君の重しになりたくて 作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね
「綿飴食べるっすか?」
「いただきますねぇ」
シュバルツが口を付けていた側とは反対側の綿飴をパクりと頬張り、フワフワした食感と甘さを堪能するダーニャの横顔をニコニコしながら見つめ、彼は反対の手に持っているホットドックを齧る。
「出店も気合入ってるっすね。味は二の次、実験的な品は普段から見てるっすけど」
「アレばかりでは誰も食べませんからねぇ。折角のお祭りですし、はしゃぎたいんでしょう」
「お陰で俺たち、両手完全に塞がってしまったすね」
綿飴とホットドッグを持つシュバルツと同じ様に、ダーニャも右手にケバブ左手にチョコレートバナナを持っており、先程のやり取りと同様にお互いにシェアをしながら歩いていた。
齧る場所を変えられる綿飴以外は間接キスになると思うのだが、周囲の好奇な視線など気にも止めず行われるシェアは周囲のブラックコーヒーの消費量を上げていたとかなんとか。
「ところで、完全に唯の食べ歩きになってるんですけどそこのところはどうお考えなんですかぁシュバルツ君」
「……ダーニャさんを餌付け出来る機会って実はなくってぇ」
「ペットみたいに言わないでくれます?」
「ペットなんて思ってないっすよ!!だって、ダーニャさんって美味しいもの食べてると結構、顔に出て可愛いっすもん!!」
「またストレートに言う……」
心底、呆れきった声とは裏腹に頬を薄赤く染めるダーニャの歩く速度が少し上がり、出店エリアを抜けるとエレベーターに乗りシュバルツを手招きする。
扉の内側に少し身を隠し、手だけでちょいちょいと呼ぶ可愛らしい仕草に心臓を押さえながらシュバルツが乗り込み二階へと到着した。
「モグモグ……シュバルツ君はそれを単なるブラックホールとは考えてないんでしたよね?」
「んぐっ……はいっす。ブラックホールの前に人が立ってるなんてあり得ないっす、その時点でコイツは似た何かを表現していると考えた」
「ここラハイロイでブラックホールによく似た存在として認知されているのはただ一つ──鳴式 アレフ 1」
「なんで適格者ですらない俺にアレフ 1が出てきたのかは不明っすけどね」
ホットドッグの残りを口に詰め込みながらシュバルツは、描かれているブラックホールを思い出し既視感に包まれながらも答えに辿り着くことはない。
オーバークロックの代償としてダーニャを通じて見た景色を綺麗さっぱり忘れている彼の現状は、ダーニャにとっても都合が良く彼女は実に自然な足取りでエレベーターから進み、彼を目的の場所へと誘い出す。
──エクソストライダーの共鳴者『エイメス』が姿を消したコックピットへと。
「アレフ 1と何か関係があると仮定するなら、此処が一番じゃないでしょうか?」
声は震えていないだろうか?自分は上手く、彼を騙せているのだろうか?一言紡ぐ度に、ダーニャの胸の奥が軋む音を立てて鈍い痛みを彼女に伝えていく。
「……エクソストライダー」
入学と共に破れ去った己の夢──エクソストライダーに乗る事を思い出すシュバルツの懐から光が伸びていき、二人はそれを追いかけると光はコックピットの裏側を指し示し、シュバルツが手を伸ばした瞬間、『裏学園』への入り口が開かれた。
「まさか本当に合っていたとは……」
「流石っすダーニャさん!!じゃあ、俺は謎解きに行ってくるので残りっすけどこれをどうぞ!!」
分け合ってもなお、まだ残っていた綿飴を受け取るダーニャ。
白くフワフワとしていた綿飴は、少し時間が過ぎたせいかフワフワ感が失われつつあったがそれでも一口齧れば甘さが口いっぱいに広がっていく。
「謎解きに真剣になり過ぎて、シーちゃんみたいにならないでくださいねぇ」
「また誰かと頭からぶつかるのはごめんっすね……行ってくるっす!!ダーニャさん」
「はい。いってらっしゃいシュバルツ君」
いつも通りの咲き誇る向日葵の様な笑顔を浮かべ、犬の尻尾の様に手をブンブンと振って裏学園へと向かっていくシュバルツ。
「ッッ……いっては……」
反射的に彼を止めようとしたダーニャであったが、不幸にもその手には綿飴が握られており囁く様な小さい声はシュバルツの耳に届くことはなく、彼はダーニャが見つめる視線の先で裏学園へと消えていった。
胸の奥が痛い……ズキン、ズキンと痛みを伝えてくる正体をダーニャはまだ
「ほぉ……此処が裏学園。ヴォイドストームに飲み込まれた学園とか随分と禍々しい想定だな」
負の感情を元に形成される空間らしいから間違ってはいないとは思うが、隅々に至るまでヴォイドストームに飲み込まれているってのはあまりにもスタートーチ学園を馬鹿にしてるだろ。
知っている顔、知らない顔色んな人達が絶望に喘ぐ声が聞こえてくるが、その中にダーニャさんは居らず俺はただ、道を進み続ける。
「……ん?あれはリンネーか」
漸くちゃんとした関わりのある奴を見つけたが、彼女も恐らく裏学園が作り出した偽物。
