君の重しになりたくて   作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね

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思ったより長くなったので、前後編で分けるってばよ


君の重しになりたくて 前編

 当然の話と言えばその通りなのだが、ダーニャさんを連れ戻したからと言ってその日のうちに今までの通りの生活が帰ってくる……なんてことは無かった。

 スタートーチ学園いや、スペーストレック・コレテクティブにとってフラクトシデスのスパイであり、鳴式の共鳴者であるダーニャさんは監視対象かつ有用な研究サンプルな為、連れ戻してから一週間ほど俺どころかラハイロイを救ったらしい漂泊者も顔を合わす事は出来ず悶々とした日々を過ごした。

 

「シュバルツ君、ここのデータだが」

 

「あぁはい。このままなら一ヶ月以内には該当地域のヴォイドマターは安全に消滅すると思います」

 

「そうか。では、やはりアレフ1の脅威は一旦去ったと考えて良いんだな?」

 

「はい」

 

 また、あの研究所でダーニャさんの実験記録及び膨大なアレフ1とヴォイドマターに関するデータを読み漁った俺は、ただの学生なのだがすっかりヴォイドマター研究に深く関わる事となり、日々ラハイロイ全域から報告されるデータと睨めっこする事にもなって時間の確保が難しくなった。

 それでも、全てが終わってから一ヶ月、漂泊者から連絡を貰った俺は研究を放り出して保健室へと駆け込んだ。

 

「ダーニャさん!!」

 

「わっ……相変わらず、元気一杯ですねシュバルツ君」

 

「もちろんっす!!ダーニャさんは何か酷い事とかされなかったっすか?身体データとかは俺の方にも報告が上がってきたので元気なのは知ってるっすけど、他の研究員とかネオユニオンのスパイとかに望んでもない事を……」

 

「大丈夫ですよぉ。みなさん、とても優しく接してくれましたぁ」

 

 そうですよね?と隣に立っていた研究員に微笑みかけるダーニャさんを見て、一安心して椅子を引っ張り腰掛ける。

 顔色も良いし、少なくとも目立った範囲に傷があるわけでもない……良かった、実験動物みたいな扱いを受けてないみたいで。

 

「それにしてもデータが上がってきたとか言ってましたよね。いつの間にそんなに偉くなったんですかぁ?」

 

「偉くなった訳じゃないっすよ。内容が内容なんで、極力知ってる人間を増やしたくないみたいっす」

 

「なるほどぉ、つまりシュバルツ君は私が色々と調べられている間に色んな事を知ったんですねぇ」

 

「そんなに目新しい情報はなかったっすけどね」

 

「乙女の身体を知り尽くしてその言葉……やはりシュバルツ君は変態さんですね」

 

「乙女の身体を……って、イヤイヤ!!そういうデータはなにも知らないっすよ!?」

 

 ダーニャさんの周波数の変移や、調整に関してその日の体調とかは知る機会あったけどその……所謂、女性らしいデータに関しては全く知らない!!

 

「あははっ、顔を真っ赤にして可愛いですねぇシュバルツ君」

 

「うぐっ……揶揄ってたっすねダーニャさん」

 

「はい。だって、気楽な会話を出来る人なんていなかったですから」

 

 この感じ……とても久しぶりで安心するのはどうやら俺だけじゃなかったみたいだ。

 お腹を抱えて笑うダーニャさんを見て、思わず泣きそうになるのを堪えて俺も精一杯の笑顔を浮かべて返す──今はまだ泣くのは早いから。

 

「じゃあ今日はたくさんお喋りをしようっす。外、良い天気だし散歩でもしながら」

 

「良いですよぉ。その為にお仕事頑張ったんですもんねぇ〜」

 

「どうしてそれを!?」

 

「ふふっ」

 

 ダーニャさんに心配をかけたくないから、俺が自分に与えられた業務以上を熟している事は話さないでくれと研究員達には頼んでおいた筈……まさか裏切り者が告げ口を?

