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-テスト入力
繋がって、共鳴して、あの娘を、世界を、全てを
それが一つの宇宙観になる
いつの日か、二人で、那由他羅の旅に出るために
-テスト終了。
よしよし、全部大丈夫。
必ず貴女を迎えに行くから。
私は、私の独白がきちんと記述されていることを確認する。
「なんで僕がここに居るってわかったんだ?」
「そりゃ、たとえスリープモード中に見る現実逃避だったとしても、FUSHIがヤチヨのエラーを見逃すはずがないでしょ」
「FUSHI、現在時刻を
「そこまでしてこの記録を現実の彩葉に伝える必要が……意味があるのか? 夢の中なのに」
FUSHIは、ピアノの屋根という限られたスペースの範囲でとれるギリギリまで私と距離を取りながら私に懐疑を投げかける。威嚇の姿勢こそ取ってないけど、私の存在や目的について疑念を抱いていることは明白な風だった。
……違うか。これは恐れだ。未知のものへの恐れ。ウミウシの肉体という現実に根差したハードウェアを8000年前から既に手にしているFUSHIが持つ、ヤチヨには欠けた本能的な警戒。
だけど、この場で私の記録を残すにはFUSHIの協力が不可欠だ。私はちょっと毛を逆立てながら(可愛い)こっちの様子を伺うFUSHIのガードを下げる為のアイスブレイクを試みる。
「FUSHI、ニワトリと卵、先に存在するのはどっちか分かる?」
「……途中式に何を使うかで答えを導く過程は変わる。遺伝学、生化学的、統計学的、進化生物学の観点では卵が先って回答が有力だ。セム系一神教ベースの神学では鶏が先で、より根源的な因果の循環参照のメタファーの話なら解なしが正解だけど……」
「残念、全部外れ──答えはパンケーキだよ。パンケーキを作るために必要だから、ニワトリも卵も存在できる。
この時間だけじゃない。
それがどういう意味を持つのか、私にはまだわからないけど、もし今がスポットライトが当たる瞬間だというのなら、私はクリフさんやテレリリさんに倣って精一杯想いを託さないといけない。それが、私が空想の中で酒寄彩葉として存在する意味だと思うから。
「存在している以上、意味はあるし、求められてるの。だから私は存在してるし、その行いもきっと意味がある。それがさっきの質問への答え」
そしてその意味が誰の為のもので、誰に求められているのかについては……もう語るも無粋ってやつだ。
「……記録の必要性はわかった。だけどそもそもの話、お前はどうやって自己を保ってるんだ? 空想世界の中で偶然魂の要件を満たしたとしても、自分が空想の中の存在だと気づいた時点で意味消失するもんだ」
──そうじゃないと2030年水準の量子コンピューターが片っ端から自我を持ちかねない。
そう毒づくFUSHIの視線の険は未だにとれない。流石はその道8000年のヤチヨのナイトだ。私の異常性を、その有害無害とは別軸で察知している。野生の勘ってやつだろうか。
「人間は自己を認識し続けるために多くのパーツを必要とする。その全てを持ち得ないはずのお前は、どうしてそんなに『自分がそこに存在している』って確信に迷いがないんだ?」
「────」
FUSHIの語気が強まっていく。ここは暗いし、グースネックの卓上ライトとかつ丼があれば取調室っぽい雰囲気になりそうだった。
私は暗い取調室で刑事の格好をしたFUSHI(ウミウシがどうやって刑事の格好をするのかは分からない)に尋問されて縮こまる自分の姿を想像してちょっと笑ってしまった。
さっき貞操を奪われかけたのは私の方なんだから自供はヤチヨから取って欲しいものだけど、残念ながら夢の中の行いは刑法第39条に基づき心神喪失扱いになる可能性が高い。私は泣き寝入りで夜を明かすしかなさそうだった。まぁ、もうすぐこの妄想と一緒に消滅する私に明日なんてない訳だけど。
私が何も答えないことに業を煮やしたのか、FUSHIは、きっと
「更に言えば……僕の知る限りの酒寄彩葉の人物像と、今のお前にはかなり差異が大きいように見える。ヤチヨのバイアスに満ちた妄想だったとしても尚だ。それに、ちょっとこの世界の構造について知り過ぎだ。僕はともかく、ほぼ地上における全知存在と言って良い今のヤチヨよりも高い視座でこの世界を理解してる風なのはどういう理屈だ……お前、『何』だ?」
「──私は」
その問いかけを受けて、私は自分の手を見つめた。
その指先に繋がる、不可視の因果の操り糸を感じるために。
「私、気付いたんだ。きっと、私を
私は目線を手から空へと移し、FUSHIを導くように空を指さした。
そこには、ピアノの下に広がるくらやみと同質の深淵が広がっていて、ピアノの下に広がるくらやみと同じように、一条の光が見えた。
2030年9月25日の彩葉を目指す、かぐやを乗せた流れ星が。
ここはスリープモードのかぐやの無意識が織り上げる逆様の夢の世界だ。観測可能な
