最弱無敵の転性聖女   作:繭浮

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ご主人様は足手まといのようです。草ァ

 とまあ、こんな感じで1話冒頭の状況になった訳ですが——

 

「ウルフいた!ってあぁっ!? あの子頭がないよ!?」

「喰われたか……可哀想に、あれじゃあもう助からないぞ!」

「どう見てもね!」

 

 おや、第一第二地上人発見……まぁ確かに、誰がどう見てもご主人様死んでますよね。私も頭潰されたら流石に死んでしまいますし。

 

 とはいえご主人様は完全不死身らしいので、あれで生きているのでしょう……自分を不死身だと思い込んでいる能動的TS美少女おじさんでなければ。

 

「メイドさんっぽい人は無傷っぽい!」

「オラァ!」

 

 年の頃は、お二人とも13、4歳程でしょうか。黒髪短髪の少年が手にした長剣でウルフ(実にシンプルな名前ですわね)に斬りかかり飛び退かせ、先端に赤い水晶玉のようなものが付いた杖を持つ茶髪ロング三つ編みの少女が、庇うように私達とウルフの間に入る。

 

「私はエミー!」

「俺はジョッシュっす! ウルフ討伐に来たっす!」

「私達、ウルフ討伐は何度か経験済みです!」

「なんで、一匹なら余裕っす! 任せといてくれっす!」

「ではお願い致しますわ」

 

 せっかくなのでお任せしましょう。彼女達の実力も見ておきたいですし。

 で、駆除後に現在の世界情勢をお二人に聞くこととしましょう。

 

 ちなみに、ウルフと呼ばれた獣は、ジョッシュ君とエミーさんを警戒しつつ、ご主人様の頭をバキバキ砕いて飲み込み中のようです。美味しいですか?

 

「《火炎剣(かえんけん)》! でやぁ!」

「《火矢(ファイヤボルト)》!」

 

 ジョッシュ君が剣に炎を纏わせて斬りかかり、エミーさんが赤光する水晶球から小さな火の矢を射出して援護する。

 

「どうやら、地上は星霊術が復活した世界のようですわね……あら?」

 

 戦闘を観察し始めてすぐ、ご主人様の首から上に向けて謎の光が発生し、球状に——頭の形状になり、瞬時に光が消えフワッと桜色が広がる。

 

 

 

 

△▼

 

 

 

 

「あ〜ビックリしたわい……ふぅ。いきなり致命傷を受けてしまうとはのぅ」

 

 ムクリと起き上がり、軽く頭を振る。

 

「おはようございます。そうやって復活す(生える)んですね」

「おぉカタリナ。どのくらい経ったかの?」

「首が胴からサヨナラしてからでしたら、2分程でしょうか」

 

 ふむ。完全に意識を失ってから換算すると——頭部破壊による即死から完全復活までは約30秒、といったところか。やはり頭部を失うと、自動復活(オートリジェネ)発動に時間がかかるのぅ。

 

「不死がどのようなものか、気になってはいましたが。死んでも自動で生き返るタイプでしたか、完全に人間辞めてますわね……日光には耐性あるようですが」

「なにゆえそこで日光? おっとそれよりも……どういう状況じゃ?」

 

 カタリナの謎発言はともかくとして。気が付いたら(わらし)が2人、灰狼(グレイウルフ)モドキと対峙していた。どうやら2人とも、炎属性の星霊使いのようじゃな。

 

「第一地上人のエミー様と、第二のジョッシュ様です。ウルフの討伐が目的だったようで、すぐさま参戦して下さいましたわ」

「ふむ。となると、あの獣は駆除対象の害獣扱いで良いようじゃな」

 

 ザシュッ!

 

ギャウッ!!

