邪神論:愛されながら恐れられよ   作:幾理 怜

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1-12:ちからと責任

今日も今日とてお勉強。そう、()()のお勉強だ。

 

「さて、

 

── 福音書の読解も一段落したね。

ここからは信仰書の話に入っていくんだけど、その前に改めて。

 

ここまで奇跡(魔法)について学んできたけれど、

 

()()()()()かな?」

 

その口調はいつになく、重々しいものだった。

美桜(セラフィーナ)の姿勢も自然と鉄筋が入ったように真っ直ぐになる。

 

ほんの少し、きちんと言葉を選び、

 

 

そして口を開く。

 

「最初に仰っていた意味、()()()()()()()()わ。

 

まさに奇跡であり、多くの人を救い、

 

あるいは多くの人を簡単に不幸にしうる。

 

なるほど、()()()()()()()()()などと軽率に申し上げたのは、『理解っていなかった』と思わざるを得ませんでしたわ。」

 

ここまで話した瞬間、ジョシュ(修道士)が口を開きかけて、

それから口を噤んで続きを促した。

 

「続けて」

 

「はい。

軽く申し上げると上手く言えないことではありますが、

 

魔法 ──貴族と聖職者のみ学ぶことが許されている、()()()

学ぶ心の準備は、できています。

 

これを越えなければ()()()()()()()()()()のも分かりますし、騎士さまがあれほどに厳しい()()の訓練を小さい頃から叩き込まれる……と、これはかつてとある騎士(バーソロミュー)から聞きましたが、

 

なるほど、仰るとおりですね……。

 

両親がこうして繋いでくださり、ジョシュさま(魔法指導後見人)がついてくださった。

 

5歳半という身ではありますが、()()()()

 

セラフィーナがここまで言い切ると、

ジョシュは、ふーーーーーーーーっ、と大きな大きなため息をついた。

 

(まあ、こんなとこでしょ。実際あたしもこの考えにはものすごく同意するし。

……ま、あたしからすりゃ言われるまでもないっていうか、

前世でコマンド叩くとき毎回表示させる設定にしてるくらいだもん。()()。)

 

 

 

そして、ジョシュは厳かな顔つきのまま、目つきだけ柔らかくする。

 

「私の台詞、全部持っていかれてしまったね。

補足……ないよ。

 

いや、一つだけあるかな。

君が初日に言った『魔法少女(奇跡恩寵乙女)』。

 

"理解ってなかった"と君は言ったけど、そこまで卑下するものでもないと思う。

 

私は()()()()()()()()だけれど、その響きはかなり気に入っているんだよ。

新鮮だったし、むしろ、『()()()()()()()』なんて勘違いされるよりよほど直球でいい。

 

……うん、本当はね、

やはりその年齢では早すぎるかなとは思っていたんだ。

ゴルトン伯爵(君の父君)はあまり身内びいきを露骨にするタイプではないとは思っていたけれど、それでもさすがにちょっと娘可愛さで前倒ししてしまったのか、そんな考えがなかったかと言われれば嘘になる。

 

けれど、こうして数ヶ月、一緒に福音書を読んできて、

 

()()()()()()()()()のは私の方だったかも知れない。」

 

そして、ジョシュアは立ち上がった。

目線がそれに倣うよう促していたので、セラフィーナもまた立ち上がる。

 

そして、ジョシュアは聖職者特有の、最も荘厳な声で朗々と宣言した。

 

「ミス・セラフィーナ・パーシバル・ゴルトンよ。

 

私、ジョシュア・ハンクスは、

ここに、修道司祭(Hieromonk)の名において、

あなたが魔法(力の戒律)を学ぶ資格を有すると認める。

 

あなたは地の麦、世界の光である。

あなたは女神様の呼び掛けに応えるか?」

 

その問いかけに、反射的にセラフィーナは胸の前で手を組み、目を閉じ、そして口を開く。

幾度となく叩き込まれた聖句がすらすらと流れ出る。

 

