまぁ。転性準備前の世界では、服はキトンが主流であったが。あれはシンプル過ぎて我の好みではなかったし……うむ!」
カワイイ!
これは実に良い! なんだかんだ文句をたれながら一流の仕事ぶり、流石我が自慢の従者じゃ!
「滑らかな心地よい肌触りの生地と、見た目の華やかさ! 生地もデザインも洗練され、我好みになってきておるようじゃな! ロリータやフリルなどの名前の響きも、可愛らしくて実に良い!」
我の感性と技術力に、ようやっと時代が追いついた、ということかの。結構結構、ご満悦じゃ!
そんな可愛い可愛い超可愛い我の今の格好を、改めて姿見で観察する。
上半身は、白とピンクを基調としたフリルやリボンという蝶のような形状のがいたるところに付属している、ワンピースと呼ばれる上下一繋ぎの服で、袖は手の甲まで隠れるほど長い。
その上から、縁にフリルが付いている白いボレロという小さな袖付きマントのようなもので肩を覆い、胸元を少し濃い目のピンクリボンで飾っている。
頭部は、フリルの付いたカチューシャという髪留めで飾り、長い髪は胸元のと同じ色のリボンで左右に纏められ、ツインテールという髪型にされた。
下半身には、ドロワーズというフリルの付いた下着を履き、さらに上にスカートを膨らませシルエットを美しく見せるためのパニエというものを履いている。
脚部には、純白の膝下までのハイソックスというものを履いているが、これにもフリル。もう全身フリルまみれじゃな。
靴も白、じゃが。これだけはブーツというカッチリした、少々無骨にも感じるものじゃが……まぁ色合い的には合っているので違和感はない。足元がしっかりしていて、かなり歩きやすくて良いの。
さて、総評じゃが。
「我の可愛さを最大限に引き立てる、素晴らしく可愛い服じゃな! 良い仕事じゃ!」
「お褒めに預かり恐悦至極ですわ。ちなみに、わたくしのこの服——ゴシックメイド服は、同ジャンルの侍女が着るバージョンです」
「ふむ……おぬしの服も、我のに比べればシンプルじゃが、これはこれで趣がある……華美過ぎない落ち着いた様式なのが実に良い。そっち系も好みじゃな、着たいのぅ」
「ご主人様がそう仰られるのでしたら、後程仕立て上げますわ」
「うむ、任せた」
さて。我を存分に引き立てる服に着替えたことじゃし、これでようやく準備万端じゃ。
「最強美少女聖者・アルテミシアとしての門出じゃ! ついてまいれ、カタリナ!」
「仰せのままに」
我は地上に繋がっている運搬箱の扉を開き、意気揚々と出立した。
ガコンッウィーーーー……
――――――――――
……ィーーーーン……ピンポーン
「ふむ、着いたか」
運搬箱に入って数分。到着を知らせる音がなったので、扉を開くと——
「ぬむ、壁か?」
「エレベーターの扉を隠すために配置した、書斎の本棚です。合言葉を言えば自動で開きますわ」
そう述べたカタリナが、我の横に並び合言葉を言う。
「オネロリチュッチュ」
カチッガタガタガタ……
本棚が軋みながら、ゆっくり横にずれていく。
「また現代語かの……どういう意味じゃ?」
「くふ……秘密ですわ」
「……そうか」
……カタリナの微笑に、再び寒気を感じた。あまり突っ込んで聞かぬ方が良い気がするの……
まぁそんなことより。
「けほっ……埃っぽいのぅ。確か91年前は、我の屋敷が勝手に増改築されていて、この地を治める領主とやらの屋敷扱いされていた、との話じゃったが」
埃の被った本達を眺めながら書斎の出入り口へ向かい扉を開くと、壁に大穴が開いていて外の木漏れ日が差し込んできている廊下に出た。
「現在は、廃墟のようじゃの」
「ですね。まぁ、91年前の時点で没落していて、この家が最後の財産的な感じでしたので。仕方ありませんわ」
「屋敷の出入りはどうしておった? 元々は我の屋敷なのじゃから本来許可は必要ないが、領主の館だったのじゃろ?」
「見つかった時は、自分は
「ふむ、シルキーか……
我の研究の結果、星が内包する不可視のエネルギーである星霊を星霊術として扱う人間が、1つの強い願望を持ち続けることで、一定確率で側に発生することが判明しておる。強力な星霊術を扱える者には、だいたい現れておったな。