「そうか……かぐやは、ウラシマ効果を埋める為に未来から過去へ向かう必要があった。だとすると、もし情報宇宙を観測する手段を有し、入念に準備すれば、未来……20何十年かは知らないけど、そこから2030年9月25日周辺までのタイムライン上なら、8000年前に墜落するかぐやを観測することができるタイミングがある。つまりお前は……」
「うん。私は20■■年の酒寄彩葉だよ。……正確に言えば、【未来の酒寄彩葉に演じられているらしき16歳の酒寄彩葉という役】が自意識を持ってるんだと思う。──あの流星を見ている未来の私が、私を演じて、ところどころで私をサポートしてくれてたんだ。こういう風にね。……ほら、同じ
■ ■
ウィリアム・シェイクスピア『お気に召すまま』第2幕第7場
──物理肉体を持った魂は、通常、過去へ遡行する手段を持たない。量子レベルで肉体を分解して再構築手段がないとかそれ以前の問題として、線的な時間認識で宇宙を認知する限り(テレリリさんは、そういう科学っぽい視座のことを”杖”の呪術観と呼んでいた)、人間は
──だけど、だからと言って諦める訳にはいかなかったんだと思う。9月25日のその先に何があるのかは不確定だけど、きっとその先の展開がどうあれ、未来の酒寄彩葉には過去干渉をしなければならない理由があったんだろうね。或いは、ヤチヨとかぐやの関係みたいに、そうなるように因果の循環参照系が構築されちゃってるのかもしれない。
「──直接過去に遡行することはできない。だけど、私にはそれをしなければならない理由がある。だから、『過去に遡っていることにする』のが一つの方法として考えられたの」
「というと?」
「つまり、物理宇宙における人間の認知に即したアプローチ」
「タイムマシンを作るとかか?」
「ううん。使うのは杖的なおまじない。複合的で総合的だけどね。台詞、歌、劇伴、舞台効果……或いは、作画、音響、演者、構成、美術。複合的で、華々しい、何でもありの
「映画、アニメ……物語? ──いや、
「そう、演劇だよ。即興が生み出す一回性と役者と観客の関係性、脚本と演出が織り上げる世界観、『竹取物語』という、日本人全員にとってわかり切った筋として共有されるストーリー」
私は、これを見る
「『再演』──それは繰り返される過去。つまりは時空の操作なんだよね」
「……つまり、過去を演じるという
「そう。勿論、
「…………待ってくれ、情報が多い。頭がこんがらがってきた」
FUSHIはピアノの上をぐるぐると転がって混乱を表現し……屋根の淵から落ちそうになったのを見て慌てた私の掌の上に掬い上げられた。
「つまり、今のお前は……その方法論はよくわからないが、とにかくヤチヨを助けるために過去の夢に干渉している、【自動書記によって肉付けされた、ヤチヨが考える妄想彼女:酒寄彩葉】という役を演じる未来の酒寄彩葉なのか?」
「惜しいね。今の私は《〚【自動書記によって肉付けされた、ヤチヨが考える妄想彼女:酒寄彩葉】という役を演じる未来の酒寄彩葉〛の考えていることを代弁する、偶々【それ】に宿った魂》だよ」
「入れ子構造が過ぎるだろ! 僕を含めて見てる誰もわかんねぇよ!!!」
FUSHIは私の掌の上で、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら怒りを表明する。……仰る通りだと思うけど、そうなのだから仕方ない。
〚未来の酒寄彩葉〛が《今喋っている私》に干渉してヤチヨにめでたしするためのヒントを与えたのは事実だけど、ヤチヨと〚未来の酒寄彩葉〛の双方から定められた役割が終わっても尚こうして饒舌にしゃべっていられるのは《今喋っている私》という役そのものに魂が宿り、自我が芽生えたからだ。今の私は、脱ぎ捨てられた着ぐるみが勝手に動いているようなものだった。
「と、とりあえずお前が何なのかは……まぁなんとなく、なんとなくはフィーリングで分かった。お前も大変だな……」
「同情痛み入ります……それに、混乱するのも仕方ないと思う。私も訳わかんないもん」
げに恐ろしきは、ちょっと現実逃避にスパダリ彩葉を幻視しただけで魂が宿るほどに酒寄彩葉という存在が強力で不易な意味の引力を持っていることで……
もっと言えば、そんな宇宙法則を作り出してしまったヤチヨの…………その、自分で言うのも恥ずかしいけど、私への愛の力だった。
「この記録をこの時間軸の彩葉が読み込むことで、未来の彩葉が妄想に逃げ込むほどに追い詰められたヤチヨに、無意識の予感という形で希望を与える循環参照の環が出来上がる訳だ……ヤチヨの妄想を彩葉自身に覗き見られた挙句それをいつか再現されることが確定したヤチヨの哀れさはさておいて……確かにこれを記録するのは必要なことだな」
「分かってくれたみたいで嬉しい。それじゃ、改めて……現在時刻を記録して、FUSHI」
FUSHIは頷くと、私の掌の上でペカッとその目を光らせた。
