君の重しになりたくて 作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね
鳴式アレフ1が支配する虚無の空間から、ダーニャさんにとって大切なスタートーチ学園に世界が塗り替えられた影響なのかさっきより、身体中に力が入れやすくなった気がする。
「どうやら異端はそっちらしいなアレフ1!!」
『諦観、極点、虚無、悲嘆、絶望』
「だからテメェが決めんじゃねぇって!!」
何処が地面なのか分かりづらかった虚無の空間よりも、しっかりとした地面がある今の方が蹴るというイメージが強く浮かびやすく、現実世界と変わらない勢いでアレフ1へと詰め寄る。
ダーニャさんの姿を真似ている癖に、共鳴能力を使う素振りを見せないアレフ1は俺の大剣を杖で受け止めるが、先程よりも伝わってくる抵抗は弱い。
「押し切る!!」
アレフ1へ詰め寄るのと同時に大剣に手を添え、周波数を流し込み筋力と共鳴能力による二重の圧力で地面にヒビを作りながらアレフ1を弾き飛ばす。
『──!!』
空中で体勢を整え、召喚した手を足場にしようとしたアレフ1を無数の泡が取り囲む。
「サプラーイズ」
ふわっとした少し気の抜けるずっと聴いていたい可愛らしい声が聞こえたかと思えば、アレフ1を取り囲んでいた泡が次々と弾けて掛け声とは比べ物にならない勢いで地面に叩きつける。
やっぱり、ダーニャさんって戦うの苦手じゃないっすよね?
「シュバルツ君、今です!!」
「了解っす!!」
叩きつけられたアレフ1が体勢を整えるより早く、トドメの一撃を放つ!!ってつもりで走り出したんだが、その瞬間、アレフ1の身体から巨大な目玉みたいなものが現れ、無数の光線を放ち始めてしまった。
この感じ……光線一本一本が地上で起きるヴォイドストームと同じレベルだな。
「精神世界はイメージの世界……なら、来い!!ヴォイド・ファンネル!!」
「……一応、私の精神世界なんですけどねぇ」
「それだけダーニャさんが俺を見てくれていたって事っすかね?」
「さぁ?」
髪をクルクルして可愛いなもう!!
過去最高に気分がノってる状態で完璧にイメージされた三機のヴォイド・ファンネルを操り俺やダーニャさんに直撃しそうな光線を防ぐ。
「ヴォイドワームを拘束したこいつを舐めるなよ!!」
「シュバルツ君、それフラグって言うんですよ」
「……マジか」
光線一つ一つがヴォイドストームと同じだとするなら、まぁ、確かに原理上分からなくもないが地面に線を残す光線の着弾地点から、鳴式の造物が溢れ出し、その中にはあのヴォイドワームまで現れ始めた。
ただの雑魚なら兎も角、ヴォイドワームまで相手にするのは中々……
「……あんまりこの姿を見せたくはなかったんですが致し方ないですねぇ」
「ダーニャさん?」
「どうか……見つめないで」
見つめないでと言われたが、俺の横で別の姿……周波数の調整を行った時にチラッと見えた鳴式の力を完全に引き出しているせいか禍々しさを感じる姿へと変わるダーニャさんから目を離せない。
普段のふわふわとした優しげな雰囲気から一転、触るもの全てを飲み込みそうな危険な色香を纏う彼女──控えめに言って、最高すぎない?
