月見ヤチヨの酒寄彩葉ストーキング年代記   作:雑Karma

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昨日の昼頃にも更新しましたので、お気づきになっていない方はご注意をお願いします。

5/16のかぐやと星街すいせいさんの対談ラジオ(https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=6N87LJL8ZM_01 )、超かぐや姫!のファンであれば必聴ものの内容なので、アーカイブが無料公開されているうちに是非聴いてみてください。
全部、全部か……


【断章Ⅲ】注釈の世界

 ……読んでくれた? 

 そう、クリフさんとヤチヨと、それと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()かぐやのモノローグ。

 

 プライバシー? 

 

 うん、それはかぐやとヤチヨとクリフさんには許可を取ったから大丈夫。

 もう二人には先に相談してあるんだ。

 

 そうだ、かぐやとヤチヨには今日は席を外すようにお願いしてあるの。大筋は先に共有してるし、二人が……特にかぐやがこの場に居ると、ちょっとね。

 

 

 ……何よその顔は。

 

 

 まあいいや、話を続けるね。

 私たちが今経験している主時間からすれば結構前のことなのに今更何をって思ってるだろうけど、そうでもないの。

 

 この記録、続きがまだないでしょ? 

 これは現在進行形でこの時間が記述されていることを意味するんだけど、その記述する主体が私たちの時間なのか、これが記述されている時間なのかは書きあがるまでわからないんだよね。

 

 ……待って、もう少し分かりやすく説明するから。

 

 私が今やってる研究の話をするとき、世界五分前仮説をよく引き合いに出すでしょ? 

 

 私たちからするとさっきの記述は昔あった出来事の文章化に見えるけど、この時間軸の人が私たちの今の会話を……いや、多分全部私の台詞だけで構成されてることになるかな? ……とにかく、今の状況をテキストで読んだ場合、未来の出来事という空想を唐突に脈絡なく文章化されているように見えると思う。

 

 或いは気が狂った酒寄彩葉が、夕暮れの校舎で虚空に話す妄想劇場の文字起こしだったり? 

 

 ∵さて、どこへ行こうか? …… って具合にね。

 

 どちらも共通して言えることは、未来(こっち)でも過去(あっち)でも、世界が唐突に五分前から物語として記述され始めたとしてもそれを証明できないこと。或いは、この瞬間が五分前から記述され始めたわけではないことも同様に証明できないことなの。だから実際のところ真実がどうなのかなんて議論には意味がなくって、50:50の可能性だけがそこにある。

 

 想像してみて? 自分が小説の登場人物だって。

 

 私たちは過去を思い出すことができるけど、それは『過去を思い出す』という所作が描写された瞬間に思い出されるべき過去が事後的に創造されるだけだとしたら……

 

 

 ──そして、この状況は、過去に干渉する手段がテクノロジーとして確立された瞬間からずっと付きまとうことになるの。

 

 過去を物語って、過去を再演して、過去を語り直して、過去を改変することが、いつかは誰にもできるようになったとしたら……真っ先に狙われるのは誰だと思う? 

 

 

 そう、私。酒寄彩葉。

 

 

 稀代の天才。星の開拓者。魂の発見者。月の女神の伴侶にして、彼女と共にもう一つの宇宙を創った者。分断を埋めたことで、さらなる分断を齎した者。人類に事実上の不老不死を齎して、人類の再定義を私情で……後半の肩書はもう十年くらい後の話か。ごめんね、ちょっと最近カレイドスコープを覗きすぎてて時系列に混乱が……

 

 

 ともかく、私は世界の形を変え過ぎた。そしてそれは今後も止めるつもりもないの。まだかぐやを完璧なハッピーエンドの先に連れて行けてないからね。

 

 ……そして、変化っていうのはいつも流血を伴う物だから、当然それを阻止しようとしたり、もとに戻そうとしたりする人たちは出てくるわけ。

 

 

 今はヤチヨが統制してくれてるから大丈夫だけど、最終的には私はざっと数億人規模の宗教団体に異端認定を食らうことになりそうなのよね。魂と死は人間にとっての永遠の課題で、或いは永遠に解かれるべきものじゃなかったかもしれないから。

 

 

 ──ま、コラテラルダメージっちゃその通りなんだけど、そういう人たちに8000年の閉じた環に干渉されるリスクはどうしても発生する。テクノロジーは神秘を剥ぎ取る力がある。今は大丈夫でも、100年後、1000年後にもまだ過去干渉技術がヤチヨのアシストなしに人類に実現できないとは思えないもんね。

 

 一度でも過去に干渉して、それを前提に歴史が動いたという事実がある限り、そういうリスクはすっと付きまとうんだよね。「そういうのがアリ」って世界観になっちゃうから。

 

 誰かが、かぐやの8000年を恣意的に語り直して、過去を我がものにしようとする時が来る。宇宙が冷えて凍り付くまでの幾億幾兆年の間に、その機会は必ずあるの。

 

