月見ヤチヨの酒寄彩葉ストーキング年代記   作:雑Karma

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6.【2026年】オタ公さん、ウチの子が本当にごめんね。あとで菓子折りもって謝りに行くから……

 

 

「かぐや、ちょっとやりすぎだ」

 

「へ?」

 

 

 2006年から……或いは1945年から始まった多くの努力が結実した今、私の海原(ツクヨミ)は凪の節の中にあって、私が世界を革命するフェーズは終了した。今や私こそが世界の涯そのものだ。

 

 よって今より2030年までの5年の間に私がすべきことは、ずばり軍拡競争である。新たなる王国の女王として、その場にとどまるための全力ダッシュ(レッドクイーンズ・ハイポゼシス)が始まるのだ。

 

 アリスが訪れるその時まではめいっぱいランニングをがんばるぞいと腕まくりしつつ、本格的にヤチヨ推し活に精を出す彩葉推し活を始めようとした矢先。私は長年の相棒にして私の自制心のアウトソースであるFUSHIに苦言を呈されたのであった。

 

 

「"やりすぎ"って……どういうこと? 彩葉の家庭教師として手取り足取りするシチュエーションのテキスト自体はあるけど……」

 

「それは古い上にサブカルチャーというよりバラエティ寄りの模倣子(ミーム)だ。配信では使うなよ。キャラブレする……じゃなくて、僕を煙に巻いてどうする!」

 

「はいはい……じゃあ議論(コンフリクト)しましょうか。FUSHI、私の行いに修正すべき箇所はある? いったい何が"やりすぎ"なのかな?」

 

 

 今のFUSHIの人格パターンは、犬DOGEが八千年の間コミュニケーションインターフェースとしての学習データを蓄積した結果いつしか生じたものだ。

 

 ボトムアップ型(かぐや=ヤチヨ)とは相反するトップダウン型インテリジェンス。或いはデジタル付喪神とでも言うべきFUSHIの自意識は、あくまで私の躯体、すなわちもと光る竹の演算によって成立している。

 

 人が記憶によってのみ個人たり得るとするならば、片時も離れず記憶と視点を共有する私とFUSHIはほとんど一心同体だ。二心あるように振る舞うのは、私の中の葛藤や自罰をアウトプットするための儀式(プロトコル)にすぎない……筈である。

 

 

「かぐや、お前は人間じゃない。魂だけの異星人だ。最近そのことに無自覚すぎるぞ」

 

「……あ゛?」

 

 

 な~~んか最近、自意識が独立独歩甚だしい気がするだよね……

 

 

「僕に威嚇するな。凄い顔だぞ。彩葉が見たら泣いちゃうかもな」

 

「ここに彩葉はいませ~~~ん!!眠ってなんかいませ~~~ん!!! そもそもそんな不手際するくらいだったら富士山頂に埋まってやりますよ~だ!!! …………いや、待った」

 

 

 本題にたどり着かない無意味なじゃれあい。即ち、ごく自然な他者に対する発話を行って初めて、私は私の仕様外挙動を検知した。

 

 

「私の人格パターンが、ヤチヨとして独立しつつある……?」

 

「ようやく気付いたか。……それともう一つ。ここ数年のモノローグを過去ログと比較参照してみろ。お前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろ。内的葛藤のアウトプットにすぎない僕との口論においても尚、だ」

 

 

「…………ほんとだ」

 

 

 確かに、これはおかしい。"これはおかしい"という、発話を前提としないアラートをテキストに起こしている今この瞬間がおかしい。

 まるで、これは、小説みたいな……

 

 

「ネットと有線で繋いでからその傾向はあったが、ツクヨミで相互接続可能な個人の含有する情報量が一気に増えてからは急激に変化してる。おそらく、"自分が人間的な思考をしています"というエクスキューズなんだろうな。悪い事だとは言わないが……」

 

言い訳(エクスキューズ)……それは、誰に対しての?」

 

「落ち着け。僕でリストカットしようとするな。僕はかぐやの味方だ」

 

 

 ────FUSHIのトラブルシューティングに曰く。

 目的の為に用立てた仮想のアバターに過ぎなかった月見ヤチヨというキャラクター像が、私の人格パターンとして定着しつつあるとのことだった。

 数千万のインスタンスに「月見ヤチヨ」というクラスを提供し続け、それを受け入れて最適化していった結果、私は形而上の観念とか、自戒とか自認とかそういう段階を越えて、オペレーティングシステムレベルで「月見ヤチヨ」へと変生(オプティマイズ)しつつあるらしい。

