月見ヤチヨの酒寄彩葉ストーキング年代記   作:雑Karma

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9.【2027年下】好戦的ヤチヨ……新解釈だったよね、良いと思う。だけどお兄ちゃんにメロつくのはやめてね。

 

 

 ──遊ぼうぜ。それが俺たちが分かり合うための最短距離だ

 

 

 私は気圧されながらもその誘いを受けた。

 

 

 そしてその後は……

 

 

 

 -MOBA

 

「アキラ、ヤチヨスマイト無いよ~! スキルも無し! なんでもいいから一発当てて!」

 

「カウント後パラノイア(目くらまし)! 3・2・1・GO! ノイからNNE(北北東)NE(北東)ヤチヨさん! 退路無し、AOE(範囲攻撃)全部吐けノイ!」

 

「AOE撃ったよ~~ミニオンも処理。これで……って居ないじゃん! 横レーンに壁抜けとかチートじゃ……わっ! 死んだんだけど~~! どういうブッシュベイト(隠密)!?」

 

「ブッシュ上手すぎるブッシュ大統領かよ意味わかんね~~! ……げっライが戻ってきた俺もうリソース無いって!」

 

「……終止……」

 

 

 

 -FPS

 

「右下ロー。ワントライ来るかも!ヤッチョ防止に回って!」

 

「かしこまり~! ダダダダダダダ……工事完了! 引いてくよ~! ついでに金メットも全損させました! いっつまいたーんですかな?」

 

「GJヤッチョ! ……ノイ滝上のキルポにワイヤー。ライ煙ウルト映った窓にグレしてもう片側ピーク。俺とヤチヨちゃんで下から突っ込む!」

 

「心得た」

 

「鴨撃ちがんばるぞ~い」

 

「うけたま~~!」

 

 

 

 -レースゲーム

 

「うおおおおお開幕逆走からアイテムリセマラ!? 縄文時代の人(ひとつ前のシリーズの戦略)!? 8000歳のアホ(A)インテリジェンス(I)さん!?」

 

「ヤッチョの計算によれば、ショトカ多めのサンサンデザートなら序盤20秒以内に金色キノコを引き当てたらトータル31秒~45秒のアドバンテージ!! 出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ出ろ……っHit! いと幸ひなりぃ!」

 

「運だけのカス……ってライ! そのキラー何ごと~!?」

 

「──ヤチヨの金キノでアイテムテーブルが乱れている。先に行かせてもらうぞ」

 

ひとやりならず~~~(インガオホー)! ヨヨヨ……」

 

 

 

 -格闘ゲーム

 

「フラッシュチョップ! フラッシュチョップ! パワーボム! 画面端ぃ! か・ら・の~~ODワァオ!! リーサルで~す! ヤッチョ、WIN! プロゲーマってのは随分ヌルいんだな……」

 

「…………(絶句)」

 

「起き攻め対空重ね……? 読みが深すぎるな」

 

「というか舐めプなんだよそれは! 何で有利状況から運ゲー仕掛けるわけ……?」

 

「画面端体力三割、ヤッチョにアーツゲージ無し体力ミリ。あの状況の帝様は位置入れ替え狙いのファジー(遅らせ)前ジャンプする確率47%、無敵技パなしの確率は21%也! エアニーは昇竜をスかせるので勝率合計は68%也! これなら分の良い賭けでございましょう?」

 

「オワり過ぎだろこの女……誰だよこいつを歌姫とか言った奴は! 俺がぶっ殺してやるよ……!」

 

 

 ☽

 

 

 …………と、まぁ。こんな具合に。

 

 丸一日かけて対戦して、それでも足りなかったのでヤチヨ権限でレンタルオフィスの稼働を日を跨いで延長させて、私たち四人はいろんなゲームで、時に協力し、時に向かい合って対戦し続けた。

 

 その時間の、なんと眩く、烈しく、目まぐるしいことだろうか。

 

