邪神論:愛されながら恐れられよ   作:幾理 怜

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1-13:幼年期の終り

 

()()を終え、ジョシュを見送ったあと、誰もいない廊下をひとり歩きながら思う。

 

(最初に『魔法少女になりたい』って言ったときは、正直ほんとにわかってなかった。

ラブキュア(前世で見たアニメ)とかのイメージと、ファンタジーあるあるの魔法のイメージから出てきた言葉だった。

 

周りの大人達がみんな口を濁してたのもあって、それは仕方ないし当たり前だと思った。

 

けどさあ!

箱開けてみたらこうなると思わないじゃん!さすがに!

 

だけど、初回ですぐに奇跡とか信仰とか魔法の扱い方を聞いてて、あれれ〜おかしいぞぉ〜、ってすぐ気づけた。

小出しにして情報収集してったら繋がってきた。

 

そしてさっき、試されたから()()()()答えた。

 

まあ、あたしの内面は何も変わってないけどさ、情報が揃ったから言えたって感じだったわね。うん。

 

……そしたら儀式に突入した。

 

あれは "法の儀式" っていう秘跡の一つだって言ってた。

教会の下っ端(助祭)になって位階に入るのも同じ儀式をするんだって。秘跡を含む機密(sacrament)に触れるにはあの受け答えが最低条件だって。

 

そりゃそうよね。

福音書読んだけど、司祭クラスでも()()()()()()()陸軍小隊クラスに相当する力があるってあたしは解釈した。

聖女に至っては下手すると一個大隊クラス以上。地形変えられるほどだもん。まあ滅多に出現しないみたいだけど。

そしてさっきの話を総合すれば、高位の冒険者では一個中隊クラスの戦闘力がありえる。

 

……怖いわ、そりゃ。

 

怖いっていうか、危険。

 

力の前に戒律、それはそうって感じ。

 

騎士の訓練、ちょっと参加してみたい。とんでもなく厳しいでしょうね。)

 

そこまで考えたところで大食堂についた。

いつものように開け放されている扉を越えると、

 

両親が揃っていた。こんな時間に珍しい。

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

両親だけではなかった。()()になったはずの騎士バーソロミュー、

そしていつもの執事(セバスチャン)

 

……さらに、滅多にセラフィーナの前には顔を見せない家令(セバスチャン・シニア)までいる。

 

座るのを促す空気がありありと流れていたのを察知し、セラは両親たちと向かい合う形でテーブルについた。

 

両親のその表情は……とても柔和なものだった。そして伯爵(パパ)が口を開く。

 

「お疲れ、セラ(我が娘)

法の儀式を終えた、と帰り際のハンクス氏(修道司祭)から聞いたよ。

 

()()()()()()()()()

 

まあ、これも貴族としての戒律だから、今まで色々と言えないことも多かったのは責めないでほしいが……」

 

その言葉に、食い気味にセラフィーナは応えた。

 

「いえ、言えないことがあるということも言えなかった、その構造、通過してしまえばよく分かりますわ、パパ(伯爵)

バーソロミュー(教師ィ)も、さぞかし胃が痛かったかろうと思いましたわ。

すみません、色々知りたいことが多すぎて」

 

そう目を流すと、彼は苦笑した。

 

「いやあ、色々と仕方ないよ。

もっとたくさんのことを伝えてあげたいと思ったけれど、騎士(私の身分)という立場で、あの時の君(儀式とやらの前)では制約も多くてね……。」

 

その言葉をやんわりと包み込むように母上(ママ)が言葉を重ねた。

 

「ともあれ、これからはきちんと()()()()()()扱うわ。

もちろん貴方(可愛いセラ)はどこまで行っても(わたくし)たちの娘。

保護(親として当たり前)もするけれど、自分で判断して主体的に学びなさい。

 

……っと。ここからは、あなた(家の当主)の台詞ね」

 

そうママ(伯爵夫人)が言うと、伯爵(パパ)は立ち上がる。

全員がそれに倣い、

 

そして伯爵はゆっくりと口を開いた。

 

「まずはセバスチャン。

 

── セバスチャン・スチュアート・ジュニア(七世)!」

 

「はっ」

 

セバスチャン(若いほう)が青年らしい鋭い声で答え、直立不動になる。

 

そして、家令……セバスチャン・スチュアート・シニア(六世)が伯爵から引き継ぐように、張りのあるやや老いた声で鋭く口を開いた。

 

「君を正式にセラフィーナ様の専属護衛(執事)に任命する。

以後、庶務で私の判断を仰ぐ必要はない。何かあれば()()せよ。

 

君はこれより()()()()()()()()お仕えするのだ。よいな」

 

「我が使命、心得ました」

彼はそう宣言し、惚れ惚れするほど端整に頭を下げたあと、セラフィーナに頭を下げ直す。

 

()()()()()()()、拝命いたしました。

以後、改めてよろしくお願い申し上げます。」

 

……そっか。そうなるんだね。

 

