Greyscale   作:零音霖

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EP8前編

「芺威、警察きみたちがウチを嗅ぎ回ってるようだが……できるよな?」

唯川スカイハイタワー、会長室。唯川眩夜は電話越しに脅しをかけていた。

「……」

「君が判断を今度こそ間違えないことを祈るよ」

 

警察庁、次長室。電話を切った芺威は、20年前の事件以外の黒い噂のリストを見つめる。

「ええ。今度こそ……私は間違えない」

 

警視庁、刑事部捜査一課、会議室。顔真っ青な梛と瞠を前に生田班はテニスを見つめる猫のように首を左右に振っていた。

「言っちゃいけないこと言っちゃった感じ?」

「やっぱでかい企業て黒いとこ多いんですね!」

「盛り上がらないでください!宮下さん生田係長」

三河は2人を諌める。

 

 

瞠は察してしまった。祖父が関わっていること、というのが祖父が会長をしている唯川グループの少々仄暗い事でなく、20年前のあの事件について直接関わっているのではないか、と。

「父は……」

「知りたいなら……直接話を聞きに行ってください。僕からは、話せない。その上で、唯川さんがどうするかは、勝手です。それよりも、目先の事件のことが重要です。あとは張り込むしかないですが……」

沈黙が続く。ガタリ、瞠が立ち上がった事により、音が響く。瞠は鞄を引っ掴んで駆け足で扉へと向かう。勢いよく扉を開けてその向こうへ去っていった。

「すみません、貴方達を巻き込んでしまって」

「君らが1ヶ月前に喧嘩したのもこれ関連?」

春樹が優しく聞く。

「はい……」

「そっか」

 

瞠は走っていた。全速力で、警視庁の廊下を。エレベーターホールに着くと下ボタンを連打する。

はやく、はやく、はやくついてくれ。

チンという音がして扉が開く。

1階につけばまた走り出す。走って、走って、走って。警察庁に着いた時には少々息切れをしていた。

「は、はぁ。もう歳だな」

そのまま窓口の方へと向かう。

「次長に、次長に会わせてほしい」

「そのような予定は入っておりませんのでまずは予定を……」

「私は唯川瞠、唯川次長の息子です」

瞠は警察手帳を見せる。

「少々、お待ちください。確認いたします」

受付スタッフは内線を掛け始める。

「もしもし、一階受付の立川です。はい。唯川次長に面会したいと唯川瞠警部がやってきていまして……はい、確認いたしました。わかりました。それでは」

電話を切り、瞠に向き直る。

「お待たせいたしました。唯川次長の担当秘書官が来ますのでもうしばらくお待ちください」

 

「行っちゃいましたねぇ。後は待つしかないってところですか?」

晴季がぼやく。

「はい……警戒体制をとるしか。向こうも対策はしていますし」

梛の携帯の一つがバイブレーションをする。その画面にはYzとあった。

芺威からの電話だった。

「すみません。電話出てきます」

梛は席を立ち、部屋を出る。

 

「はい。聖園です。遅れてすみません」

「いや、大丈夫だ。それよりも……あの人に我々が捜査していることが嗅ぎ付かれた」

「そう、ですか」

梛は思考を巡らせる。ここからの最善策、それはなにか。

「こちらでも出来るだけ足止めはするが……」

「ありがとうございます。もう少しってところですが、決定的な証拠は上がってません。まだ1週間ですし……」

「わかっている。進展があればよろしく。では」

「待ってください!」

電話を切ろうとする芺威に待ったをかける。

「息子さんの、話、聞いてあげてください。それでは」

梛はその後の返事を聞かずに電話を切った。へたり、としゃがみ込む。

「はぁ……どうするかな」

 

「すみません。今日のところは警察庁に戻ります。唯川さん戻ってきたら伝えてください」

「わかりました」

梛は会議室に戻ってきた瞬間荷物をまとめ始める。

「緊急用件か?」

春樹はそう尋ねる。

「……はい」

一瞬の沈黙の後、そう答える。

「すみません、本当に。この資料はしばらく使って頂いて大丈夫なので、では」

梛は駆け足で再び部屋を後にした。

 

警察庁、警備局警備課、総合情報分析室。通称IS班。その部屋に梛が飛び込んでくる。

幾つかの班わけはされていると言えど他部署と比べると少人数で回されている。

「おお、お疲れ様です。あれ?もう少し向こうにいるはずじゃ?」

道玄がパソコンから目を離して聞く。

「あー。ちょっと緊急。唯川眩夜に気づかれたみたいで」

「え……どうするんですか?突撃?もう突撃ですか?」

為川(ためかわ)さんは荒っぽいですよ……何故ここに配属されたか分からないくらいに」

眼鏡の女性が一見してふわふわ可愛らしい系の女性に注意する。

「貴島さん。それを言うなら聖園係長も一緒じゃないですか」

「あれ、冬野さんと羽屋さんは休憩ですか?」

梛がちょうど空いた2人分の席を見て言う。

「2人なら食料の調達に行きました。ここから当日まで缶詰は確実ですからね」

道玄が遠い目をして言う。

「ああ……」

 

IS班の面々もだが本当に殺伐とした空気感が漂っていたのは警視庁捜査一課だった。かなりの人数を来たる取引の捜査に当てられているおかげで一般の事件を扱っている刑事達はいつもより担当する事件が増えてイライラしていたのだ。

