多分矛盾だらけです。
「──雷!」
耳を劈くような帝の叫び声が、鼓膜を突き抜ける。言葉を理解した一瞬──逡巡の判断で振り返る。だが既に懐にまで潜り込んでいた黒衣の剣士が、身の丈ほどある大剣を振り翳していた。
一瞬。閃く一閃が雷の身体を真っ二つに切り裂き、ポリゴンとなって消えていく。剣士が即座に飛び退くと、彼のいた地点から彼の後を追いかけるように矢が雨のように降り注いだ。
避け切れない矢の悉くを、軽々と持ち上げた大剣で弾き飛ばして矢の雨が途切れたその瞬間に地面を踏み込む。その刹那、ドッと轟音が響くと同時に神速の踏み込みで大地が抉れ、漆黒のマントが靡いた。
「────!」
まさに暴風。竜巻が横に現れたように、無数のミニオンが一瞬にして吹き飛ばされる。乃依の援護を受けながら、背後に現れた帝が金棒を大きく振り上げ、一気に振り下ろした。
爆発のような轟音が響き、剣士を中心にクレーターが生まれる。粉塵が舞い上がる中で、帝以外はその異常性に気が付かなかった。
吹き荒れた風が砂煙を吹き飛ばし、その場にいた全員が駆け出す。完全な視覚外からの帝の一撃──不意をついた渾身の一撃を、黒衣の剣士は軽々と受け止めていた。
「──ちっ」
互いに譲らない鍔迫り合いを制したのは、黒衣の剣士だった。押し合いをしていた剣を引き戻し、帝の金棒が振り下ろされるよりも速く飛び退いた。
帝の金棒が地面を打ち砕き、轟音が響き渡る。地面が浮き上がったのと、渾身の一撃が回避された事で帝は僅かに態勢を崩すが、黒衣の剣士にそれは関係がなかった。
「マジか──ッ」
帝が目を見開く。剣士は浮き上がった地面を足場にしてテンポ良く飛び乗り、一瞬で帝の前に躍り出る。帝ですらも驚愕するほどの巧みな動き──剣士は大剣を振り下ろして帝を袈裟斬りに切り裂いた。
「くっ──彩葉!」
剣士の姿が消える。帝は背後にいた彩葉へと視線を向けるが、手を伸ばしても間に合わず、その身体はポリゴンと化して空気に溶けた。
帝の叫びで彩葉がブレードを構えたが、もう既に遅い。黒衣の剣士は彩葉の背後へと周り、剣を振り翳していた。
大剣が彩葉の眼前に迫る。痛みを覚悟して目を強く閉じる。ゲームのはずなのに、死という概念も遠い存在なのに、彩葉の脳裏には短い人生が過ぎった。
空を裂き、大剣が彩葉を切り裂く寸前──キンッ、と甲高い音が鼓膜を叩く。いつまでも襲って来ない痛みと、その音を疑問に思った彩葉がゆっくりと目を開けた。
「あ──」
視界に映ったのは、白銀のような白い髪だった。
漆黒の剣士に対する白銀の剣士。白いマントを靡かせ、黒衣の剣士と同じ大剣を握り締めたその青年は、一息で剣士を弾き飛ばした。
ゆっくりと息を吐き、青年は振り返った。
「ごめん、遅れた」
その謝罪と共に、勇猛な空色の双眸が彩葉を見つめる。彼の姿を理解した彩葉の表情に嬉しさが滲み、目尻に涙が浮かぶのを感じた。
必死に涙を拭って彼を見上げると、彩葉は「遅い!」と言い放つ。その様子を見た青年は一瞬呆気に取られていたが、すぐに笑いを溢した。
「はは、その調子ならまだまだ行けそうだね」
青年は笑う。そして大剣──ヘリオスを握り締めると、眼前でゆらりと立ち上がる黒衣の剣士を見据える。そして彩葉も横に並び、ブレードを強く握り締め、隣にいる青年に向けて言った。
「──行くよ、
◆◆◆◆
「ねーいろはー、これ知ってるー?」
図書室の机でぐでーんとしながら、真実がスマホの画面を彩葉に見せる。彼女は机に向かって社会で行う研究発表の調べものをしていた。
真実のスマホには仮想空間ツクヨミで最近頻発している妙な事件についてのネットの記事が映されている。だが彩葉は調べものに夢中になっており「しってるー」と適当な反応を返していた。
「ねー、見てないじゃん」
「え、なに?」
「ほらー」
ようやく真実の方を見た彩葉は、少し面倒くさげな表情を浮かべながらスマホの画面を注視する。そこには最近KASSENで白髪の剣士が出没しては、圧倒的な実力で数多のプレイヤーに勝利しているというネットニュースだった。