 

 ジョッシュとやらの炎剣がウルフの筋肉質な前脚を浅く斬り裂き、目にエミーとやらが放った火矢が突き刺さる。

 

「荒削りじゃが、悪くない連携じゃ——む?」

 

 ここで異変に気付く。

 

「な、なんだこいつ!」

「傷が、治ってく……!」

 

 童の言う通り、ウルフの傷がみるみるうちに塞がっていく。

 

 そして、ウルフと呼ばれた獣から感じる霊力。これはまさしく……

 

「彼らにとっても予想外なようですし、あの異常回復力はウルフの特性ではないようですが……アル様、何かお気付きのようですわね」

「う、うむ? とと、当然じゃ……!」

「……みょんに歯切れが悪いですわねー?」

「あーとな? なんというかの……あの回復力。ある意味我のせいなのじゃ」

「ある意味?」

 

グルルルル……!

 

 詳しく説明しようかと思ったが、童が困惑して隙を晒しているのでやめ、手助けを優先する。

 

 ヒュバッ!

 

「狼狽えるでない!」

「「え!?」」

 

 飛び掛かろうとしているウルフに、瞬時に生成した鞭を巻き付け動きを封じる。

 

「ウルフの超速治癒は一時的なものじゃ。何分かしたら消失するゆえ、気にせず攻撃し続けよ!」

「えっ誰? ってその服……!」

「我は後! まずはケモ駆除じゃ!」

 

 あーうむっ自作鞭、コレもダメじゃな、これではいつまで経っても止め刺し出来ぬ。

 

「放すぞ! 後は任せたのじゃ!」

「え、あっはい!」

 

 鞭から解き放たれたウルフが慌てて距離を取る。童どももまだ戸惑ってはおるようじゃが、まあ大丈夫じゃろう。怪我したなら我が適宜治癒すればよいし、いざとなればカタリナが倒す。

 

「何故放したのですか? というか鞭を取り出す時のと頭が生えた時のナゾノヒカァリ、同じ——」

「順に説明するからそう急くでない。まずはウルフの異常からじゃ」

 

 少年が再び斬り付ける。ウルフの傷が再び治っていく。

 

「あの異常治癒力は、我の頭を喰らったからじゃな。今の我の肉体は、相手に直に触れるだけで相手の傷を自動的に治してしまうほど、治癒の力に溢れておるのでな」

「なるほど、血肉を取り込めばアル様の治癒力をも取り込める、と」

「一時的に、じゃがの。我から離れてしまえば、それはすでに我の一部とはいえぬ。頭部丸ごと喰われたから結構持つじゃろうが、せいぜい4分程度じゃろ」

「では、ウルフの拘束を解いたのは?」

「それは……まずはこの鞭の説明からじゃな」

 

 持った鞭をグニグニ引っ張ったり戻したりする。咄嗟の生成ではあったが、我ながら良い出来じゃ。

 

「この鞭は、どこかの異空間から取り出したのではない。我の肉体を素材にこの場で生成し、造ったものじゃ」

「それは——文字通りの意味、でしょうか?」

「うむ、文字通り——我自身の骨・肉・皮が素材じゃ。そのまま生成過程を見せるとかなりグロテスクじゃから、発光で隠しておるのじゃ」

「なるほど、そのための光。読者への配慮に余念がないですわね」

 

 読者? ……まぁ良い、説明の続きじゃ。

 

「での。我の肉体で生成したこの鞭は、我が触れている限り我の体の一部の判定になる。つまりは、手が鞭状に延長されたようなものじゃ。それがウルフに巻き付いているという事は……どういうことかの?」

「……直に触れているのと同じで、自動的に治癒してしまうと?」

「その通りじゃ」

「……。アル様、戦闘ではまったくの足手まといですわね。草生えますわ」

「うるさいわい! これは流石に予想外だったのじゃ、我にだって予想のつかぬ事はいくらでもあるのじゃ! というか草ってなんぞ!?」

「最強カッコ笑い、という意味ですわ」

「ぐぬぬ〜!! ……ふんっ!」

 

 現状事実じゃから言い返せぬ……!

 

 まあそれはそれとして。

 

「でりゃあ!」

「えーい!」

 

ギャウンッ!

 

「おっ」

「治らなくなったっぽい?」

 

 ようやっと自動治癒(オートリカバリィ)が切れたらしく、傷が塞がらなくなった。

 

グル……?