 だから対策が必要なんだ。だれにもかぐやの8000年を……私たちの物語を穢させないための対策が。

 

 

 さっきヤチヨも言ってたみたいに、私たちが私たちであるためには、消せない業があるの。

 

 

『殺し、奪い、勝ち取る』

 

 

 例え文明と文化がその必要性を遠ざけても、私たちの本質が変わることはない。

 

 それについての良し悪しを論評するつもりはないけど、私はかぐやが私たちの業に触れて汚れるところなんて見たくない。

 

 

 

 ……私以外の誰にも、かぐやを物語らせたくなんかないの。物語は幸福な結末じゃないと駄目。私とかぐやが引き裂かれて終わりなんてあんまりだよ。何千年を隔てても、最後にはめでたく再会して、二人は末長く幸せに暮らしました、で終わった方がいい。そうでしょ? 

 

 面白みがなくっても、退屈でも、既定路線でも、そういうのが大切なの。バッドエンドは論外だし、メリバとか曇らせとかやめてよ、殺したり別離させたりすれば楽しいの? 私には全然わかんない! 

 

 多様性とか趣味嗜好とかそんなものをわたしとかぐやに当て嵌めないで! ヘイトにも凌辱にもNTR展開にもオリ主にも私の愛が負けるなんて在り得ないでしょ!!! ……不確定に揺らぐ二次的なキャラ像、総体として認知される偶像。そういうバッドエンドの余地を生む模倣子は、あの二か月から全部カットするから。酒寄彩葉は、酒寄彩葉由来以外の模倣子を認めない。一切ね。『超かぐや姫!』は私と、私の大切な人の解釈(望みと選択)だけがあればいい。

 

 ハッピーエンドは、最後に笑った人へのご褒美なの。歌うために息を吸うみたいに、高く跳ぶために助走するみたいに、笑うために流した涙がある。私の生の苦しみは全部かぐやのためのものだったし、かぐやの涙は全部私のもの。私たちはお互いにとっての全てなの。ハッピーエンドの花を咲かせるための雨雫を、無かったことになんてさせない。

 

 

 ……ごめんね、熱くなっちゃって。訳わかんないよね。

 

 もっと分かりやすくて実際的な話をしよっか。

 

 

 纏めるね。

 

 過去と未来が自由に改変可能なオープンソースとして在り続ける限り、私たちは、私たちが歩んできた過去や、私たちが今いる現実が創作だ(正しい歴史じゃない)っていう可能性を完全に否定することができないの。

 

 過去と現在を輪廻させて、いつ改変され、語り直されるか分からない不確かな構造が生まれたのは、私がかぐやに「また会いたい」って歌を送ったから。責任は私にあるの。だから、不確かに揺らぐ歴史を変わり様がないものに固定するのが私の目標。

 

 その方法論として、あの二か月間を外側の誰の干渉も許さないくらい強固な運命の礎にしたいの。お兄ちゃんとかには模倣子記録固定帯(クォンタム・タイムロック)って言うと分かりやすいかな。人理定礎でもいいよ。

 

 この計画が完了すれば、あの二か月はそこから先の歴史の大前提として固定されて、連鎖的にそれ以前のかぐやの8000年の旅路も誰にも手出しができない不可侵なものになるから。

 

 

 ……話のスケールが大きすぎてついて行くのがキツい? 何でここに呼ばれたのか分からないって? 

 

 

 ごめんごめん。最近癖になってるんだ、こういう悪役っぽい振る舞い……

 

 

 皆をここに呼んだ理由を説明するね。

 

 皆に頼みたいのは、余白を埋める手伝いなの。

 私には私の、かぐやにはかぐやの、ヤチヨにはヤチヨの二か月があったように、皆には皆の、それぞれの二か月を過ごした訳でしょ? 

 

 それを、要所要所でこの本に記述していって欲しいの。

 

 そうやってこの本を、あの二か月の副読本として機能するようにしたいの。

 

 あの夏、皆が誰と会って、どんな気持ちで、どんな時間を過ごしたのかを物語って──それを編纂して、私とかぐやの物語の余白にぎゅうぎゅうに詰め込むの。認知の世界は閉じた分だけ縮んで脆くなって、逆にみんなで体験をシェアした分だけ広くて強固なものになる。過去現在未来の運命の礎として十分なくらいの解像度にね。

 

 

『私の物語』『あたしの物語』『俺の物語』『僕の物語』……それを『皆の物語』にしよう。

 

 

 

 だからさ、難しく考えないで。二か月かけて定期的に、みんなであの夏のことを振り返る場を作ってみない? 