「白髪の剣士……? へー、いまそんなプレイヤーいるんだ……」
ネットニュースになるほどなのだから、それほどの実力なのだろう。並程度の実力しかない自分には関係のない話だ、と彩葉は特に気にも止めずに画用紙にペンを走らせた。
「神出鬼没らしいよ」
芦花がスマホを見ながら補足する。ネットニュースの記事にある写真には、長身の青年らしき背中が映し出されている。白を基調とした洋風な格好に黄金の装飾が施された厳かな鎧をした騎士──というべきか、和をモチーフとしたツクヨミでは少し浮いているようなそぐわない格好にも思える。後ろ姿だけで顔は見えないが、タイトルにもあるように、一番目を引くのは白銀のような美しい白髪だった。
「なんか、ヤチヨっぽい……」
その髪の毛を見て、彩葉は思わずそんな言葉を溢していた。私もアバターをヤチヨと同じ色の髪にすれば良かった、と一瞬だけ思ったが、そんなおこがましいこと絶対にできないと同時に思った。
「フォロワーが言ってたけど、めちゃめちゃ強くてちょーイケメンらしいよ」
芦花の言葉に、真実が食いついた。
私も会いたい、と声を大にする真実に呆気に取られながら彩葉は顔を引きつらせる。ミーハーな気質があることを忘れていた。
ブラックオニキスの帝アキラが好きな彼女だが、オレ様系の帝と画像の彼とではどこか系統が違うような気もしていた。どちらかと言えば、白髪の剣士は爽やかな雰囲気があった。
「ねーねー、じゃあ、今日の夜とかKASSENやろ?ね?彩葉?」
「えー、私バイトあるんだけど……」
お願い、と両手を合わせて頼み込む真実の姿に、彩葉はぐぬぬと声を漏らしながら大きく溜め息をつく。それが彼女の諦めと同時に了承であることを悟った真実は両手を上げて喜んだ。
「一回だけだからね!」
「ありがたや〜、神様仏様彩葉様〜」
断り切れなかった彩葉を横目に、芦花はネットのニュースに目を落としながらそこに投稿された関連のコメントを覗き見る。二人を呼び、自身のスマホを見せながら「チートを使ってるとかも言われてるね」と補足した。
真実が首を傾げ、彩葉は「チート?」と呆れた様子だった。
「チートなんて使ったら速攻バンなのに?」
真実の言葉に頷きながら芦花は「うーん」と唸る。そこで彩葉がペンを止めて顔を上げた。
「でも、何人もその人に当たってるってことは──」
「うん、多分チートは使ってないってことなのかな」
彩葉の言葉に付け足して、芦花が自信なさげに呟く。本来チートの発覚は、即座にアカウントバンという対処が施される。しかし、チーターは運営やプログラムが認識しなければ、いつまでも跋扈する。後は、目撃したプレイヤーの通報などによって運営が対処する場合もあるが。
「お助けにヤチヨいるんだし、ヤチヨが気が付かないとか有り得ないよ」
仮想空間ツクヨミの管理人にしてAIライバーの月見ヤチヨ。彩葉はどこから湧き出た自信なのか、当たり前のようにそう言い切った。
机に投げ出されているスマホの画面を見下ろす。白髪の剣士、精悍な騎士のようにも見える。世界観がまるで違うような格好に違和感すら感じた。
「白髪の剣士、か……」
白髪と言われて思いつくのは、ヤチヨと最近バイト先に新しく入ってきた外国人風のもう一人。
完全に主旨が逸れてしまったのを戻すべく、彩葉は手を叩いて「はい、これ早く終わらせるよ」といくつかの画用紙を芦花と真実に前に差し出す。二人は最初こそ不満げに声を漏らしたが、彩葉が手伝ってくれるのも珍しいため、渋々といった様子でペンを取った。
住宅街の隠れカフェ『BAMBOO cafe』の扉を開くと、ベルの音が爽やかに店内の音楽と共に合わせて奏でる。こんにちは、と挨拶をしながら店内に入ると、カウンターの下からもう既に見慣れた顔付きが現れた。
「やあ、相棒。今日も時間通りだね」
相棒、と彩葉のことをそう呼んだ青年は爽やかな笑顔を向ける。あまりにも爽やか過ぎる所為か、それともその端正な顔立ちの所為なのかは分からないが、いつも向けられるその笑顔を彩葉は直視できなかった。
