君の重しになりたくて   作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね

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お話むずかしいよぉ……色んな人の考察とか見てると頭が痛い痛いになるぅぅぅ


虚無を超え証明しろ

「此処の実験レポートは全て読んだので今のダーニャさんが抱えてる問題は理解してるっす。まず一つ、アレフ1との共鳴率が低下している事に起因する周波数の低下。これは多分っすけど、此処に来てる時点である程度落ち着いてるっすよね?」

 

 まるで講義を行う教授の様にヴォイドマター培養槽の前を歩き、問いかけてくるシュバルツ君。

 どうして此処にいるんですかとか、何さらっと乙女の秘密を暴いているんですかとか──全部知った上で、どうして普段の調子のままなのか聞きたいことは沢山ありますが、彼の問いに答えないと話が進まない気がするのでグッと堪えます。

 

「……漂泊者さんがなんとかしてくれましたからねぇ。今の私は派手に力を使わなきゃ、ゆっくりとですけど回復するみたいです」

 

「流石は漂泊者っすね。次に問題なのはダーニャさんは定期的にこのヴォイドマター培養槽で周波数を調整を行わないといけない。合ってるっすよね?」

 

「はい」

 

 アレフ1と共鳴出来るように整えられたこの身体は、普通の人とは違い定期的なメンテナンスを行わなければ共鳴者でありながら、アレフ1の作り出すヴォイドマターに汚染され消滅してしまいます。

 

「確実と断言は難しいっすけど、ダーニャさん。覚えてるっすか?ヴォイドマターに汚染されたエクソスウォームを浄化出来ないか実験した時にアレフ1に引っ張られたダーニャさんを俺が連れ戻したのを」

 

「ッッ、忘れてたんじゃないんですかぁ?」

 

「忘れてたっす。でも、起きた時に思い出したんすよ。お陰で妙なモヤモヤした状態がなくなってスッキリしたっす」

 

「……まさか、シュバルツ君が私を調整するんですか?」

 

「そうっす。アレフ1に引っ張られる前であれば、恐らくオーバークロックしなくても調整出来ると思うんすよね」

 

「……凄いこと言ってる自覚あります?」

 

 すっかり忘れていると思って安心していた事を思い出していた事にも驚きですが、他人の周波数への同調を安定して行えるなんて医療の根本が変わりませんかねぇ。

 出来ない事を無理に出来ると断言する人でもありませんし……何より、私自身が真実であって欲しいと思ってしまいますね。

 

「ずっと一緒に過ごしてるダーニャさん相手だからっす。他の人には無理っすよ」

 

「そうですか」

 

 あぁもう、この人は恥ずかしい事を堂々と……

 

「ンンッ、ですが最も重要な問題がありますよね。鳴式アレフ1はどうするんですか?先程、ボコボコにするとか言ってましたけど」

 

 此処までは無茶が通せる可能性があるのも理解出来ます。

 いえ、殆どゼロに近いはずだったんですけどこのシュバルツ君とかいう天才が悉く、例外であっただけで。

 

「私はアレフ1が残したラハイロイの最後のアンカーです。私が此処で生きる限り、アレフ1のカケラは本体と通信を行い必ず戻ってきます。その結果、ソラリスがどうなるかは分かりますよね」

 

「……分かってるっす。約束された滅びを確実に回避する方法が此処でダーニャさんがアレフ1のカケラと共にヴォイドマターの向こう側へ消える事だって……もしかしたら、長い長い旅の果てにダーニャさんが戻ってくるかもしれないのも」

 

「それなら「嫌っす!!」……シュバルツ君」

 

 彼が泣いているのは初めて見たかもしれませんね。

 いつも笑っていてばかりで、私にフラれても笑顔を浮かべ続けていた彼がボロボロと大粒の涙を流す。

 

「俺は好きな子が犠牲になった世界で笑って生きるなんて無理だ!!自分を含めた多くの人間が、世界が救われたからってその場所に好きな子が居ないなんて耐えられない!!……例え、それを好きな子が自分で選択した結果であったとしても」

 

 あぁ……この人はこういう人でしたね。

 何度フっても、その度に明日の貴女をもっと好きになるっすとか言って懲りずに告白を続けてきた人──この世界で誰よりも私を掴んで離そうとしないどうしようもない人でした。

 

 だから、会いたくなかったんですよ。

 シグリカちゃんとナスターシャにはお別れを告げようと頑張る勇気が持てましたけど、シュバルツ君には無理だった。

 絶対に追いかけてくるという確信と、手を伸ばしてくる彼を振り払う自信がなかったから……だから、昏睡したままだと聞いた時は私の運命はコレだと受け入れて此処まで来れたのに。

