君の重しになりたくて 作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね
「散らかってて申し訳ないっす」
「女の子を招待する状態ではないですねぇ」
「うっ……」
自分でダーニャさんを呼んでおいて思うべきではないんだが、彼女の言う通り今の俺の部屋はある程度、座ったり動いたりする分のスペースは確保されているがそれ以外は散らばっている書き損じた論文や参考文献の書籍の山で煩雑な状態で到底、人を呼んで良いレベルではない。
「『陽換えの儀』が終わって無事に回収出来たドライブのデータや、対ヴォイドマターコーティングの開発とかで時間を取られてしまって申し訳ないっす……」
「天才とは言え、一学生が担う事じゃないと思うですけどね。最近、ずっとデータを纏めていますしこうしてお話をするにも部屋に来なければならない程、多忙なんて私だったら逃げちゃいますよ」
ダーニャさんの尤もすぎる言葉にただ苦笑いを浮かべて頬を掻くことしか出来ない。
ヴォイドマター関連かつ、エクソストライダーのためって言われるとついつい張り切っちゃって自分の限界を甘く見積もった俺が悪いから何も言い訳が出来ないんだよな。
「えーと!!それでダーニャさんは態々、俺の部屋に来てまで話したい事って何っすか?もしかして俺とお付き合いを──」
「あ、違います」
「ジト目が心に刺さるっす……」
俺が気まずさからいつものやり取りに逃げたのを分かっているのかダーニャさんの呆れ切った視線が痛い……でも、いつも通りのやり取りが出来て少し嬉しいな。
「はぁ、全く貴方という人は……私が此処に足を運んだのはですねぇシュバルツ君に良い休憩を与えてあげようかと思いまして」
「休憩?」
「シーちゃんも参加してる『ミネルヴァ・トレジャーハント』に参加してみては如何ですかぁ?」
ミネルヴァ・トレジャーハント……確か、学園の方から謎が出されてそれを解き明かすみたいなイベントだったか。
あんまり興味なかったから全然詳しくないな。
「折角のお祭りをずっと此処で過ごすのはあまりにも寂しくないですかぁ?学生らしい時間も大切だと思うんです」
それはそう。
実際、こんなに予定を入れ込まなければダーニャさんを誘って色々と見て回るつもりだったし、そうでなくてももう二度とやって来ることのない『陽換えの儀』の祝典を一人で過ごすというのは……あまりに寂しいな。
「ダーニャさんからの提案っすからミネルヴァ・トレジャーハント参加してみるっす!!早く終わったらダーニャさんも一緒に見て回りましょうっす!」
「……はい。私も楽しみにしてますねぇ」
あれ?なんか一瞬、哀しそうな顔をした様な……ダーニャさん、何か俺に隠してないか?
「此処がダーニャさんが言ってた謎をくれる占い師いる場所だな。確かに雰囲気がある」
我ながら単純と言うかなんと言うか言われた次の日にミネルヴァ・トレジャーハントに参加申請を出し、あんまり混雑はしていないのかこうしてその日のうちに正式な参加ができた。
「この機械に名前と学生番号を入れれば良いのか」
『ピピッ、ユーザーログインシュバルツ。謎解きチャンネルへチェンジ!』
「明るいAIだな」
科学を用いた占星術らしいけど、起動したAIが俺に尋ねて来るのはなんと言うか性格診断に近い内容で、三問目を答えている辺りで間違えたかと思ったが杞憂だったらしく描かれた札が出てきた。
「えーと……ブラックホールの前に立つ人間の絵か?」
唯の絵の筈だが、ジッと見つめていると胸の内側からどうしようもない恐怖と不安感が掻き立てられてくる。
これが俺の何かに関連している謎だとしたらどうなってるんだよ俺は。
「裏側に文字が書かれてるのか。『絶望を前に汝が成すべきとは』……なんだこれ」
何か攻略のヒントになっているのかと思ったが、全然そんな事ないな。
しかし、物理的に考えて全てを飲み込むブラックホールの前に人間が姿を保ち、立ち続けることなんて不可能な筈……つまり、このブラックホールはナニカを表現するに辺り、近い存在として描かれたと言うことか?
「……アレフ1?いや!ないない。なんで鳴式が俺と関わってくるんだって話だ」
まぁ、これが謎って事なら少し学園を歩き回って無理矢理にでもブラックホールと関連付けられる様な場所を探すとするか。
占い師に礼を告げ、ラベル学部を出ると少し先にチケット係をしているダーニャさんと、彼女に用事があるのか漂泊者とリンネーが見えた。
「そうだ。ついでにダーニャさんも誘ってデートでもしよう!!ダーニャさん!!」
「──ふふっ。とにかく、用があるのなら待っていてください。ずっと謎解きをしてますし、裏学園の入り口は何処に開いてもおかしくないですよ。ひょっとして次の瞬間には空から落ちてきたりして──」
「「シュバルツさん!!(シュバルツ!!)上!!」」
「上?」
おや、なんということでしょう。
漂泊者とリンネーが騒ぐから上を向いた先には、白目を剥きながら俺に向かって一直線に落ちてくるシグリカさんの姿があるじゃないですか──って、うぉぉぉお!?!?
「……ほら?」
「「……」」
人間を質量爆弾にしてはいけないと思うんだわ……頭と頭がぶつかり合った瞬間は幾千にも輝く星が見えたよ。
「これはあれですね……ヤム○ャしやがってっていう場面ですね」
「……ダーニャさん、たす、けて……」
「ダーニャちゃん……」
衝突ダメージから動くことがままならない俺たち二人のあまりにも情けない救援要請にダーニャさんは、小さくため息を溢すとチケット売り場から水を持ってきてくれて俺達のたんこぶを冷やしてくれた。
「はい。痛みが続く様でしたらリューク先生の所に行くんですよ二人とも。張り切って謎解きに行ったら駄目ですからね」
「「はい」」
その後、十分に休んだシグリカさんを漂泊者が話があると連れて行き、リンネーも自分の仕事に戻ると去っていった為この場には俺とダーニャさんの二人だけとなった。
「いつつ……まさか上から降ってくるとは思わなかったっす」
「シュバルツ君も運が悪いですねぇ。中々、ピンポイントで下に来るもんじゃありませんよぉ」
「ちょうどダーニャさんを見つけたので急いだのが裏目だったっすねぇ……ところで、デートとかどうっすか?」
「仕事あるんですけど」
「謎解きが分からなくて」
そう言って絵を見せるとダーニャさんが静かに息を呑む気配がした。
「ダーニャさん?」
「……いえ、なんでもないですよ。そうですねぇ……謎解きを提案したのは私ですし、少しくらいは手伝ってあげますよ」
「本当っすか!!」
「全く……じゃあ、代わりの子を頼んでくるので少し待っていてください」
少し離れて通話を始めるダーニャさんの後ろ姿を見つめながら、俺は脳内で必死にデートコースを考える事に専念していた。
「……はい。誘導しますね……はい」
──そのせいで、彼女のこんな言葉を聞き漏らしてしまっていたのだった。
前書きは失礼しました……