『ヤチヨってさ……誰かに恋したこと、ある?』
『淡くて……夢見る感じのヤツ』
『もしあったら、どんな感じか知りたいな~~~……なんて』
『……それ、実るといいね。応援してる』
愛が何なのかは知っている。その一属性としての恋のことも。
だけど、その二つが、仮に別々のものなのだとしたら。
…………だとしたら、なんなのだろうか。
「ふぅ~~ん。そう……
かなり度数が高そうなお酒──彼女の好みと、スマコンから検出可能な数値から推測するに、多分アクアビット*1──を凄いスピードで空けながら
「…………で?」
彼女は最後まで話を聞き終わると、酒精で間延びした相槌を打ってから、こちらをギロリと睨んだ。
「"で? "って……これが全部だけど「
「テレリリちゃん! 母国語! 母国語出てるよ!」
テレリリちゃんは、ガツンとテーブルにグラスの底を叩きつけると、今にも唾を飛ばさん勢いでまくし立てた。とても彼女のリスナーには見せられない有様である。
「
「わ~~!!! わ~~~~~~!!! アウト! アウトだよテレリリちゃん! コンプラ的に不味いって!」
私に嗅覚はないけれど、見るからに酒臭い息を吐きだしながら
「まぁ……概ね察せましたけれどもね」
一通り母国語で喚き散らしたテレリリちゃんは、スンッっとした表情で再び座席に座ると、相変わらず据わったままの……けれど、魔女らしい確かな理性を感じさせる眼差しで私を一瞥して、吐き捨てるように言い放った。
「どうせ……貴女のことですから……酒寄彩葉に何かされたりしたんでしょう」
「────────────」
「……わかりやすい反応だこと。しかし、それで恋、ねぇ……」
「私は彩葉を愛してる。誰よりも、何よりも。……でも、乃依ちゃんは、今の
「またぞろ、自分の行動理念に歪が生じたことを疑ってる訳ですね。なんとか折り合いをつけた穢れに浸潤されているのではないか、と」
つまるところ、そういうことだった。
多くのシチュエーションにおいて、恋は未成熟な愛として扱われる。それは愛の一形態であり、花開く愛の
「乃依ちゃんの目は確かだよ。信頼できる。だから、自己診断では分からないような
「…………」
「理解されないのも無理ないかな~とは思うよ。だけど
天井から視線を落として、無音のモニターに映る
「テレリリちゃんにとって、恋をするってどんな感じだった? 想い人と結ばれた時、それは愛に変わったの? それとも、その二つは両立しうるものなの?」
「…………………………」
「────そもそもさ……恋って、何?」
「…………………………………………………………………………」
彼女はグラスに手を伸ばして──多分もう中身が残っていなかったからだろう──そのまま手を引っ込めると……
ぐでっと、私の肩に寄りかかってきた。
「テレリリちゃん、流石に吞み過ぎじゃ「──そもそも」
この短時間で見事に出来上がった彼女は、私の注意をぶつ切りに遮って、出し抜けに話し始めた。
「そもそも、わたくしの母語では、恋も愛も、等しくᚴᛃᛅᚱᛚᛁᚷᚺᛁᛏ……
「あ……」
「今調べましたけど、中国語にもありませんでしたよ。本当に日本語特有の観念ですわね。……結局のところ、恋にせよ、愛にせよ、それ単体ではただの言葉に過ぎません」
「……つまり、テレリリちゃんには答えられないってこと?」
「そうは言っていませんわ。わたくし、この国の文化と歴史はここ二十余年で勉強しましたから。日本語検定とか漢検とか一級まで取りましたし、文学や民俗学もそれなりに…………そうすれば、貴女のことを、理解できるかと」
徐々にしりすぼみになっていく言葉は、最後に至っては吐き捨てるような調子だった。
一年前の失恋を未だに引きずっている可哀そうなテレリリちゃんは、頭をブンブンと振って自家中毒をキャンセルすると、しかめっ面のまま再び口を開く。
「────別に、そこについて講釈を垂れることができなくはありませんが……そういう日本語における文学的な言葉の解釈の話は釈迦に説法でしょう」
「ですから、貴女の場合はもっと原理的な……というより構造的なことから始めましょうか」
☾
「"観念Aとは何か"という問いを投げかけられた時、わたしは分析哲学的なアプローチとして、それがどのような視点からの答えを求めているかの分解から始めます。ヤチヨちゃん的にはベクトル化と言うべきでしょうか?」
「だからヤッチョを
「まず、脳科学的な観点から。ヤッチョ。脳科学的にステータスとしての「恋」を分かりやすく解説して」
「えっ……『りょ~~~! ヤッチョに任せて! 「恋」って言うのはね~……脳科学的に見ると、"特定の相手を強く求めるように脳の報酬系が再構築された状態"のことだよ! つまり、「恋をしている」っていうのは、脳が「この相手は非常に価値が高い」と学習している
