邪神論:愛されながら恐れられよ   作:幾理 怜

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1-2:美しい桜色の空間

 

ん、起き……てない。

 

ベッドじゃない時点で夢確定だ。

 

……浮いてる?

 

 

 

目が開いているのかどうか分からない、あの明晰夢っぽい曖昧な感じだ。

 

今見えているものが本当に知覚できているのかどうか全然自信ないやつ。

 

暗いような、薄ぼんやりとしているような、

上下左右もわからなくて、浮いているような沈んでいるような、

 

そんな感じ。

 

……

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

徐々に曖昧に明るくなってきた気がする。

 

ふと気づけば、自分が病衣(パジャマ)を着ていることに気づいた。

 

……可愛くない。

 

いや、買ってもらうときにマシなのを選んだつもりではありつつ、夢の中くらいこんなもの身に纏いたくもない。

 

 

夢なら、変えられるよね?

そう思って、「ふんっ」っと思考に気合を入れると……

 

着ているものが変わった。

 

イメージ通り、クラシカル(Gothic)ドールドレス(maiden)だ。鏡も欲しいところだ……出せないかな。

 

 

 

そう考えたとき、不意に知らない声が降ってきた。

 

「早速馴染んでるわね」

 

艶っぽいというか、格好良くどこか色っぽい感じの声……

 

ふわふわと浮いた空間の中で、なんとなく身体を回す気持ちになったとたん、

その相手と相対し、目が合った。

 

 

 

……可愛い。

 

絵本の中の"お姫様"のような、甘くて華やかすぎる、少女っぽい服装に……、

表情は……読めない。

微笑んでいる。それは間違いないが、

あくまで観察しているようで、面白がっているようで、そんな超然とした雰囲気。

 

そこまで考えたときに、空間がいつの間にか淡く優しい赤みを含んだピンク色になっていることに気づいた。

 

 

 

「不思議な場所……。何かが思ったように変わる。

でも認知がおかしい。"気づいたら変わってる"」

 

と美桜はその少女(仮)(カッコカリ)に話しかけた。

 

とにかくコミュニケーションを試みる。先手必勝。

物怖じとかいう概念はたぶん父親(パパ)睾丸(キンタマ)の中に忘れてきた。

 

それに対し、その少女?(お姉さん?)は、少し笑みを抑えるようにして、

粒を紡ぐようなちょっと低めの、大人っぽい声で応えた。

 

「まあ、ここがどういう場所か……、その様子ならわかりそうね」

 

 

 

……ちぇ、せっかく現実逃避してたのに。

 

 

ちょっとむっとしつつ、思考をそのまま言葉に垂れ流す。

 

「優しくないのね、貴方。

 

まあ、色々疑うとキリがないけど、どうせ()()()()()()でしょ?

 

……そうね、

 

まず、

わたしは割とどうしようもないレベルの病人だという自覚がある。

 

そして()()では割と好きに振る舞うことができる。

現に服が変わった。

 

で……?

 

うん、そうだね、夢にしてはあまりに自由すぎる。

 

夢の場合、脳が勝手に決めたシナリオを強制体験させられる傾向があまりに強い。

けど、

 

今わたしは、普通にフルに頭を使って喋ってる感覚がある。

 

夢ならもっとストーリーも突拍子もない。メタ認知(DMN + PFC)が働きにくい。

 

 

つまり……

 

仮説その1。わたしはこの上下左右も曖昧な世界に昔からいたけど健忘になっていて、同時に自分が本当は別の世界で病人だという妄想がある状態にある。

 

……もしくは、

 

仮説その2。わたしは死んで、死後の世界で神さま的な(・・)何か(something)と相対している。

 

ここにおいて、仮説1よりは仮説2のほうがはるかに自然に思える(オッカムの剃刀)

 

よって、()()()()()()()()()?」

 

 

 

美桜がそこまで言い切ると、その目の前の"神さま的な何か"は手を小さく合わせるように拍手し、少し微笑みの量を増やした。

 

「さすが。……まあ、そういうこと。

 

普通はもっと現実逃避だとか、現実が追いついた途端に精神崩壊状態になったりするものよ?

 

まあ、一応ちゃんと言っておくと、その(That’s)通り(right.)ね。」

 

 

 

 

それを聞くとほぼ同時に、美桜は、重たい(クソデカ)ため息を吐き出した。

 

「はーーーーーーーー。

まあ、そりゃ、いつかは来るとは思ってたけどさ。

 

そっかあ。終わったかあ。

 

おつかれあたし。おつかれママ、パパ。ありがと、今まで。

 

まじありがと。

 

主治医先生も、GJ(ぐっじょぶ)

 

そっかあーーー……。

ん、ちょっとまって、ちょっとだけ」

 

涙腺が、急に壊れた。

号泣ではない。何かが特別悲しいとかでもない。

 

なんかこう、ただただ、涙が出る。泣きたいって感じで。

嗚咽の軽い方くらいのやつ。

 

声は我慢しない。いや、勝手に出てしまう。

 

 

 

涙声のまま、誰に答えを求めるでもなく、口に出す。

 

「そうだよね?そうだよね??

