君の重しになりたくて 作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね
このシーンを見た時に書きたいと思っていたんだ。
一目惚れだった。
助けを呼ぶ声が聞こえて、駆けつけた場所でヴォイドマターに汚染されていたビリリに襲われていた彼女を助けて安心した様にホッと一息を吐いている姿を見て俺は可愛いと思ったんだ。
勢いに任せてフラれてしまった時はめっちゃ凹んだけど、次の日にまたスタートーチ学園で彼女の姿を見れば俺の心臓はあの時と同じいや、それ以上に高鳴り俺はまた勢いのままに彼女に告白してフラれて、そこから始まったんだ──俺と彼女の告白してはフラれ続ける日々が始まったのは。
「……はぁ、まさかストーカーさんと同じ学部だったなんて。私もついてないですねぇ」
「俺は嬉しいっすよ?こうしてダーニャさんの隣でずっと君を見れるっすから!」
「わぁ……全く懲りてないですねこの変態さんは」
当然、最初のうちは彼女に好かれている訳もなく、俺に向けられる視線はとても冷たくて言葉も遠ざける様な物言いが多かった。
けれど、俺はそんな彼女ですら愛おしいと思えてずっと関わりを続けていれば自ずと気がつくことも多くなった。
「ふわぁ……」
彼女はサボりこそしないが、授業中はかなり眠そうにしている事が多く何度もモーニエ教授に注意されては飛び起き、その度に友達にこっそりと答えを教えて貰いどうにかその場をやり過ごしていた。
常に隣の席を確保しているので俺も彼女に協力したりすることもあったが、それはもう冷たくあしらわれた。
「人の寝顔見てそんなに楽しいですか?シュバルツ君の方こそ、授業に集中したらどうです?」
「もちろん楽しいゲフンゲフン、俺はこの前の小テスト100点だったし授業の方は問題ないっす」
「……これが天才」
「多分違うと思うっすよ?ダーニャさん、寝すぎっす」
ジト目で睨みつけてくる彼女が背に腹は変えられないといった感じで、勉強を教えて欲しいと頼んできたのはこの時だった気がする。
当然、俺は歓喜乱舞でその申し出を受け入れ週の始まりと終わりに予習と復習を講義の空き時間にする様になった。
その影響か少しずつダーニャさんの態度が軟化し始めた頃、俺はもう一つダーニャさんに気がついた事があった。
「ダーニャちゃん!!一緒に食堂行こう!!」
「テストどうだった?私?私はギリギリ赤点回避だったよー」
「……シュバルツ君に何かされてない?大丈夫?」
友達と過ごす彼女はとても楽しそうで、優しい表情を浮かべるんだ。
俺には辛辣な事が多いダーニャさんだけど、友達と一緒にいる時はふわっとした柔らかな笑顔を浮かべる事が多くて俺はただその表情を見れるだけで満足していた。
そんなある日、恒例行事と化している告白を終え、俺はダーニャさんの顔色が悪い事に気がついてそれとなく尋ねると弱っていた事もあって、彼女は片頭痛の持ち主である事を教えてくれた。
「じゃあ俺が弁当作ってくるっす!!あと、リューク先生から薬も貰ってくるっすね!」
俺はただ彼女の力になれるのが嬉しくて、初めのうちは料理本片手に傷も絶えない日々だったけど弁当を作ってダーニャさんに届ける様になって、また彼女が俺に優しくなってくれた。
見返りを求めていた訳ではなかったが、好きな女の子がどんどん優しく周囲に向けている姿と同じ姿を見せてくれる様になるのは嬉しくて益々俺はダーニャさんを好きになっていった。
「ダーニャさん好きっす!!俺と付き合ってください!!」
「ごめんなさい。誰かとお付き合いをするつもりはないんです」
朝、スタートーチ学園に行けばそこにはダーニャさんが居て俺が告白をしてフラれる──そんな日々が俺にはどんなものよりも大切で美しい瞬間だったんだ。
だからこそ、そんな日々がずっとずっと続くって信じていた。