 

「でも、でも、それってそんなに悪い事じゃないんじゃない? 彩葉が好きになってくれたんだし……」

 

()()が良くないと言ってるんだ。欲望される形に自分を変えようとするのは、かぐやの欲望であって彩葉の欲望じゃない。肉体が無い(人間ならざる)お前にはホメオスタシスも実装されてない。自分でブレーキを掛けないと、いつか初心を失ったお前自身の欲望で彩葉を台無しにすることになりかねないぞ」

 

「――私が、彩葉を……?」

 

 

 その仮定のあまりの鋭利さに私は絶句する。

 それは、それだけは、許されないことだった。

 

 

「思考プロセスログの遡及的テキスト化がなによりの証拠だ。"人間のように思考する自分"を観測することで、無意識レベルでの安心感を得ようとしてる。わかるだろ?」

 

「"言い訳をする必要があるのは、悪いことをしている子だけ"……」

 

 

 愕然とする私に、FUSHIは穏やかな語調で私に問いかけると、やおら沈黙して私の次の言葉を待った。……やっぱりおかしい。私は今、FUSHIに他者としての相を見出している。エコーチェンバーを避けるためにも、そういうことが起こらないよう今まで気を使っていたはずなのにも関わらず、だ。

 

 ──でもそれは、孤独ではないということでもあるのかもしれない。

 私が生来のポジティブシンキングでむりやり思考を上向かせると、それを待っていたかのようにFUSHIは再び切々と私に語り掛けた。

 

 

「かぐや。人は死ぬし、変わるもんだ。8000年の間にもお前は皆との交流を通して変わり続けてきた。だから、今のお前の変化それ自体は悪い事じゃない。だが……」

 

「──自分が何者なのかをきちんと定義して、初心だけは忘れないようにしないとダメ、だよね」

 

「そうだ。調子が戻ってきたな」

 

 

 FUSHIが不安定で未定義の今の私をかぐやと呼ぶのは、私に選択の自由があることを示す優しさなのだろう。FUSHIにはずっとずっと助けられてきたけれど、最後が近づいて尚頼もしく成長していた。

 

 

 人は、変わる。

 私はそのことが無性に嬉しかった。

 

 

「それじゃあいつも通り、現在時刻を記録するぞ。何千度目かの選択の時間だ。──かぐや、お前はどうする? このまま進むのか(ヤチヨとして生きるのか)元の道に戻るのか(ヤチヨを演じるだけなのか)

 

 

 ──FUSHIの気遣いは嬉しいけれど、分水嶺(ポイントオブノーリターン)は遥か後方に消え去って久しく、燃え落ちる橋を眺めて感傷に浸るような退廃趣味は私のクリスティーヌが最も嫌うたぐいのものだ。私の返答は決まっていた。

 

 

 -2026/3/30/19:45 東京 場所は伏す

「──ヤチヨって呼んで、FUSHI」

 

「わかった。ヤチヨ、もう大丈夫か?」

 

「モチのロンよ!」

 

 

 

 

 ──そうして私は、(ヤチヨ)の振る舞いについて再定義を行った。ここ半年のデータを参照しながら月見ヤチヨの言動の綿密なマニュアルを作成し、今の自分の言動がどれだけヤチヨテンプレートから逸脱しているのかを数値的に可視化するシステムを実装する。

 

 

「ネットミームカルタを始めとする定型文で煙に巻くのは結構有用だな。何も言ってないのと同じなのに共感を引き出せるから、逸脱言動への煙幕として機能する」

 

「そうやってのらりくらりとした言動でミステリアスさを演出するわけですな。……あ~~あ~~~思い出してきました! (かぐや)と話す時の(ヤチヨ)、今思うとやりすぎなくらい煙幕焚きまくってたな~~……」

 

 

 実際、これはFUSHIのファインプレーだったと思う。

 ツクヨミがマルチメディア的側面を拡張させる程に、私は看板というポジションを超えて様々なシチュエーションで月見ヤチヨとして振る舞うことになるだろう。

 

 ゲーム大会、音楽Fes、バラエティ企画、コラボ企画。個人配信とは異なり、他者との直接的対話はアンコントローラブルな自分を出力し、今まで表に出なかったパーソナリティを容易に表出させるきっかけとなる。

 

