「な、なんで……」
「お、おぅジョッシュ。ははっ下手ぁ、こいちまったぜ……」
身体中に食いちぎられた後や歯形・爪痕だらけのボロボロの姿でギルドの床に横たわる、無精髭面の中年だと思われる男。
其奴が1番の大怪我人に見えるからか、剣術か星霊術かを教わったハンターとしての師匠だからか、心配そうに首の後ろに手を回して上半身を起こすジョッシュ。
「……見ないガキ、だな……都のお貴族、お嬢様っ……て奴かい……?」
意識が朦朧とし始めているのか、息も絶え絶えの状態で我に話しかけたのは、ガイヤーと呼ばれた男程ではないが身体中傷だらけの、椅子に座った牛頭の巨漢。文字通り頭が牛で全身赤茶色の肌をした、左目に古傷のある、隻眼の牛の獣人じゃ。
「マシュー! 何が——」
「……それ、なんだが——」
「黙れ」
「「なっ」」
ジョッシュが牛獣人マシューに話しかけ、マシューが何やら返そうとするがピシャリと打ち切る。状況説明より何より、救命第一なのじゃ。
……もう1人、意識のない状態でガイヤーの横に寝かせられている男がいるが、其奴は後。頭でも打って気絶したのじゃろうが、ガイヤーと怪我の程は大差ないからの。
今最優先すべきなのは、
「マシュー、おぬしが1番の重症者じゃ。すぐに治さねば命に関わる程のな」
「なっ! マジかよアル!」
「……そうかい」
1番命の灯火の小さい、
近付いて診て判ったが、此奴の足の咬み傷、重要な動脈が破けておる上に血が巡っておらん。足の感覚は、ほぼないじゃろうな。出血多量、いつ逝ってもおかしくはない。
パッと見1番怪我が軽そうじゃから、我でなければ見逃し治療は後回しにされておったじゃろ。で、気が付いたら死んでいた、と。
ふむ。出血多量なのは、2人を抱えて村まで逃げて来たからじゃろうな。見た目の傷の酷さでは2人の方が重篤に見えるからの、皆ガイヤーともう1人の応急処置を優先したのじゃろう。
3人共ベテランハンターだったからこそ、処置した者は判断を見誤ったのじゃろうな。(ここまで思考時間約0.1秒)
さて、ジョッシュや野次馬(数人)がなんか喧しいが、とにかく治癒じゃ。
瞳を閉じ、瞬時に星霊と自身の霊力を混ぜ合わせ星霊力とし、術へと変換して発動させる。
「
ポワ——!!
我の治癒術発動と共に、小さなハンターギルドのフロア全体が淡い深緑色の光を発する。
大怪我人3人なんてケチくさい事等せぬ。かつて戦いを生業にしておったであろう者の古傷含め、怪我も山芋一切合切皆癒しじゃ。
「なんだ、これは……!」「幻か?」「いや、幻ではない! 全身の傷があっという間に塞がっていく!」「かつて膝に受けた傷が、疼かん!」「持病の偏頭痛が!」「傷んできてた山芋まで掘り立てホヤホヤみたいに!」「奇跡だ……」
うむ! 何故か戦闘力はへなちょこになってしもうたが、やはり治癒術は絶好調、いや超々絶好調で扱えるの!
……これ身体能力に割り振られる分まで治癒術力になってないかの?
まぁそれよりも。
「皆、全快したようで何よりじゃ」
ニカッと笑い安心させ、皆の精神の回復も狙う。
「水のない所で、このレベルの治癒術を……!?」
「まさか、治癒術師なのか!? てことは……!」
「聖女……」「聖女様……!」「聖女様カワイイヤッター!」「結婚したい」
おい。最後の青年、カタリナの同類か? 我幼女ぞ? 永遠の幼女ぞ?
