邪神論:愛されながら恐れられよ   作:幾理 怜

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1-6:はじめてのおつかい

 

どこへ行くともなしにぶらぶら歩き回る。

 

ただ、移動そのものは明らかに目的地があるように駆けて行くのがポイントだ。

迷っている風を出したらあっという間に"迷子"扱いされてしまいかねない。

 

……知らんけど、美桜(あたし)が大人ならそうする。

 

 

 

見たいところは無限にあるが、まずは市場的なやつを見に行く。

バザール(中東っぽいやつ)というよりは圧倒的にメルカート(ヨーロッパ風)という雰囲気だ。

 

木組みの屋台に柱が伸びて上にテント。いかにもな市場。

人がガヤガヤと行き来して、しかし、妙に清潔で治安もいい。

 

地面にはゴミもほとんど落ちていないし、5歳児(クソガキ)であるセラフィーナ(町娘スタイルの幼女)がいても、ぶつからないように軽く避けつつ、微笑ましい視線を向けられるだけ。

 

 

(ガチでお使い感覚で見られてるっぽい……?)

 

そこで、ちょっとだけボロっちいサコッシュ(パクってきたやつ)から紙の束を取り出して、握りしめながらちょっとたどたどしく呟いてみる。

 

「りんご……りんご……りんごを4つ……」

 

「りんごなら真っすぐ行けば八百屋さんがたくさんあるよ、がんばれ!!」

と早速、すれ違いざまに声がかかった。

 

お互いに足を止める感じでもなく、

 

『ありがとうございますっ!』

と声を飛ばしておいた。

 

 

 

 

周りにはあらゆる興味深いものが並び吊るされている。

 

干し肉、干した魚、塩漬けのような何か。

木彫りの椀、匙、皿、ついで感覚で作ったのか、動物の彫り物。

 

何やら金属製の護符(タリスマン)香り袋(サッシェ)なんかが並んでいる店もある。

「値切ろうったってそうは行かねえ。ウチのタリスマンはちゃんと効くぞ!そこらのまがいもんとはちげぇからなぁ!」

「嘘吐きやがれ!この間ここで買ったあと思いっきりクローゼットの角に小指ぶつけたぞ!」

「それはお前が不注意なだけだろうが!不注意まで消す効果はねえ!」

「それじゃあ効果無いってことじゃねえかよ()()()!!」

ブチギレている。どこでもああいうイチャモンはあるあるなのだろう。

 

「「「もっとやれもっとやれ〜」」」

野次馬が集まり始めている。

 

見ていきたいところだが、時間が惜しい。もっと他も回りたい。

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

さて、八百屋ゾーン。本当にあった。

 

何軒かが競い合うように売り文句で牽制し合っている。

 

メモを片手にキョロキョロしてみれば、即座におっちゃんから声が飛ぶ。

「お使いかぁ?ウチは値段も美味さもちょうどいいぞ、うちにしてきな」

 

そして、それに即座に噛みつく向かいの店主。

「こいつの言うことは適当に聞いておけ、うちのほうが安くて美味い。

仕入れをちゃんとやってるんだ、寝坊しよるこいつとはモノが違うんだぜ」

それにまた噛みつき返す。

「おいおい、こんなまだ小さい子(ガキンチョ)にそんな難しい売り文句伝わらねえよ、

……な、うちがおいしいよ、ちょっとサービスしてやる」

「おい」

 

そんな数人のムサいおっさんに、美桜(ょぅι゛ょ 5ちゃい)はピシャリと言う。

 

()()()()。とりあえず値段。品質、産地。

それから売り文句。どこがいいのか、安いなら理由つきで。

高くても差別化理由があって予算の範囲なら買ってあげる。

──じゃあ、あんたから」

 

「……おう。え?」

 

なんだか目を白黒させてフリーズしている。

え?売る気あんの?

 

仕方ないので次のひとりに向き直り、腕組みをする。

 

「ああ、じゃああんたからでも良いわよ」

 

その堂々たる姿に、さっき最後に『おい』と一言だけ突っ込んだその店主は若干気圧されかけてから、

もういいや、と仕事モードに切り替わってぶっきらぼうに答える。

 

「おう。ウチは……。

まあリンゴつってもな、色々あるだろうが。

大きめで酸味のバランスがいいサンティーナ、酸っぱいが菓子づくりにいいボルストラップ、シャキッとして定番のブレンバーン。

お前の "母ちゃん" ()()()は何をいくつ買えって言ってきたんだ?

 

まあ値段は……書いてあるとおりだ、読めるだろ。どうせ。

ウチはちゃんとしたもんしか置かねぇ。こいつらの店よりは高い。

だが、目利きと美味さは自信ある。こいつは大差ねえって言うがな。

 

信じるかどうかはお前さん次第だ、買ってみたらわかるかもしれんし、

わからんかもしれん。それを俺から何か言う気はねえ。客は他にもいるからな」

 

言い終わると、陳列した野菜の方に戻って並べ替え始めた。

本当にそれ以上なにか言う気はないらしい。

 

まあ、そういうタイプは "ちゃんとした" 奴が多い、ということを美桜は知っている。

 

 

 

トコトコ……

 

 

 

「うん、気に入ったわ。4つ寄越しなさい。

今回はとにかくデザート用に甘くて美味しいやつ。酸味はバランスね。

 

細かい品種名は知らないけど、そういうのはオススメするアンタの仕事だもの。言い値で買うわ。」

 

その言葉に、店主は朴訥な笑いを零した。

 

「ッハ! いいねぇ。ウチはそういう店だ。

600……いや、100マケてやる。500寄越しな。

 

それと……、多分だが、お迎え来てんぞ。

なぁ、

──伯爵令嬢サマ(で合ってるよな?)。」

 

親指の先で示されたのは……。

 

 

 

ああ……。うちの使用人だ。

 

思ったより早かったわね。チッ。

 

 





あとがき:

口の立つ妙な幼女が身なりの良すぎる男にお米様抱っこ(HA☆NA☆SE !!)でドナドナされていったあと、
八百屋はライバル達にこう呟く。

「お前気づいてなかったのか?
ぜってぇ領主サマんとこのお嬢さんだろうが。

おもしれぇ。数日か1週間もしたらどうせまた来るだろ。
いやあ、人生でも3本指に入る仕事したかもしれねぇな。

── たった500カナリウスの売上だが、それでいい。これがいいんだ。」
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