「可愛いし格好良いとかダーニャさんに隙はないっすね!!」
「ああもぅ……この姿すら喜ぶんですね貴方は!!」
顔を真っ赤にしながら胸からキューブを作り出したかと思えば、一瞬で大きくなったキューブはダーニャさんの手の動きと連動し地面に叩きつけられ、大穴を作り出すと凄まじい吸引力で鳴式の造物を飲み込んでいく。
「雑魚は私が、シュバルツ君はヴォイドワームをお願いできますかぁ?」
「了解っす!!防御に回す必要がないなら!!」
ヴォイド・ファンネルを呼び戻し、ヴォイドワームを取り囲むように指示を出し奴の気を惹きつける。
鬱陶しそうにヴォイドワームがファンネルを攻撃し始めたのを確認し、もう一度強いイメージでバイクを呼び出し乗り込む。
「リンネー達の戦い方は見ていたからな!!」
ヴォイド・ファンネルが放つ光線は決定打にはなり得ないが、ヴォイドワームの弱点であるコア周辺を狙われるのは奴にとっても鬱陶しいらしく、巨体と光線で撃ち落とそうと狙ってくる。
なら、この間にお前の身体を駆け上がらせて貰うぞ。
ヴォイドワームに取り付き、アクセル全開で頭部へと突き進む。
『──!!』
「っと暴れんな!!」
身震いで俺を落とそうとするが、生憎とファンネルにはバイクのワイヤーを取り付ける事が出来るんでな、そう簡単に落ちないぞ。
空中で二度三度とバイクを翻し、ヴォイドワームのコアの目の前へ躍り出る。
「堕ちろ!!」
バイクとファンネルのビームを一点に収束させた一撃でコアを撃ち抜けば、爆炎を上げてヴォイドワームは地面へと崩れ落ち、その亡骸はダーニャさんが作り出した大穴へと飲み込まれて消えていく。
『虚無、徒労、潮騒、永劫、絶望』
だが、自らの造物がやられていくのをただ見ているアレフ1ではなかった。
無限に湧き出てくる造物と、巨大なヴォイドワームを壁に隠れていた奴は宙へと浮かび、掲げた右手の先に真紅の球体を作り出し再び、この世界を自らの虚無で支配を始めていく。
「ダーニャさん」
「シュバルツ君」
「「ふふっ」」
同時に名前を呼んだ事が面白くて笑い合う俺達。
ダーニャさんが呼び出した大きな手が俺の大剣を包み込むように合わされ、二人の周波数が混ざり合う。
「……アレフ1、確かに貴方の言う通り私に訪れる結末は希望なんて一つもない絶望かもしれません。今ここで必死に抗ったとしても、それは全て無意味に終わる虚無」
この世界の誰よりも鳴式アレフ1の恐怖を知るダーニャさんの言葉は重く、ただ聞いているだけの俺の胸にも重く伸し掛かるものがある。
「それでも私は、まだ終着点に降りるつもりはないんです!!……勿論、私の旅路に付き合ってくれますよねシュバルツ君」
「当然っす!!ダーニャさんと一緒なら何処までも!!」
俺から溢れ出す七色の周波数が、ダーニャさんの持つ虚無の周波数と混ざり合い混沌としかし、虚無の暗闇の中であっても輝く極彩色を放ち、剣先へと収束していく。
極限まで極まったアレフ1と俺達の周波数がぶつかり合えば、如何に精神世界と言えるこの場所であってもどうなるか分からない……もしかしたら、世界が崩壊すると同時にヴォイドマターの向こう側へ堕ちていくかもしれない。
けど、そんな恐怖を終わりを俺達は笑って彼方へと放り飛ばす──絶対にスタートーチ学園に帰ると。
『悲哀、悲哀、悲哀』
「「関係ないっ!!」」
お前が俺達の結末をどう嘲笑おうと知ったことか!!