 

 突然治りが早くなり突然治らなくなりで、ウルフは相当混乱しておるようじゃな。

 

 うむ。隙ありの勝負ありじゃ。

 

「《火炎剣》!」

「《火炎槍(ファイヤランス)》!」

 

 ザシュ!

 

グギャッ!!

 

 燃える剣に斬り裂かれ炎の槍に貫かれ、ようやく動かなくなるウルフ。気を抜かず、此奴の生命力の動きを観察する。

 

 ふーむ。ウルフは生命活動を停止……死んだのじゃ。

 

 ヨシ!

 

「ようやった、お疲れ様じゃ」

 

 二人を労いながら近付く。

 

「あ、さっきの……えーと。頭が食べられちゃってた娘、な訳ないよね」

「うむ、食べられちゃってた娘で正解じゃ」

「それはさすがに笑えない冗談だぜ。あれだよ、似た服着てるから姉妹かなんかだろ?」

「でも首なし死体ないっぽい。ていうか服の首回りが血塗れだし……え、ほんとに?」

「じゃから正確じゃと——む。少年、確かジョッシュじゃったか」

「あぁ、そだけど。ていうか、顔は結構可愛いのに、喋り方が可愛くないな」

「ですわよね、ガッカリご主人様ですわ。のじゃロリはアリよりですが、ワザとらしくてなんか違うって感じで解釈不一致ですわ!」

 

 なんか言っとるが無視する。我はどんな言動しようと最強可愛いからの!

 

 ってそうではなく。

 

「お主、手の甲に血が滲んどるぞ」

「え? おっホントだ、かすり傷だから気付かなかったぜ」

 

 気付いた今でもまったく気にならぬようで、アハハと能天気に笑い飛ばすジョッシュ。

 

 確かに大した怪我ではない。身体強化の星霊術を使っておるじゃろうから、十数分もすれば完治する程度じゃ。

 

 が。ウルフ退治を頑張った事への礼をしたいからの、我が治してやろう。

 

「ほれ、駄賃じゃ」

「お、おう?」

 

 そう告げて、傷付いた手を包むようにして両手で握り込む。この程度なら、直触りなら数秒で傷のないスベスベお肌になるじゃろ。

 

「う……近くで見ると、メッチャ可愛いな……」

「ふふん、近くでなくともメッチャ可愛いわい」

 

 少し頬を赤らめ、目線を逸らすジョッシュ。

 

 我の可愛いさは罪じゃなぁ、ふんふふ〜ん。

 

「むぅ〜……」

 

 ジョッシュの呟きに、エミーが不機嫌そうな顔になる。ほほっ可愛い嫉妬顔じゃな。

 

「ていうか、触られてるとこがなんか……不思議なポカポカ感が。なにしてんだ?」

「手を見てみよ」

「うん……?」

 

 説明は省き、手を離してそう促す。

 

「あれ……傷がもうない」

「ホントだ〜……ってそれってまさか、祈祷治癒(プライヤーヒール)!?」

「え、なんだそれ?」

 

 何やら驚愕の声を上げるエミー。ふーむ、なんじゃろな?

 

「言霊なしで、ただ思っただけで傷を治せる高等治癒術だよ!」

 

 言霊……『言霊効果』の事じゃな。

 

 星霊術とは、星霊と自身の霊力を練り込み、イメージした形に具現化する神秘じゃ。

 その際の力のイメージに名前を付けて発声すると、より術が安定し、強力にもなる。これが『言霊効果』じゃ。

 先程二人が《火炎剣》《火矢》と口に出していたのは、ただカッコイイからとかではなくキチンと意味がある、という事じゃな。

 

 術者のレベル次第では、言霊なしでも発動は可能じゃが……まぁ、名前を言うだけでイメージが固定化し威力が上がるので、まず使わぬ者はおらんな。

 

 星霊術黎明期におけるズブの初心者は、言霊に加え詠唱文なるものも詠み上げておったものじゃが……まぁその辺りの話はどうでも良いか、詠唱はすぐ廃れたしの。

 

