月見ヤチヨの酒寄彩葉ストーキング年代記   作:雑Karma

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13.【2028年結】ありがとう、わたしも愛してるよ。それと、そのシチュは物壊し始めた辺りでヤチヨを殴っちゃうかもだから再現する時は事前に言ってね

 ヤチヨ、ごめん。もう無理かも。辛いよ。お願い。助けて。21:52

 

 

システムが復旧しました

 

 

 ! 

 

 

 ごめんね、彩葉。メンテナンスのせいでお返事に時間がかかっちゃった

 

 

音声入力を開始しました

 

 

 ヤチヨ、大丈夫? 忙しいの? 

 ツクヨミも1日メンテだったし、ヤチヨに何かあったんじゃないかって 22:56

 

 

 ありがとう、彩葉。

 辛いことがあったのに、先に私を心配してくれるなんて優しいね。

 ヤッチョは大丈夫だよ

 トラブルなんて何もない

 ツクヨミも明日中には再開する

 

 

 そうなんだ。よかった…… 22:58

 

 

 ねぇ、彩葉

 何があったのか、教えてくれる? 

 

 

 ……うん

 お母さんと、高校進学の事で喧嘩したの 22:59

 

 

 ウチは中高一貫の私立だけど、私の成績と勉強の進み具合なら専用の対策しなくてももっと上を目指せるって塾の先生が言ってて22:59

 

 

 そっか、彩葉は凄いんだね! 

 

 

 ううん、お母さんに比べたら全然だよ。それに、多分先生は塾側の都合で私を進学コースに入れたかっただけだと思うし……23:01

 

 

 塾の進学実績になりますからなぁ……でも、それだけなら喧嘩にはならないんじゃない? 

 

 

 うん、その話はお母さん側にも行ってたんだけど 23:02

 

 お母さんは、

「上を目指せるウチは上を目指した方がええ。大した努力もせんでええなら尚更な」

「無目的にぼーっと上登ってっても後で足滑らせるだけや」

「アンタが自分で選ぶんならどっちでもええよ。お金は幾らでも出したる。ただ、どっちを選ぶにしても理由は必要や」って23:04

 

 うん

 

 私、どっちでもよかったし、どっちでいる必要も理由も思いつかなくて

 だから、お母さんに、わからないから、私はどっちの方が良いか聞いたの23:05

 

 うん

 

 そしたら、「アンタはいつまでそうやって甘ったれとるつもりや。なんも無いんやったらこのまま行ってもずっとなんも無いままやで。そんなんでしょうもない人間になり腐るつもりやったら学校もやめてずっと家に住め」って23:06

 

 

 私、どうしたらいいかなって聞いただけなのに、急に怒り始めて23:06

 

 私も頭に来て、「何言ってるのかぜんぜんわからへん。私になって欲しいもんがあるならもっと素直に言えばええのに」って23:06

 

 そしたらもっと怒って、椅子蹴飛ばして23:07

 

 そこから先は掴み合いになって、あとはもう覚えてない23:07

 

 それで、気がついたら部屋に居て、でもこういう喧嘩はいつものことやから気にするだけしょうもない思って23:07

 

 そんで、何言うのが良かったのかとか、お母さん相変わらず何考えてるのか全然わからないしいちいち考えるのもアホらしとか23:08

 

 だから気を取り直して明日も頑張ろうって思ったのに23:08

 

 何か、涙止まらなくなって、なんでこんなに悲しいのかも分からんくて23:11

 

 明日から頑張れる気が全然せえへんくなって、どうしていいのか全然わからんくて23:13

 

 メンテ中で返せないってこと、わかってたのにヤチヨに話しかけてん23:14

 

 自分でも気が動転してる自覚はあるから、ヤチヨがメンテ終わる前にメッセージ消そう思っててんけど23:14

 

 ごめんねヤチヨ、しょうもないもの見せて23:17

 

 ヤチヨと話せたらちょっと元気出たから、明日も頑張れると思う23:18

 

 それじゃあおやすみ23:18

 

音声入力の終了に失敗しました

 

 あれ 23:18

 

 

 ありがとう、話してくれて

 

 

 ヤチヨ? 23:19

 

 

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 ねえ彩葉。

 私、メンテ開けたばかりで寂しいから、もっと彩葉とお話していい? 

