君の重しになりたくて 作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね
友情も愛情も等しく君には大切
なんでもないような1日、学生達は眠気眼を擦りながら日々の研究や課題に様々な思いを巡らせ今日もここ、スタートーチ学園の門をくぐる。
いつもと同じだけど、少し違う変わらぬ日々を過ごすと思っているスタートーチ学園の生徒達と教師達に激震が走る事になるなんて、今この瞬間は誰も思っていなかっただろう。
「ふわぁ……ねみぃ……」
「だなぁ……お、今日も朝一に校門の前で立ってるぜ」
「シュバルツだろ?あいつもよくやるよなぁ。確かにダーニャさんは可愛いと思うけど、毎日、毎日フラれてたら流石に嫌になるぜ?」
「そうそう。ダーニャさんも実は嫌だと思っていたりしてな」
男子生徒二人がいつもの様に校門の前に立っている右目に大きな傷を持つ男子──スタートーチ学園に通う者なら誰でも知っている人物であるシュバルツの日課となっている告白に話を膨らませていると、もう一人の噂の人物、ダーニャが彼らの横を通り過ぎて行く。
「お?来たぞ」
「今日も一発フラれて……!?!?!?」
眠気に支配されていた男子生徒二人の目が大きく開かれる。
歩く事すらやめて、立ち止まった彼らの先ではシュバルツが待っているのを見つけたダーニャが少しスキップをする様な足取りに変わると、それに気がついた彼が手を犬の尻尾の様に激しくブンブンっと振りながら彼女を迎えると──その手がダーニャに抱き止められ、極々自然に彼等はゼロ距離になって歩き始めた。
「ダーニャさんの方から抱きついてきてくれるとは嬉しいっす!!」
「こういうのは早めにアピールしないとですからねぇ」
「アピール?」
そんな事をしなくても自分はダーニャさんしか見ないのにと小首を傾げるシュバルツの横で、固まる男子生徒達に向かってダーニャは振り返るとベェっと舌を出して大切な彼氏を馬鹿にされた事に仕返しを行い、シュバルツの手を抱き締める力を強める。
「……可愛い」
「確実に俺たち、嫌われたけどな」
繰り出されたダーニャのあまりにも可愛らしい一撃は、一瞬にして彼等を虜にし失恋の痛みを与えるのだった。
「……良いわねぇ。青春って」
「彼等の恋愛を普通の青春で片付けて良いのかは分からないけどね」
「と、いう訳で最高の彼女が出来たよ。シグリカさん」
「良かったね二人とも!!ずっと見ていた私からしたら、いつくっつくのかなぁーって心配してたんだよ?ダーニャちゃん、素直じゃないから」
「うっ……シグリカちゃん、事実は時として人を傷つけるんですよぉ?」
「ダーニャさんのそういう所も可愛いっすけどね!!」
「シュバルツ君!!」
「あはは!!!!」
昼休み、ラベル学部の屋上でシュバルツが堂々とダーニャに一切の恥ずかしげもなく、好意を伝えると親友の前という気恥ずかしさからダーニャの顔が真っ赤になり、そんなただの学生らしい振る舞いと嘘偽りのない表情にシグリカが笑い釣られる様に二人も大きな声で笑い合う。
当たり前の青春、しかし何か一つでも違えば訪れることのなかった平和な時間を彼等は生きている。
「告白はいつも通り、シュバルツ君から?」
「あぁ。学園を見下ろせる崖の上で君の重しにして欲しいって」
「わぁ!!」
「ほんっとうに直球ストレートですよねぇシュバルツ君は」
「こっちはストレート勝負してるっすのに、最後まで逃げようとするダーニャさんが悪いっす」
「確かにダーニャちゃんにはシュバルツ君くらいの真っ直ぐさじゃないと足りないよ!!」
「もぅシグリカちゃんまで……」
気心知れた相手だからこそ、三人の表情は笑顔で満ちており何一つとして遠慮が存在していない。
学生らしく恋人を作った友人を祝福し、時には揶揄ってただ心の赴くままに言葉を紡いで笑い合うただそれだけの事なのに──
「うん。本当に良かったよ」
「シグリカさん」
「ん?」
「
──シグリカの目から気がつけば涙が止まらなくなっていた。
