ただ、生きていてほしくて   作:八音谷

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反響

 

【お悩みサメフとゆるふわヘット】

 

「こぉん、にぃち、は〜」

「何時にも増してゆっくりですね。ついにナマケモノにでもなりましたか?」

「わたしはやる気者だぁよ〜? じゃあ、行こぉね〜」

 

 まったくもう、失礼しちゃうねえ。確かにわたしはのんびり屋さんだけど、怠けてはないよぉ。

 

 今日も今日とて、サメフちゃんとの特訓。

 頑張らねば。えい、えい、おー。

 

「そいっ、そいっ」

「ふむ、動きは前より良くなっていますね」

「そーっい、てぇ」

「気の抜けた口の割に動きは鋭い……ちょっとやりにくいですね」

 

 タタタ、パン、パン、タタタ。

 

 銃が鳴って足音が消える。

 サメフちゃんは手加減して市販のハンドガン、私はいつものHora de la siesta(サブマシンガン)。わたしはあんまり打たれ強いタイプじゃないから、サメフちゃんのハンブルペア(デザートイーグル)は当たっただけでおしまいになっちゃう。

 

 今日の内容は“中近距離での戦闘”。別の日だと“神秘の込め方”、“近接戦の足捌き”、“戦闘中のリロード”とか、小さな事を一つずつ練習してるんだけど、今日は実戦形式の日。

 

 たとえ足の腱とかが切れててもサメフちゃんには勝てない実力差があるのだけど、曲がりなりにもキヴォトス系女子なわたしは勝つ気満々。

 

 タタタ、タタタ、タタタタタ。

 教わった通りに誘いを入れたり、引き撃ちしたりしてるけど、サメフちゃんには当たらない。

 

 パン、パパン、パン。

 代わりにサメフちゃんの弾も、わたしに当たらない。それは特訓の成果ではあるんだけど……。

 

「サメフちゃん」

「なんですか?」

「やめよ」

「はい?」

 

 なんだかサメフちゃんの調子が悪い気がする。ぼうっとしてる感じで、集中できてない。悲しい事に、そんな状態でもわたしを簡単にあしらえるんだけど……手加減したままだと私に当てられないぐらい散々だ。これじゃああんまり意味が無い。

 

「悩み事かなぁ? 弾がふわふわだよぉ」

「すみません……気を、あぁいや、少し休みましょうか」

「そいきた。こ〜っちこっち、はい、座ってぇ〜」

 

 床に置いたリュックに付いたボタン。コレを押すと中に仕込まれた鉄板やフレームが変形して椅子になるのだ。原理は分かんないけど容量ヨシ、防弾ヨシ、休憩ヨシなヨッドちゃんの力作だよ。

 

「便利ですね。私も持ってくればよかった」

「でしょでしょ〜。わたしはもう手放せないよ〜」

 

 中から取り出したるは百鬼夜行で評判の青空羊羹。ギーメルちゃん特製の和菓子で、青空をイメージした透き通るような青い羊羹。見た目の割に味はしっかり小豆味でとても美味しいよ!

 

「ありがとうございます……」

 

 うーん。ちょっと柔らかくなったけど、やっぱり浮かないお顔。

 おやつじゃ元気にならないかぁ。悩み……やっぱりあれだよねぇ。

 

「“無銘の火”」

「───!」

 

 ビクッてした。大当たり。

 

「分かり、ますか」

「タイミングぴったりだしねぇ。それに一番影響が大きいのは戦闘班でしょ〜?」

 

 タヴちゃんは最善を尽くす為に都合が良いって言ってた。それはタヴちゃんに限った話じゃない筈。一人がやるなら、全員がやるべき事だと思う。わたしたちは平等なんだから。

 

「やっぱり怖い?」

「情けない話です。ザインは即答だったというのに、私は……私は……」

 

 タヴちゃんはあの後、名前を焼くかどうかを全体掲示板で話す事を禁じた。同調圧力みたいになるのが嫌だって。だからザインちゃんの事は知らなかったけど、戦う事が好きなあの子らしいと思う。

 

「サメフちゃんは顔が広いもんねぇ。いい子だし、力強くて頼られるタイプだし」

「……ヘットさん。私はどうす───むぐっ」

「おーちつーいて?」

 

 焦る必要は無いんだよ。時間は有限でも、まだ猶予はある。

 ゆっくり、ゆっくり、進めばいいの。

 