「その『相棒』って呼び方、止めてくれませんか?」
「ん? なんでだい?」
「いや、だっておかしくないですか?」
彩葉がカウンターの前まで行くと、彼は「なにもおかしくないと思うけど」と疑問を浮かべながらゆっくりと立ち上がる。上下の視差が一気に変わり、彼を見下ろしていたはずの彩葉が、見上げるほどの実際の体格差が明確になった。
モデルなのではないかと見紛うほどのスラッとしたスタイル。だがそれでいて男性の筋肉質な体格が僅かに感じられるガタイだ。彼は紺色に白の縦線が入ったシャツで腰には茶色のエプロンを巻き、そして頭には水色のベレー帽といった、バイトの制服姿である。彼は腕を組み、何度も頷きながら答えた。
「なんたってあの地獄のような木曜日を何度も乗り切った仲じゃないか」
「いやまあ、そうなんですけど……」
普段と何一つ変わらない普通のバイトの制服だ。だがしかし、自分と同じ制服を着ているはずなのに、どうしてこうも全てが変わって見えるのだろうか。年齢もそう大して変わらないはず、それでも彼が着るとかなり様になっている。
そうさせているのは、彼の白銀のような髪の所為なのか、それともその顔立ちか、はたまた空のように透き通った双眸か。なんなら全部だろう、と彩葉は心の中で断定した。
「はあ、まあ良いですけど、あまり人前ではやめてくださいね」
「分かったよ、相棒」
先が思いやられる。彩葉は大きく溜め息をつきながら、バックルームへと入った。
なぜ彼にここまで懐かれてしまったのかは不明だが、彩葉と彼が出会ってからまだ二ヶ月ほどしか経っていない。
多忙を極めるカフェのバイトは、彩葉一人が担うにはあまりにも負担がかかるものだった。後輩の尻拭いや理不尽なクレーマーの対応、そしてまた後輩の尻拭いと、週五のバイトで毎日心身共にすり減らされていた。
そこで二ヶ月前に現れたのが、彼だった。
海外から来たらしいが、最初から日本語が上手く、コミュニケーションもしっかりと取る。覚えも良く手際も良い。更には、後輩のミスを察知して事前に防ぐといった超人じみた能力の高さを見せていた。
そのおかげで彩葉の負担は大分減り、最近は疲労がかなり軽減された気がしていた。
「
制服に着替え終えた彩葉が、厨房で掃除をしていたファイノンを呼ぶ。彼は爽やかな微笑みを浮かべながら「どうしたんだい?」と振り返った。
空のように透き通った美しい瞳が、真っ直ぐに彩葉を見つめる。やはり綺麗な顔だな、と見つめられながら彩葉は思った。
「ファイノンさんって、スマコン持ってますか?」
「持っているよ。とはいってもヤチヨのライブを見るくらいにしか使っていないけどね」
「え、ヤチヨのライブ見てるんですか?」
思わず食いついてしまう。チーターと騒がれているのがファイノンであるのか聞き出そうとしたが、そんなことよりもヤチヨの方に吸い寄せられてしまった。
あ、と気が付き、頬が熱くなる。ファイノンは彩葉の様子を見て「よっぽど好きなんだね」と微笑んだ。
ファイノンは掃除を一旦終えて、エプロンのポケットから一つのキーホルダーを出して見せた。
「──えっ! それって!!」
彩葉が思わず声を荒げ、目をむく。数人の客が何かとこちらに視線を向け、彩葉は慌てて口を塞ぐ。ゆっくりとファイノンのキーホルダーに近づいて行き、それが本物であることを目に焼き付けながらファイノンを見上げた。すると彼はふふんと自慢げに鼻を鳴らして答えた。
「ヤチヨが初めてグッズを出した時の数量限定のキーホルダーだよ」
彩葉は羨ましい気持ちを噛み殺しながらも、喉の奥で「くぅぅ〜っ!」と手が出そうになるのを必死に抑え込む。対抗心が湧き上がるのを感じつつも、僅かに残った理性でなんとか沈め込んでいた。
「ファイノンさんもヤチヨ大好きなんですね」
口角が僅かに痙攣するのを感じながらも、彩葉は必死に笑顔を浮かべる。そんな彼女の異変に気が付かないファイノンは、ポケットにキーホルダーを戻しながら笑顔のまま「ああ!」と答えた。