「よろしく、セバス。

改めて約束するわ。無茶はしない。貴方をきちんと使()()

 

護衛される側として()()()()()()から、安心なさいな」

 

その言葉に、その場にいた全員がその引き締まった雰囲気の中、温かい顔で頷いた。

 

 

 

そして伯爵(パパ)の宣言は続く。

 

「騎士バーソロミュー・チェンバレン。

臨時家庭教師の(副業)はすでに終了しているが、

本日を以て大主領(領主)補佐官の任を解き、これより大主領(領主)特別秘書に任命する。

一般的な局長コース(出世街道)とは異なるが、大いなる期待と信頼をおいての差配だと思ってほしい。もちろん他にレポートラインはない。これまで同様に私とは直接やりとりし、必要なら各局に私の名前で下命を伝えてほしい。

── 我が領の繁栄と、当家のためにその才を振るってくれ。頼む」

 

「はっ」

バーソロミューは胸に手をやり、踵を打ち鳴らして応えた。

それに対して、伯爵は空気を一旦緩めて付け加えた。

 

「それと……私のほうが年齢が下(25歳)だが、君も近い(31歳)

他にあまり気安く話せる者もいないので、変わらずよしなに(テキトーに)接してもらえれば。

……などとは言うまでもないが」

 

わざわざ口にしたのはもちろんセラフィーナにその関係を聞かせるためである。

それに対して若干の笑い混じりにバーソロミューも応える。

 

「ですね。伯爵サマ。

── あ、お嬢様(セラフィーナさん)、まあ、こんなもんです、実は。

公私は分けてるので、察してもらえれば助かります」

 

そう短く言うと、空気をまた戻した。

 

 

 

そして伯爵(父上)はセラフィーナに向き直る。

 

「というわけだ。今後はバーソロミューは今まで以上に当家に出入りすることになる。

もちろん()()()()()()、改めて色々学びつつ、もし当家や我が領の業務で気になったことがあったら相談や意見していい。

まあ……あまり困らせすぎないように」

 

最後は苦笑が混じっていた。

セラフィーナはそれに明るく応える。

 

「はい、ですわ。期待してますわよ、元教師(ウチの秘書さん)

「よろしく、お嬢様(おぜうさま)

 

そのやり取りはやはり引き締まった空気の中で温かい。

 

 

 

「そして、我が娘、セラフィーナ。

当家の使用人に対して序列三位の(パパ・ママに次ぐ)指揮命令権を与える。

私や夫人(我が妻)のそれが優先されるが、彼らに対して直接指示をしていい。

 

……実際のところ、人間関係や本来の指揮系統もあるから、私もそう細かいこと(マイクロマネジメント)言わない(しない)が、何か思うところがあったら言ってもいいということだ。

 

そして彼らにはそれを聞く()()()()()する。

 

もちろん、()()()()()()ね?」

 

その問いかけに、はっきりと、明瞭に答える。

 

「はい。彼らを尊重し、壊さず、その権は当家の繁栄のために」

 

するりと言葉が出た。まあ、今更なにを考えるまでもない。()()()()()だ。

 

 

 

そして伯爵(父上)は付け加えるように言った。

 

「それと……、これからは夕食後、私か(ママ)、もしくはバート(バーソロミュー)授業(貴族教育)の時間を取る。

神学(魔法)の授業で触れられない部分で、今まで戒律上話せなかったことを教える時間になる。

貴族としてのことは我々(親二人)から。領のことや騎士ならではの目線は(バート)から。

 

真摯に……なんて言うまでもないか。セラはいつもひたむきだからね。わかっているよ。

 

以上だ。さて、同じくらい重大な……」

 

 

 

 

と伯爵が言いかけたその時、カツカツと足音が聞こえ、

セラが入室するときに閉じたドアが破裂音に近い音を立てて開いた。

 

全員が振り向き……、

 

伯爵とセラが思わずほぼ同時に叫んだ。

 

親父殿(パーシバル卿)!?」

お祖父様(おじいちゃん)!?」

 

 







セバスチャン・シニアは、『ジュニア(息子)セラ(おぜうさま)の専属護衛に』という伯爵と伯爵夫人との打ち合わせの後、
自室で筆頭使用人(メイド長的な人)である妻に独り言のように零した。

「アイツももう28か。そろそろ結婚と思わなくもないが、
お嬢様(おぜうさま)の面倒を見ながらとなると婚期を逃しそうだ……。

アイツは私が33のときに生まれたわけだが、
あと5年で孫の顔を見れるか?……アイツ女っ気がなさ過ぎるのだよな。

護衛、執事としてはいいが、父親としてはどうにも複雑な思いだ。

本当、どうしたものか」

それに対し、妻もまた、半ば独り言のように応える。

「まあ、気づいたらいい子見つけてくるわよ。
あなただってそうだったでしょう、唐突に私のことを口説いてきて。

男ってそんなものよ、心配しすぎても余計に白髪が増えるだけよ」



61歳、家令。まだまだ元気。
だが、この悩みだけが尽きない。

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