「迷うのも、怖いのも、嫌でもいいんだよ。でも、わたしは答えをあげられない。それはサメフちゃんが決めるの」

 

 そう言うとサメフちゃんは迷子の子みたいな顔で固まって、俯いた。ちょっとして、ぼそぼそと呟くように口を開く。

 

「忘れられるのが、怖い。置いて行かれるのが怖い。私は、私が、いい子なんかじゃないんです」

「うん」

 

「別に、大事な訳じゃないんです。忘れられたっていい筈なんです。でも、でも、思い出してしまって……」

「うん」

 

「私に自分なんか無くて、周りに合わせるだけでっ、誰でもなくてっ……だから置いてかれてっ……」

「うん」

 

「痛くて……冷たくて……独りで……」

「……うん」

 

「ごめんなさい……こんな……」

「だいじょーぶ。だいじょーぶ」

 

 縮こまってしまった小さな背中を撫でてあげる。届くか分からないけど、それでもこの掌の熱が届くように。

 

 

 しばらくの間そうしていると、サメフちゃんは段々と落ち着きすを取り戻してきた。手にしたまま忘れていた羊羹をパクリと食べて呑み込んだら、目元は赤いけど殆どいつものサメフちゃん。

 

「すみません。見苦しい姿をお見せしてしまいましたね」

「いーのいーの。仲間でしょ〜?」

 

 何を思って、何があったのかは何となく察しはつくけど、そこには触れない。自分を知っている人に忘れられる。それがサメフちゃんには刺さっちゃったんだね。

 

「しかしスッキリしました。前は前、今は今。分かっていた筈なのに…………決めました。早々に焼いてしまいましょう」

「まだ2年生だよ? そんなに急がなくても……」

「中退します。それに、私には皆がいますから。大丈夫な内に事は済ませるに限ります」

 

 う〜ん。切り替えが速いよぉ。

 でもサメフちゃんが元気になったなら良かった。

 

「ヘットさんはどうしますか?」

「わたしは卒業したら焼くよ〜。今も昔も、のんびりさんはゆっくり行くのだ〜」

 

 普段はゆっくりし過ぎて置いてかれてるからねぇ。ミレニアムの皆は皆夢中で進むものだから。サメフちゃんとは違った形で未練は無いんだぁ。

 思うことが無い訳じゃ、ないけれど…………。

 

 あ、そうだ。

 

「そのハンドガン。ちょーだい?」

「コレですか……そうですね。どうせ他に使いませんしいいですよ」

「わぁい。サメフちゃんとか見てると便利そうだなーって思ってたんだぁ」

「SMGとHGでは大差ないと思いますが……」

 

 いーのいーの。こういう小さな繋がりが、案外心強かったりするんだから。

 

 

 

 

 

 

【退屈ザインと甘味屋ギーメル】

 

「カッ、オイオイ……テメェらそれでも高校生かァ?」

「う、うぅ……ぼ、“暴君”が、どうしてここに……」

「あ゛あ゛ん? 俺がどこに居ようと俺の勝手だろうが。ったくどいつもこいつも張り合いのねぇ……」

 

 魑魅一座の連中、暇潰しにもならねぇじゃねぇか。

 そのへんに居て程々に迷惑ばかり周りにかけているコイツらは叩き潰しても心が痛まねえから度々シバいてるんだが……ちっとも相手にならねぇ。

 

「サメフめ。この程度じゃ満足できん体にしてくれたな」

 

 やはりワカモかアヤメ……この際ナグサでも構わねえ。いっそ全て薙ぎ払えば普段は介入してこない高校生も出張ってくるか?

 ワカモも高生が中坊と()るのは面子が悪いのか進学以来あまり戦り合わねえし。中学全部の頂点に立てば相手する理由にゃならんかな……。

 

 そんな自分ながら物騒極まりないことを考えながら歩いていると、聞き覚えのある声をかけられる。振り向けばそこには顔馴染みのヤツがいた。

 

「やってるでござるなー? 差し入れでごさるよー」

「ギーメルか」

 

 濃紺の作務衣風な姿の黒髪の女。コイツは竹先に荷物を括り肩に担いでいつも小豆の匂いを漂わせている。

 

「何か用か?」

「用と言うほどの事も無いのだが、せっかく見かけたのに声をかけないのもどうかと思った故。新作もござるよ」

「そりゃいい。オマエの作る菓子にハズレは無いからな」

「おお、褒めてもどら焼きしか出ないでござるよ」

 

 そう言うと懐から包みを取り出すギーメル。

 いやどっから取り出した!?