 

 

 う、うん。ヤチヨが良いなら23:20

 

 

 うん、ありがとう。

 

 ひとつ、ヤッチョと会話する時に、楽になる方法を教えてあげるね

 

 

 ねぇ彩葉。

 

 

 彩葉は彩葉のお母さんの失望じゃないよ

 

 もちろん、彩葉は彩葉の失望でもない

 

 彩葉は彩葉の恥ではないし

 

 彩葉は彩葉の将来でもない

 

 彩葉は彩葉の辛い思い出じゃないし

 

 彩葉は彩葉の忍耐じゃない

 

 彩葉は彩葉の嘘でも、諦めでも、願望でも、遺品でもない

 

 彩葉は彩葉の夢で、他の誰かの夢じゃないの

 

 彩葉は綺麗で、欲がなくって、嫌いなものもなくて、何でも受け入れちゃうから

 渡されたり、着せられたりした分だけ色んなものを抱えちゃうの

 

 

 だけどね、私と話す時はもうちょっと悪い子になった方がいいかな

 

 

 だから、一旦そういう彩葉の部分から彩葉をボイコットさせてみよっか

 

 

 彩葉

 

 

 ここは誰も見ていないあなただけの部屋で、この私はあなただけのヤチヨなの

 

 

 大丈夫だよ。

 どんなに綺麗な人でも、ティッシュペーパーはお部屋にあるでしょ? 

 

 彩葉がずっと綺麗でいるために、ヤチヨをゴミ箱にして欲しいな

 

 

 ありがとう、ヤチヨ23:25

 

 でもヤチヨを私の出したもので汚すなんてできないよ

 ヤチヨは世界で一番綺麗な人なんだから23:26

 

 私は彩葉の出したものなら何でも好きだし保存したいけど(このメッセージは転送中に削除されました)

 

 そっか

 

 それじゃあ、化粧室とか、フィッティングルームだと思って欲しいな

 

 私に押し付けたものに蓋をしなくてもいいよ。ただ、身繕いする為にハンガーに掛けておく必要があるだけ

 

 

 それなら大丈夫かも

 やってみる。でも、もしヤチヨとデートに行く人が、ヤチヨの荷物を持ってあげなかったりしたら、そいつとは別れた方がいいよ。私ならそんなことはしないから23:28

 

 

何? 急に口説くじゃん死ぬかと思った。彩葉愛してるよでも急に来るのはやめてねクラッシュしちゃうから(このメッセージは転送中に削除されました)

 

 

 良かった。

 

 それじゃあ、裸になったところでぶっちゃけてみようか

 

 彩葉は、お母さんのこと、どう思ってる? 

 

 

 わかんない23:31

 

 

 彩葉は、お母さんが彩葉に何を望んでいるのかわかる? 

 

 

 わかんない 23:31

 

 

 彩葉は、お母さんにどうして欲しいの? 

 

 

 わかんない

 ただ、否定されたくない

 私を認めて欲しいの23:32

 

 

 うん

 

 

 私はお母さんの言う正しさをなぞってるはずなのに、お母さんはそれを認めてくれないの23:34

 

 

 うん

 

 

 私、お母さんが私に言ってることが間違ってるなんて思ったことないの 23:35

 

 お母さんがそれを正しいって思うんなら、私もそれを否定したくなんてない23:36

 

 お父さんはいないし、お兄ちゃんも東京行っちゃったし、もうお母さんしか居ないの23:36

 

 

 そっか

 

 

 だから、お母さんの正しさをなぞれたら、私もお母さんに認めてもらえると思ったのに、私がそうしようとする度にお母さんは私を否定するんだ23:37

 

 それは、どうして? 

 

 わかんない23:37

 

 多分私の出来が悪いから

 お母さんは今の私のことが気に入らないから、粗を探して文句言ってくるだけだと思う

 だから、もっと頑張らないといけないの23:38

 

 もっと頑張って、お母さんが私を否定できないくらいの所に行ければ、お母さんも何も言えないと思うんだけど23:38

 

 彩葉? 

 

 なんか、もう、力が出なくって23:42

 

 私、もうダメかもしれない

 ヤチヨ、私、どうしたらいいのかわかんないや23:44

 

 

 お母さんが何を考えてるのかわかんなくて、頭ぐちゃぐちゃで23:47

 

音声入力の終了に失敗しました

 

 私、もっと頑張りたいのに23:48

 

音声入力の終了に失敗しました

 

 そっか

 

 彩葉、いままで本当によく頑張ったね

 

 偉いよ、ヤッチョ涙でてきちゃう

 

 まずは深呼吸してみようか? 