「天にまします我らが女神よ、

願わくはその御名を崇めさせ給え。

御世界を寿ぎ給え。

御心のごとく、地に豊穣を賜らん。

我らの日用の贄を、今日をも捧げせまほし。

我らに光ある者を我らが祝福するがごとく、我らの潜在力を解き放ち給え。

我らを試煉に遭わせず、不義より救い給え。

世界と力と栄昌とは、汝のものなればなり。

 

── ()()()()

 

 

セラフィーナが言い終えると、ジョシュアは彼女に手を翳す。

 

目を薄く開く。

 

その瞼の隙間から、何かキラキラしたものが自分の身を纏い、

そして……

 

脳内に()()が流れた。

 

 

ε≡ ε≡ ε≡ 啓示 ≡ を ≡≡ 取得 ≡≡≡

しました】

【祝福 を取得しました】

【表示 を取得しました】

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

なになになに、と暴走しかける思考をいつものように抑えつけて、

美桜(セラフィーナ)は目の前の先生(ジョシュ)に意識を戻す。

 

ふぅ、と息を吐くジョシュに改めて控えめに話しかける。

 

「いつもの聖句でしたが、()()()()()()だったのですね……。」

 

それに対し、ジョシュは座るよう促しながらいつもの調子に戻して応える。

 

「さすがだね。そのとおり。

我々(聖職者と貴族)はこの意味を必ず理解して大人になる。

……まあ、その時期は(セラフィーナ)の倍くらいの年齢が普通だけどね。

 

少し休憩しつつ話をしようか。肩でも回して。

 

庶民(普通のひと)がそう呼び、使っている "魔法" とは、あくまで生活のちょっとした補助。それはもう君が察している通り。

ちょっと洗濯を楽にしたり、火を簡単に起こしたり。

それが『簡単にできてしまった』というのは君の父上(伯爵閣下)から聞いていたよ、実はね。

 

まあ、そうなったらもう貴族として生きていく限り、この話は避けては通れない。

何年かかかるけど……君ならすぐに覚えてしまうか。」

 

 

 

その言葉を受け、美桜(セラフィーナ)はようやくずっと思っていたことを口にする。

 

「それ……なのです。ジョシュさま。

魔法という言葉の含意が多すぎるように思います。(わたくし)はそれをまだうまく飲み込めていなくて……。」

 

それにジョシュは少しだけ驚いたような顔をしてから、ふっと緩めて話を続けてくれた。

 

「ああ……そういうことか。それはそうだね。やっとつながったよ。

それは、実に混乱しただろうね。

 

そして、それをきちんと黙していた伯爵閣下の意図はとてもよくわかる。

今なら話せるから、きちんと説明するよ。」

 

そして咳払いを一つ入れてから長い説明が始まる。

 

 

 

庶民(普通のひと) は魔法を『生活を助けるちょっとした技』として理解している。

同時に彼らから見た、我々のような聖職者や騎士、貴族の魔法については、

『選ばれし者が使える奇跡のような力』という感じで捉えている。

 

それは根本的な理解の差からくるものだし、

そのうえでその力を欲するなら聖職者か騎士を目指す。

── まあ、貴族にはなりたくてもなれないからね、それは仕方ない。

 

騎士にとっての魔法(魔術)は、聖職者(我々)貴族(君たち)のそれとはまた違う。より実践的で、仕えるものに捧げられる力。

だからとんでもなく厳しい訓練のもとで鍛えられる。

 

……ああ、わかると思うけど、力を、じゃなくてね。心を。

そう、暴走しない、規律のもとで振るわれる力として。

 

そして、ここからが違う。

()()とは、確かに力そのもののことでもあるけれど、

()()()意味としては、その力を振るうための戒律そのもののことを指しているんだ。

それを君がこれから学ぶことになる。

 

その力のほうの意味で言うと、

聖職者(我々)にとっての()()とは、奇跡そのもののことを指す。

過去の聖女や、司祭(Priest)修道士(Monk)、あるいは私のような修道司祭(Hieromonk)司教(Bishop)……もちろんその上(大司教や枢機卿)もいるけど、ともかく、そういった者が行使する、この女神様が祝福した世界に仕える力。