 月見ヤチヨはセルフブランディングの都合上、極端に競技に類するものに耽る自分を前に出していない。ウミウシ時代は尚のことだ。

 

 だからここまで抜き身の自分をさらけ出してぶつけ合って競うのは、おおよそ8000年ぶりだった。ヤチヨを名乗らずこっそりと遊ぶことはあっても、そこから伝達される熱量はわずかなもの。

 

 

 この時間は、私が長らく求めていた、血の流れない……けれど確かに激しく熱い、赤色のアルゴリズムへの接続だった。

 

 

 

「フェイスカードは10のジャック。……そろそろバンクロールに苦心する頃じゃないですか~? いっちょ投機的な戦略にシフトすべきでは?」

 

ヤチヨちゃん(ディーラー)がそうして欲しくなくなったときにそうするよ……追加(ヒット)だ……計18、ステイ(このまま)で」

 

「オレもヒット~~お、21(10+♠J)! ブラックジャックだ。女神様オレのこと好きすぎ~」

 

「ヒット、22……バーストだな」

 

「私は20! ノイ君の一人勝ち~! 勝率高いねぇ……おいた(カウンティング)はだめだよ~?」

 

「鏡見てきなよAI」

 

 

 

 あれから二十数時間後、流石に皆疲弊してきたので、私たちは休憩がてらあまり頭を使わないテーブルゲーム(ブラックジャック)で遊んでいた。

 

 

 

「……あの、それで、どう?」

 

「どうって……何の話だよヤチヨちゃん。まだバンクは尽きてねーぞもう1ゲームだ」

 

「そうそう。誰かが素寒貧になるまでやるもんだよ~こういうのは」

 

「……オレはそろそろ拙い。序盤でつっぱり過ぎた」

 

「そうじゃなくって……ヤッチョとの契約の話です!」

 

 

 この時間があんまりにも目まぐるしかったから結論を引き延ばしていたけれど、そろそろ裁定の時だ。

 なんだか随分と心理的距離が近接してしまった。これは本当に予想外のことで、ずっと黙っているFUSHIも心なしかジト目でこちらを見つめている。

 青少年を資本で支配する邪悪な大人としての振る舞いを自分に課すことは、もうできそうになかった。

 

 

「そうだな……始める前にノイが確認した通り、契約内容にあくどいところは一つもなかった。そしてヤチヨちゃんは、俺たちをきっとオファーをかけてきた誰よりもよく見ていた。ぶっちゃけ、それで十分っちゃ十分なんだよな」

 

 

 いつの間にかヤチヨちゃん呼びになってしまった。

 私はカードを配る手を止めないまま、どうにかイニチアシブを取ろうと無駄な努力を試みる。

 

 

「でも、いいの……? ツクヨミで活動する以上、ヤッチョ以上に強力なスポンサーは存在しない。それを受け入れるということは、貴方たちの表現形が(ヤチヨ)に包摂されることを意味する。今後活動していくうえで、それは大きなデッドウェイトになるかもしれないし、ヤッチョはそうしようと思えばいつでもそうすることができるのに」

 

「それこそ今更でしょ。ツクヨミはその最たるものだけど、今のインターネットでヤチヨちゃんの影響の外側に居られるやつなんて居ないんじゃない? オレも参考にしてるよ。イベント演出も、振る舞いもね」

 

 

 最初に突っかかってきた筈のノイ君すらも私に肯定的で、私の構えた剣はまたも空振りの拍子抜け。

 

 ──いけないいけない、これはゲインロス効果(ヤンキー子犬理論)だ。

 この道8000年の私が齢13の子供に絆されてどうする。

 

 

 

「そして貴女は、戦うものの顔をしている。見慣れた顔だ。ならばきっと、問題ない」

 

「……?」

 

 