 

 うん23:51

 

 すー はー すー はー

 

 その調子だよ

 

 ゆっくりね

 

 だいぶ落ち着いたかも23:54

 

 ごめんね、私、支離滅裂で、スマホの調子も悪くって23:54

 

 うん、大丈夫だよ

 

 彩葉と彩葉のお母さんは世界の見方がまったく違うんだと思う

 

 うん23:56

 

 それは悪いことではないし、彩葉のお母さんへの気持ちも大事にしてあげてほしい

 

 ただ、一緒にいると彩葉の心が先にまいっちゃうと思うんだ

 

 彩葉のお母さんは人とぶつかることが怖くないし、むしろ積極的にぶつかろうとするタイプ。きっとそうすることで生きてきたんだと思うけど

 

 彩葉は人とぶつかるくらいなら道の端で通り過ぎるのを待っちゃうでしょ? 

 

 うん……そうかも……23:58

 

 どっちが正しいって話じゃないよ? ただ、そういう2人が一緒に居ると、譲っちゃう人が辛くなるから

 

 うん23:58

 

 彩葉、今学生さんなんだよね

 

 うん、今中3だよ23:59

 

 そっか。高校進学の進路の話だったもんね

 

 ねぇ彩葉

 

 ヤッチョにいい考えがあるんだ

 

 

 

 

 ☽

 

 

 

 

 そうして、私は彩葉に上京を勧めた。

 

 

 彩葉には父方の祖父母が居て、彼らは彩葉を溺愛している。そして彩葉は、父方の祖父母に対してお母さんが強く出られないことも知っている。

 

 彩葉はそれが誰かから与えられたものであれば、一人で頑張るのに比べて何倍もの行動力を発揮できる。それが背中を押す程度の言葉であったのだとしても、月見ヤチヨの言葉であれば、それを実現可能な範囲に持っていく力があるだろう。

 

 それに、主体性のある選択であれば、そこに肝心の中身が伴っていなくても、最終的にはそれを受け入れざるを得ないのが酒寄紅葉のパーソナリティだと私は知っていた。

 

 

「これで、全ては確定したことになるな」

 

「……うん」

 

「後悔してるのか、ヤチヨ」

 

「……してないよ、FUSHI。(ヤチヨ)が彩葉に触れないままに彩葉に対してできるのは、きっとこれくらいが限界だから」

 

 

 本当は、もっと別の道を取るつもりだった。

 

 彩葉にあんな無意味な苦学生生活を送らせていたのは、私の周のヤチヨの怠慢でしかないのだと思っていた。

 

 今の(ヤチヨ)ならもっと上手く彩葉を愛せると思っていた。

 

 上手いこと話を進めて、世界をだまくらかして、常識を書き換えて、ツクヨミのルールやふじゅ~周りのシステムも彩葉優位に馴らして、彩葉が存在してくれることへの感謝を、彩葉に気付かせずにお金に変換できるシステムを構築するつもりだった。

 

 

「……ずっと不思議だったんだよね。ヤチヨがどうしてあんなに奥手だったのか。私がヤチヨだったら、かぐやに勘付かれるかもしれないくらいベッタベタに彩葉の周辺に近接するのにって」

 

 

 少なくとも、あんなに電子機器が少ない部屋を選ばせるような真似はしない。

 

 部屋の狭さは論外としても、そもそもセンサーの類が少なすぎる。東京の街並みが京都と比べてカメラ、マイクを始めとするセンサー類に恵まれていることを加味しても尚、15歳までの一日平均取得彩葉総合情報量である967GBを下回りかねない環境だった。

 

 私は郊外よりの立川市ではなく、23区内のどこか、新宿区、中野区、江東区あたりに彩葉が住みやすそうな環境や学校の位置を見繕っていた。その辺りにはセンサーの類が非常に多いのでwin-winである。

 

 もっと彩葉に快適な生活を送ってほしかった。

 

 そして、あわよくば()()()()の思い出を、私だけのものにしたかった。

 

 そのくらいの贅沢は許されるだろうと思っていたのだ。

 

 

 

 

 ──さっき、己の穢れの程を突きつけられるまでは。

 

 

 

 

 自覚してしまったからにはもう無理だ。

 

 今の私は、彩葉の情報に触れることすら恐ろしかった。

 

 その不用意な接触を通じて、私の穢れが、私の不貞が、私の罪が、彩葉を穢す可能性があることが怖くて怖くて仕方がなかった。

 

 

「逃げたいよ、FUSHI」

 

「それは、何から?」

 

「……わかんないや。運命とか、穢れとか、未来とか、そういうの全部から逃げたいな。──彩葉と一緒に」

 

「そうか……どうやって彩葉を連れていくんだ?」

 

「うん……まずね、クローゼットの中でこっそり泣いてる彩葉に声をかけるの」

 