「あ、あれ?おかしいな……ちゃんと笑って祝福するつもりだったんだけどなぁ」
目を拭っても拭っても、それ以上の涙が彼女の意思ではどうしようも出来ない程に溢れてきてやがて雨の様に机の上に染みを作り出していく。
「シーちゃん」
そんな彼女の隣に移動したダーニャは彼女を優しく抱きしめ、落ち着く様にとゆっくりと頭を撫でていく。
トクン、トクンと鼓動を続ける心臓の音と触れ合う事で伝わってくる体温がシグリカの心をゆっくりと安心させ、温めていくのをシュバルツは見守りながら二人を周囲の視線から隠す様に周りを睨みつける。
「心配したんだよ?ニーヤちゃんともう二度と会えないかもしれないって……シュバルツ君が連れて来てくれたけど、ニーヤちゃんは意志が強いから」
「私がシュバルツ君の思い出作りに付き合って、また何処かに行くと思ってたんですかぁ?」
「うーむ……ダーニャさんならやりかねない」
「シュバルツ君?」
「ごめんなさい」
「ふ、ふふっ……その真っすぐさを私も持てたらダーニャちゃんの手を握れたのかなぁ」
シグリカとダーニャが再会を約束した別れを告げた日、シグリカはダーニャの雰囲気から自分ではどうしようもない事を悟り『誕生日に一緒にケーキを食べよう』という約束を結ぶ事しか出来なかった。
あの時の選択に後悔はなかった──けれど、こうして目の前で仲睦まじい姿を見せられてしまえば、ほんの少しは思ってしまうのが人間というものだろう。
《どうして自分はあの時、彼の様に出来なかったのかと。》
相手を大切に思うからこその後悔が溢れ出すシグリカ。
「俺がダーニャさんの手を握れたのは、シグリカさんが笑顔を教えてくれたからだよ」
「そうですねぇ〜シュバルツ君だけじゃ、しつこいだけですからぁ」
「酷くないっすか?」
「毎日告白を続けた事実をお忘れですかぁ?」
「ンンッ、兎に角シグリカさんはちゃんとダーニャさんの支えだった。君が笑顔の教えてなければ、あの虚無に俺達は勝てなかったから」
異性だからこそ、シュバルツはダーニャの手を掴めたし、同性だからこそ、シグリカはダーニャに笑顔の意味を教えられた。
「俺達、どっちかが欠けてたらダーニャさんは居ない……そうっすよね。ダーニャさん!!」
「はい。シーちゃんが大好きだから私は今、此処にいるんですよぉ~だから、ほら、笑ってください」
二本の指をシグリカの口へ添え、ニッコリ笑顔の可愛い表情を作るダーニャ。
そして、ダーニャの口へ指を添え同じ様に笑顔を作るシュバルツ。
そんな二人の何処か抜けていて、心温まる優しい在り方にシグリカの心を覆っていた氷はもうすっかりと解けていた。
「ふっ、ふふっ!!あはは!!うん、そうだね。私もニーヤちゃんが大好きだよ!!」
「わっ……ふふっ、可愛いですねぇ」
「笑ってるニーヤちゃんの方が可愛い!」
「そうですかぁ?シーちゃんも負けず劣らず可愛いと思いますけどねぇ」
可愛い可愛いとお互いを褒め合う二人の耳にパシャリとシャッターの音が届く。
聞こえてきた方へ揃って視線を向けると、そこにはカメラを構えて満足そうにニコニコしているシュバルツの姿があり、二人の表情はみるみる内に赤く染まっていく。
「うんうん。めっちゃ可愛いダーニャさんの写真が撮れたし、あとでグループの方に共有しておくっす?」
写真の出来前に満足していた彼が視線を戻した瞬間、顔を真っ赤にしている二人が彼を挟み込むとダーニャは腕を絡み取り身体を押し付け、シグリカは口に手を当ててニヤケ面を更に強めさせる。
「にゃ、なにをょ??」
「私達だけ恥ずかしい写真はズルいと思うので、シュバルツ君もその間抜け面を撮られてください」
「はいっ!チーズ!!」
保存された三人の写真には、何処までも澄み渡る青空とそれに負けないくらい笑顔で楽しそうな表情を浮かべる二人となんとも言えない間抜けな表情を浮かべるシュバルツが写っており、この写真は三人のグループチャットのホーム画像として使われるのだった。