 

「──目元の隈を見れば分かりますよ。シュバルツ君との付き合い長いんですから」

 

「……それは盲点だったすね」

 

「無理は程々にしてくださいねぇ」

 

 やれやれと肩を竦めるダーニャさん。

 確かに目に隈を作って、好きな人に会いに行くのに鏡で身嗜みを整えない馬鹿は居ないのだから気がつけない程に疲れが溜まっている俺の行動は呆れ返っても仕方のないものだろう──でも 

 

「早く会いたかったっすよダーニャさん」

 

「……知ってますよシュバルツ君。ほら、何処に連れて行ってくれるんですかぁ?時間無くなっちゃいますよ〜」

 

「っと、そうっすね!!じゃあ、彼女を連れて行くんで失礼します!!」

 

「あ、うん……若いって凄いなぁ」

 

 ダーニャさんの手をとって保健室を出る。

 先ずはこのスタートーチ学園で出来る事をやろうと決めていて、目をつけていたのはゲームセンターだ。

 

「ダーニャさんって確かこれ得意だったっすよね。対戦しましょう!!」

 

「良いですよぉ〜これなら天才のシュバルツ君にも勝てますし」

 

「言ったっすね?」

 

 向かい合う様に設置されたゲーム機にコインを投入し、対戦を選ぶ。

 このゲームは上から落ちてくるブロックをバランスよく積んでいき、隙間を無くすとその一列が消えいきその消えた分が対戦相手のブロックを競り上げ、先に画面上部にある限界点を超えてしまった方が負けだ。

 ダーニャさんが友人達と一緒にこれをプレイして、当時の新記録を打ち立てていたのを覚えている。

 

「ま、俺もこの日の為に特訓したっすけどね!!」

 

 この手のゲームは消せるからと言って、簡単に消してしまうのは負けに繋がる。

 先ずは先を見越し、ある程度の空白を作ってブロックを積み上げていき規則性のあるブロックの種類と順番を把握する。

 次にダーニャさんの状況をチラ見し、彼女が最も溜め込みかつ消し辛いタイミングを見極め……一気に消していく!!

 

「むっ、中々やりますね」

 

「まだまだいくっすよ!!」

 

 1コンボ、2コンボ、3コンボ、4コンボ!!これだけコンボが続けば流石のダーニャさんもキツく……!?

 

「ギリギリで耐えてる!?」

 

「ふふっ、シュバルツ君ならお手本通りに攻めてくると思ってたんです……えいっ☆」

 

「うおっ!?!?連鎖が続いて……ぐっ!!」

 

 俺が見た事ないレベルで連鎖が起き、ダーニャさんのブロックが一気に消えていきその分が俺に襲いかかり必死の抵抗も虚しく俺の限界点をブロックが超え、画面には敗北の二文字が刻まれた。

 

「……つ、つよすぎぃ!!」

 

「舐めないでください。でもまぁ、シュバルツ君も中々でしたよぉ?」

 

 ニコニコと満面の笑みを浮かべて項垂れる俺の周りをクルクルと回るダーニャさんの表情はあまり見たことがないものだ。

 なんとなくだけど、普段、テストとか研究では俺の方が上をいくから自分の得意分野で俺を超えて優越感に浸っている……そんな感じがする。

 

「うぐぐ……」

 

「私を倒したければお手本以外も覚えないとですねぇ。シュバルツ君が良ければ、私が教えてあげましょうかぁ?」

 

「ぜひお願いします」

 

 今日以外もなんなら、毎日、ゲーセンデートを出来る案件に俺が飛びつかない訳もなくダーニャさんの手をとって、ブンブンと振ると彼女は少し驚いた後にさっき以上に嬉しそうに微笑み頷いてくれた──可愛い。

 その後、もう二戦ほど戦って見事に全敗したが俺に小技を教えるダーニャさんはずっと楽しそうで俺の腹が空腹を告げる音を鳴らさなければもっと見ていたい程だったな。

 

「食堂に行きましょうか」

 

「そうっすね。確か今日は限定メニューの栄養価満点!!これを食べればその日の必要カロリーは全て摂取出来る!!と謳い文句のカレーがあるらしいっすよ」

 

「……恐らくですけど味は二の次、三の次ですよねそれ」

 

「モーニエ教授協賛っすね」

 

「じゃあ確実じゃないですかぁ。シュバルツ君のご飯を食べてなければ私もそっち側だったとは思うんですけどねぇ」

 

「そうなんすか?」

 

 片頭痛の時に俺が作るお弁当をいつも綺麗に食べてくれているなーとは思っていたけど、味音痴の可能性があったとは。

 