 ゲーム中の報告は欠かさないのに普段は寡黙なライ君も、弟の言葉を支持する。

 だけど、短い付き合いの私ではその意味を解析(パージング)できなかった。

 

 

「あ~その、ライが言いたいのはだな。顔と言うか、雰囲気がさ……抜き身で戦ってる奴の顔だってことだよ。間接的にとか、生活のためとかじゃなくて、戦うことで何かを勝ち取ろうとする空気を肌感覚で理解してる人だ。競技者を長くやってるとな、そういうの、わかるんだよ」

 

 

 私の捲ったフェイスカードは10+9で20。

 朝日君は6と8からさらにヒットして7。21だ。私の手からチップが離れていく。

 

 

「だから、ヤチヨちゃんは俺たちが俺たちの表現形で戦うことを無碍にはできないよ。本物の競技者(アスリート)同士ってやつはな……戦うステージは違っても、フェアな戦場で勝ち取った物と、そのために差し出したものを感じ取ったらお互いをリスペクトせざるを得ないもんだ」

 

 ──だから、きっと大丈夫だ。

 

 そう言って、彼は17から無茶めのヒットをしてバーストした。

 それは私のスポンサードを受け入れるという意思表示なのだろう。

 ショウ・ダウン。これでお互いに全てのカードは使いつくした。

 

 

「それじゃあ、ヤッチョとの商談は成立ってことFAだよね? じゃあその電子契約書に名前を書いてね。あとで今の事務所にも話を通しておくから──」「待ってくれ」

 

 

 "戦うものの顔"

 朝日君による翻案を受けて尚、私はその言葉の意味を量りかねていた。

 それが、窓越しの私が得ようとしても得られなかった、皆を駆り立てる温度のことであるのなら……

 そのことについて思いを巡らせ、気もそぞろに話を進めようとした矢先、畳みかけるように再びライ君が私を静止させる言葉を吐き出した。

 

 

「なんだいなんだい?」

 

「さっきの対戦で確信した──万が一、人違いだったら申し訳ないが」

 

 

 …………せっかく話が良い具合に纏まりそうだったのに。

 もうこの時点で凄まじく嫌な予感がして、私はその発言を何とか止めようと足掻いた。

 

 

「い、いや~~ヤッチョはずっとヤッチョだから、人違いとか人使いとか、そ~ゆ~話はないんじゃないかな~~なんて……」

 

 

「YACHI8000というのは、貴女のことだな?」

 

 

「ピェッ」

 

 

 

 ☽

 

 

 

 ──以降は、口が達者ではないライ君の言葉を、ノイ君が所々翻訳する形で発された内容だ。

 

 

 タイガーステーション 新宿南口 ワールドゲーム店。言わずと知れた格闘ゲームの聖地のひとつ。

 今からざっと20年以上昔のゲームセンター全盛期。その店で生まれた数多の伝説や尾ひれのついた事件やくだらない与太話の中に、ひとつ面白い話がある。

 

 名の知れた猛者、頭角を現したルーキー、腕が確かなプレイヤーがトレーニングモードに入ってからしばらく対戦せずにいると、時折そいつは現れる。

 

 プレイヤーネーム:YACHI8000。使用キャラはどんなタイトルでも基本投げキャラ。コンボ精度は高いが状況有利から相手を詰ませる起き攻めやセットプレイの開発に固執せず、心を読んだかのような的確な技置きと、こちらの精神に干渉されているかのような打撃orコマ投げ択の通し方で対戦相手の精神を破壊するプレイスタイルが特徴で、頭にアルミホイルを巻くことが一時期、店内格ゲーコーナーのトレンドになった程だとか。

 

 YACHI8000、店内ではハッセンと呼ばれていたそいつの姿は、店内対戦であるにも関わらずだれも見ることはなかったし、店員が裏で操作している説も、それを調べるためだけにその店でバイトを始めたプレイヤーによって否定された。

 