 

「ふふふ、ちょっとした隠し芸よ。冬限定だが中々ウケが良い」

「あむっ……栗か」

「うむ。今の栗の供給先が不作らしくてな。一時的に新たな仕入れ先を探しているのだがどうも違う。これは少し細かめにしたのだが……どうか」

 

 コイツはウチの中でも活動的な方で中一の癖に店を開いてやがる。元日本人として違和感はやべーが、キヴォトスではこれが許される。勿論相応の能力が前提だがな。

 

「味は悪かねぇ。が、個人的には前のサイズが好きだな」

「そうか……」

「試しに並べるのもいいだろ。手作りなんだし」

「ううむ……どうしたものか……」

 

 一応名義的には別のヤツに借りてるんだったか? 留守にしても店を開けられる程度には人も雇ってるし。まあ24時間いつでもシフトの入ってるコンビニアルバイターも居るし細かい事はいいや。

 

 で、だ。

 

「並べる……並べるか。客にあんけーとというのも一つの手ではある。来年には元に戻すのだから割り切って───」

「で、本題は」

「へ?」

「本題はって聞いてンだよ。オマエの店学区の反対側だろうが。目的があって此処まで来てんだろ」

「…………やはり拙者に嘘はつけんな。下手くそが過ぎる」

 

 偶々見かけただけって言うには遠すぎるわ。別の用事のついでだっつー方がまだ信憑性がある。それにオマエは俺に試食を頼むぐらいなら先に百鬼夜行組掲示板で連絡を取るだろうが。

 

「そろそろ我慢できなくなるだろうから少し諌めてこい、と言われてな」

「───ラメドか」

「いかにも」

 

 はん。見透かしやがる。自分で来りゃいいものを。

 

「私じゃ煽りが悪く利くから、とも言っていたぞ」

「……あーあー! まったく難儀なヤツだ! 大人しく俺にシバかれりゃいいのによ!」

「それはそれで、随分と酷な話よ」

「ハッ、初対面で俺の事をキレさせたと思えば開き直って更に煽るようなヤツが遠慮してんじゃねーよって話だ」

 

 あの時はヘットとペーの取り成しでオチがついたんだったか。あのコミュ障野郎は悪気無く煽ってくるし、それに気が付いたら誰の目にも自分が悪く映る様に行動する悪癖がある。知らなきゃ普通に叩けるが、知ってると叩き辛いんだわ。普通に謝りゃいいものを……。

 

「はぁ~……ん~、いいや。三六堂行こうぜ。今日は開いてんだろ?」

「うん? 何か食べたいなら拙者が贈るが」

「いや、ラメド持ちでドカ食いする」

 

 あいつが止めろって言うなら止めといた方がいいんだろ。

 ならこの昂りは他で発散するしかねぇ。

 

「太、りはせんか、そなたは。戦いの権化だものな」

「俺ァ戦えればそれでいいんだ。元々半分はそういう目的で入ったんだし、その俺から戦いを取り上げようってんだから相応の代償は払ってもらうさ」

「……ふむ」

 

 さて、幾ら食えるかな。できるだけ高いの多く食って泣かせてやりてぇ。

 

「ザイン殿」

「あん?」

 

 …………。

 

 あー。真面目な顔しくさって何を言うつもりだ? 

 

「そなたは迷いなく名を焼くと聞いた」

「サメフ以外に言った覚えは無えんだが」

「ラメド殿だ」

 

 またアイツか。構いやしねえがやっぱシバきに行こうかな。他にも何か言い触らしてそうだし。

 

「どうしてそこまで純粋でいられる? 心残りは? 戦以外に求めるものは本当に無いのか?」

「…………」

 

 はぁ~~…………。

 こうなる事まで分かった上でコイツを俺に寄越したな?

 

「あるよ。ただそれは他のヤツが果たしてくれる。だから俺は戦うんだ。どんな敵にも勝てるように、強く、ただ強くなる為に」

 

 分かってんなら自分で導けよあのバカ。いや、他にもこんなのが居るのか? 俺としてもアレには流石に驚いたもんな。

 

「“俺達は皆、知るや知らずや役割を持つ。汝は汝の必要を為せ”───アイツ(ラメド)の言った事だぜ」

 

 それは22の道に限った話じゃない。

 戦うヤツ、導くヤツ、作るヤツ、癒すヤツ、楽しませるヤツ、笑わすヤツ。俺はそん中でも一つに偏ってるだけ。

 

「オマエはオマエのしたいようにすればいいんだよ。それが役割だ」

 

 これで満足か?