「そ、そーですかぁー。ま、まあ、私もデビュー当時からヤチヨのこと、お、追っかけてますしー」
我ながら子供じみた対抗心だと思った。情けないとすら思ったが、彩葉の中にある対抗心が燃え盛り、気が付けば勝負を仕掛けていた。だが、先に仕掛けたその勝負ですら、最初期のグッズを持っているファイノンには敵わないだろう。
ファイノンはそんな彩葉の対応を見て「あはは!」と笑った。
「熱量は、相棒には敵わないみたいだね」
ファイノンの大人な対応に、自分が更に惨めになる。やがて対抗するのすら馬鹿らしくなって、彩葉は自分の行動を後悔すると同時に恥じた。
溜め息をつき、目の前の光景を見る。今日はあまりお客が来ていない。その為、いつもの大変さも嘘のように暇である。彩葉は本来の目的を思い出して「あ、そうだ」と話を戻した。
「KASSENはやらないんですか?」
うーん、とファイノンは腕を組んで少し悩んだ後に「あまりやらないかな」と曖昧な返事をする。彼の反応を見て彩葉は訝しむが、どこか踏み切ることができずにいた。
「最近、チートを使う人がいるらしいですよ」
「そうなのかい? つまらないことをする人もいるんだね。KASSENとかって、そういうのを使わずに戦うから良いんじゃないのかな」
「つまらない……確かに、バカですよね。使ってもすぐにアカウントがバンされるのに」
どういったことをしてたんだい? とファイノンが問いかける。彩葉はポケットからスマホを取り出して、検索をかける。そして記事に書かれていた内容をいくつか読み上げた。
「えっと、まずは加速チート……攻撃力チート……後ろ姿ですけど、写真もありますよ」
そう言って彩葉がカマをかけようとスマホの写真をファイノンに見せようとした時、来訪者を知らせるドアベルが店内に鳴り響く。ファイノンは爽やかな声色で「いらっしゃいませ」と言ってレジの方へと歩いて行った。
彩葉はスマホに映っている後ろ姿と、優しげな笑顔で注文を聞いているファイノンの姿を見比べながら、やはり似ていると疑問が確信に変わろうとしていた。
それはいつの日のことだろうか。白髪の剣士が初めてKASSENの舞台に降り立った日のこと。バトルが始まる前の自軍の陣地で、ファイノンは身体を伸ばしながら、反対側にいるであろう相手プレイヤーを見つめていた。
「よし、久しぶりに身体を動かせる。いつぶりかな」
そう言いながら独り言を呟いていると、玉手箱の中からお助けのヤチヨが勢い良く飛び出す。バトル用の動きやすい爽やかな衣装で現れたヤチヨは、ファイノンの隣に立って答えた──「8000年ぶり?」と笑う。
「はは、そうかもね。ヤチヨも手伝ってくれるのかい?」
「今日のヤッチョはお助けじゃなくて本人だよ〜」
「それは心強いね、助かるよ」
ヤチヨは武器である傘を差して隣にいるファイノンの前にひょっこりと顔を出す。ファイノンが首を傾げると、彼女は柔らかく微笑んで「初めて二人で並んで戦うから、特別だよ」と声色に嬉しさを滲ませながらそう言った。
「SENGOKUのルール説明はいる?」
「問題ないよ。君の戦いも見てきたからね」
「
突然なにを言うのかとファイノンは笑う。答えは当然「そんなことない」の一言だ。ヤチヨはそれを分かっていて問いかけていた。だが、その先のファイノンの言葉までは予測していなかった。
「──君とこうやって肩を並べる。それだけで、僕は大満足だ」
ファイノンは真っ直ぐ景色を見つめながらそう言う。バトルが始まるまではまだ少し時間がある。どうやら向こう側のプレイヤーが接続に少し時間がかかっているようだった。
「背中は任せるよ」
「りょー☆」
笑顔でヤチヨは敬礼する。そして二人は並んで立った。言葉はもう多くはいらない。そして語らない。それだけ多くの年月を過ごした。
隣には彼がいる。隣には彼女がいる。二人の呼吸が聞こえ、ファイノンの
「うわっ、いきなりどうしたんだい?