 しかし、結局のところ彼らにとって、ハッセンが何者なのかはあまり問題ではなかったらしい。

 理由は単純で、そいつが強いからだ。

 その場に居るのは己の強さに人生を費やすと決めたはみ出し者ばかりであり、強いか弱いか以外の全ては脇に置かれるのがゲームセンターという空間だったからだ。

 

 

 ハッセンは強いが、セオリー外の行動を繰り返すので安定性に欠ける。そこを突いて手堅く立ち回って攻略するスタイルが定着してからは、猛者たちとハッセンとの熾烈な勝った負けたが始まった。

 

 ハッセンが乱入した台があれば、ベガ立ち(後方腕組み試合観戦)勢がわらわらと群がり、ハッセンと名の知れた猛者の戦いを見届ける。

 

 レジェンドプレイヤー相手に勝ち確場面で屈伸してから不必要な昇竜起き攻めでKOを決めるハッセンのクソプレイは、画質の荒い当時の携帯電話の録画映像として今でも残っているらしい。

 

 

 ── 一つだけ言い訳をさせてほしいのだけど、その試合で先に屈伸してきたのはあっちです。

 

 

 オンライン対戦環境が充実し、遠距離環境とのラグを埋めるロールバックネットコード技術が世に広まってからはゲームセンターで対戦をする文化は廃れ、それと共にハッセンもまた歴史の影に消えて行った。

 

 

「俺たち三人は良くつるむけど、それぞれ元々得意なゲームジャンルは別でね。(アキラ)はMOBAとバトロワ系シューター、ノイはタクティカルシューター、そしてライは格ゲーだった。格ゲーは歴史が長い分縦の繫がりと先輩方が若手の面倒を見る文化があってな……ライはよく先輩方に助けられてたし、一緒に遊んでた俺とノイもイベントの時とかによく助けてもらってたんだよね」

 

 

 朝日君は、表情プリセットを選択する余裕もない程焦ってひきつった笑顔で、内心冷や汗を滝のように流す私にニヤニヤと笑いかけながら話を続ける。

 気分はさながら、衆人の面前で探偵に追い詰められた犯人のそれである。

 

 

「そんでさ、先日の大会告知配信でヤチヨちゃんが格ゲーを紹介がてら遊んでる映像を見て、ウチの先輩が言うんだよね」

 

 

 ──『あの投げキャラの動きの癖、ハッセンじゃね?』

 

 

 

「………………そ、それだけでヤッチョがそのハッセンさんだって決め付けるのは、状況証拠が足りないんじゃないですか~~~?」

 

 

「でもさ、YACHIで、8000だぜ? 居ない筈のプレイヤーが操作してるってのも如何にもじゃん」

 

 

 私は高速で目を泳がせながら、どうにか反論を試みる。

 証拠はない。証拠はないのだ。そもそも格ゲー紹介時の対戦だって10戦もやっていないのである。それに、ゲームセンターの件については店長にはきちんと口止めしてあるし……

 

 

「先の対戦、貴女は俺たちとの戦いにおいて、俺たちの心を理解することにこそ重きを置いた立ち回りをしていた。常に相手が何を考えているのかを考えて動いている貴女との対戦は、正に会話そのものだった。……それは、先輩方の話や、見せてもらった対戦映像から受けた印象と一致する。貴女はきっとYACHI8000だ」

 

 ライ君は私のしどろもどろな弁明には取り合わず、朴訥な、しかしそれ故に真摯な語調で、訥々と語る。そこには思わず聞き入ってしまうだけの魅力があって……ああ、彼もまた黒鬼の一翼を担うパフォーマーなのだなぁと、私はそこでようやく理解した。

 

 

「俺はあの人達に世話になった。だから、貴女がYACHI8000であるのなら、貴女は俺たちの先輩ということになる」

 

 

 ──この件も先輩からのご厚意ということなら、俺は喜んで受け入れよう。

 

 