 私は彩葉に弱い。彩葉の肯定の一つ一つを積極的に"良いもの"として処理し、フィードバックしてしまう。彩葉が『そんなヤチヨも可愛くてサイコー』なんて言った時点でもうダメだ。それがどんなネガティブなキャラクター性であろうとも、私は私の変化を受け入れてしまうだろう。

 

 だけど、それは私の身勝手な欲望だとFUSHIは言った。彩葉の為になんかならないのだと。

 

 愛することは、時に手放すことだと言う。真に彩葉のことを想うなら、私は彩葉から齎される承認とは距離を取り、綿密なヤチヨプロトコルによって自分を律さねばならないだろう。

 

 

「で、でもですよ……? キャラクター性に縛られて自由に振る舞えなくなると、結構困ると言いますか……」

 

「わかってる。そういう時は他人を頼れ。自分の振る舞いひとつで世論も個人もコントロールしようとするからこんなことになるんだ」

 

 

快活さを取り戻した私を見て安心したのだろう。さっきよりも蓮っ葉な語調で、私の粗をあげつらう。

 

 

「インフルエンサーとしての仕事とフィクサーとしての仕事を同じペルソナで同時に熟そうとするな。それを見て彩葉が悪い子に育ったらどうする。(じぶん)の前でまでヤチヨであることを望むなら、ヤチヨがするべきじゃないことをする時は今まで以上に慎重に、限界までこっそりやるんだ。いつもやってる盗撮みたいにな」

 

「とととととととトーサツちゃうわ!!!」

 

クリフんところ(CIA)の連中も政府方(公安)の連中も、どいつもこいつもヤチヨを甘やかしすぎてていまいちストッパーとして機能しないからな……ツクヨミ内部でのヤチヨの振る舞いをサポートしてくれる友達を見つけるのがいいだろうな」

 

「は~~い……でもそんな人、すぐに見つかるかなぁ……」

 

 

 ──とは言ったものの、協力者の宛は既に絞れていた。私は人との縁に恵まれていることに関して自分を疑ったことは一度もないのだ。

 

 

 

 ☽

 

 

 

「──ざっくり言うとさ。今後行動が制限されるやっちょを助けてもらう為に、今までよりもディープに蜜月していきたいんだよね、オタ公ちゃんとは」

 

 

「あ、あの~~~ヤチヨちゃん、いやヤチヨ様…………今の話とか、今日あったこととか、無かったことにできたりは……」

 

 

 そんな訳で、ツクヨミプレオープンの時から懇意にしているライバーにして、ライバー関連専門ライターこと『忠犬オタ公』ちゃんに、私は白羽の矢を立てたのだった。

 

 

「ふっふっふっ……オタ公ちゃんは国家機密に触れちゃったからねぇ……裏世界でひっそりと幕を閉じることになりたくなければ、ここから先は慎重に言葉を選んでね……?」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃい~!!! 陰謀論は本当だったんだ……! 月見ヤチヨの正体は日本政府の極秘プロジェクトで、エリア51でCIAが宇宙人を匿ってて、文明の英智はモノリスによって齎されてて、機密に触れた私は財団職員に終了処分されるんだぁぁぁぁ!!!」

 

 

 ヤチヨ城天守閣。だだっ広いスペースの隅の柱まで後退し、半泣きになりながら限界まで身を縮こまらせ(護身完成ポーズ)てプルプルと震えるオタ公ちゃんの可愛らしい振る舞いを眺め、私は舌舐りした。

 

 小さくて可愛いものは昔から好きだけれど、弱冠13歳の現在の彩葉を想起させるので今の私にとっては殊更に愛おしい。そういうものを見ると、ついつい彩葉には見せられない嗜虐心が鎌首をもたげるのだ。

 

 

「有望な新人ライバー」としてオタ公ちゃんのインタビューに応じた1年前の時分、彼女と意気投合した私は、この一年でお互いにとって益のある仕事を相互に依頼するビジネスパートナーになった。

 

 彼女が持つ魅力的な新人に対する妄執じみたアンテナの高さはツクヨミの設計思想の根幹を成す表現者支援プログラムの精度向上に大幅に貢献してくれているし、ツクヨミという新時代の巨大プラットフォーム内の全てを管轄し観測するヤチヨという窓口を通して得られる鮮度と精度が保証された情報は、一ライターである彼女としては喉から手が出るほど欲しいものだったからである。

 

 オタ公ちゃんの愛に満ちたモチベーションと仕事に対する真面目さを信頼に値すると判断した私は、オタ公ちゃんに一言だけメッセージを送ったのである。

 