基本的に不老、殺されない限り不死。そしてその生態・性質は、その者の願望を映したものとなる。
カタリナが騙った(激ウマギャグ)
スピリットはだいたいが人型じゃが、見た目やサイズは様々じゃ。掌に乗るサイズから普通の人間サイズ、耳が特徴的な形だったり獣の耳尻尾が生えておったり人型の獣のように毛むくじゃらじゃったり、実に多種多様じゃ。
簡単な意志の疎通は可能じゃが、基本的に会話、というか声を発することはない。そして、その者が願望を叶えるか忘れると、現れた時と同じく唐突に姿を消すか、親を離れて自由奔放に行動し出す。この離れた者を、一般的に
当然、我の「美少女になりたい」という願望にも反応して発生した。今現在の美少女化した我そっくりな容姿で身長40cm程度の、愛らしい美少女じゃ。
というか、この
ちなみに、カタリナも元はスピリットじゃ。カトリーヌという名の我の従者の願望を元に発生したスピリットで、我の「究極で完全なる不老不死美少女化計画」の素体作成の研究に協力してくれたスピリット の一人じゃ。我の造ったホムンクルスの一人で、我以外で完全な不老の肉体を得られた唯一の存在じゃ。
……そう言えば。カタリナがスピリットとして発生するきっかけになったカトリーヌの願望、思えば聞いておらんかったの。まぁ恐らく、「我に仕え続けたい」とかじゃろう。多分。
「しかし、ボロボロすぎてとても住める状態とはいえぬの。一時的に雨風は凌げるじゃろうが……まぁ、休みたければ
「ですわね」
「それよりも今はとにかく、地上の空気に触れたいのじゃ」
「シャバの空気はさぞ美味しいでしょうね」
「しゃば……?」
カタリナの現代語は置いておいて。玄関口は……いやもう面倒じゃ。廊下に人一人余裕で通れる穴が開いておるし、ここから出るか。
屋敷の周辺を散策することしばし。
グルルルル……
「……
「なのでしょうかね?」
灰色の狼のような生物が現れた……我の知っている灰狼より一回り程大きく、我の記憶のよりかなり筋骨隆々に見えるが……まぁそれは置いておくとして。
「どうやら、かなり飢えておるようじゃの。我等を見るなりヨダレをたらしおって」
「よかったですわねアル様、早速モテモテですわよ」
「餓狼にモテてものぅ」
食料として好意的に見られても嬉しくもなんともないわい。というか、モテるために美少女化した訳ではない。
「さて、駆除しましょうか」
「いやいや、無慈悲じゃなお主……」
「すでに殺しに来ている相手に、手心など不要と判断しますわ」
自衛出来る様に十分な戦闘技術は教育したし、灰狼程度なら余裕で屠れるじゃろうが……見敵必殺など教えておらぬはずなのじゃが。世情調査期間に、どんな経験をしたのじゃろうか。
「いきなりそれは可哀想じゃろ。もしかしたら絶滅危惧種かも知れんし」
この獣は、ただ生き残る事に必死なだけなはずじゃ。今言ったように絶滅危惧種かも知れんし、そう思うと駆除するのは気が引ける。
「ではどうしますか?」
「軽く痛めつけて追い払うのじゃ」
ここは、人間を襲う事の
という訳で。非殺傷武器の生成じゃ。
非殺傷、獣……となれば、アレじゃな。
武器を選択し中空向けて右手を伸ばし手を開くと、右手が眩くパァッと発光し、造り出した獲物がズルリと飛び出したので掴み取る。
「鞭、でしょうか? ナゾノヒカリからピンク色の触手が出てきたように見えて、アールジュウハチ展開かと思いましたわ」
▲▽
「どうやって取り出したのですか? 異世界ファンタジーお決まりのアイテムボックスとかの亜空間収納的なヤツからでしょうか?」
「また難解な現代語を次々と……これはじゃな——」
私の疑問にご主人様がこちらに振り返り、得意気な顔で説明しようとしますが——時間は常に流れ続けるものです。現実になったら、敵が変身ヒーローの変身が完了するまで律儀に待ってはくれないように、飢えた野生の獣が無防備に隙を晒す獲物に喰らいつかない筈がないのです。
ようするに。
「あ」
「む? ふぐっ!?」
ご主人様が、灰狼っぽいのに頭を丸ごとぱっくんされました。