「はい。だって私、彼等の所に居た時は味っ気も何もない固形食でしたし。どんな味であれ、味覚を刺激してくれればそれだけで美味しかったんです」

 

「……毎日、お弁当作るっすよ?」

 

「良いんですかぁ?シュバルツ君のお弁当は優しくて安心出来るので嬉しいです」

 

「任せてくださいっす!!一人分も二人分も正直、そんなに変わらないっすからね!!」

 

 というかなんなら二人分を作った方が、楽まである。

 一人分だけ作ってお弁当に入れると、確実に余って夕飯も同じメニューになったり少量過ぎて逆に味を整えるのが難しかったりするんだよな。

 

「でもまぁ折角ですし」

 

「そうっすね。俺もそんな気分っす」

 

 そんなやり取りをしていると食堂に到着した俺達は、デカデカと宣伝されている明らかにカレーがしてて良い色彩をしてないメニュー表を前に立っていた。

 

「「パーフェクト栄養カレーをください」」

 

「……二人とも本気?」

 

 ドン引きしている声に振り返ると、そこには俺達の顔を交互に見ているシグリカさんが立っていた。

 

「シュバルツ君は兎も角、ダーニャちゃんは病み上がりだよね!?倒れちゃうよ!!」

 

「俺は兎も角って……」

 

「ふふっ、大丈夫ですよシグリカちゃん。いざとなればシュバルツ君が全部食べてくれますから」

 

「そ、それなら良いのかな……」

 

「あれぇぇ??」

 

 美しきかな彼女達の友情の裏で、俺が悲惨な事になるのが確約されてしまったぞ。

 まぁ、一度頼んだ以上残すのは好きじゃないし気合いで食べきるつもりではあったけどさぁ。

 

『パーフェクト栄養カレーお待ちどうさま』

 

 配膳ロボットが俺達の前にカレーを並べる。

 何故だろう……普通のカレーならあり得ない肉肉しい香りと魚介の香りがどっちも負けずに鼻に届くぞ。

 

「……」

 

 シグリカさん、ドン引きし過ぎて何も喋られないのはやめて?いやまぁ、俺達も呆気に取られて何も喋れてないんだけど。

 

「いただきましょうか」

 

「そうっすね!!」

 

 ダーニャさんはこの異様に全く怯んでいないのか綺麗な所作でスプーンを手に取ると、カレーがしてて良い色彩をしてないルーと白米をバランス良く取り、何一つ躊躇いなく口へと運んだ。

 

「「……ゴクリ」」

 

 俺とシグリカさんが思わず、唾を飲み込む横でダーニャさんはモグモグと咀嚼を行い、時折、表情が歪むものの吐き出したりする事はなくごくんっとカレーを飲み込んだ。

 

「──思っていたよりは悪くないですねぇ」

 

「マジっすか?」

 

「ほんと?」

 

「……二人とも疑い過ぎじゃありませんかぁ?」

 

 いやだって、そのお世辞にも美味しそうには見えないというかなんというか……ジト目のダーニャさんから逃げるように俺もカレーを掬ってみる。

 よく煮込まれている為か、大きく目立つ具材はないがその分、何が溶け込んでいるのか分からない恐怖心が襲ってくる。

 そんな深淵からやってくる恐怖心と戦っている横で、ダーニャさんはもう一度カレーを掬うとそれをシグリカさんの方へ差し出した。

 

「ダ、ダーニャちゃん?」

 

「そんなに疑うなら食べてみてくださいよシーちゃん、あーん」

 

「ダーニャさんのあーんだと!?くっ……俺もカレーを頼んでいなければチャンスが……羨ましいぞシグリカさん」

 

「全然変わってあげるよ!?わわっ、ダーニャちゃん近づけてこないで!!」

 

「ふふっ」

 

 シグリカさんの抵抗虚しく──なんなら、俺にツッコミを入れたせいで開いた口に──カレーが放り込まれた。

 

「──!?!?!?」

 

 その瞬間、シグリカさんの表情が壊れたロボットみたいにコロコロと変わって最終的には白目を剥くと机に突っ伏して動かなくなってしまった。

 

「あ、あれ?シーちゃん?寝たふりは大丈夫ですよぉ?……シーちゃん?」

 

「そんなに酷い味なのか……パクっ」

 