「えへへ〜、なんか前みたいに急に飛び込みたくなっちゃった」
「まったく、君には驚かされてばっかりだな」
優しげな微笑みを返しながら、ヤチヨの頭を撫でる。子供のようにされつつも嬉しさを堪え切れずに笑顔が滲むヤチヨ。ファイノンの首に腕を回したまま彼の横顔を一瞥したヤチヨは、少しだけ言葉を呑んだ。
どこか遠くの景色を見つめるファイノンだったが、意識はこのバトルフィールドよりも遠くに向いているようだ。その様子を見て、ヤチヨは目を伏せた。
「ねえ、カスライナ」
耳元で囁く。ファイノンは言葉は返さず、彼女の腕に手を重ねて答える。ヤチヨはゆっくりと腕を離してからファイノンの正面にまわり、視界の外からひょっこりと顔を出した。
ファイノンの僅かな表情の変化に気が付いたヤチヨは一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに顔を明るくして笑顔を浮かべた。
相手の接続が完了したようだ。
「絶対に勝とうね」
「ああ、もちろん!」
それからは、二人のほぼ蹂躙だった。
相手はどこかのプロゲーマーとのことだったが、三対ニという不利な状態でもその力の差は歴然であり、初期の頃からこのゲームをやっていたヤチヨはまだしも、ファイノンの実力も異常なほどだった。
始まった直後に駆け出したファイノンが、中立のミニオンの軍を数秒と経たずに殲滅。更には対峙した相手プレイヤーの一人を一瞬で切り裂く。初めてのプレイというのもあり、相手はヤチヨを脅威と認識していたが、それは明らかな間違いだった。
そのままヤチヨが二人のプレイヤーを引き寄せ、ファイノンが相手の櫓にいる牛鬼を撃破。一人独走状態のファイノンの脅威を理解した三人が一斉にファイノンを食い止めようとするが、ヤチヨが大将落としを天守閣に打ち込み、開始から約一分という史上最短時間で一本をもぎ取った。
「いえ〜〜い!」
と出されたヤチヨの手に手を打ち付けてハイタッチ。「やっぱりカスライナは強いね」とファイノンの強さを実感しつつそう称賛すると、彼は柔らかく微笑んでから「君がいるからだよ」と返した。
それからも二人の快進撃は誰にも止めることはできなかった。
相手は一度もファイノンたちの牛鬼を撃破することができず、そのまま完敗。ファイノンの初KASSENは大勝利によって幕を閉じた。
敗北を喫したプレイヤーたちがなにやら叫んでいたが、ヤチヨとファイノンは気にせずその場を後にする。そうして二人がやって来たのは、仮想空間ツクヨミを一望できる、ヤチヨが普段いる私室だった。
「いえ〜〜い! 大・勝・利!」
と喜びながらピースするヤチヨ。ファイノンはバルコニーに背を預けながら彼女の様子を微笑んで見つめていた。
どこかおかしげな様子のファイノンを不思議に思い、ヤチヨも彼の隣に並ぶ。バルコニーからツクヨミの夜景を見下ろしながら「やっぱり、慣れてるね」と小さな声で呟いた。
「カスライナは、やっぱり強いよ」
「急にどうしたんだい?」
「ちょっと昔を思い出してただけ〜。手、貸して」
ヤチヨに言われるがままファイノンは手を差し出す。すると彼女はその手を握り締めながら瞳を閉じた。昔を懐かしむような口調で「ずっとこの手が守ってくれてたんだもんね」と確信を得ていた。
でも──と、ヤチヨは言葉を続け、
「温かさは、もう感じられなくなっちゃった」
悲しげな色を表情に滲ませるヤチヨを見て、ファイノンは思わず彼女の肩に手を置いてから微笑んで返す──「大丈夫。僕はずっと君の側にいるから」と言い切って、風がファイノンの白髪を撫でた。
その瞳の奥にある光が僅かに揺らぐ。ヤチヨはその一瞬を見逃さず、手を離してから、ファイノンの頬に手を添えて「ねえ」と切り出した。
「────今は、
その問い掛けに、ファイノンは呆気に取られた。
ファイノンたちが戦ったプロゲーマーはブラックオニキスではありません。どっかの知らないプロゲーマーです。