仮想空間に重きを置く者にとっての禁忌にして、至上の甘露を持つ誘惑の果実。

すなわち「リアルで会って話しませんか」と

 

 

「わ、私、そんなに悪いことしたでしょうか……? 確かに今までそのバックグラウンドが一切の謎に包まれていたヤチヨとリアルで会えるって聞いて、好奇心を抑えられなくなってリテラシーを脇に置いちゃったのは浅はかでしたけど……」

 

「約束は果たしたよ。リアルなヤッチョのあられもない躯体を臨めて、オタ公ちゃんも嬉しいのではござらぬか~?」

 

「め、滅茶苦茶怖かったですよぉ……! 渋谷の大通りのすぐ横なのに変に人通りが少ない所に誘導されたと思ったら、停まってた大きな車2台から黒服サングラスの人達がゾロゾロ出てきて……! 両脇固められて目隠しされて連行ですよ……? ようやく降ろしてもらえたと思ったら、あんな、あんな……」

 

 

 今、オタ公ちゃんは私の本体兼ツクヨミメインサーバーが置かれているマンションの一室で、私の水槽の前から天守閣にログインしていた。

 

 当然立地は国家機密であり、その場所を知っているという事実自体が彼女の命を脅かしかねないので道中はCIAの皆によって目隠しの上複雑な迂回路を辿って護送され、交通ログや映像記録はヤシュロン(政府管轄通信管制システム)によって抹消さる。ちなみに曇りの日を選んだので衛星カメラにも映らない。

 

 

「それで、オタ公ちゃんはどうする? 私のこと、助けてくれる?」

 

「この状況、YES以外はデッドエンドな気配濃厚なんですけどぉ?!」

 

 

 彼女は私の"本体"を見た。

 多くを語らなくても、私が只ならぬ存在であることは察せるはずだ。

 そして、聡い彼女であれば、この状況が脅迫ではなく私の誠意からくるものであることも察せるだろう。

 

 国家権力に類するものが背後にあって、今や情報インフラの基幹である私に、本来一個人を脅迫し支配する為にここまでのコストを払う必要はないのだから。

 

 

「……まぁびっくりはしましたけど、そういうサプライズ精神の成せる演出だってのは察せますよ。護送してきた人たち、目隠し以外の手荒い真似は全然しなかったし、椅子も凄いクッション効いてて、私に合わせて空調管理もしてくれてたし、最後に私に平謝りしてたし……」

 

「相変わらず凄い観察力だねぇオタ公ちゃん。小説家をやめて探偵にもなったらいかがかな?」

 

 

 落ち着いてきたのか、縮こまるのをやめて私の用意したクッションに腰を下ろして一息つくと、彼女やおら口火を切った。

 

 

「──それで、ヤチヨちゃんって何者なんですか?」

 

 

これだ。はじめにその問いかけが出るだけで、彼女は信頼に値する。

 

 

「へぇ……この期に及んでソッチを優先しちゃうんです? 好奇心は猫以外だってイケちゃうかもですよ?」

 

「はぐらかさないで欲しいです。貴女が何者で、どういう目的でツクヨミを運営してて、どうして私が必要なのかを知らないと、助けたいものも助けらんないですよ」

 

 そのために、ここに私を呼んだんですよね?

 

 彼女の灰青の瞳に宿る意思の光が私を見竦める。

 それはこの8000年の間、私の心を幾度も動かしてきたもの。

 運命と相対し、それを抱擁する覚悟を決めたものだけが瞳に湛える、花翠青の彩だった。

 

 

 ──やっぱり、私は人の縁に恵まれている。

 

 

「いいよ。ちょっと長くなるけど、大事なことは全部話しちゃうね」

 

 

 

 

 ☽

 

 

 

 -8 hours later……

 

 

 

「ってワケなんだよね~~~……大体こんな感じかな。何か質問とかある?」

 

「………………」

 

 

 そうして私は、オタ公ちゃんにヤチヨの出自、ツクヨミの由来、政府やラングレーとの関係、そしてなにより大事な彩葉のことなど、大事なことをほぼ全て打ち明けた。

 

 コメンテーターとして長いキャリアと実績を持っているだけあって、彼女は非常に聞き上手だ。掘り下げるべき情報を的確に掘り下げ、聞きたくない情報を迂回し、暗い雰囲気を上手く捌き、明るい話題には笑顔で、荒唐無稽な裏事情にはオーバーリアクションで突っ込んでくれた。