 そう締めくくれば目を閉じて考え込んだギーメルは納得したように何度か頷いた。

 

「すまない。どうも店の先を考えると不安でな。いずれ去ると決まっているにしても、続いて欲しいと思ってしまう」

「三六堂なら続くだろ。繁盛してるし」

「今は流行っているだけかもしれんだろう。飲食店は飽きられたら終わりぞ」

「じゃあしっかり育てろ」

「簡単に言ってくれる! 人材とはそう簡単に育たんのだぞ!」

「知らねーよ。ほれ、置いてくぞっ!」

「あっ、待てい!」

 

 今は楽しめばいいんだよ。

 他のヤツよりも早く終わるこの青春を、早く、太く。

 

 

 

 

 

 

【砂漠学校のヘー】

 

 

───♪

 

 アビドス。

 砂漠に沈み行くこの土地はとても静かだ。

 車は僅か。喧騒など以ての外。

 

 この学校も生徒は200かそこらと過疎化が進んでいるし、活気も無い。

 屋上でバイオリンの練習をしていても文句を付けにくる人は居ない。

 

 先が無い事を除けば気楽な場所。

 

 それが私から見たこの土地───アビドスの総評。

 

 …………。

 

 本当に、静か。

 時折かすかに聞こえる程度の話し声も、砂の舞う風の音に掻き消されるようなもの。まるで世界に私一人しか居ないような感覚すらある。

 

 アビドス。

 

 アビドス高等学校。

 

 砂漠化と借金に沈みゆく土地。

 

 

 そして、運命の始まる地。

 

 

 進学する人はほぼ居ない。

 ただこの地に生まれてしまっただけの、普通の人は別の高校へ行く。

 賢明な人はそもそも中学にまで進まない。

 

 今の私は此処で生まれた。

 転居とか、転校だとか、考えなかった訳ではないけれど、手間がかかるしこの静かな土地を私は気に入っていた。舞い積もる砂の掃除も、手慣れてしまえば気にならないし。

 

 だけど、退屈ではあった。

 

 何もなくて、ただ繰り返すだけの毎日には飽き飽きしていた。

 意味も無く掲示板を眺めて、偶然居合わせたスレッドで今のピルグリムが生まれる瞬間に立ち会って。

 

『なあおまえ、私と同じだよな?』

 

 また、転機が訪れた。

 

 私の人生は一変して、また一転した。

 アビドスの過去。運命付けられた悲劇を変えようとする人がいた。

 その人は私がいつか世界を敵に回そうと準備しているなんて当然知らない。私が暇つぶしに弾いた曲で、転生者だと気付いただけ。

 

 でも、似ていると思った。

 誰かを助けたくて、その為に仲間を集めてる。

 一度は応えて、二度は応えない……なんて私はしづらくて。

 

───皆に、相談したい事がある

───アビドスに進学しようと思う

 

 そんな我儘……我儘、だと思う。私達が戦うだろう相手も神秘に理解がある。アビドスなんて少人数の中、それも注目される原作2年前に私が居るのは絶対にリスク。私達の存在が露見するだけならまだマシ。もしも私が捕まって青歴に無理矢理転入させられたら全てが無駄になる。

 成功しても見返りは殆ど無い。こんなの我儘としか言いようがない。

 

───私達に私生活を制限するルールは無いよ

───予行って事で良いだろ

 

 なのに受け入れてくれた。

 理由まで付けてくれた。

 

 だから私は皆に応えなきゃいけない。

 絶対に失敗できない。

 ああそっか、タヴもこんな気持ちなのかな。

 

───ただし、その後は分かってるよね

 

 代償として天光(あまみつ)イツネという少女の存在は消えるけど、どうでもいい。

 もともと抵抗は無かったし、苦しむ仲間を置いて消える人間の記憶なんて無い方が良いんだから。

 

 

「あれは……」

 

 遠い砂漠に白く大きなナニカが見えた。

 私の担当はケテル。あの大蛇と会うのはきっと更に先の事だろう。

 

 次の夏か、それとも秋か。人知れずキヴォトスは大きく動く。いや、動かす。

 私達が運命に叛く、最初のチャンス。

 

「絶対に勝つ」

 




後の事を考えた結果、アビドス(2年前)編を挟む事になりそうです。
また、その影響でピルグリムの中で一人だけ名前が付きました。
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