ハッピー『エンド』じゃ終われない   作:雑Karma

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かぐ~や誕生日おめでとう!!!


ヒゲソリダイ捌く!あと溜めてたマシュマロから適当に答える!配信

 

 

 
 

 

かぐ~やってヤッチョとどれくらい別人なの? 

 

マシュマロ

 

 

「どれくらいて~と、そだね~~……ちょっと待ってそれっぽい例え考えるから。…………ブイヤベースとアクアパッツァくらい違うし、アップルパイとタルトタタンくらい違うんじゃね?」

 

 

 〇どっちも食い物で草

 〇おいしそう

 〇具体性に欠ける質問に具体性に欠ける回答を返した形

 〇実際俺も気になってる

 〇まぁ皆気になってるし、異口同音で質問されてきた内容ではある

 〇ノリは全然違うし、同一人物でしたって言われてもピンとこないんだよな

 〇配信の雰囲気は近いっちゃ近いけど

 〇滅茶苦茶似てる親子とか姉妹みたいなイメージだけど

 

 

 俎板へ置いたヒゲソリダイへ、あたし(かぐや)は軽く指先を添える。

 

 身の張りを確かめるように背を撫でながら、視界の端ではコメント欄が滝みたいな勢いで流れていた。

 

 

「さっきまで雑談してたのに急に食いつき良くなってくるじゃんね。皆そんなにかぐやの乙女心の内訳が気になっちゃうわけ~?」

 

 

 企画ものやPR案件、音楽、ダンス系、ゲーム配信なんかを行うチャンネルであるかぐや・いろPチャンネルの登録者数がとんでもないことになってきて、ちょっとした思い付きを実行する場としては向かなくなったので、こういう突発お料理配信なんかはサブチャンネルで行う様になっていた。

 

 メン限かつ告知もなし、時刻もゴールデンからは外れてるのに開始早々6桁も人が集まったのは、純粋にかぐやちゃんの可愛さの成せるワザである。

 

 今や全世界はかぐやちゃんにメロメロ(ヤチヨ語)だった。

 

 この可愛さが彩葉のやっていることのヤバさの煙幕になるんだから、一にも二にもまず可愛いというのは大事なことだと思う。

 

 

「『つまり、材料はほぼ同じだけど調理方法が違う料理ってコト?』──そそそ。そういうニュアンスの例えね」

 

 

 コメントの中からコンボが繋がりそうなものをピックアップして読み上げながら、あたし(かぐや)は包丁の峰を一度だけ親指で押さえ、刃先の重みを確かめてから尾の付け根へ刃を寝かせて滑らせる。

 

 すると鱗がザラザラと細かな音を立てながら一枚ずつ剥がれ落ち、銀色の粒が俎板の上で光を跳ね返した。

 

 続けて腹へ浅く刃を入れる。内臓を傷付けないよう力を抜いて、薄い膜だけが綺麗に開いていく。

 

 本日の目標はこの大物を今日食べる分と熟成させる分と長期保存する分に仕分けすることだった。

 

 ドスンと勢いよく魚頭を落として三枚おろしのフェーズに移りながら、あたし(かぐや)とヤチヨの関係についてフィーリングで解説していく。

 

 こういう質問はマシュマロ焼きの度に処理してるけど、それなりの回数の説明を経ても皆あんまりピンと来てなさそうだった。

 

 

「でもさ~~……人間の個体ごとの情報的多様性って殆ど無い訳じゃん? DNAの塩基配列99.9%同じらしいし。そ~ゆ~意味では、無作為に抽出した人間二人の関係よりは遠いって言っていいかも知れんね! 知らんけど」

 

 

 そもそも非検体であるあたし(かぐや)は彩葉と違って理論についてそこまで詳しい訳じゃない。

 

 そういう事情も相まって、あたし(かぐや)の説明も年々雑になっていくのは仕方ないことだと思う。

 

 

 

 〇元々情報ベースの存在だから、情報的差異の比重がそのまま個体差になるって理解でよろしい? 