二つの極光がぶつかり合い、空間が軋み悲鳴をあげる。
今、ここに至るまでアレフ1を消耗させ続け、世界を塗り替えたが故に成立する拮抗……しかし、相手は欠片と言えどソラリス全域を滅ぼす虚無の鳴式。
大剣と手を通し、俺とダーニャさんの身体はまるで星そのものかと錯覚する重みに押しつぶされそうとしていた。
「ぐっ……」
「お、重い……」
少しずつ拮抗を保っていた極光が俺達に向かって押し出され始める。
このままじゃ、例えオーバークロックに至ったとしても俺達はアレフ1に押し潰され──
「──こんなに重い物を背負っていたのね。ごめんね、ダーニャさん。気がつけなくて」
そっと優しく、走り続けている後輩を労う様に赤に近い桃色の髪をした生徒の手がダーニャの肩に置かれる。
「ナス、ターシャ……?」
「私だけじゃないわ」
ナスターシャの反対側からダーニャさんの頭をゆっくりと撫でる手が現れ、泣いてはいないがダーニャさん目元を拭う様に指が添えられる。
「ケーキ、来年は一緒に食べるんだよね!!私、楽しみに待ってるからね!!ダーニャちゃん」
「シグリカちゃん……」
思い思いの言葉を伝えるダーニャさんの大切な人達を見て、投げ込まれたカセットの正体に辿り着いた──間に合ったんですねリューク先生。
『……どうしても行くつもりかい?君のことだ、また危険な事をしようとしている筈だ。少しくらい私に相談してくれても良いんだよ』
『では一つだけお願い出来ますか?ダーニャさんと仲の良い人達の言葉を、想いを記録して欲しいんです』
『ふむ……構わないけれどそれだけの事で良いのかい?』
『はい。ダーニャさんを連れ戻すにはきっと、かけがえのない友情が必要ですから』
本当はダーニャさんを引き留めるために使おうと思っていたけど、まさかこういう形で活躍するとは思わなかったな……
「運んでくれてありがとうな漂泊者」
「皆の想いは届けたよ」
ドンっと俺の背中が強く叩かれる。
全く、俺にだって少しくらいは優しくしてくれても良いんだけどな。
「「はぁぁぁぁ!!」」
全く同時のオーバークロックにより、ぶつかり合うアレフ1の極光を飲み込み俺達の極光が輝きを増す。
ダーニャさんの虚無と俺の光が本当の意味で一つになった瞬間だった。
『虚無』
最後にアレフ1らしい言葉を残し、極光に飲み込まれその場には未だに不気味な存在感を遺す欠片だけが落ちた。
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
「はぁ……勝った?……」
「まだっす……あとはアレを復活させない様に」
虚無と再び繋がらないように俺の周波数で幾重にも檻を作り、欠片を封じ込める。
「こいつをダーニャさんの共鳴能力で包み込んで終わりっす」
「良いですよぉ」
七色の檻を泡が包み込む。
「これでアレフ1の欠片はダーニャさんの支配権を失い、活性化する為の繋がりを絶ったっす。あとは定期的な調整を行えば、この欠片はダーニャさんの不安定になった周波数を増幅させる謂わば、疑似心臓みたいな扱いになる筈っす」
「……相変わらず凄い事を考えますねぇシュバルツ君は。アレフ1に観測されたらコトですよぉ?」
「それはその時考えるっす!!んじゃ、取り敢えず現実世界に帰るっすよ!!」
ダーニャさんの手を取り、暖かな光が差し込んでいる方へ歩いて行き俺達は精神世界から現実世界へと戻る。
「戻って来たね」
「ありがとうな漂泊者……って、その手に持ってるオレンジケーキはなに?」
「あ」
「ダーニャの誕生日だったからね。折角、用意して貰ったのに何処かに行っちゃうから」
「へ?ダーニャさん、誕生日だったんすか!?!?プ、プレゼントとか全く用意してないというか、今まで何度も聞いたのに俺に教えてくれなかったじゃないっすかぁぁぁ!!どうして漂泊者には教えてるっすかぁぁぁぁ!!」
「……もぅ、うるさいシュバルツ君ですねぇ」
「理由聞いてるっすよぉぉ」
さっきまでの緊張感と良い空気は何処へ消え去ったのか、俺は鬱陶しそうにしているダーニャさんにダル絡みを続けるのだった──だって、誕生日なんて聞いてないもん!!
脳筋解決