「……ダーニャさん」
陽換えの儀を終えた祭りの後、ダーニャさんはスタートーチ学園から姿を消した。
俺がどれだけ正門の前で待っていても、あの気怠げでふわふわとした彼女の姿が現れることはなくただ真っ黒な暗闇だけが広がり続けた。
「シュバルツ君、今日もサボりかしら」
「……」
その日から俺は学園に足を運んでも、与えられた研究室に引き篭もり講義には出なくなった。
初めのうちは仲の良いモーニエ教授や、リューク先生が足を運んでいたけれど一言も会話をしない俺の姿に諦めたのか今日はルシラー学園長がやってきた。
「君はとても優秀な成績よ。少しサボったくらいじゃ問題ないけど、そこまで根を詰めていたら身体を壊してしまうわ」
「……」
返事はしない。
ずっと言われ続けた事だし、今は手を動かし頭を動かし続けていないと自分の内側からやってくる不安に押し潰されてしまうからだ。
あの日、ニヴォラさんの姿をしたドブ野郎が見せてきた光景……もし、アレがいつか起きるかもしれない未来だと言うのなら俺のただの人間の一分、一秒なんて全て賭けなきゃ足りないのだから。
「……ダーニャさんの事なら学園も全力を尽くしているわ。だから貴方は休みなさい」
鳴式アレフ1が関わっているのなら、ダーニャさんが居る場所はヴォイドマター濃度が濃いか通常とは違う反応を示している可能性が高い。
幸い、俺はヴォイドマターに関しての知識はあるし、彼女と一緒に積み上げてきた研究成果もある。
「シュバルツ君」
「……約束したんだ。俺が彼女の救世主になるって」
自分を奮い立たす為にあの日の誓いを口に出す。
ただそれだけで勝手に落ちかけていた瞼が開き、パーツを握る手に力が戻ってくる──つくづく俺と言う男は単純だな。
誰かがやってきては俺に声をかけ、誰とも会話をしない日々を過ごした俺は目的の一つであったラハイロイ全域のヴォイドマター濃度を計測し、過去の観測データとの比較も自動で行う装置を作り上げ、データ回収の為のドローンをラハイロイ各地へと飛ばしそのデータと睨めっこしつつもう一つの装置の開発を進めた。
そして──ある特異な観測を『ヴォイド・ディープ』で見た瞬間、俺は研究室を飛び出したのだった。
「ダーニャという作品が出来た以上、次もそのまた次もあるだろう──そしていずれ、
ヴォイド・ディープの奥地で漂泊者と学園の切り札である桜灼の巫女である緋雪の二人は、ニヴォラの姿をしているフラクトシデスの組織長とダーニャと対面していた。
喜色に満ちた声で弾む様に自らの研究成果を誇る組織長とは違い、ダーニャの瞳には力がなくその全ては絶望に染まっていた。
「あぁそうだった。シュバルツにも感謝をしなければな。アイツがダーニャと関わってくれたお陰で稀有なデータを取れたのだから」
ふと思い出した組織長の言葉にピクリとダーニャが反応する。
絶望に虚無に飲み込まれたその先で、シュバルツの名前を聞いた彼女は小さく呟いた。
「……たす……けて……シュバルツ君……」
あまりにも遅い理性を通り越した心の奥底からの願い。
この場にいない彼には決して届くはずのない虚無の底から放たれたその言葉は──
「もちろんっすよダーニャさん」
──しかして、聞き届けられる。
高らかなバイクのエンジン音が鳴り響き、白い氷雪の向こう側からシュバルツが飛び出すと勢いよくバイクは乗り捨てられ、彼が飛び降りる。
「ニヴォラァァァ!!!!!」
「ははっ!!ここまで来るか!!」
閃光一線、組織長の分身体を斬り捨てるとシュバルツは正面を向き、背後に立つ漂泊者達へと言葉を向ける。
「ダーニャさんは俺が。アンタらは成すべきことをしてくれ」
そう言い残し、漂泊者達の返事も聞かずダーニャが作り出したソノラへと飛び込んでいくのだった。
何日、寝てないんだろね彼。でも、色褪せた学園生活を送るぐらいなら、寝ない方がずっと楽だったんでしょうね。