後、気になる発言しとった者がおるの。もしや、地属性の治癒術適性の高さ、忘れられておるのか……? それとも意図的に……いや、今はそれより最優先すべき事がある。
「ガイヤー、マシュー……あー、もう1人のまだ寝とる壮年の美丈夫は……」
「オスカーだぜ」
「惜しいっ! というか「オ」しか合ってないじゃないですか!」
「カタリナさんどしたの?」
「……何か変な電波を拾っただけじゃ、気にするな」
エミーのツッコミとカタリナな謎発言を適当に流し、話を戻す。
「片田舎とはいえ、中年3人のベテランハンターが瀕死で戻って来た……ウルフの強力な統率個体が現れたのじゃな?」
我の発言に、未だ傷が癒やされた事に呆然としていたガイヤーとマシューが、ハッとした顔になる。当たりのようじゃな。
「そうだ、こうしちゃいられねぇ! マシュー! オスカー! っていつまで寝てんだ緊急事態だろうが!」
「おごっ」
恐らく3人のまとめ役であろうガイヤーが、オスカーの脇腹を軽く蹴り上げ無理矢理目覚めさせる。
「緑の三狩人のセリフ的に、本当っぽいけど。アルちゃんはなんで気付いたの?」
「こちら、ちょっとしたお遊びのパロディにございます。特別意味はありませんので、読者の皆様は気になさらないで下さい」
なんか明後日の方を向きながら電波女をしているカタリナは無視……いや、なんか昨晩の事もあってちょいムカついてきたのじゃ。
ので、無理矢理会話に参加させる。
「カタリナ、おぬしも気付いておるじゃろ?」
「昨日道中に遭遇したウルフ全てがほぼ単独行動していましたので」
やっぱりの。我が起きてから残念な部分ばかり目立っておったが、やはり約4000年斥候をさせただけあり、優秀なのに変わりない。
「あっそっかぁ!」
「どういう事だ?」
「相変わらずジョッシュは脳筋だね。ウルフは群れで行動する性質があるのは、流石に覚えてるっぽいでしょ?」
「……おう!」
「……間が気になるっぽいけど。そんなウルフと、昨日は単体ずつでしか遭遇しなかったでしょ?」
「そういやそうだな。それがどうしたんだよ」
「……ジョッシュはもうちょい頭を使わぬか。我を助けた時の個体、結構デカかったのじゃろう?」
「ああ、そうだぜ」
「つまりはじゃ。彼奴は統率個体だったが、新たな群れのリーダーに負けて群れを追い出され単独でいた、いわゆる一匹狼だったのじゃろう」
「そして、道中で遭遇したウルフも単独だった事を考えますと、最初に遭遇した一匹狼を慕っていた連れだったと思われます」
「あー。なるほどそういう事か。完全に理解したぜ!」
腕を組んでドヤ顔でそうのたまうジョッシュ。此奴絶対よくわかってないじゃろ。
「……ぽい」
チラとエミーに視線を送ると、苦笑と共にポツリとそれだけ口に出す。ジョッシュの脳筋具合には苦労しておるようじゃな。
まぁ逆に考えるのじゃ。脳筋ポジティブと聡明娘でバランスが取れたコンビじゃと。手綱は握れておるようじゃしの。
さて、夫婦漫才鑑賞はこのくらいにして。
「皆の者! 今戦える全ての者よ、よく聞くが良い! 我が名はアルテミシア・アルアジフ! 気付いての通り聖女である!」
我の張り上げた声に反応し、慌しかったギルド内は静寂に包まれる。
「やはり……アルアジフ様か!」
「うむ! 戦闘の指揮はこの土地で戦い慣れておるおぬしらに基本任せるが、そこに聖女たる我が加わる! その意味が解るか!」
「……そうか! つまり、いくらでも無茶出来る……強力な群れでも、確実に勝てる!」
「その通りじゃ!」
流石ベテランの三人衆のまとめ役、飲み込みが早くて助かる。
「いくらでも怪我を負うが良い! 何度でも瀕死になるが良い! 我がおる此度の大物狩りは、最後は無傷での完全勝利が約束されておるのだからのう!」
「聞いたかお前ら! 今回は聖女様の加護がある! さっきの奇跡は見ただろ? 誰も死なない、初の大物狩りだ! ガンガンいくぜオイ!」
「「「応!!!」」」
先程まで慌てていた連中が、迷いなく力強く勝鬨の声を上げる。
「流石アル様、扇動がお上手ですわ」
「ワザと人聞きの悪い言い方するでない。それとカタリナ、何を他人面しておる?」
「はい?」
「昨日の道中、童の実力を測る為戦闘に参加せんかったじゃろ」
「えー、おじばかりてめんど……むさ……暑苦しそうですし面倒ですわ」
「全然言い直せておらんぞ、まったく……場合によっては全力を出しても構わぬ。我から離れての参戦を許可する」
「……御命令、承りましたわ」
我が命令としてそう言うと、先程までの面倒そうな気配は消え、機械的とも言えるキリリとした無表情で頷き了承する。
「……む」
と、村へと一直線で向かってくる、幾十もの生命反応を感知した。此方も向こうも、準備は完了した。
「ウルフの群れの接近を感知した。皆の者! アルテミシア・アルアジフことアルちゃん様の名の下に、恐れず進めい!」
「「「アルちゃん様の名の下に!!!」」」
「……なんかがおかしいっぽい。ぽくない?」
緊急事態には変わりないのに、エミーは冷静じゃのう。それもまたヨシ!