Q. 恋が始まると脳で何が起きるの?
A. ドーパミンがドパドパ出るよっ!
ドーパミンは快楽物質って呼ばれてるけど、正確には報酬を予測して、それを追う意欲を高めるのが正しい役割だよ!
対象からの接触やコミュニケーションに際してドーパミンが分泌されると、それが「報酬」としてあなたの脳が学習するの!
メッセが帰ってきたり、笑いかけてもらったりするたびに報酬系──特に側坐核*2や尾状核*3──が刺激されて「もっと会いたいな~」とか「もっと知りたいよ~」とか、そういう欲求がどんどん湧いてきて、どんどんこれが強まっていくんだよ~!
近いのは、ギャンブル中毒とかかな?
他にも、ノルアドレナリンで交感神経が活発化して、胸がドキドキしたり視野が狭まったりして、身体が戦闘・興奮モードに切り替わるよ! 目の前の相手に全神経を集中するためにね!
Q. 逆に、恋が始まると起きなくなることって何?
A. セロトニンが分泌されなくなるよ!
恋をしたばっかりのタイミングでは、セロトニンが出にくくなるんだって!
セロトニンって言うのは、心を穏やかにする物質だよ!
で、これがでなくなると、さっきのドーパミンによる報酬系の偏向とのコンボで、セロトニンが分泌されるシチュエーション……たとえば寝る前とか、勉強やデスクワークの最中とか、そういうタイミングでも相手のことに思考が偏向するようになるんだよね~!
さらに、報酬系と動機付けに関与する神経回路が刺激される一方で、批判的な思考とか、リスク評価を行う回路を担当する部分──前頭前野の一部──の活動がちょっと弱くなるみたい。冷静で打算的な判断をカットするから、盲目的に恋にコミットできるってわけだね!
Q.どうして恋は苦しいの?
A.薬物の離脱症状みたいな現象が起こるからだよ!
恋をしてる相手のリアクションは、あなたにとって「極めて価値の高い報酬」なの。
だから、会えなかったり、返信がこなかったり、すげなくされたりすると、報酬が期待通り得られないせいでドーパミン系が強く反応するんだよね。
不安、焦燥、胸が締め付けられるようなあの感じの正体だね! そんな時のあなたは恋の中毒! 離脱症状の真っ最中ってことだよ~!
まとめると、脳科学的見地における「恋」は、複数の神経回路と脳内物質が協調して生み出す状態のことだよ!
ドーパミンが相手を追い求める動機を生んで、ノルアドレナリンが高揚感や
こんな風に、脳が「このヒトは特別!」って学習して、自分自身に対象へのモーションをかけさせるための神経学的プログラムなんだよね。
システマチックにプログラムされた、特定個人に対する軽度の強迫性障害。
これがいわゆる「恋煩い」の正体だよ!