 でじゃ。

 

 我が地上で活動していた時代では、言霊なしで術の安定発動が出来た者は、超一流の使い手とされておった。

 エミーの反応からして、今でもそれは同じようじゃが……祈祷治癒とわざわざ術名があるという事は、なにやら特別な意味がありそうじゃな。

 

「でもあれは、洗礼名を与えられるレベルの聖女様しか使えないはずじゃあ……てことは……」

「なぁエミー、プレイなんとかって有名なのか?」

 

 うむ、呟きの内容も気になるが、まずはそれじゃな。

 

 治癒術のエリートたる聖者を名乗ろうとしている我が知らないとなると、なんとなーく問題がありそうじゃから、聞き辛かったが……ジョッシュの無知さ、ナイスアシストじゃ。

 

「祈祷治癒はね、術名を言う時間も惜しい程の致命傷を受けた人とかにしか、基本使われないの。しかも、星辰教会の大聖女様に正式に認められるレベルの聖女様にしか使えないって言われているんだよ」

「えーと、つまり?」

「教会公認聖女様に癒してもらうって事は、治癒費を払わないといけないって事」

「え、マジで?」

 

 なんと、今世で聖女認定された者は金を受け取っとるのか。時代は変わったの……いや、逆に考えるのじゃ。

 

 高度な治癒術を使える者は希少じゃから、聖者または聖女という称号が生まれた訳じゃし。そう思えば、その希少性を商売道具とするのは、まぁアリじゃな。

 

「あ、あのー……あなた、お名前は? 出来ればフルネームでお願い」

 

 思考に耽っていると、唐突に名を尋ねられた。そう言えばまだ名乗っておらんかったの。

 

「ふむ? 我の名は、アルテミシア・アルアジフじゃ。呼ぶ時は気軽にアルちゃんと呼ぶが良い!」

「私はアル様のメイドの、カタリナと申します」

「アルと、カタリナさんだな。よろしくな!」

 

 明るく元気よく返すジョッシュとは対照的に、

 

「アチャー……よりにもよってアルアジフ……」

 

エミーは何故か、遠い目をしてそう漏らした。

 

 ふむ……『アルアジフ』の姓は、この時代では特別なモノのようじゃが……チラッ。

 

「……(ふるふる)」

 

 さり気なくチラリと横目でカタリナの顔を窺うが、黙って小さく首を振る。どうやら思い当たる事はないようじゃ。

 

 ほむ。まぁ、エミーは何やら知っておるようじゃし、落ち着いたら聞くとしよう。

 

 今はそれよりも、じゃ。

 

「いつまでも立ち話もなんじゃし、落ち着ける場所に移らんか? 我もいい加減着替えたいしの」

 

 いつまでも血塗れは嫌じゃし、またいつウルフのような野獣が来るとも知れんしの。詳しい話は、マイホームでじっくり聞かせてもらうとしよう。

 

「あー、ちょっと待った。耳だけでも確保しとかないとな」

「む?」

「おいエミー、いつまでもボケっとしてないで、解体ナイフくれよ」

「……無知って気楽で良いよねー……はぁ〜……ま、そうだね。はいナイフ」

「おぅ、サンキュ」

 

 エミーからナイフを受け取り、事切れたウルフに向かい、耳を切り取る。

 

 ふむ。これはつまり、アレか。

 

「討伐証明の採取かの」

「あぁ、そうだよ。出来れば毛皮も欲しいけど、村までちょっと遠いし、こいつデカいからなぁ」

「うむ、運んでいる途中で別の獣に襲われんとも限らぬし、致し方なかろう」

 

 他にも色々と聞きたいところじゃが。

 

「もう良いかの。では、我のマイホームにご招待じゃ!」

「「……マイホーム?」」

「どこよりも安全な場所で情報交換、という事じゃ。ほれ、着いてまいれ」

 

 頭に疑問符を浮かべる二人を促し、我は来た道を引き返した。

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