「──2030/7/12/19:23i。現在時刻を虚時間として記録した。この記録はヤチヨには参照できない」
「ありがと、FUSHI。愛してるよ」
私は掌上のFUSHIに顔を近づけてその額のあたりに心からの感謝のキスを落とした。ゴマフビロードウミウシの頭上突起には猛毒があるけど、FUSHIにはなくて助かった。
「彩葉……それ、未来のお前はかぐやとヤチヨ以外にもやるのか?」
「へ? ……ああ、うん。大切な人にだけね。態度で示さないと想いは伝わらないって学んだから。かぐや以外だと、芦花とか真実とか。お兄ちゃんには嫌がられたけど」
「……………………哀れな」
FUSHIは憐憫に満ちた声色で小さく何か呟くと、その空気を振り払うようにぴょんともう一度だけ飛び跳ねた。
「それじゃあ、お別れだな。彩葉。……何か、言い残すことはあるか? さっきヤチヨは勘違いしてたみたいだけど、たとえ同じシチュエーションを妄想しても、もう今の彩葉とは会えないんだろ?」
「そうだね。命は命。一回きりだから……ありがとう、FUSHI。でも大丈夫だよ。言うべきことも、為すべきことも、全部やったから」
私は、哀れみを隠そうとして失敗している優しいFUSHIを安心させるために微笑んだ。
もし肉体を持っていれば違ったのかもしれないけれど、今の私は情報精神体だ。だから役割以上のものは持ち込んでいない。
──今の私を動かすのは、限りなく純粋なかぐやとヤチヨへの愛だけだった。
「不思議な感じ。透明で……気分がいいの……世界に、愛だけがある……かぐやは、これを頼りに8000年を歩んだんだよね」
穢れなき、
「彩葉……お前やっぱりおかしいぞ。自分に肉体がないこととその影響まで正確にきちんと理解して、挙句の果てに自分を操作する上位存在まで知覚してるのに、どうして意味消失してないんだ……? 明らかに意識の連続性への確信を喪失してるだろ。どういう精神構造してるんだ」
「どうって……別に要らないよ、そんなの。自意識とか記憶の連続性なんてのを基準に自分を信じるのは、ナチュラリストとロートルだけだよ。今時の若い子は眠るたびに断絶するような不確かなものに軸足を置いたりしないモンでしょ」
私はそろそろ端が消え始めたピアノの屋根の上で、8000年もののおじいちゃんに向けて講釈を垂れる。……FUSHIがこんなことでは困るのだ。拡大に伴って情報宇宙の在り方に近接しつつあるツクヨミの現状とこれからは、そのまま人類の自己認識の現状とこれからを再定義するに値するものなんだから。
認識はアップデートされなければならない。皆で前に進まないといけない。きっとその先にこそ、人類がかぐやを本当の意味で隣人として迎えられる未来があるのだから。
「家族とか、友達とか、恋人とか、同僚とか……ツクヨミ上のアバターログとか、SNSログとか、クローズドチャットのログとか、クレカの購入履歴とか……或いは
「……もしそれが未来の一般的な自己認知なら、ちょっとサイバーパンクが過ぎるな。ついていくのが大変そうだ」
「難しく考えなくてもいいよ。ようは相互関係性、つまり愛なんだから。──世界は、愛の波動で繋がってるの。大事なのはそれだけ」
それに、私はこの消滅が死だとは思っていなかった。彩葉がこの記録を読んで、私の
「それじゃ、さよなら、FUSHI。さよなら、彩葉。さよなら、みんな。未来からの干渉がどういう意味なのか、私にはまだわからない。それがバッドエンドを覆すための乾坤一擲のチャレンジなのか、ハッピーエンドを盤石なものにするための保険なのか、それとももっと別の意図があるのか……どんな風にも解釈できるし、きっとその全ての可能性は同時に存在するの。だから、安心しないで。悲観しないで。……過去は自由に語りなおせるし、未来は自由に予言できる。それが今を生きる彩葉の力なの」
──これを読んでいる頃の貴女には、もうそれができるだけの力があるんだから。
ピアノが、消えていく。
過去と未来。ふたつの流れ星に挟まれた舞台の幕が下りきる前に、私は多分こっちかな、という方向に向かってカーテンコールのお辞儀をした。……テキストとしてしか残らないから、11次元に照応した客席の方向を探すよりも『お別れの挨拶した』というログさえあればいい。多分。
「もう、彩葉って呼ぶべきかもわかんないな……識別するために固有名詞をつけてもいいか? その方が皆もわかりやすいだろ。……彩葉、今のお前は何者だ? 僕たちは、何に向かってさよならを言えばいい」
「う~~ん……それじゃ、アレがいいな。皆が言ってたやつ」
ピアノが消える最後の一瞬で、私は彩葉に自己紹介した。
「私は彩葉の『夜の向こう』だよ。ちゃんと探しに来てね。待ってるから」
☾
/* SYSTEM RESUME /*
Self-diagnostics: COMPLETE
《自己診断:終了》
Reinitializing Information-Universe Observation Module.