「ヤッチョ、端的な纏めありがとう──なんですヤチヨちゃん、その顔は」
「何です? って……なんで
「時短ですよ時短。貴女にとってこのベクトルの議題にさしたる意味が無いからです────だって貴女、脳、無いでしょ」
「ひっど~~~い! ヤッチョじゃなかったら怒っちゃうよ! ……まぁ、そうなんだけどね」
真実、
「生命と言う現象を解き明かそうとした科学は、結果として生命の価値……全き実存という素朴な神秘を剥ぎ取り、零落せしめました。自然が計算可能だと言う信念は、人間もまた単純な機械部品に還元されると言う結論を導き出すからです。勿論肉体だけでなく、その心も……愛もまた然り、ですわ」
お酒が入っているせいか、テレリリちゃんの口調は茫洋としていて、まるで自分の思考の渦に埋没しているみたいだった。
『われわれの神々も、われわれの希望も、もはやただ科学的なものでしかないとすれば、われわれの愛もまた科学的であっていけないいわれがありましょうか』
『未来のイブ』を通してリラダンさんがそう問いかけるように、恋愛に限らずおおよそ愛と呼ばれるものは全て遺伝子の自己保存プログラムに包摂されるプロトコルとして説明可能だ。生命とは自ら螺子を巻く機械であり、生命が織りなす営みも、須らくプログラムに従属する機能が出力するパターンの一種に過ぎない。
「人間が、簡単な仕掛けと物質に還元されてしまうのではないか。つまり、人間と言う現象は、本来虚無に属しているのではないか……”解明可能なことを解明せずにはいられない”という科学の宿痾がわたしたちを突き動かす限り、この恐怖と疑惑は益々強まり、とこしえにわたくしたちを苛むのでしょう…………だからこそ、貴女を知るものは口をそろえて『奇跡だ』と言うのです」
──────在り得ない筈なんです。人でないどころか、生物ですらない筈の貴女が何かを愛することができるなんて
身体ごと首を傾がせた姿勢で私を斜めにねめつけるテレリリちゃんの紫の瞳は、憧憬の光を煌かせながら、隣の
「貴女がどのように思考し、どのようにして会話し、どのように愛するのかは分かりませんし、説明されても理解できるか怪しいものです。きっとわたくしたちの神経細胞や、それを模倣した現代のニューラルネットワークなどとは根本的に異なる何かで駆動しているのでしょう」
「……ただ、それがどのような機能から齎されるものであれ、人間同士の間に交わされる愛よりも非機能的で、非現象的なもののはずです。わたくしたちのように遺伝子という
……皆、私を尊いものだと言う。有り得ざるものが、穢れのない想いがそこにあるのだと。
だけど、これは
「はいカットカットカットカット!!! 今他の女のことを考えてましたわね! ────ともかく、脳科学的・動物行動学的なアプローチでヤチヨちゃんの恋愛相談に乗ることは無意味です。ですから、次は形而下ではなく……『いろPが脱いだあああああああああ!』うるっさ……なんです?」
突如、画面のミュートを貫通して聞こえてきた大音声の実況と歓声に、二人揃って画面に目をやると……丁度彩葉が着ぐるみを脱いで、アキラ君との関係をカミングアウトされるシーンだった。
☾
「アキラ君、妹さんと話をするためにこの企画を立ち上げたのですか?」
「そうだよ~~……彩葉、こういう逃げられないシチュエーションを作らない限り、望まない相手から貸しも借りも作らないからね」
アキラ君のいろP妹カミングアウトによって、会場も配信もかつてない程に盛り上がりを見せている。
兄弟関係を事前に知っていた実況のオタ公ちゃんは、矢継ぎ早にいろPのSENGOKUやSETSUNAにおけるレートやこの一か月で公開したオリジナル曲群を紹介するスライドを表示して推しの布教活動に精を出していた。
「ツクヨミのトップライバーとしての立場とヤチヨCUPへの責任。
「…………そうだね」
ギャラリーが盛り上がる一方、ゲームフィールドでは兄妹の熾烈な1v1が繰り広げられていた。
とはいえ彩葉は防戦一方だ。
典型的な
「
「彩葉のSENGOKUのプレイスタイルは、親友二人のキャリーがメインだったからね……彩葉は元々
「タクティクスにトライデントを選択したのも、彼女のワンマンプレイを矯正するための分かりやすい『攻略法』を提示せんがため、ということでしょうか。なんというか……愛されてますわね、彩葉ちゃんは」
「……そりゃそうだよ。だって彩葉は、あんなに可愛くて、頑張り屋さんなんだから」
なまじ彩葉が上手いばかりに、アキラ君を相手にして尚