 彼はそう締めくくると、語る言葉は全て語ったと言わんばかりに再び口を閉ざして瞑目した。

 

 

 ……本当に不味い。いつの間にか私がYACHI8000だと認めたら契約成立みたいな流れになっている。

 

 

 私は最後の抵抗として、否定も肯定もしない戦略を選んだ。

 

 全師避敵(無理に戦わず) 左次無咎(兵温存し退くは正しい) 未失常也(それが道理である)

 

 その戦略の名を、逃走という。

 

 

 判断するや否や、私は卓上に散らばったカードとチップを纏めていたFUSHIをサッっと掴む。

 

「ネムッテ! ネムッテ! (裏声)、おおっと! ヤッチョもう眠る時間だぁ……! 今日は皆と実りあるお話ができて良かったよ~!! それじゃあ、オファー枠の一つは貴方たち三人で確定ってことで、捺印とかスポンサー契約内容の細部の詰めは後日に! さらば~~い!!!」

 

 私のブランディングの窮地に何の支援射撃もしてくれなかった役立たずの相棒に何か反応させる隙を与えないくらいのスピードで、びっくりチキン(押すと鳴るぬいぐるみ)よろしくモミモミしながらヤチヨ恒例のスリープアラートをアフレコし、回れ右してエスケープ。高速で場を閉めようと試みる。

 

 

「あ、ヤチヨ、ちょっと待ってよ! まさか気付いてないの?」

 

「えっ……?」

 

 しかし、私がゲームルームからログアウトする刹那の背中に投げかけられた、今日初めて聞く本気で慌てた調子のノイ君の声に、私はつい振り返ってしまった。

 

 

フシャー(天誅)!!!!」「うーぁ うーぁ ぅーぁ……」

 

 

 直後、私の手の拘束から抜け出したFUSHIは私の鳩尾に慣性をかけた突撃がCOUNTER! 

 

 その醜態をあっけにとられた表情で眺める他ない彼らの足元に、私はゴロゴロと転がって戻ってきてしまったのであった。

 

 

 

 ☽

 

 

「それじゃあノイ君は年齢的にギリギリ出場できないんだ……ヤッチョびっくり」

 

「オレもびっくりしたよ~……ヤチヨがそれに気付いてなかったことにね~」

 

 

 2030年時点で高校1年生。

 それが私の知るノイ君のソーシャルステータスだ。

 

 ジュニアユース所属の彼の年齢や誕生日はホームページで公開されておらず、アキラ(朝日)君の周辺情報を煙たが(ネガティブサーチ)っていた私は、彼の詳細な生年月日を知らなかった。

 だから、3年前となる2027年現在は13歳だろうと決めつけていたのだけれど……

 

 

「オレ、誕生日2月23。今、12歳。大会日程、8月15日。参加可能年齢、13歳から。OK?」

 

「OKでござい゛ま゛すぅ~……」

 

 

 私はグスグスとべそをかく表情プリセットで謝意と反省を示しつつ、内心でも途方に暮れていた。

 

 私は彼ら三人をこの大会でデビューさせてその強さとパフォーマーとしてのスター性を皆に見てもらって、その上で彼らをスポンサードするつもりだった。

 

 しかしそれができないとなると、鮮烈なデビューの機会を逃したノイ君の活躍の機会は別途設けなければ2030年の"黒鬼"の人気に翳りが生まれる可能性があるのだ。

 彩葉とかぐやの成長と活躍を公にアシストする存在として、彼ら三人にはなんとしてもツクヨミのトップライバーになってもらわなければならないというのに。

 

 ……それに、もっと緊急性の高い問題もあった。

 

 

「──で、俺とライと組む奴、誰を用意してくれんの?」

 

 

 未来の問題は後回しにできる。

 喫緊の問題、それは彼らと組んで遜色ないプレイヤーが急遽もう一名必要になってしまうことだった。

 