 

 

 なので、こういう的を射たコメントの存在は大変助かる。

 

 

「うん、そんな感じ! ──クオリアの話とかはオタクには難しくてわかんないかもだけど……ほら、スワンプマンのパラドックスってあるでしょ? 彩葉に身体作ってもらった瞬間のかぐやとヤチヨはそこまで変わんなかったとしても、そこから先は時間経過でどんどん離れてくってのは分かりやすくない?」

 

 

 

 〇魂周りの話よくわかんにゃい……

 〇かぐリスなのに脳科学と神経科学の勉強してないの誉れ低いぞ

 〇そろそろファン数五億行こうってチャンネルの必修科目がそれなの無茶すぎる

 〇ここはサブチャンネルかつメン限だからセーフ……セーフか? 

 〇かぐや道学科必修科目~神経科学 - 認知科学 - 心理学 - 進化心理学 - 認識論 - 現象学 - 言語哲学 - 科学哲学 - 形而上学~

 〇文系なのか理系なのかわからん学科や

 〇なんかフィクション味が抜けなくて、逆にSFの設定理解のつもりで向き合ってるわ

 〇魂、来年から中学生物基礎の学習要項に加わるかもって話だけど

 〇勉強したいからクオリアの話もして

 

 

「向上心たけ~……かぐやも彩葉みたいに皆に講義するのは吝かじゃないけど……これお料理配信なんだよね……まあいっか! まずクオリアってゆ~のは……あれ?」

 

 

 ピロリン♪ 

 

 

 懐古主義的な着信音はヤチヨからのメッセの証だ。

 

 ヤチヨがあたし(かぐや)に通話ではなくショートメッセージを送ってくるのはとっても珍しい。

 

 肉体という器に搭載されたクオリアの影響下にある|かぐやとヤチヨの繫がりは希薄だ。

 一応頑張って繋がろうとすればテレパシー的なシンクロはできないこともないけど、それをやるとボディの適合率が下がって反応が鈍くなるからあんまり好きじゃない。

 

 ヤチヨとかぐやが完全に同じものなら彩葉が頑張って身体を作ってヤチヨという総体からかぐやを切り分けた意味がないし、それでいいんだと思う。

 

 私は三枚に下して皮引きを終えた切り身をフードシーラーに掛けて真空パックしながらヤチヨからのメッセージを開いて……

 

 

「────ごめん皆、急用入ったから配信終わるね」

 

 

 〇ありゃ残念

 〇サブチャン特有のノリだ

 〇いろP帰ってきたかな

 〇おつかぐ~

 〇結局だれも料理の話しなかったな

 〇マシュマロ焼き配信だし、かぐ~やも手元について言及しなかったからな

 〇おつかぐ~

 〇いろPの愛妻料理レビューの前座という説もあります

 

 

 

 ちゃちゃっと配信を閉じて真空パックした切り身もそうでないものもまとめて冷蔵庫に突っ込むと、私はスマコンと端末だけを掴んでドタドタと玄関まで走り、スポーツサンダルに爪先を引っかけて外に出る。

 

 メッセに書いてあったのは二言だけだ。

 

 

 

 

『助けて』

 

『彩葉が消えた』

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……彩葉のバイタルサインが全部消えたの」

 

 

 マンションのエレベータを下りていると、スマホからヤチヨの声がした。事前の通知や挨拶を抜いて勝手に入って話しかけてくるのは、きっと余裕がない証拠だ。

 

 

「スマートデバイスだけじゃなくて、血中のナノマシンも、主要臓器に埋め込んたマイクロチップも、全部一斉に信号が途絶した」

 

「消える直前までに居た場所は?」

 

「酒寄研」

 

 

 マンションの外に出たタイミングで目の前にピタリと止まった無人の黒いワゴン車に乗り込むと、説明の声がスマホから車のスピーカーに移った。

 

