君の重しになりたくて   作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね

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短編なので明確な時系列は決めてませんが、ダーニャちゃんが実装されるまでは本編前にしておきます。なお、実装されるまで書き続けられるかは未定


例え暗闇に包まれても

 ヴォイドストーム……鳴式によって引き起こされる災害であり、飲み込んだ万物の痕跡を消滅させる特性を持つ厄介極まりないものだ。

 未来の種が多く集まるスタートーチ学園であっても、このヴォイドストームの影響を完全にゼロにするのは現状、不可能であり対症療法として『ラベルカセット』と呼ばれる特殊な装置で被害を軽減するのがやっとだ。

 

「実験の為とはいえヴォイドストームに近づくなんてシュバルツ君余程、皆さんの期待を裏切りたくないんですねぇ」

 

「理論は組めてるっす。あとは俺のコンディション次第っすけど、ダーニャさんが手伝ってくれるのなら最高が確約されたも当然っすから!!」

 

「はいはい……凄いですね〜」

 

「でも、心配してくれて嬉しいっす!!やっぱ、ダーニャさんは優しいっすね!!」

 

「よく回る口ですね。ほら、そろそろ目的地じゃないんですか」

 

 気怠げに指さされた先、かつては引かれていたのであろう道路が剥がれ赤褐色の土が顔を覗かせている場所には目で分かるレベルで禍々しい周波数が集まっており、あと少しの時間でソレが臨界を迎えるであろう事はヴォイドマター学部の人間なら一目瞭然だ。

 シュバルツは背負っていた緑色のリュックを下ろすと、そこから五芒星の形をした小さな装置を幾つかと丸いレーダーみたいたものを取り出し、後者をダーニャへと手渡した。

 

「こちらは?」

 

「受信機っす。この葦原の占いから発想を得た五芒星と五行相剋を使った安全装置の反応を示してるっす。ダーニャさんには今から、俺がこの装置を身につけてヴォイドストームに入るんで反応が確認出来るかモニタリングして欲しいっす」

 

「……は?いやいや本気ですか?自分の理論に絶対の自信がある様ですけど、万が一があったらシュバルツ君、消えちゃうんですよ?」

 

 ヴォイドストームに飲み込まれた者の最悪の末路……それは存在の消滅であり、装置が正しく機能しなければシュバルツは持っているカセット以外には存在証明が出来ない死を迎えてしまう。

 これは今、ここで話しているダーニャの記憶からも消えてしまう事を示しており、彼女の目にははっきりと心配の色が浮かんでいた。

 

「心配してくれて嬉しいっす」

 

「シュバルツ君」

 

「大丈夫っすよ。こんなに心配してくれるなんてちょっと予想外だったけど、その分ダーニャさんが俺の事をちゃんと見てくれていると分かったっすから何があっても戻ってくる気になった」

 

 彼女の心配を打ち消すように太陽の様に輝く笑みを浮かべるシュバルツ。

 自分が確立した技術に対する絶対の自信と、なんとしても彼女に元に帰ってくるという強い覚悟が宿っている笑みを見たダーニャは数巡の後に、受け取った受信機を胸元でぎゅっと握り締め、彼の目を見る。

 

「責任なんて本当は背負いたくないんですけどね。シュバルツ君が帰ってくるのに必要だって言うなら、少しだけ持っててあげますよ」

 

「ありがとうっす!!お礼はまた今度するっす!!」

 

「はいはい。出来るだけ早くしてくださいね〜」

 

 先程の空気を微塵も残さない軽い足取りで、手をヒラヒラと振りながら歩き去っていくダーニャの背中を小さな微笑みで見送り、シュバルツは装置を自分の身体に取り付けていく。

 両肘、両膝、そして首元につける事で肉体の上に五芒星を作り出し、五行相剋の安定性を利用し内側の肉体をヴォイドストームから守る──仕組みと言ってしまえば簡単なものだが、それを可能としている技術体系はレポート5、6枚でも足りないだろう。

 

「ダーニャさんが居るならきっと大丈夫。あの時みたいに声が聞こえるはずだ」

 

 黒い渦、発生したヴォイドストームにシュバルツは何一つの怯えもなく、五芒星を輝かせながら飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……どうして皆、他人の期待に応えようとするんですかね」

 

 ヴォイドマター学部稀代の天才なんて、シュバルツ君は持て囃されていますけど彼がその期待に応えるためにずっと走り続けてる事を誰が知ってるんですかねぇ。

 私の為に時間を使ってますし、彼だけの時間なんて寝る時ぐらいしかないんじゃないですか?いや、ほんとシーちゃんもですけどいつか倒れてしまうんじゃないでしょうか。

 