 基本システムはMOBAだが、選択する武器種次第と戦術次第ではFPSにも、格闘ゲームにも、タワーディフェンスにも、レースゲームにすらなり得るのが売りのKASSENで、セオリーを固めようが無いリリース初期の段階で"競技者"としての振る舞いを求められるプレイヤーが必要なのだ。

 

 ましてや、世間的注目度が極めて高いことが確約されたイベントで、司会進行と協力してきちんと場を盛り上げるような振る舞いをする能力も求められる。

 

 ……それはつまり、不可能ということだった。

 

 

「貴方たちと組んで遜色ない人を今から探して宛がうのは、はっきり言って無理ゲーなのでした……」

 

「ヤチヨちゃん、ホントに俺らを高く買ってくれてるんだな……」

 

「そうじゃなきゃヤッチョはこんな強引な声の掛け方しませんことよ~……あなたたちみたいにセルフブランディング力とリスクマネジメント力があって、ショーゲームに本気で取り組めるタレント性があって、その上できちんとゲームが上手い人なんて……」

 

 

 状況は私のミスによって非常にマージナルなものになっていた。

 

 ……もし彼らの活躍や今後の進退に泥を塗るような差配をしてしまった場合、最悪の場合3年後に彩葉を直接助けてくれる心強い存在が居なくなるかもしれない。

 

 そうなったら終わりだ。いっそ大会なんて開催しない方が良かった。何が酒寄朝日の罪状だ笑わせる。彩葉の未来に仇成す存在は、外ならぬ私自身だったのだ。

 

 

 もはや外向きの表情プリセットを用意する余裕すらなくなり、能面のように見えるであろう無表情で俯いて沈黙した私を見た三人は、不思議そうにお互いに顔を見合わせた。

 

 

 

「あのさ……ヤチヨちゃん、本気で気付いてないワケ……?」

 

「気付くって……何をだい……?」

 

 

 訝し気な顔で私になにがしかを問うアキラ君。

 彼は暫く何かを言うか言うまいか迷って口を開閉させてから、意を決したように答えを告げた。

 

「いや、居るだろ、ここに」

 

 

「へ……?」

 

 

「だから……アンタだよ、月見ヤチヨ。アンタが俺らと組めば良いだろ」

 

 

(ヤチヨ)が……?」

 

 

 ……それは、考えたこともない選択肢だった。

 これは血が流れないだけで、人の子同士が本気でぶつかり合う舞台だ。

 そこに私が割り込むのは、その熱量に対する冒涜だろうと信じていたのだから。

 

 

「俺、ライ、ヤチヨちゃんで大会に出れば解決だ。ヤチヨちゃんはあのゲームを現状で一番理解してるし、ゲームの上手さと情熱とリスペクトもさっきの時間で確認した。パフォーマーとしてのスター性については……俺たちがアンタを量るなんて身の程知らずもいいとこだ。だからてっきりこの話の焦点は、"どうやって俺とライがヤチヨちゃんの添え物にならないように立ち回るか"、だと思ってたんだけどな」

 

 

 ──オファーが来た時点で、そういう事態に備えてノイが脅迫ネタ(YACHI8000)を用意してたんだよ。

 

 

 そう言って笑うアキラ(朝日)君の目を見て、私は両手を挙げて降参のポーズを示した。

 

 彼は……彼らは、私を戦う者だと言ってくれた。私は私が斯くある者だとは思えないけれど、彼らの言葉なら少しは信じられた。

 私を置いて行ってしまった沢山の友達と同じ列車に乗れなかった後悔に、僅かなりとも報いられた気がしたのだ

 

 

「ヤチヨちゃんが俺たちにでっかい夢を見てることは良くわかったよ。……だから、それには応えるさ、全力でな!」

 

 

 私が降参のポーズとして空に掲げた手にパチンとハイタッチして、アキラ君が部屋から退出した。なるほど、確かに彼は彩葉のお兄ちゃんだ。彩葉(王子様)度高めで正直メロい。