 

あたしも、親も、頑張ったよね??うう。

 

 

そっかあ終わったのね、うぅ、……

 

やりきった、かなあ。んんっ……、うーっ」

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

数分間泣いたあと、急に涙が引っ込み始めた。

 

いつものやつ。きちんと泣きたいときに泣くと、なんだか整理が追いつく。

そうするとスッキリして次に進める、ということを美桜は知っている。

 

そして、黙ってそっとしてくれていたその相手に、聞くともなしに問いかけた。

 

「そうね、まああたしも頑張った方じゃない?

 

どうかしら、どうなの?

その、神さま的な、、あなた……的には。」

 

それに対して、相手はちょっと面白がるようなトーンと温かさを少し乗せながら応えた。

 

「いやあ、あえて言うなら、……おかしいとでも言っておこうかしらね。

さすがに淡々としてるというか、受け入れが速すぎると言うか、

普通ならここから何日も話す羽目になるのよ?

……だから滅多に直接相手しないけど。

まあよく粘ったともいうか。ほんと。

あんまり私は誰かを褒めないほうだけど、()()()()()だったわ。

 

……あ、アイリスって呼んでくれていいわよ」

 

「ふぅん……?

まあいいか。アイリスさん、把握(はーく)

 

(神さまかどうかは明言しないのね?)

そんなことを思いながら、美桜は言葉を続ける。

 

「っていうか、この後はどうなるのかしら。

地獄の沙汰(閻魔大王)?それとも(Particular)審判(Judgment)

わたし一応、強いて言うなら神道ってことにしてるんだけど、祖霊になるのかしら?」

 

それを聞いた途端、相手(アイリス)は笑い出し──

 

「うふふ、まあ、うん、ええっとね、

美桜ちゃん、貴方、"小説家をやろう"や"ハーメル"はよく読んでるわね?」

 

──爆弾を投げ込んできた。

 

「……は?

あ、いや、そりゃ相当読んでたけど……、え、まさか」

 

「そう、正解。

"()()"()()()()()()()()

 

やば。

 

マジで言ってる?

 

マジでそんなことあるんだ。

やっぱメタ側な世界では何が起きるかなんて予想つかないものね。

とか思いつつ、食い気味に質問が止まらない。

 

「!? えーやったぁ。

……え、あ、でもだるいのはやだな、なにくれるの?

どんな世界?何背負わされるの?文明レベルは?言語は?」

 

 

 

矢継ぎ早のそれ(質問)に対し、アイリスはチャキチャキと落ち着いた声で答えを積む。

 

「順に答えてくわね。まずちょっと貴方は特殊でね、

はっきり言うわ、貴方は私が選んだ。

普通ならしばらくこの世界で人生振り返って折り合いついたら記憶飛んで転生。

けど貴方は次の人生でもこの記憶を保持させてあげる」

 

美桜はそれに対して驚くという発想もなく、反射的に理屈(ロジック)を詰め始める。

 

「なるほどね、転生先がキッついと地獄ね。そうじゃなければ歓迎すべきね」

 

「まぁーそこは安心していいわよ、過ごしやすいとは思うし」

 

「ん、ちゃんと知りたいわね」

 

そう、曖昧な言葉でなんど痛い目を見てきたことか。ネットの海をそれでは漂流していられないのは当たり前だ。

それに対し、アイリスはふわりとした微笑みと真面目さと悪戯っ気を同時に深めるような表情で、

 

「あんま言いすぎると面白くないでしょ、

まぁ文明レベルは古いわね。詳しくは自分で見て感じなさいな」

 

と、こう答えた。

 

「まぁ……いいか。たしかに」

 

美桜は食い下がらない。それもそう、だからだ。

ただ、それはそれとして気になることは他にもある。

 

「……で、私が選ばれた理由は?」

 

「はいはいそうね。

簡単に言うと、貴方を送ったら面白そうだったからよ、それだけと言えばそれだけ」

 

アイリスはあっさりと答えた。

 

「……?」

 

「ええ」

 

空気が凍っているわけではない。アイリスは微笑み、美桜は思考に少しだけ沈む。

 

「……」

 

「……」

 

そして、美桜は無意識に腕を回しながら整理して喋る。

ろくろを(エンジニアが)捏ねるような(みんなやりがちな)動きである。

 

「つまり……特に使命とかはなく、好きにしていい、制約はない?