豊穣や治癒、祝福……そういったものを、正しく女神様の代理人として振るうこと。

もちろん、そのためには聖書や福音書、詩篇、信仰書の理解が欠かせない。

修道院に身を置いて、何年もかけてそれを学ぶ。

その権能を得たら、聖職者として実践し、伝道し、啓蒙する。

 

そして……貴族(君たち)ね。

ここは実に難しい領域なんだよね。神学的な議論も絶えないから言い切るのは避けるけれど、

戒律としての()()を元に、力としての魔法と、奇跡としての魔法の両方を使う。

それは統治のため……。といっても、統治したいから統治するのではなく、世界の秩序と均衡のための統治、……のための魔法というか。

だから、最も高度な自律が求められる。その学びの大部分は私のような者(魔法指導後見人)が担う。が、それだけでは私のような者(聖職者)にはわからないこともあるので、そこは(貴族)から教わる。今後はご両親からそういう話もあると思うよ。」

 

なるほど、と相槌を打つ。脳内がするりと整理されるのを感じる。

 

 

そしてジョシュは腕組みをした。

 

「なんだけど……。

魔法というのはややこしい領域もはらんでいていね。

 

魔導士という者たち。

()()はその力を探求し、あるいは実践を追い求める者たち。

 

彼らは当然にして、騎士か貴族。

もしくは……在野の魔導士に直接弟子入りして覚える道もあるけど、やっていることは騎士と殆ど変わらない(死ぬほどしばかれる)ので()()()()()ということはだいたい保証されている。

 

ともかく、力の律し方を理解したうえで、大学校(アカデミー)などに属しながらそれを更に追い求めていったり、冒険者(荒くれ者)に混じって気ままに(自律しつつ)力を行使する者たち。

 

彼らは "理解っていて" 楽しんでいる者たちという感じだね。

私のような聖職者としてはもう少し世界のために……などと思うところもないではないけれど、彼らの発見によって魔法が発展してきた事実もあるから、関係はむしろ密接。

 

あ、君の母君(エリアルさん)も、()()を卒業してから結婚なさるまでは大学校でちょっと有名な使い手だったと聞いているよ。

 

ここももちろん魔法と呼ぶから、どの文脈かって、まだ知らない側からするとややこしいんだよね。

 

ただ……」

 

 

ここでさらに言葉を切った。

 

「……少しだけ()()()()()()話もしてしまうと、

 

ここを通過しないで力を振るう()もいる。

 

一番極端なのは、その名の通り、極道(シンジケート)と呼ばれる者たち。彼らは()()()()()()力を振るう。

それと、そこまでは行かないにしろ、冒険者(スリルシーカー)の多くもね。

彼らは自己流と口伝で()()()()()()を振るう。

 

君のような()()()()()()()なら問題ないけれど、庶民が()()()()()()()()()なる。

けれど、彼らに治安の裏が支えられているのも事実だからなんとも言えない領域なんだよね。

 

騎士と冒険者と極道はグラデーション。だからこそとても厄介なんだ。

騎士崩れなんかが一番厄介で……っと、

 

まあ、この話はまた今度。長くなりそうだからね。

 

── とにかく、一言で言うなら、

魔法とは、魔法()()のことでもあり、魔法という()のことでもある。

ってところかな。」

 

「あーーーーー。」

思わず声が漏れた。

 

なるほど。……なるほどね。そりゃ、そうなるわ。

 

 

 







"美桜が毎回表示させる設定にしていた()()" とは。

> sudo cat /etc/sudo_lecture

We trust you have received the usual lecture from the local System Administrator. It usually boils down to these three things:
(あなたはシステム管理者から通常の講習を受けたはずです。これは通常、以下の3点に要約されます)

#1) Respect the privacy of others.
(他人のプライバシーを尊重すること)

#2) Think before you type.
(タイプする前に考えること)

#3) With great power comes great responsibility.
(大いなる力には大いなる責任が伴うこと)


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