 

「……これ、は私が私自身が決着をつけないといけないんですシュバルツ君。だって、皆さんが笑って過ごせる此処が大切だから」

 

「それでも俺は貴女と一緒に生きたい。いつかの再会ではなく、手を繋ぎ笑い合える時間を過ごしたい」

 

「……我儘ですね。自分の欲の為に世界を危機に晒すんですかぁ?」

 

「俺、思うんっすよ。たった一人の犠牲で救われる世界なんて滅んでしまえって」

 

 パシャりと濡れた足音を響かせ、シュバルツ君が私の方へと歩いてくる。

 

「世界という大きな揺籠をただ一人が背負う──馬鹿らしいっす。世界が滅びるならもっと、人が全力を尽くした先にあるべきっす」

 

「……凄い事を言いますね」

 

「今此処でダーニャさんが犠牲になって、アレフ1を退けたとして、もう一度アレフ1が来たら今度はどうするんっすかって話。ダーニャさんがヴォイドマターの向こう側に消えた意味がないっす。もしも、そんな世界になったら俺は自分がどうなるか分からないっす」

 

 パシャりと足音が止まり、シュバルツ君が私の目の前で立ち止まる。

 じっと私を見つめる瞳は確かな親愛が込められていますが、それと同時に何処か危険な色香を纏っていて、息を呑む。

 

「可能性は低いっす。でも、起きるかもしれないのならダーニャさんが犠牲になる世界よりも今此処で抗う選択を俺は選びたい。ダーニャさんと一緒の日々を過ごす為に」

 

「……失敗したらどうするんですかぁ?」

 

「俺も一緒にダーニャさんとヴォイドマターに堕ちるだけっすね!」

 

 自分の消滅を心の底から嬉しいみたいに笑うのは貴方だけですよシュバルツ君。

 確証なんて1%もない、無謀で愚かで失敗したら世界が滅んでしまう馬鹿みたいな選択なのに彼はいつもと変わらない調子で笑うものだから──愛おしくて仕方がなくなってしまったじゃないですかぁ。

 

「良いですよぉ。シュバルツ君がどうしてもってお願いするならその無謀な挑戦に付き合ってあげます」

 

「本当っすか!!よしっ!!今の俺ならアレフ1と一体や二体、打ち倒せそうっす!!」

 

「虚無の鳴式を甘く見過ぎじゃありませんかぁ?」

 

「それくらい気分が良いって事っすよ!!ダーニャさん!!」

 

 満面の笑顔をと共に差し出された手を取り、彼の横に並ぶ。

 私の前では随分と強がっていた彼も緊張しているのか、大きく深呼吸を行うと身体に七色の光を纏い始めその光はやがて、繋がれた手を通して私にも流れ込み彼に抱き締められているみたいな暖かさに包まれる。

 

「ダーニャさん」

 

「はい?」

 

「──好きっす。俺は貴女と出会ったこの人生の全てを悔いる事はないっす」

 

「物好きですねぇ……ちゃんと生きて帰ったら改めて返事しますねシュバルツ君」

 

 七色の光が一際眩しく私達を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──?』

 

 アレフ1の欠片は、ダーニャの内側で来る日を待ち侘びていた。

 己と同じ光など一切ない虚無の中で分たれた本体と再び一つになり、何もなかった氷原に芽生えた文明を喰らい尽くし一時の満足を得るその日を。

 しかし、そんなアレフ1の前に何もかもを飲み込む虚無に相応しくない七色の光が溢れ出すと、そこには己の共鳴者である筈のダーニャと彼女の手を握り締め、似た気配を纏うシュバルツの姿があった。

 

「威圧感は凄いが……やっぱり本体ほどじゃないっすね」

 

「シュバルツ君の制限時間だってあるんですから手早く片付けますよ」

 

『──敵意、無価値、虚無、悲嘆』

 

 アレフ1の欠片である瞳は禍々しく脈動すると、その姿を黒いダーニャへと変え、彼女の形代を模したカチューシャの部分にアレフ1と同じ無数の瞳を顕現させる。

 

「……可愛くないですねえ」

 

「ダーニャさんの姿を模したら躊躇すると思ったのなら滑稽だな。それともっとダーニャさんは可愛いから模型学を履修してこい!!」

 

「はぁ……」

 

『終点、不変、空虚』

 

「うるせぇ!!俺達の運命をテメェが勝手に決めてんじゃねぇ!!俺達の運命は俺達自身が掴み取って、これから歩んでいくんだ!!」

 