 

 ごちゃごちゃ意味わかんないことを聞かされたと思うけど、実際皆にやってもらうことはそれだけだよ。

 

 まかり間違っても最後なんかにさせないように、全部話して、全部聞いておきたいんだ。

 

 その内容をこの本に書き留めて、大切に仕舞っておいて、たまに私とかぐやとヤチヨが読み返す。それだけの話だよ。それによって起こる因果律とか現在と過去の保障とか、そういうのは無視して大丈夫だから。

 

 

 

 

 

 ……計画の全容はだいたいこんな感じかな。

 

 どう? 皆、このプロジェクトにアサインする気はある? 必ずしも全員参加の必要はないけど、ちょっとでも語り手の視点が多い方が世界の解像度が上がって余白が少なくなるから……

 

 

 

 ──そっか、皆ありがとう。忙しい人も多いのに……きっと素敵な物語にして、皆の過去も、今も、そして未来に至るまで、ハッピーエンドを確定させてみせるから。

 

 

 

 

 それとね………………? 

 

 

 これは何の根拠もない、なんとなくの空想なんだけどさ。

 

 

 きっと……私たちの物語は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()って気がするんだ。気がするというか、ほぼ確信してるの。根拠はないんだけどね。

 

 

 もしそうだとしたら、ズルをして結末を変えてしまったのは……いつかの私かもしれない。見つけた空白の二日間も、ここじゃない何処かの時間軸の私の影響かもしれない。

 

 かぐやとヤチヨの為にって、因果と時間のことを紐解くほど、そういう考えが頭から離れなくなるの。

 

 

 現実が、皆と一緒にたどり着いたはずのハッピーエンドが、足元から崩れて──ううん、もしかしたらそんなものは存在しなくって、私が今際の際に見る夢なんじゃないかって────

 

 

 ……わっ! 芦花、何!? ……うん、ありがとう。芦花はずっと優しくて、あったかいね。この体温を感じるから、生きてそこにいるって信じられる。大好きだよ。…………あ、逃げた。

 

 

 なによ~~そっちからハグしてきたのに、私の愛が受け取れないって言うワケ? オラオラ~~!

 

 

 …………あれ、芦花、今度は何? 質問って? 

 

 さっきの本、内心はどのくらい描写するのか? ……そうだね、さっきのクリフさんの記述がサンプルになるかな? 

 

 これは、『電子機器すべてに干渉できるヤチヨなら、理論上は疑似的な神視点で2030年の二か月を俯瞰できる』っていう解釈(理屈)に乗っかった記述なんだよね。

 

 だから一応は三人称視点って形式にはなるけど、そこに実際にヤチヨが意識をフォーカスしてたか否かで描写に破綻が生じないように一人称視点とあんまり変わらない形で記述することになるんだよね。だから……結構赤裸々な心理描写になっちゃうかも。

 

 

 これは皆が皆の意志で物語ることそのものに意味があるから、全部に目を通すのは私とかぐやとヤチヨだけだけど……私に見られたくないの? 

 

 

 う~~ん……私はプロタゴニストだから、私だけは目を通さないといけないんだよね。2030年の私にはある程度マスキングが可能かもしれないけど、それでも最終的には『読んだことになる』かな。そうすることで輪が閉じるから……

 

 でも、さっき言ったみたいにメインキャストの視点が多ければ多い程余白が埋めやすくなるってだけで、全員参加が必須な訳じゃないよ。嫌だっていうなら断ったっていいし、そのことで私が芦花を嫌いになったりしないよ。約束する。

 

 そもそもの話だけど……芦花、私は芦花があの時どんなことを考えてたとしても、そして今の芦花が何を思っていたんだとしても、芦花を嫌いになったりなんかしないよ。だって私は、あの時の芦花に救われてるから。

 

 

 卒業ライブの後で、芦花と真実が私のバイト先をこっそり確認したり、マンションに乗り込んでまで私を心配してくれたのを……しかもそのことを黙ってたのに気づいた時ね、泣いちゃいそうなくらい嬉しかったのを覚えてる。……というか、泣いちゃってたよね、二人の前で。

 

 その時思ったんだ。『二人とずっと友達でいよう』って。大好きだよ、芦花、真実。

 

 

 

 …………何よ、真実も、皆も、その顔は。私、かなり真面目な話をしてるんですけど!? 

 

 

 処置無しってどういうことよ。私何か間違ったこと言った……? 

 

 

 へっ? どうしたの芦花。急に改まって。

 

 

『昔語りには参加するけど、その前に伝えたいことがあるから近日中に時間を作って』って? 

 

 う、うん……わかった。丁度空いてるから、明日でいい……? OK、ありがとう。じゃあ明日二人で会おっか。この前真実に教えてもらっためちゃ美味しいレストラン、予約しとくね。

 

 大切な話か……なんか、そんな顔で言われるとドキドキするね。

 

 も、もしかして……愛の告白だったりしてね! 

 

 

 

 …………だから皆して何よさっきからその顔は! 怒るよ! 

 




前々回の内容で説明不足だった部分も兼ねた補完になります。余計分からなくなったという場合は申し訳ないです。設定に矛盾を生じさせないために点と点で星座を作っている側面もあるため、フィーリングで読み進めていただいても問題ないです。

感想、ここすき、お気に入り、そして高評価、いつもありがとうございます。これからも楽しんでいただければ幸いです。
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