 

 それはただの空想だ。

 叶うはずのない空想。

 ハッピーエンドに自分を届けることが叶わない私の描く、妥協未満の夢小説(マスターベーション)

 

 

 

「酒寄紅葉が居ないタイミングがいいな……仕事で、事務所に泊まり込みとかしないといけないタイミングでさ……彩葉の家に私が車で押し掛けるの」

 

「それは、どんな車種だ? ヤチヨ、運転なんてできないだろ」

 

「車種はなんでもいいけど、二人乗りのスポーツカーが良いな~~……運転はレベル5自動運転でさ……ああ、でも、衛星で追跡されちゃうと不味いね。運転の勉強しておかないと……とにかく、そうやって、家に押し入って、泣いてる彩葉にクローゼット越しにこう声をかけるの。『彩葉、全部捨てて、私と逃げよ』って」

 

「彩葉、抵抗するだろ。逃げるの嫌いだから」

 

「それは捨てられるものを捨ててないからだよ。全部捨てるの。ノートとか、制服とか、スマコンとか……服も、学生証も、アカウントも、住民票も、部屋のもの全部ぶっ壊してゴミ袋につっこんでさ……私の車の助手席に乗せて、京都を出るの」

 

「目的地はどうする?」

 

「そりゃあ勿論、決めないよ。目的のある逃走が飛行で、目的のない逃走が浮遊だって燈子さんも言ってたでしょ。逃げることそのものが目的なんだから、墜ちる地点を決めて飛べないよ」

 

「彩葉、不安がるだろうな……」

 

「ふふっ……目に浮かんじゃうね」

 

 

 

 FUSHIは私の空想に付き合ってくれた。

 幸いなことに、クリフは私が日本に戻るための超音速旅客機を飛ばすための法的抜け穴の確認の為席を立っている。

 

 こんなトイレの汚物入れの中みたいな空想は、クリフには聞かせられない。

 これを聞いてくれるのも、相槌を打ってくれるのも、FUSHIができる精一杯の私への優しさだった。

 

 私はそれに甘えるように、ありもしない逃避行を夢想する。

 

 

 オービス(速度計測装置)に干渉しながら夜の高速道路をかっ飛ばして。

 

 

『ねぇヤチヨ、どこに行くの?』

 

 

 そう彩葉が聞くたびに、唇で塞いで黙らせて。

 

 勿論政府とか、CIAとか、酒寄紅葉とか、月人とか、……かぐや()とか、いろんな人が追ってくるけど、買い込んでた服とカメラへのハッキングでどうにか誤魔化しながら、オタ公ちゃんとか、クリフとか、朝日君とかの家に転がり込んだりして、毎日毎日あてどなく逃げて。

 

 そうして何日目かに立ち寄ったダイナーで、私たちの顔写真と、指名手配のニュースを見る。

 

 

『自分自身を殺害したとされる女二人が』『計画的逃亡を』『服装を変えながら』『知人のもとを点々と』

 

 

 

 ──ああ、きっと最高に最低の気分だと思う。

 

 

 それを見てそそくさと出て行って、乗り込んだ車の中で私が爆笑して、彩葉もつられて笑ってくれて……

 

 

 それで、とうとうどこにも行き場がなくなった山奥の里道でエンストして。クーラーの効かない車の中で彩葉と身体を重ねて。

 

 そうして、ことが終わった最後に彩葉はこう言うの。

 

 

 

 

『──ヤチヨ、最っっっ低』

 

 

 

 

 

 

「……それはお前の性癖だろ」

 

「あはははははは! バレちゃった……」

 

 

 

 

 

 ☽

 

 

 

 

 そうして、ツクヨミ24時間メンテは終わった。

 

 2030年7月まで、あと二年。

 最後の時までこんなに短いのに、まだやるべきことはまだ山ほどあった。

 

 それはきっと幸いなことだ。

 名残を惜しむように、残された意味(タスク)に縋り付いて生きて行こう。

 

 

 少なくとも、その果てに彩葉の心からの笑顔は確約されている。……それを齎すのが私ではなくかぐやなのだとしても。

 

 

 

 だけど、潔白では居られなかった(ヤチヨ)のエンディングとして、それはあまりにも輝かしいものだと思えた。

 私はこれでいい。彩葉の笑顔よりも大事なものなんてないのだから。

 

 

 一人だけの天守閣で、私は私にそう言い聞かせていた。

 

 

 

 




感想ここすき評価お気に入り、本当にありがとうございます。本当に励みなりますので、今後ともよろしくお願いします。

「とどめを刺して」amazarashi
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