「……ちゃんと反応してますね」

 

 ピコン、ピコンと渡されたレーダーは一定の間隔で音を鳴らしているのが彼の心音みたいで少し怖い。

 これが途絶えた時、ヴォイドストームで彼は消滅し皆や私の記憶から消えてしまうと。

 

「そもそも何で私を選んだんでしょうかねぇ。こんな危険な実験、一生徒の私より先生の方が適任だと思うんですけど」

 

 だからその恐怖から逃れる様に、いつもの調子で独り言を呟き続ける。

 彼とは出会って二年、しかもほぼ毎日、告白され続けている仲なんですからこれくらい臆病になっても仕方がないじゃないですか──なんて、誰に向けてか分かりない言い訳をしてみる。

 

「これ、前に彼と一緒に見たドラゴ○ボー○に出てきたレーダーみたい……」

 

 みたいというか確実にアレをイメージしてますよねこれ。

 百歩譲って形が似てしまったとしても、白い色にカラーリングする必要はないですしこの何の意味もない上のポッチとかいらないですよね。

 

「……まだ帰ってきませんかね」

 

 そろそろ独り言を続けるのも限界なんですが、レーダーはピコン、ピコン鳴り続けてるだけで何処に視線を向けても彼の姿はありませんね。

 彼の周波数、まるで星みたいに輝いているので見逃す事はあり得ないでしょうからまだ潜ってるんですか。

 

「シーちゃんとクレープ食べる約束があるんですから、それまでには帰ってきてくださいよ〜」

 

 どうやって時間を潰そうか……そう考えた時、危険を告げる放送が響き渡る。

 

『ヴォイドワーム警報!!付近にいる者は避難を!!』

 

「ッッ!!此処は活動場所ではッッ!!シュバルツ君!!!!!」

 

 モーバロウ・デザートから離れた場所なのに、ヴォイドワームが出てくるなんて……これだから屋外実験は嫌いなんですよ。

 今、私が居る場所は少しだけヴォイドワームから離れているみたいですけどあの巨体が動けば、こんな距離無いに等しく、すぐにでも逃げるのが正しいのは分かっていますが──

 

「──まだシュバルツ君が戻って来ていない」

 

 ヴォイドストームの内側なんて、ヴォイドワームにとっては格好の餌場に等しい。

 彼がもしも……もしもヴォイドワームに遭遇していて飲み込まれてしまったとしたらカセットを見つけるのも絶望的……

 

「……ああ、もう。シュバルツ君!!」

 

 私の共鳴能力ならヴォイドストームの中でも問題は──そう考えて、すぐに失敗を悟りました。

 ヴォイドワームが活動している場所で周波数を高める、その行為が何を意味するのか私はどうも冷静さに欠いていたみたいでしたね。

 

『───!!!!!』

 

 すぐ目の前に現れたヴォイドワーム──餌を狩りに来た捕食者の口が私に向けられる。

 

「ぁ……」

 

 死ぬ──そう思った瞬間、彼の名を呼んでいた。

 

「シュバルツ君」

 

 ピコンっと返事をするみたいにレーダーの音が聞こえたかと思うと、ヴォイドワームの後ろ、最もヴォイドストームが濃くなっている場所から闇を引き裂く極光が溢れ出し、その大きすぎる周波数にヴォイドワームが振り返る。

 

「ダーニャさん!!!!」

 

──バイクの申請、いつの間に出していたんですかシュバルツ君。

 

「ごめん!!遅くなったっす!!」

 

「本当ですよ全く……」

 

 ヴォイドワームを追い越し、伸ばされた手を掴み彼の後ろに乗り、振り落とされない様にしっかりと腰に手を回す。

 

「ヴォイドワームからの逃走劇。これも良いデータ取れそうっすね!!ダーニャさん」

 

「馬鹿なことを言わないでください。本当に……心配したんですからね」

 

「あはは。やっぱりダーニャさんを連れて来て正解だったっす」

 

 ヴォイドワームの攻撃を避けながら、シュバルツ君がまた変なことを言い出す。

 

「──名前、呼んでくれたの聞こえたっすから。俺、ダーニャさんが居ればきっと星の海でも迷子にならない自信があります」

 

 ヴォイドストームに滞在し、ヴォイドワームに襲われてどうやら彼の天才の頭脳は馬鹿になってしまったみたいです。

 だって、普通に考えて私の声が聞こえている訳ないんですから。

 

「そんなの幾らでも呼んであげますよ。シュバルツ君」 

 

 本当に馬鹿です、大馬鹿ですよ。




ニュータイプかもしれない。
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