本物のリンネーがミネルヴァ・トレジャーハントなんていう自分と向き合うゲームに参加してるとは思えないしな。
「あ、シュバルツさん……」
「静かなリンネーとか珍しいな」
「……貴方が……貴方がちゃんと彼女を引き留めていればこんな事には!!」
急に立ち上がったリンネーが俺の締め殺さん勢いで詰め寄ってきた。
「は?いきなり何を……」
「──全ては虚無に沈みます。スペースティックコレテクティブの研鑽も全て意味を成しませんでした」
「今度はモーニエ教授かよ」
後ろから急に現れたモーニエ教授の瞳に力はなく、溢している言葉も俺に伝えるというよりはただ、独り言を紡いでいる様な感じでふらふらと歩いていきやがて、足の充電が尽きたのか座り込み項垂れて動かなくなった。
「一体何がなんなんだ?」
「君のせいだよ?毎日毎日、飽きもせず振られ続けても関わりを続けてたのに彼女が一番苦しい時に側にいなかった君の」
「……シグリカさん」
いつの間にかリンネーがシグリカさんに変わり、冷たく冷え切った失望の視線が突き刺さる。
こんな目をしてる彼女は一度も見たことがないな。
「ほら、見なよアレを」
シグリカさんに手を引かれ、案内される形で見上げた場所には絵に描かれたブラックホールを背負い、浮かび上がるダーニャさんの姿があった──偽物だと分かっているのにその光景に酷く、喉が渇き瞳孔が開いていくのが自分でも分かる。
「どう?好きだと言い続けた子を救えなかった気分は?──貴方は所詮、ただの人間。適格者としてエクソストライダーを扱う資格すらない。何もかも飲み込む虚無の前には絶望するしかない」
ダーニャさんの周囲に浮かんでいる腕の様なものが伸びて、周囲を破壊し瓦礫が俺の周りへと降り注ぐ中、俺は避けることもせずただ苦しそうにしているダーニャさんを見つめ続けている。
下らないと一笑して良い筈なのに、妙な既視感が目の前の光景に恐怖を抱かせ心の奥底が虚無に呑まれ冷え切っていく。
「だが、そんなお前にも一つ出来ることがあるぞ」
シグリカさんがニヴォラさんへと変わり、何が楽しいのか笑みを浮かべた表情で俺の目の前に一振りの剣を突き刺す。
「アレはまだ未完成だ。今ならただの人間であるお前でも殺せる。愛を与え続けたお前に殺されるのなら、あの人形も喜んでその命を差し出すだろう──さぁ、ただの人間がラハイロイを救う救世主になれるチャンスだぞ?」
殺す?誰が──俺が。
殺す?誰を──ダーニャさんを。
俺がダーニャさんを殺す?
何を言われているのか理解出来なかったが、何度も何度も言葉を頭の中で繰り返しているうちに漸く理解出来た俺は一歩、前に出て突き立てられた剣を握り締め引き抜いた。
「さぁ、見せてやると良い。人形に夢などないと残酷な現実を──「黙れ」──おっと!!」
引き抜いた剣でダーニャさんを殺す──そんな選択肢を俺が選ぶと思ったか?
「剣を向ける相手を間違っているんじゃないかシュバルツよ」
「間違えてねぇよ。クソ気分の悪いもんを見せやがって……まぁ、お陰でいつの間にか此処が真実であると誤認していたのを正せた訳だが」
「おやおや誘導は完璧だった筈だが……ふっ、お前は本当にあの人形の事が大好きらしいな」
「大好きじゃなきゃ何度も告白してねぇよ。で、テメェ誰だ?なんでダーニャさんの友人であるニヴォラさんの姿をしている」
俺の知っているニヴォラさんはもっと大人しいと言うか、小動物的なタイプで今目の前で気色悪く笑っているドフ底に住んでそうなゲスな気配を纏う様な子じゃなかった。
最近、学園で姿を見ていなかったがまさか……
「……殺したのか?」
「さぁ、どうだろうな。それがお前にとって一番の謎なら答えてやるぞ?」
謎……あぁ、そういうことか。
仮にも今はミネルヴァ・トレジャーハントの真っ最中、この裏学園から出るには俺自身の謎を解消しないといけない訳だ。
ニヴォラさんの顛末が気にならないわけではないが、それよりももっと俺にとって重要な謎がある……目の前のこいつが答えてくれるのかは分からないが問いかけるしか今はないのだろうな。
「一つだけ聞く。このままならダーニャさんはどうなる?」
「ふむ──良いだろう、答えてやる。アレが迎える結末は死か消滅だ」
「そうか」
返事を聞くのと同時に自分の共鳴能力で刀身を何倍にも伸ばし、光の刃でニヴォラを斬り捨てる──最期まで楽しそうな笑みを浮かべているのは気に食わないがそれはもう後々に返すしかない。
「ダーニャさん。必ず俺が助けるっすから待っててください」
裏学園の崩壊と共に苦しそうに消えていくダーニャさんを見つめて、俺の意識は現実へと帰っていった。
ミネルヴァ・トレジャーハント参加して良かったな……これでアレフ1 とも戦う覚悟を決める事が出来た。
ニヴォラ組織長の言われるがままダーニャちゃんを斬っていた場合、アレフ1の断片に保存されて後日、ダーニャちゃんに「良かったな。これで愛しい男と一生、共に居られるぞ」って渡されてました。