 

 

「任せておけ……ああ、先輩方からYACHI8000殿に伝言を預かっている。『大会が終わったら10先で勝負しろ。今度こそ潰す』だそうだ」

 

 

 私の、「タイステで待ってるね」という相手方への伝言を受け取ると、ライ君も私の手にハイタッチして部屋を退出した。

 

 

「オレは今回は直接参加できないけど、プロデュース面でアシストするよ~~……その辺のヤチヨの手際、いっぱい学ばせて貰うね」

 

 

 そう言って年上のチームメイト2人と同様、私の掲げた手にハイタッチする瞬間──

 

 

「だから、アキラのことを一回だけ『帝様』って呼んだこと、黙っといてあげるね」

 

 

 ──その呼び方、まだオレの頭の中にしかないない構想のはずなんだけどね。

 

 最後にひとつ極大のグレネードを投げつけられて硬直した私の手にハイタッチすると、ノイ君も退出していった。

 

 

 私は一人になったゲームルームの卓上で呆然と立ち尽くし、独白する。

 

 ──げに恐ろしきBlack onyX。

 

 今回の件の総括は、この一言が全てだった。

 

 

 ☽

 

 

 そのあとの流れについて、語るべきことは多くない。

 

 私たちのチームはオファー枠大会の中で優勝を果たした。

 

 大会全体としても、KASSENも既存IPも大盛り上がりだった。数多のプレイヤーと観客の皆が、その試合展開に笑い、泣き、叫び、歌っていた様を……みんなの心が一体となって揺れ動く様を私は確かに観測した。

 新しくゲームを始める人も、新しい推しプレイヤーを見つけた人も大勢いることだろう。その伝播していく熱こそが、私がこの大会に求めたものだった。

 

 同時に、ノイ君のプロデュース方針に私が細々としたサポートを行う形でBlack onyXのアイドル活動も始まった。彼の演出に対する創造的ながらも地に足のついた発想は確かなもので、私は僅かながらの助力しかできなかったけれど。

 

 グループの内二名が優勝を果たしたことで宣伝効果は充分。アキラ君とライ君は、艶やかな所作を崩さず、しかし意外と好戦的に振る舞う新解釈ヤッチョという華に何ら劣らぬパフォーマンスを見せつけていた。彼らの懸念は杞憂に終わったと言えるだろう。

 

 スタートで躓きさえしなければ彼らはその全能力を発揮してスター街道を駆け上がれるだけの力があることは実体験として味わっている。なので三年後のBlack onyXは、私を助けてくれたように、きっと彩葉を助けてくれるに違いない。今の私はそう素直に信じられた。

 

 ちなみにYACHI8000のことが彩葉に露見することのなきよう、私は最大限に注意を払った。黒鬼の三人にも悪友の皆にも再三に渡って口外しないことをお願いし、不用意にネットなどに書き込んでいるところを発見したらこの国の情報インフラを縄文時代に戻してやると脅しつけたので、このセンはもう大丈夫だと信じたい。

 

 

 

 

 そして────

 

 

 

 

「"──すべての道は、改悟に繋がる"」

 

 

 大会が恙なく終わり、新宿のゲームセンターでスマコンを装着した()()()()と心(あった)まる対戦会も終えた夜。

 

 

「"──無為なるものは何もなく"」

 

 

 私はツクヨミ第一層南端に位置する鳥居の上に立っていた。

 サーバーメンテナンスタイム故、世界は普段とは打って変わって静まり返っている。

 

 背後には、灯が消え余人立ち入れぬ静寂の都市。前面には、何も浮かばず何も沈まぬ澄み切った静寂の海。

 

 

「"──春名残る雪の如く。昼天の月の如く"」

 

 

 この海の清らは、私自身の望みと諦めを切り出して作った心象だ。

 