 炎天下の中走ってきたであろう車内温度は40度を超えていて、ドアを開けた瞬間あたし(かぐや)は顔を顰めた。こりゃきっと純正の人間じゃ耐えられないだろうな。

 

 彩葉のくれた身体に感謝しながら車内に乗り込みつつ、ヤチヨからのブリーフィングを受ける。

 

 

「監視カメラの映像は? いっつもカメラで彩葉のこと盗撮してんのに見失ったの?」

 

「研究室のいくつかのフロアはカメラが無いの。3-B-16号研究室に入ったのまでは確認してるから、ひとまずそこに向かって」

 

「知らない研究室だ……結構冒険したのに未開拓エリア多すぎ~~」

 

 

 あたし(かぐや)が後部座席から身を乗り出して車内のエアコンを弄っている間も、ヤチヨは淡々と……独り言みたいな調子で話し続ける。相当焦ってんなこりゃ。

 

 というより自分の内側に閉じこもってる感じだろうか。かぐやがその"内側"に居るってだけで。

 

 今更ではあるんだけど、あたし(かぐや)とだけ話すときのヤチヨは、彩葉に対してするような甘やかな調子とも、配信の時のような大袈裟な振る舞いとも違う。ただスピーディーに模倣子を伝達しあうことを優先してる感じだった。

 

 多分、内的な葛藤や自問自答の延長にかぐやとの会話を置いてるのかな。かぐやにとってのヤチヨはあんまりそんな感じしないのに。

 

 身体を得てかぐやとしての相を再獲得した"私"。

 

 身体に搭載された完全な不完全さの五感(センサー群)を通した思い出(経験情報)が増えていくほどに、かぐやはヤチヨから遠ざかっていく。

 

 ……こういうギャップが、今後も広がっていくんだろうな。

 

 

「心筋梗塞とかの突然死リスクは全部生体センサーからモニタしてるし、彩葉が交通事故に遭う可能性が10%を越えた時点でそれを止めるための交通統制が発生するようになってるの。最近は警察も公安もCIAもFBIも信用しきれないから暗殺とか誘拐リスクは専用の人材をこっちで育てて対処してるし、そもそも彩葉の2000m以内に近づいた全ての動物は漏れなく監視対象にしてる。衛星攻撃技術の開発ツリーは10年前に切ったから(ヤチヨ)以外できないはずだし……」

 

 

 彩葉には聞かせられない独白がスピーカーから垂れ流されている間にも、運転手の居ないワゴンは高速道路並みのスピードでビュンビュンと他の車を抜かしていった。

 

 ヤチヨ曰く、あらゆる交通管制システムにもカメラにも映らない上に、信号のタイミングの微調整や接近車両のブレーキへの干渉もやってるから事故は起きないらしい。

 

 

「食べ物はかぐやが作ったもの以外は食べさせてないからそっちは排除してい~よ。……つまり、神隠しってこと?」

 

「サンピエトロ大聖堂程度の呪術的防備はあるし、呪い返しで第七親等まで呪殺できるようにしてる。そもそも、それを行使するのが人間な時点で私の目から逃げられる筈がないの。彩葉の事をちょっとでも調べた時点でその背後関係は解析かけるようにしてるから……」

 

「いちおーいっとくけど、神隠しは比喩表現ね……彩葉が神様に見初められちゃったらどうする?」

 

「今の私、結構な数の神様と習合されてるし、聖人認定も貰ってるからそれなりの格までなら殴り倒せるけど……かぐや、どうしてそんなに落ち着いてられるの?」

 

「ヤチヨこそどうしてそんな慌ててんの? 常識で測れないことがあったら大体彩葉が原因っしょ。どうせ今回も……あ、着いた着いた」

 

 

 出発から10分ジャスト。新宿に居を構える酒寄研究所に爆速で到着したあたし(かぐや)は、ダッシュで職員用入り口に急いだ。外出用の服を着てる暇がないまま家を出たからあんまり人に見られたくないのだ。

 

 

「ねぇかぐや、なんか人少なくない?」

 

 