 野生味溢れる肉の味が口一杯に広がったかと思うと、次の瞬間には芳醇な魚の香りが広がりそこへ幾つものスパイスが織りなす独特な香りが鼻を駆け抜けていく。

 そして、香りの蹂躙が終わったかと思えば、今度はありとあらゆる味覚が押し寄せ口の中が甘いのか酸っぱいのか苦いのかなんなのか分からなくなった後に全てを焼き尽くす辛味が迸る。

 

「……おぉ……これは……」

 

 何故、ダーニャさんはこれに耐えられたのか……それ程までに無味に慣れ切った存在は暴力的な味すら飲み干す虚無を持つのか……そして、モーニエ教授を筆頭にこういう栄養メニューを考えてる人達の栄養最優先思想をどうにかしなければと思うのと同時に俺も意識を手放した。

 

 まぁ、俺もシグリカさんも五分後には意識を取り戻したんだが。

 

「「今後は栄養特化メニュー禁止!!」」

 

「はい……」

 

 一度気絶したお陰か、無理やりカレーを食べ切りシュンっとしているダーニャさんにシグリカさんと一緒にこういうメニューを頼むのを禁止とした。

 俺も悪ノリは自制しないとな。

 

「でも、良かったぁ。ダーニャちゃんすっかり元気になったんだね。私、心配したんだから」

 

「シグリカちゃん……まぁ、あんな別れ方をして少しだけ恥ずかしい気持ちもありますが……私もこうして顔を合わせられて嬉しいですよ」

 

「恥ずかしいのはお互い様だね!!」

 

 美しきかな友人愛、一応俺も横には居るんだけど一瞬で二人だけの世界が展開されたぞ。

 

「……本当にこれでお別れだってもう、ニーヤちゃんには会えなくて一人ぼっちになっちゃうと思ったんだからね」

 

「ごめんなさいシーちゃん。あの時は私、一人で全てを背負うのが正しい事だと思っていたんです」

 

「いつも私には無理をしなくて良いって言うのに、自分の事になったら無理をしちゃうんだから狡いよ」

 

「シーちゃんと同じですよぉ。私がしたいと思ったから背負ったんです」

 

「ふーん……やっぱり妬いちゃうなぁ。そんなニーヤちゃんから重荷を引き受けちゃうんだから」

 

「ん?」

 

 美しき友情を見守っていようと思っていたんだが、急にシグリカさんが振り返ってジト目を俺に向けてきたぞ。

 

「今日も仲良く二人でデートしてるみたいだし……いよいよかな?」

 

「シ、シーちゃん!?」

 

「シグリカさんにお墨付きをいただけるととても心強いね」

 

 ニヤニヤした表情のシグリカさんと、彼女に何かを感じ取ったのか顔を真っ赤にしているダーニャさん、そしてしたり顔でうんうんと頷いている俺。

 側から見れば中々な光景な気がしてきたな。

 

「今日はまだなの?」

 

「あぁ、うん。折角だから告白の場所も決めているよ」

 

「……どうして貴方はそうノーガードなんですかぁ」

 

「ずっと欠かさずに告白してきたっすから、今更では?」

 

 ダーニャさんに惚れてから毎日、欠かさずに告白をし続けたのだから今日この日に告白をしない訳がない事ぐらいダーニャさんなら分かっていた筈。

 それなのに恥ずかしそうに顔を赤くして髪をクルクルしている辺り、何処か単なる復帰祝いだと思っていたのだろうか?

 

「ふふっ、相変わらずだねシュバルツ君は。じゃあ、私がダーニャちゃんを独占するのは明日以降にしようかな!!ナスターシャさんも話をしたいって言ってたから、ここ数日はお昼寝出来ないかもねダーニャちゃん!!」

 

「えぇ……それは困るんですけど……ナスターシャに時間は空けておきますって伝えてください」

 

「はーい!!じゃあ、二人ともこの後も楽しんでね!!」

 

 ……もっとダーニャさんと話をしていたいだろうに空気を読ませてしまったな。

 ブンブンと大きく手を振って去っていくシグリカさんを見送り、机の上にダラっと上半身を預けているダーニャさんを見るとビクッと動き、少し赤く染まった頬と涙で潤んだ瞳が向けられる。

 

「……なんですかぁ?」

 

 あぁ……これは覚悟を決める時が来たらしいな。

 

「学園の外に行こうっす。今から行けばきっと良い夕焼けが見れるっすから」

 

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