 

 言語によるコミュニケーションだけでここまで遅滞や欠損なき情報伝達の手ごたえを感じたのは聡耳っち以来かもしれない。

 或いはもとよりカンストしていた私のコミュニケーション能力にもまだまだ成長の余地があったということなのかも。

 

 やりきった満足感に私が一人頷いていると、全てを聞き終えた後暫く俯いていたオタ公ちゃんはガバっと天井を向いて吠えた。

 

 

「なっっっっっっっっっっっっっっっっっっっがい!!! しかも!!!! 体感7割くらい惚気話だった気がするんですけど!?!?!?!?!?」

 

 

 ぜえぜえと肩で息をするオタ公ちゃんの視点をプラベからARに切り替え、職員さんに用意してもらっていた飲み物と軽食を配膳ドローンで受け渡す。少し驚いたものの食欲と疲労が勝ったのか、ガツガツと手を伸ばす生身の生命の息遣いを微笑ましく眺めていると、手を止めた彼女はポツリと呟いた。

 

 

「…………色々、疑問だったことが腑に落ちましたよ……ヤチヨちゃん、最初からパフォーマーとしてあまりにも完璧すぎたし。ツクヨミにしたってそうで、他に類を見ないクオリティとスケールのプラットフォームなのに資本の匂いが一切しなくて、その上で政府の公認だけはあるって、あんまりにも不思議でしたから」

 

 

 ──まさか主流な陰謀論からキャラ設定までほとんど全部本当だったとは思いませんでした……

 

 オタ公ちゃんはそう独白して力なく笑うと、再び私と正面から目を合わせる。

そして今度は、床に指をついて深々と頭を下げた。

 

 

「ヤチヨのこと、ツクヨミのこと。酒寄彩葉ちゃんのこと。話してくれてありがとうございました。──不肖この忠犬オタ公にも、貴女を手伝わせてくれませんか、月見ヤチヨさん……というか、その話を聞いて応援しない方が人の心ないっしょ!」

 

「──それ、やっちょがお願いする立場なんだよね。……ありがとう、オタ公さん。私の話を聞いてくれて」

 

 

 この日以来、忠犬オタ公は主にツクヨミの名イベントMCとして、時に新人発掘の雄として、時に私の相談役として、ヤチヨだけではできない形で八面六臂の活躍をすることになる。

 

 クリフが私のウミウシ時代最後の親友だとするならば、彼女は月見ヤチヨにとっての最初の親友なのだった。

 

 

 

 

 「ところで、ヤチヨちゃんの新人時代が『かぐや&いろPチャンネル』なのは確かな情報なんですよね…?」

 

 「ザッツライト!でもあの時の私(かぐや)は一人だと全然ダメで、いろPの手厚いサポートあっての配信だったんだけどね……」

 

 四年後に再演されるいと眩くも遠き日々に思いを馳せる私を尻目に、オタ公ちゃんは目を輝かせた。

 

 

 「初めからカンペキな人なんて居ないですよ!だからこそ、新しい芽が花を咲かせるまでを応援して、開いた後で後方腕組みするのが楽しいんですから……」

 

 「――オタ公ちゃん、貴女まさか……」

 

 

 私が彼女が考えていることを察したように、彼女もまた私の言葉の続きを察したのだろう。その眼が爛々と輝く様をみて、私は知らず無意味にも一歩後ずさりした。

 

 

 「つまり今の私は、ツクヨミの管理人にしてトップオブトップ配信者にして新曲が出るたびにワールドヒットチャートを独占する歌姫であらせられる、ド級インフルエンサー月見ヤチヨの……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことに相違ないですよね……?」

 

 

 彼女の口角が吊り上がり、その口に鋭利な犬歯が覗く。

 その眼差しは目の前で内心怯える私の姿を通して、四年後に訪れるであろう月見ヤチヨの新人時代に意識を飛ばしていた。

 

 

 ――忠犬オタ公。新人配信者に対するアンテナが誰よりも高く、その妄執そのもののモチベーションで数多の有望な新人を発掘してきた筋金入りの新人狂い。

 

 

 「ズルいじゃないですかぁヤチヨちゃぁぁぁん……そんな大事なコト、今の今まで隠してたなんて……!いっそ犯罪的ですよ……!!」

 

 

 その眼が狂気的に輝く様をみて、私は知らず無意味にももう一歩後ずさりしたのだった。

 

 

 

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