 此処にくるまでもう我慢の限界であったシュバルツが先駆け一番と、七色の光を纏いながらアレフ1の欠片へと斬りかかるが、何処からともなく顕現した腕が大剣を掴み取るとそのまま、壁などない虚無の果てへと放り投げる。

 

「勢いよく啖呵切ったんですから、格好良く決めてくださいよシュバルツ君」

 

 そのまま吹き飛んでいくかと思われたシュバルツをダーニャが呼び出した手が受け止める。

 

「うぐっ、格好良く決めたかったんっすけどね!!」

 

 今度はダーニャが呼び出した手を足場にアレフ1の欠片へと跳躍。

 防御など一切考えていない上段振り下ろしが、アレフ1の欠片の手に握られていた杖で受け止められると一際強く光を放ち、確かな質量を宿した光がアレフ1の欠片を吹き飛ばす。

 

『万物、分解、潮騒』

 

 空間に無数の瞳が現れ、光線が二人を襲うが、二人は間を縫う様に光線を避けアレフの欠片へと迫るとシュバルツは左から大剣を、ダーニャは右から召喚した拳を打ち抜く。

 回避を許さぬ必中の挟撃が迫る中、アレフ1の欠片は瞳をギョロギョロと動かし迫る攻撃の速度を観測すると僅かに遅れているダーニャの攻撃を召喚した手のひらで受け止めと、位置を入れ替える様に受け流す。

 

「きゃっ!?」

 

「っと!!」

 

 ダーニャを斬るわけにはいかないシュバルツはギリギリのところで、大剣を止めるがその隙をアレフ1の欠片が見逃す訳もなく、ガラ空きの腹部に杖の先端がめり込む。

 

「がっ!?」

 

「シュバルツ君!?」

 

 苦悶の声を漏らすシュバルツを心配してしまうダーニャ。

 優しさからくる行動ではあるが、今この場ではアレフ1の欠片に更に天秤を傾かせる行動でしかなく、彼女はアレフ1の欠片が呼び出した手のひらに首を掴まれ拘束されてしまう。

 

「あ、ぐっ……」

 

 今この場はアレフ1の欠片とダーニャの精神世界であり、此処での敗北は現実での肉体の主導権を決定付ける為、ダーニャが敗北をすればアレフ1の欠片は即座に本体との連絡を取ってしまう。

 故にダーニャはもがくが、がっつりと握り締められた手は彼女の抵抗では打ち破れない。

 

「ダーニャさん!!ッッ!!鳴式の造物!!」

 

 駆け寄るシュバルツを邪魔する様に虚無から、アレフ1の造物が視界を埋め尽くさんと現れる。

 

「邪魔をするなァァァ!!」

 

 だが、その群れはシュバルツを止め切るには足りず叫びと共に放たれた七つの光が造物を飲み込むと、全てを塵と変えダーニャへの道が作られる。

 彼女を救うため、必死に走るシュバルツであったがアレフ1の欠片はそんな彼を嘲笑う様にダーニャの首をへし折る──筈だった。

 

「星に届く日まで!」

 

──太陽の精霊二匹が引っ張る紐から勢いをつけて、蹴りを放つシグリカの一撃がダーニャを捕える腕を破壊する。

 

「ぇ?」

 

「頑張って!!ダーニャちゃん!!」

 

 可愛らしい笑顔と共にふわっと光に包まれて消えていくシグリカ。

 予想もしていなかった救援に呆気に取られるダーニャの肩をポンっと叩き、シュバルツが立ち上がらせる。

 

「俺とした事が忘れてたっすね。此処はダーニャさんの世界でもあるっす」

 

 何一つない光すら飲み込む虚無の世界に、彼等を中心に光が溢れ出し二人にとって見覚えのある景色が少しずつ広がっていく。

 

「ダーニャさんは嘘を吐き、騙していたかもしれないっすけどやっぱり此処は……スタートーチ学園は大切な場所だった」

 

 虚無が全てを飲み込み、無価値と囁くのなら思い出がダーニャの歩みを肯定し高らかに叫ぼう。

 

「──負けられないっすねダーニャさん」

 

「ッッ……はい。必ずもう一度、此処にスタートーチ学園に戻るんです!!」

 

 眩い光が差し込み、虚無の空間をスタートーチ学園が上書きする。

 それはダーニャが本当に心の底から、虚無と決別した証であり自分の居場所がスタートーチ学園にあると決めた何よりの証左であった。




愛は勝さ
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