ゾンビランドサガ習作 近所に住んでたあの子と俺 作:レノボのカナリア
結局暇すぎて散歩をすることに決め、女中のもうすぐお夕飯ですよ!?の声を振り切って外へ出たのはもう四半刻前のこと。
適当にそこらでも歩くかと思っていた俺の耳に、どこからともなく元気な歌が届いた。
流れくるのは幼子の声で、楽しく気ままに歌っているのだろうことが良く分かるものだった。
それなりに離れた所から流れてきていて音自体は小さく感じるが、それはそれとしてはっきりと歌詞を聞き取れるくらいには明瞭な歌声。
今の時代、俺はここを退屈であるとつまらないものだと、そう断じてはいるが、現在の時刻で子供が大声で歌っていても怒られない、妙におおらかな空気だけは好ましいと感じていた。
他人の庭先で、これまた他人の子供が走り回ったりしているのを微笑ましそうにしている爺婆なんて前世じゃ考えられなかったわ。
戦後ってのはもっと殺伐としたイメージなんだけど、今生は平和が過ぎる気がするんだよな…………まがいなりにも国際連合なんて物があるから色々とアレな奴らの影も形も無いのかねぇ。
まぁ世界のニュースなんて殆ど入ってこないからな、外じゃ案外大変なのかも知れないが……聞こえないなら無いも同じよ。
そんなことを考えていたらいつのまにやら歌が途切れていた。
時間も時間で薄ら寒くなってきたし家に入ったんだろうと踵を返そうとした時、先程の明朗な歌声とは真反対に小さな小さな啜り泣きが聞こえてくる。
さすがに親御さんにでも怒られたかな? なんて思ったわけだが、それにしては泣き声が続いているし、なにやら助けてとか言ってるような…………締め出されたか?
というわけで気になったから寄ってみたらやっぱり幼子が泣いていた。
ギターを持って屋根の上にいる、それだけは色々と俺の想定を外している。
はしごも見えないし、下から見るに屋根に出入り口が有るようにも思えないんだが。
あれか?登ったあとに親がしまったとかなのか?
「やぁ、お嬢さん」
とりあえず声をかけたが、シクシクメソメソと泣いていた幼子は突然話しかけられたことに驚いた様子で俺を見るだけでなんの反応も返してくれない。
「どうしてそんな所にいるのかな?」
言葉を続けるが、やはりというかただただこちらを見るだけだ。
埒が明かないな………
家人へ声をかけようと玄関近くまで行ったことで分かったが家の中には人の気配がなかった。
倒れているとか、寝ているだとか、そういう感覚もない。
もしやこれ出かけてるのか?
幼子を一人だけ残して?
平和な時代だから、なのかねぇ…………少なくとも俺が生きてた頃じゃ考えられないな、子供一人を家に残して出かけるだなんて。
「中に大人の人たちが居ないみたいだけど、どこへ行っているか分かるかな?」
首を縦に小さく小さく、しかししっかりとした反応を返してくれる。
あんなに陽気に大きな声で歌っていたんだから親は出かける時に気付かないわけはないよな?
ひょっとして親が親がいなくなった後に一人で屋根まで登ったのか?
それで歌っていたんだ?
「いつ頃帰るとかは聞いている?」
次は横に首を振っている。
二十四時間営業のコンビニもスーパーもないのに夜中に出かけるとなると仕事か、ご近所付き合いかね。
「君は今、そこから降りられないってことで合っているかな?」
「……はぃ」
返事があった、やっぱり降りられなくて泣いてるんだな。
これで寂しくて泣いてるだけとかお腹が空いて泣いてますとかだと、今の俺は不要だしさ。
「では、俺が降ろしてあげよう」
「え? 」
「君を、下に降ろすよ」
「うち、はしごないです………」
おぉ、意思の疎通!!
この子は頭のいい子だね、降りるのにはしごが必要だと理解しているんだから…………ん?はしごがないって分かってるのにどうしてこの子は屋根に登ったんだ。
いや、まぁそれはいいか。
「大丈夫だよ」
「?」
「そのギターをちゃんと抱えて………そうそう、しっかりと持って」
せっかくのおもちゃ、落として壊したら可哀想だからね。
「えっと?」
「後は目を閉じて」
「は、はい」
言われるがままにお目々をぎゅっと閉じる姿がなんともいじらしいなぁ。
よし、それじゃあさっさと降ろすぞ。
‾‾‾‾
突然現れた青年の言う通り目を閉じた少女が遅まきながら理由を問おうとした瞬間、ふわっと身体が何かに包まれた感覚になった。
それが人に抱きかかえられているからだと理解したとき、どこから?誰が?と思うより先に
「目を開けてごらん」
と声を掛けられ、そのまま目を開くと
「あれ……?」
既に彼女は地面に降りていた。
厳密には青年に抱えられたままであるのだが、とにかく彼女は屋根から1階へと無事に帰還していたのである。
いつの間にこの青年は屋根の上に来たのかだとか、いつの間に自分を抱えたのだとか、いつの間に自分は地面に降ろされたのだとか、彼女の心中にはたくさんの疑問が沸いて出た。
そんな混乱に気が付かない様子の青年は軽く何かを考えた後、何の気なしこう言い放った。
「一人じゃ危ないから、家に来なさい」
と。