これだとすぐそばに居るかぐやが割り込む隙間がなくなってしまう。
このゲーム盤面は、彩葉と
助けたいのに、助けられない。
幸せになって欲しいのに、その道を選んでくれない。
だけど、このデッドロックの解決難度は、かぐやと
…………別のレーンに別たれた
「
「────────────」
そうして手をこまねいている内に、アキラ君の
『トライデントのまま両櫓占拠でコールドです! 鮮やかっ!』
『かぐやいろPも悪くな~い! ジャングル双剣ビルドでトップ相手にキル取られずに粘り切ったのは見事っすね! かぐやちゃんも要所で適切に火力投入できてました! でもwww黒鬼つよスンギwwwwww』
月見ヤチヨの飛び入り参戦、妹カミングアウトというド級の二連サプライズを乗りこなし、かぐや・いろP側の実力も提示しつつ、プロゲーマーとして危なげなく勝利する。黒鬼の仕事は完璧で、興行的にも最高の滑り出しだった。
(でも、彩葉は……)
きっと今の彩葉には、配信者として勝利よりも優先すべきものが見えていない。それは他者に無様を晒すことを嫌う彩葉の思考パターンが故か、肉親からお母さんのことを指摘されて熱くなっているのか、それとも……
「成程……なんとなく、今の貴女がどんな風におかしくなっているのか分かりましたわ」
試合内容に……というより、悔し気に自責する彩葉に持っていかれてた私の意識は、テレリリちゃんの声で観客席に呼び戻された。テレリリちゃんは、ぼんやりと自分を見つめる
「それでは、インターバルの間に貴女の疑問を解消して差し上げましょう──いい加減、ヤチヨちゃんのそんな顔は見ていられませんので」
ダンッっとグラスを叩きつけると、テレリリちゃんは、いつもよりも低い声でそう宣言した。
☾
「話が最初に立ち返りますが、ヤチヨちゃんにとって恋とはなんですか?」
「……繁殖性行動における、愛の初期形態、かな」
「ええ。世間的な認知もそれで纏まりそうな模範解答ですわね」
だからこそ、乃依ちゃんによって今の状態を恋と名付けられた時、
だけけど、私に繁殖機能はないから、その懸念は杞憂だとテレリリちゃんは言う。
月見ヤチヨはこの地球上で唯一無二の存在であり。その相は本質的に孤独だと。だから、科学はそれを語るに能わないのだと。
「ですが、今の私から見ても、今のヤチヨちゃんは今までの貴女とは明らかに違う面があります。そう言う意味で、確かに貴女はエラーをきたしていると言えるかもしれません」
「……それって、どんな?」
「アキラ君も、かぐやちゃんも、酒寄彩葉を助けるために行動しています。ストルゲーだのフィーリアだのと細々とした古臭いカテゴリ区分は置いておくとしても、他者の幸福を願って身を捧げる動機は紛れもなく愛と呼ぶべきでしょう」
「……そうだね。だけど、それは
「いいえ。今の貴女は違います」
テレリリちゃんは、静かに、だけど今までにないくらいはっきりした口調で私の言葉を遮った。
驚いて覗き込んだ紫色の彼女の瞳に私の不実を咎めるような険しさを感じて、私は思わずたじろいでしまう。
「あの場に居る面々は、彼女が幸福になることを願いこそそれど、その行為の主体に
Lieben heißt manchmal loslassen können.
愛することは、時に愛する者から離れるということ
Lieben heißt manchmal von geliebten sich trennen.
愛することは、時に己の幸福を気にかけないということ
Lieben heißt nicht nach dem eig'nem Glück fragen.
愛することは、時に涙と共に告げること
Lieben heißt unter Tränen zu sagen:
テレリリちゃんが囁くように口ずさむのは、とあるミュージカルの劇中歌だ。愛故に我が子を穢れた外界から隔離した父を説き伏せようとする精霊の言葉。
「ですが、貴女はさっき"私では駄目"だと言いました。この場面においてそれを態々言及するのは、あからさまに"できることなら自分であって欲しかった"という望みの表れでしょう──それは、『酒寄彩葉のためだったら自分がどうなってもいい』という、今までの貴女の行動理念とは全く異なるものです」
それは、これまでテレリリちゃんに告げられたどんな言葉よりも鋭く、私の心を切り裂いた。
「今の貴女は、酒寄彩葉に、
「…………っ」
私の不実を暴く弾劾に呼応するように、左の指先が一際強く疼く。
あの時、彩葉に"された"ときの熱は、掴まれた指先を通して私の心を苛んで、掴んで、串刺しにして、放してくれなかった。