「当たり強いですね。俺なんかさっき給湯室に行ったら沢木さんに軽く嫌味言われちゃって」

原田が愚痴る。

「まぁまぁほっとけ。ひと段落したら落ち着くしさ」

 

「唯川警部、お待たせしました。それでは着いてきてください」

「って不破……?」

不破かと聞かれたその眼鏡をかけたthe官僚といった感じの堅物そうな男はニヤニヤが隠せないでいた。

「大当たりです。不破光実でございます」

一方、瞠は気まずそうな顔をしていた。

「父親の秘書官が同級生て……」

「ええ、私もびっくり致しました!学友のお父上を補佐するなんて!」

不破光実。瞠の帝都大時代の友人の1人でとにかく優秀だった。瞠が国家公務員総合職試験を受けなかった事を知った時はとにかく責め立てていた。

しかし、この夏の同窓会きっかけで瞠、春樹、光実の3人で飲みに行ったばかりだった。

「さて、そろそろ行きますよ。次長もお忙しいので、急に来たのにちゃんと待っててくれてますから。あぁ、聖園さんに感謝しといてくださいね?」

腕を掴んで引っ張って瞠を立たせる。光実も内勤ばかりで退勤時間もお察しだが割と筋肉はある。体力バカしかこの仕事はやっていけないのだ。

「聖園さんに?」

「ええ、聖園さん、次長に唯川さんが来ることさっき教えてもらっていたようで。ですので!思ってることちゃんと全部言うんですよ!」

「はいはい……」

光実は瞠の背中を片手で押しながらエレベーターホールへと向かった。

 

エレベーターで上がって、進んでいった先の奥、そこに次長室があった。

「やっぱりちょっと待ってくれ……」

瞠は扉に背を向ける。

「今更何を……行くぞ、瞠。グダグダするな、俺は早く帰りたいんだ」

光実は扉をノックする。

「不破でございます。唯川警部をお連れしました」

「入ってくれ」

光実は扉を開ける。

立派な机と椅子に警察庁次長、唯川芺威は座っていた。

 

「久しぶり、だな瞠」

瞠は目を背けるが、すぐに向き直して芺威の目をしっかりと見る。

「次長⋯⋯お父様は閑院一家に何をしたんですか……?正直に全部話してください」

「榧に当時の同僚たちの汚職を全てなすりつけた」

「そんなことは既に知ってる!他に……」

瞠はズカズカと詰め寄る

「私がやったのはそれだけだ。否、それが1番の罪だ。全てから逃げたのだから」

「どういう……」

瞠は立ち止まる。

「詰めが甘かったんだよ。なすりつけたことなどすぐにバレかけた。それで、お祖父様……私にとっての父が、唯川眩夜が処理した」

「そもそも何でなすりつけたりなんか!」

バン!瞠は執務机を両手で叩く。

「嫉妬だよ。閑院榧という人物が私はずっと、ずっと、ずっと羨ましかった。小学校からの友人だった。多分彼にとっては。私にとっては嫉妬と依存の対象だった。だからこそ、排除できるチャンスに飛びついてしまった」

 

「聖園係長。それで、どうするおつもりですか……?」

梛は考え込んでいた。為川が言っていたように突撃が手っ取り早いが突撃するにはどこに情報があるのか、だ。馬鹿正直に本社に置いているか?製造工場にあるか?人手が足りなすぎるしそもそも認められるのか?

「持って1週間、というとこだけど……その頃はアレがあるし、人手が足りませんよ……いや、ゴタゴタに乗っかって……流石に公安といえどダメか」

道玄は呟く。

「すみません、また出ます」

梛は再び部屋を後にする。

 

エレベーターがついて、梛は乗り込む。

「あっ」

梛が頭を上げると、瞠がいた。

「聖園さん。お疲れ様です」

「……お話は、出来ましたか?」

「ええ」

「そうだ。唯川さんは唯川工業にお知り合いは?」

梛はしっかりと目を見て尋ねる。

「何か、あったのですか?」

「……いえ、何も」

梛は俯く。

 

「流石に出ないか……」

聖園類は聖園食品の一階ロビーで梛に電話を掛けていた。しかし出ないので諦めて帰途に着いた。

 

類は高層マンションの地下駐車場に停めて、エレベーターホールへと向かう途中だった。しかし、何か怪しい話し声に足を止める。

「お、俺が持っとけって言われても……困るんだけど」

ここでは当たり前のように停まっている黒い高級車の窓を介して話しているようだった。

外にいる困ると言っていた青年の顔に類は見覚えがあった。そもそも交流があり、ここに一人暮らしをしている唯川芺雅(ゆいかわおうが)だった。

車に乗って居る人物も検討がついていた。あの人はいつも眩夜の側にいる執事ではないか?

「流石に警察にバレるだろ。俺は出来ないから!兄さんだって!」

「アレを兄さん、ですか。今更ですね。では頼みましたよ」

窓は閉められ、車は去っていく。

「あっ」

芺雅と類は目があった。類は顔を背けるが、芺雅はバタバタと近づいてくる。

「助けてください!」

類は珍しいと思った。類から見た唯川芺雅という人物はいつも偉そうで、唯川の跡取りであることを誇りに思って居る、そういう人間に見えていた。とても類のような人間に頭を下げることなどない、プライドエベレスト人間だと思っていたのだ。

 

「それで、書類を押し付けられた、と」

5501号室。聖園夫婦の自宅リビングの机に2人は向かい合って座っていた。

「もうすぐ梛が来るから安心して欲しい。悪いようにはしないようちゃんと言ってあるから」

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