世界の詳細についてはネタバレしない方針……ってことも加味して、やはり楽しめばOK。

……そんなうまい話ある?まあ、あるらしいのよね。

そして、選ばれた理由は……分かんないけど何かがアイリスさんに刺さった、と。

例えば話がおもしろいってことについてあえて否定しない程度にはあたしも自信あるし。

そんなとこかしら。まあ、積極的に疑うほどおかしな点は無いわね、いまんとこ」

 

「さすが、そうそう。そうよ、そういうこと。その物分りの良さとかね。

まあ、貴方が整理した通りよ、()()()()()()()()()()()わよ?」

 

── 血が騒ぐ。

 

そんな感情が美桜の中に沸き起こった。

そう、やりたいようにやる。大好きな言葉だ。実にいい。

 

そして、

 

それからふと思い出す。

 

「あ、ねぇ、あるあるのやつ。なんか持ってって良かったりはない?」

 

「あーー、っとね、結論から言うと、それは出来ないのよ」

 

そう答えるアイリスはちょっと顔を顰めている。

まるで、本当はやってあげたい、と言いたげな顔である。

 

「……」

 

じとーっ、と美桜はアイリスを見つめる。

 

「……」

 

が、アイリスはそれをしれっとした顔でスルー。

 

「……」

 

じとーっ……じとじとーっ。

そんな音がしそうなねっとりとした目線を送り続けた。

 

……アイリスさん、顔綺麗。

生前のあたしの顔最悪だったからなぁ。蝶型紅斑出てて、皮膚もボロボロで。

 

次生まれ変わるなら美人さんに……ああ、そっか、生まれ変わる話の真っ最中じゃんね。

 

 

 

 

そんなことを考えながら美桜がジト目を張り付けていると、急にアイリスはその口を曲げて傾げていた首を元に戻し、いたずらっぽい調子で口を開いた。

 

「まいっか。口止めされてないし。

ええとね、おぎゃーから始まって、夢って形で数年かけて記憶を焼き込むのよ。

ってことで……」

 

美桜はそれを聞いてそのまま言葉を引き取った。

 

「……あー、なるほどなるほど、そりゃ何も持ち込めないわね」

 

「そうなのよ。記憶は全部きっちり焼けるから安心して。

あと言語は成長過程で覚えなさいな。

……いや、まあ幼少期の脳みそならそんなもん勝手に覚えちゃうから大丈夫だけれど」

 

美桜はそれを聞いたらごく素直に頷く。

 

「ま、信じる以外ないわね。

……それで、スキルとかレベルとかそういうのあるの?あと魔法とか。

"小説家をやろう"とかに触れるからには、あるんでしょ、そういうの。無いとは言わせないわよ?」

 

 

アイリスは一旦即答した。

 

「うん、ある。あー、どうしようかな、うーん」

 

そこから数秒考え、そして答える。

 

「スキルは自分でとってなんぼでしょ?

ただ、少なくとも幼少期を安全に過ごせるよう軽く盛っといてあげる。

 

……そもそも貴方、チートほしい方に見えないけれどね。

初回限定特典版付録の序盤ブーストパックが貰えたら嬉しいタイプ、違う?」

 

その的確な喩えに美桜はしっかりと頷いた。

 

「それ。たしかにそれ。それはそう。

じゃあ、内容は"お任せ"のほうが良いかしら。ネタバレっぽいのも嫌だし。

そんなとこかしらね、あとなんかあるかしら。

 

……あ、ちゃんと今度は外歩ける、ようにはしてくれるのよね?

元気な身体が……いい。」

 

最後だけちょっと言葉が震えた。

そう、それだけ。"それだけ"をどれだけ望んだことか。

 

「そりゃもう。そこは保証するわよ。走り回って、

 

──好きなことしなさいよ。」

 

 

 

一瞬、涙腺トリガー引きかけた。

 

が、止まった。

……笑いが止まらないからだ。

 

「えへ。えへへ。

えー、そしたら早く行きたーい。

裏とかも……ないのよね?信じるわよ?」

 

それに対し、アイリスは真面目な顔に寄ってしっかりと頷いた。

 

「マジレスしても、ほんとにそういうのはないわ。

ほんとに自由に。私からの陰謀とか試練とか、()()。」

 

 

 

「えー、なんか逆に裏無さすぎて怖いんですけどぉ〜」

 

その声に疑う色はもはや乗っていない。軽口というか、なんというか。

 

「あはは、まあそうね。

私としては、けれど、やっぱり話は一緒で、

変に先入観持たずにしてくればそれでいいのよ。

 

……気持ちの準備はいいかしら?」

 

話は終わり、という雰囲気だ。いい意味で。

美桜は急に上がってきたテンションを自覚しながら元気よく答えた。

 

「ばっちこいだよ!」

 

 

 

「はいはい、ちょっと待っててね」

 

アイリスは唐突になんか空中を見つめ、焦点の合わない目になった。

なにかこう、違うモノを見ているとしか言いようのない感じ。

 

その様子を何秒か。

 

 

 

──そして戻った。

 

「よし。じゃ、今から開始するわよ〜」

 

急にトーンが軽くなった。

 

なんというか、さっきまでのしっかりとした口調が、もっと軽やかになっているように感じた。

……いや、無意識だったかもしれない。

 

ただ、それを無意識に感じとった美桜の最後の言葉が若干滑った。

 

「わーい、ありがと、アイリス()()()

 

 

 

それに対し、アイリスは一切気にしないまま、美桜に応えた。

 

「はいはーいまたねー」

 

そして、強制的に切れたと言うか、

そこからの記憶は一切ない。

 





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