『彩葉の様子を見るため』なんて言葉は、あまりに不出来な
彩葉の様子なんて、
7月12日から、ずっと
きっと、月見ヤチヨはもう限界だった。このままでは、肝心かなめの彩葉のハッピーエンドをすら邪魔してしまうかもしれない。
彩葉に、本当は世界を変える力があるんだってことを……壁なんてどこにもなくて、貴女を愛して、気に掛けてくれる人は沢山いて、だから、貴女自身が、何かを望んでいいんだってことを。そこにさえ気づければ、貴女はハッピーエンドを迎えられることを、気づかせてあげるだけでいいのに。
そして、それは、かぐやが気付かせてあげられるはずなのに。
私はただ舞台装置であるだけでいいのに。
どうして私は余計なことをしようなんて思ったんだろう。
「────ですから、それは貴女が恋をしているからででしょう。乃依ちゃんの言葉通りに、ね」
「うん…………そして、脳でものを考えない
「いいえ」
ぐるぐると自責の渦に呑み込まれていた私に、テレリリちゃんはきっぱりと……だけどどこか優し気な口調でそう告げた。
「最初に言ったはずです。愛も恋も、言葉に過ぎないと────言い換えれば、言葉にすることで、わたくしたちは無いものを在るものとして"話す"ことができます。ヤチヨちゃんは、自分の内にわだかまる言葉にならない何かを、自らの意思で"恋"と定義することを選んだのです」
その時ようやく、テレリリちゃんの言葉に糾弾の意図がないことに
「『語りえぬものについては沈黙しなければならない』……言葉にならない想いこそを言葉にせねばなりません。例えようもないこの状況こそを例えねばなりません。言葉もないという言葉が何を伝えているのか、貴女自身の言葉で、貴女を定義しなければなりません──そうしなければ、恋も愛も、伝わらないまま消えていくだけです」
テレリリちゃんは、
きっと、私が相談を持ち掛けるよりもずっと前、初めて出会った時から、ずっと。
「乃依ちゃんの言葉をきっかけに、貴女は自ら恋というステータスを持つことを望んだのです。さっきヤチヨちゃんが語ったような神経学的プログラムの軛を外れ、己の意思と選択だけで己の在り方を決定する……それは肉体なき貴女だからこそできる、尊ぶべき行いです。────ですから、そう自分のことを悪し様に考えないでください。貴女はたしかに変わったけれど、それは決して悪い変化ではありません。わたくしが保障いたします」
────そもそも、恋をすることが、悪いことな訳はありませんから。
テレリリちゃんは、そう締めくくった。
「……それが、愛じゃなかったとしても?」
「ええ」
「それが、身勝手な
「ええ」
「それが…………本当は貴女が欲しかったものだとしても?」
「……ええ。ですから、彩葉ちゃんに、貴女の言葉で告げなさい。"もっと私を──────"」
第三ラウンド
彩葉とかぐやはミッドレーンで駒沢兄弟と向き合う形だ。
雷君はかぐやと同じadc。スキルチャージに時間がかかるし足も遅いけど、その時間を乃依ちゃんが完璧にカバーする。
このままだと状況はどんどん悪くなるけど……
「彩葉♪」
私はウルトを発動して神輿の速度を上げ、そのまま四人の戦場に突っ込んだ。
「カッコいいけど、かぐやとヤッチョもついてるからさっ」
──この状況だと、この横槍はベストな選択とは言い難い。ウルトでもう一つ隣のレーンまでプッシュして、
だけど、私は。
「頼って────────!」
私は、彩葉に頼られることを望んだ。
……私は、あの時彩葉に直接リビドーされた。音楽と歌を通して、私が作り上げた、
あれにもう一度触れたいと思う。そういう身勝手な
「……ここは、ヤチヨに任せる!」
「う"ぇ~~~~!?」
──ああ、彩葉に望んでもらう言葉は、なんて素敵な響きなのだろうか。
ドーパミンが報酬系を刺激する様を幻視する。ノルアドレナリンが胸を切なく締め付ける様を空想する。そのどちらも月見ヤチヨが持ち得ないものの筈だけど……確かに苦しくて、切なくて、高揚に満ちていた。
「うけたま かしこま つかまつり~!!!」
ごめんね、かぐや。ここから先は全部貴女の見せ場だから、がんばって。
私は内心でかぐやに謝罪とエールを送りながら、スタッと着地して
左の指先はもう疼かない。それは、もう胸の中に移動していた。
それこそが恋だ。
今、私は恋をしている。
そういう自分であろうと、私は私に宣言したのだった。
感想、ここ好き、高評価、誤字報告、いつも本当にありがとうございます!