君の重しになりたくて 作:ダーニャちゃんってふわって消えそうだよね
ラハイロイの何処か、人の目が少ない場所へとダーニャは足を運んでいた。
ウェーブラインに送りつけられた場所へと到着すると、そこには白い兎を抱き抱え頭を撫でているニヴォラの姿があった。
「遅かったじゃないかダーニャ」
「……ごめんなさい。少しだけ予定がありましたから」
「ふむ。それは君が学生ごっこに勤しんでいるあの男との日常だったりするのかな」
「ッッ」
「おや図星だったか」
クスクスと笑うニヴォラの声に込められている明確な嘲りと、人を馬鹿にした様な笑みは学園でシグリカと共に過ごしている時には全く見られないもので、仮にこの場に他の誰かが居ればニヴォラが何か良くない物を食べたのではないかと思うだろう。
だが、この人を嘲り笑う悪意を煮詰めた在り方こそがニヴォラのいや、フラクトシデス『組織長』の本当の在り方である。
「さて、お前を呼んだのは少しばかり計画に変更を加えようと思ってな。知っての通り、我々は裏学園を利用し記憶に関する力を持つ共鳴者が虚無にどれだけの抗えるのか実験している所だ。あぁ、お前の友人シグリカもだったな」
「……」
「案ずるな。彼女には何もする気はない。しかし、ここ最近気になる存在を見つけてな。ダーニャ、お前にはそいつを裏学園へと誘導して欲しいのだ」
「……それは、誰なんですか」
目の前の存在が興味を抱く相手に心当たりがあるのかダーニャは、自分の予想が当たっていて欲しくないという思いを込めて震えた言葉を紡ぐが彼女のその細やかな願いはあっさりと裏切られる事とになる。
「シュバルツ──お前が
「どう、して」
「ん?まさか私が気がついていないとでも思っていたのか?お前という鳴式の人形を通して、アレフ1 を覗いただけであれば偶然と片付ける事も出来たが、ヴォイドストームに飲み込まれても平然としている姿……そして何よりもヴォイドワームの侵食にすら耐え切った姿を見れば流石の私も興味を惹かれるというものさ!」
悪意の中に明確な熱が宿る。
鳴式という人類にとって猛毒である存在の影響を僅かといえど、耐え切った姿は『完全な鳴式の共鳴者』を作り出したい組織長にとって有用な実験材料であったのだ。
「あの男は随分とお前にご執心な様だからなぁ。上目遣いで軽くおねだりでもしてやればあっさりと裏学園に足を踏み入れるだろさ」
下を向いてしまったダーニャに見本だと示すかの様に上目遣いを見せるニヴォラは、自分の行動に何も反応がないとつまらなさそうに姿勢を戻す。
「お前の様に調整を施した訳でもなければ、巫女様の様に特異な力がある訳でもない唯の学生が鳴式に抗っているんだ。これを喜ばずして何が我々だろうか!」
「……彼がお眼鏡に適わなければどうするんですか……」
「ん?無論、捨てるとも。役に立たない物に意味はない」
「ッッ」
それはほぼ反射的な行動だった。
都合の良い人形としてニヴォラいや、組織長には決して逆らおうとしないダーニャが顔を上げ睨みつける様な視線をぶつけたのは──しかし、そのあまりにも弱々しい抵抗はあっさりと踏み躙られる。
「随分な態度じゃないか。まさか本当にあの男を愛してしまったとでも言うつもりかい?ははっ、自分がどういう存在か知っているだろうに。いや、そうだな。君が裏切り者で怪物である事を彼に教えるのもアリかもしれないなぁ。愛した女が世界を滅ぼすお人形だと知った時、それでも救おうと手を伸ばせるのかどうか──見てみたいとは思わないかね?可愛いフロイラインよ」
例え鳴式に、アレフ1 に飲み込まれるだけの存在であったとしても唯の学生としての時間を大切に過ごしているダーニャにとってこの言葉はあまりにも致命的で悔しさから両手を握り締めるが、やがて強い無力感と共に開かれてしまう。
もうこの場に強い反抗心を見せたダーニャは居なかった。
「それで良い。では頼んだぞ」
愛しい人形が元に戻ったのを見て満足そうに頷くと組織長は溶けるようにこの場から消え去っていく。
ただ一人、残されたダーニャは己を支配する強い無力感から動けず暫くの間佇んでいたが、ピコンっとウェーブラインの通知が届いた。
『ダーニャさん何処にいるっすか?ちょうどシグリカさんとも合流して一緒に飯を食べる流れになったので、一緒に食べようっす!!』
「シュバルツ君……シーちゃん……」
大切な二人が一緒に居て、自分を待ってくれている──ただそれだけの当たり前な事に涙が溢れ出し、端末を濡らしていく。
ダーニャはこれからシグリカには、純粋で真っ直ぐな心をへし折る様な辛い経験を味合わせ、シュバルツには運命を歪める様な案内をしなければならない。
まだ捉え様によっては、親友に無理をして欲しくないという言い訳が成り立つシグリカの方が些か心理的負担は軽いがシュバルツはどう足掻いても、フラクトシデスの一員として悪意を込めなければならない。
自分の手で自分を暗闇から照らし出してくれる二つの太陽を落とさなければならないダーニャの心は何処までも重く、軋み悲鳴を上げるが今、この場に彼女を救い出せる者はおらずやがて覚悟を決めてしまった彼女は返信を送る。
『すぐに行きますから待っていてください』
それだけを送り、ダーニャはシュバルツの影響でよく乗る様になったバイクに跨り学園へと戻るのだった。
組織長が書きやすいのなんか嫌だぁぁぁぁ!!