 距離的制約を超えた先にある皆の広場。誰も殺し合わず、遅滞なき相互接続が行われる安らぎの場所。「ここしかない」を否定するための、あらゆる支流の結節点たる大海原  

 

 

「"──全て和し、度一切は清らなる哉"」

 

 

 そして、海の青にも空の青にも染まれない私の漂泊を示すものでもあった。

 清浄であるということは、そこに何も持ち入れないということなのだから。

 

 

「……なんて、そんなワケなさすぎるんだよね。じゃあさっきのタイステでの罵り合いは何だったのって話」

 

「ヤチヨ、いいのか?」

 

 

 私はFUSHIをひと撫ですると、一気に創造を開始した。

 

 

 それは一面の廃墟と瓦礫。

 それはベッドが外に置かれたサナトリウム。

 それは燃え落ちた天守閣。

 それは一部分だけ煌びやかな遊郭。

 それは揚羽蝶紋の旗掲げた無数の船。

 それは打ち捨てられた琵琶。

 それは収奪された異国の寒村。

 それは──

 

 ひとつ、またひとつと生み出されてはツクヨミの空に浮かべられていくそれらは、全て全て、私の友達が、私を置いて向かった終着駅の光景だった。

 1/1スケールの規模サイズ感でもって生み出された大小さまざまなそれら遺構遺物のイミテーション。それらの数がそろそろ三桁に迫ろうかというところで、私はオブジェクト生成を取りやめる。

 

 

「凄い情報量だな。ツクヨミの処理負荷、12%上昇してる」

 

「ツクヨミはまだまだ広がるよFUSHI。ユーザー数も、世界の規模も、それを支える計算能力もね」

 

 

 空に所狭しと浮かぶ大小さまざまな思い出たちをひとしきり眺めた後、私はついっと掲げた右手の人差し指を下げる。そうして、空に浮かぶ大小さまざまな過去の名残は水柱のポリゴンをまき散らしながら一斉に海中へと沈んでいった。

 

 

「ヤチヨ、津波が起きる! 流体シュミレーターをオフにしろ! 早く!!」

 

「あわわわわ……!」

 

 

 

 ☽

 

 

 

「皆のお墓を作りたい訳じゃないんだよね。ここは生きている神々の皆のための場所だから。それに、私に忘却する機能はないから思い出の外部化は必要ないの」

 

 

 ツクヨミ第一層(パンケーキタワーの一段目)が津波に吞まれるインシデントをすんでのところで回避した私は、海中に沈めたオブジェクトひとつひとつをライトアップするため、それらの上に光る鳥居を沈めていった。

 

 

「でもね」

 

 

 ──貴女は、戦うものの顔をしている。見慣れた顔だ。ならばきっと、問題ない。

 

 

「私が戦っていた皆と同じ熱とか、同じ痛みとかをさ……ちょっとでも共有(シェア)できていたのかもなって思えたんだ」

 

 

 最後に、サイズ比と沈んだ場所の問題で結構な数余ったゲーミング鳥居を海上の一か所に積み上げる。今後はここを(ヤチヨ)のメインライブ会場にしよう。そんなことを思いながら。

 

 

「だから、皆は(ツクヨミ)の一部だよ。それを明け透けに表現したかったのです。それが貴方たち戦っていた人たちへのリスペクトの証になるって、帝様も仰っておられましたから!」

 

 

 最後に柏手をパチンと打って流体シュミレーターを再稼働させる。

 

 水面より突き出す焼け焦げた大阪城の天守閣。そこに打ち寄せられた波が飛沫のポリゴンを飛ばす様を確認してから、私はメンテ終了の告知を出した。

 

 

 

 彩葉はこの大会以来、KASSENを様々なルールで遊ぶようになった。

 

 楽しそうに対戦する彼女の熱が伝導してくる。

 

 ただ、今の私がそれに堂々と共感(シェア)できるようになったことが嬉しかった。

 

 

 

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