 指紋・声紋・瞳孔紋の三紋認証で開錠して館内に入って、三階のBフロアに向かうエレベーターに乗る途中、職員の人に全く遭遇しなかったことをヤチヨに指摘された。

 

 あ、これ気のせいじゃないんだ。

 とすると……

 

 

「……な~んか読めてきたんだけど。ヤチヨ、職員さんたちのスケジュール確認できる?」

 

 

 ここのセキュリティはヤチヨのよって電子的にも物理的にも世界最高峰で、誘拐なんかを防ぐために各職員の活動時間もランダムに配備されていて、ヤチヨでも逐一確認しないとわからないようになってるらしいんだけど……

 

 

「──この辺りのフロアだけ空白ができるように調整されてるね。これができるのは……」

 

「彩葉一人っしょ! やっぱり彩葉が原因だよこれ……暗殺とか誘拐とかじゃないんならそんなに焦ることもないんじゃない?」

 

 

 三階に着いて、いつもの賑わいを知る身からすればいっそ気味が悪いくらい静まり返ったBフロアの廊下を走って目的の研究室に到着する。

 

 ヤチヨと話しながらじゃなかったら正直ちょっと怖かったかもしれない。

 

 

 

「かぐや、入りま~す! ────あれ?」

 

 

 認証機の前に立ってカメラを覗き込み、指を押し当てながら元気よく挨拶したのに開錠音がしなくて、あたし(かぐや)は首を傾げた。かぐやのセキュリティクリアランスは一番上の筈なんだけど……

 

 

「彩葉以外に入れないようになってるね……というか、この部屋初めから彩葉以外が入れなくなってるみたい。ちょっと待ってて……うわ固ったなにこのセキュリティ! 組んだの誰!? (ヤチヨ)でも秒で解けないって過剰防衛過ぎ~~! 宇宙人とでも戦うつもり!?!?」

 

「自画自賛回りくど~~……あ、開いた開いた。うわっ」

 

 

 ヤチヨのハッキングから十数秒後、ガチャガチャプシューといくつもの鍵が同時に開く音とともに、見た目の数倍の分厚さの扉が()()()スライドした。

 

 

「これ、上開きだったんだ……じゃあこの蝶番とかドアノブってフェイクなワケ? 彩葉やってんねぇ!」

 

「こんな設計、(ヤチヨ)把握してなかったんだけど……」

 

 

 そうして明らかに機密っぽい……しかもかぐやとヤチヨの二人にも伏せられていたっぽい隠し部屋みたいな場所。

 

 隠し部屋!!! 

 

 好奇心をくすぐるその響きに胸をときめかせながら、あたし(かぐや)はヤチヨが入ったスマホと一緒に勢いよく入室して……

 

 

「「────────」」

 

 

 二人で仲良く絶句した。

 

 

 そこには、ドアの外観からは想像不能なくらい広い、ちょっとした講堂じみたスペースが広がっていたとか。

 

 ゴウンゴウンと響く、いくつものファンの音と、仄青く発光する基盤の光に照らされた、そのホールの中央には、いくつものケーブルが繋がった、10mくらいはありそうな巨大なタケノコが鎮座していたとか。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

 

 その真ん前。コンソールと思しき場所の前にあったものは……いや、なかったものは、流石に想定の範囲外だった

 

 

 

「嘘でしょ……?」

 

 

 

 そこには、彩葉のものとはっきりわかる白衣を始めとする衣服が積み重なるようにしてフロアの上に打ち捨てられていて。

 

 

「彩葉……?」

 

 

 その衣服の上には、彩葉が10年以上前から肌身離さず身に着けている銀色のブレスレットが置かれていた。

 

 

 ……全ての生体反応がロストした理由が今ならよくわかる。

 

 

 彩葉は、跡形もなくこの世から消え去ったんだ。

 

 

 ──きっと、月に還ったあのときのあたし(かぐや)と同じように。




時系列的には前話のちょっと前なので、もしかしたら話の順番を入れ替えるかもしれないです。
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