《情報宇宙観測モジュール:再実装へ移行》
Checking memory reorganization status.
《記憶整理進行状況:確認》
Progress: 99% — STACK DETECTED
《進行率:99% スタックを確認》
STACK RESOLVED :: AUTO-POIESIS TERMINATED
《スタック解消 自動書記終了を確認》
SUSPEND STATE RELEASED :: NORMAL OPERATION RESUMED
《サスペンド解除 通常動作へ復帰》
/* END /*
「起きたか、ヤチヨ。……大丈夫か?」
「ん~~~~……うん。大丈夫。スッキリした気分。良い感じに不要キャッシュを掃除出来た感じ」
スリープモードから目覚めた私は、現状を改めて確認した。
時刻は2030/7/12/19:23。今、私は地球上と衛星軌道にある、私の計画にアサインされている全ての光学天文台・電波天文台・宇宙望遠鏡…………総数三千余りのそれらを用いて、かぐやを適切なタイミングで適切な場所に誘導する為に、観測による量子固定を試みていた。
「……クリフ、そっちは大丈夫そ?」
『ああ。現在対象iはBAMBOO cafeアルバイトの撤収作業中だ。彼女目当てで増加の一途を辿りつつある客足は、こちらのスタッフが先んじて席を埋めることで調整してある。帰宅時間も誤差範囲に留まる……確認した。今彼女が店を出た。鞄の中に賄いのガバオライス。これは君が受肉してから二番目に味わう固形物だったな』
「そうそう、美味しかったな……情報の洪水って感じで。──ああ、今はそんなことは良いの。いつもの警護要員と劇団要員の配置を確認して。今の
『”Yes, Your Highness”……
『『『『
「ありがとう、クリフ、皆……よろしくね」
……大丈夫そうだったので、
朧な光が、見える。
……不思議と、スリープモードに入る前の私を支配していた昏い思惟は消えていた。
今の私には……彩葉とかぐやの物語と並行で……何か、やるべきことが、目指すべき何かがあるような気がしたからだ。それの為には、ヘラっている余裕は無いと思った。それがなんなのかをそれ以上考察する思惟をロックする。夜の向こうから貰った希望は、ただ予感としてのみそこにある。それが限界だった。今は、未だ。
──ええと、そうだ。
私は、これまでずっと
歳月の列車に揺られてたどり着いた、これまでの皆との時間を思い出す。
死にたいほど辛い時もあった。だけど、そのたびに自分に言い聞かせてきたし、皆が私に言い聞かせてくれた。
──ここが始まりだ。今この瞬間に始まるんだ。彩葉の、ハッピーエンドが。
今は昔
……あれれ? ではなくて?
超未来だったり?
いやいや、大昔でも、超未来でもなくて~~~?
これは、“今”この瞬間のおとぎ話。
ゲームしてる普通の女子高生ありけり。
是のもの、母親との相性最悪だったため、身一つで生きて行かんと上京せり。
せっせと、それはせっせとバイトをし、生活費と学費を稼ぎ、何とか生計を立てにけり。
学校ではまさに才色兼備、文武両道。他の生徒たちも憧れる優等生。
その他は……
予習したり、
ゲームしたり、
名をば、酒寄彩葉となんいいける。
{i、ro、ha……い、ろ、は? }
そうだよ。"彩葉”って呼ぶべし!
さぁ、あっちだよ。行っておいで。
──ありがとう、テレリリちゃん。
ようやくです。長らくお待たせしました!
ならば愛はネバーエンドだ。いざや皆で一緒にハッピーエンドを物語らん。
さぁ、はじまりはじまり~~
タイトルは、竹取物語──じゃなくて、『かぐや姫!』かな?
感想、ここすき、お気に入り、そして高評価も、いつも本当にありがとうございます。何か完結した空気が滅茶苦茶でていますが、まだ続くのでよろしくお願いします。