警視庁。夜1時半。
公安部、拳銃保管室にて皆準備をしていた。
瞠はいつも通りサクラの弾薬確認を行なっていた。自動拳銃であるY-0918JPN、通称ユイカワピストルが導入されてから3年。元々ニューナンブ、サクラとY-99、通称ユイカワリボルバーの同時運用だったのは芺威おういが入庁する前からだった。自衛隊に卸している唯川製小銃はそれよりもっと前の話だ。
しかし瞠は唯川製のものを扱う気にはずっとなれていなかった。今回もそれなりに扱い慣れたサクラを選択した。
一方、梛は別の列で確認していた。弾の種類がもちろん違うからだった。
梛はベレッタM8045。45ACP弾。しっかりとマガジンが入っていることを確認し、予備のマガジンもホルスターに差す。
「行きましょうか」
梛はノッチドラペルのジャケットを脱ぎ、黒いロングパーカーを羽織り、コートと鞄を掴む。
「さてさてやって来たな」
梛たちは前日深夜から張り込んでいた為に待ちに待った時だった。
取引場所は県境の海が近い廃墟。また海か、と思いつつ逃げられないように一応は細工しておいてはいるが、どうなることか。皆不安だった。
「行きますよ」
梛はベレッタを取り出し、構える。
「撃たないでくださいよ」
そう言いながら瞠はサクラを取り出す。
「勿論。撃ったとしてもちゃんと掠らせますから」
はは、乾いた笑い声が出る。周辺には警察は勿論、公安調査庁の人間も潜んでいた。
しかし、拳銃の携行許可があるのはもちろんこの中では警察官のみ。レターナイフ等は持っているだろうがやはり弱い。
梛はベレッタを握り直す。至る所に仕掛けた盗聴器から会話を聞きながら突入の機会を伺う。
取引に現れたのはマルス側、ミダス側3人ずつの計6名の男。
マルス側はボストンバッグのひとつを開け、商品を見せる。ピストル、ライフル銃、種類は様々。
「ああ、確認した」
ジュラルミンケースに入った大量の一万円札をミダス側が見せる。
いかにもと言った雰囲気だ。
目を合わせる。その時を待つ。
「行け」
その命令とともに皆飛び出し、拳銃を構える。
「警察だ! 手を挙げろ!」
「ッチ! 急げ」
男達はボストンバッグから拳銃を取り出し、構えた。
確かに改造された違法拳銃だが、十分ユイカワピストルだと認識できるものだった。
その拳銃を見て、瞠は顔を強張らせる。
梛は一歩踏み出し、口を開く。
「銃を捨て手を上げなさい! 撃つぞ!」
梛は正直言って焦っていた。
「聖園さん」
瞠は落ち着くように諌めながら前に出る。体格的に前に出た方が良いと踏んだのだ。
銃器を携帯している警察官は20名程度張り込んでいるが、現場のレイアウト上、完全に囲み切ることは難しく、特に入り口は一つしかない。開けている以上中で張れる人数には限りがあり、そこからかなり遠くの位置に多くの警察官が配置されていた。
船のエンジン音が響く。想定はしていたが結局事前に細工しておいた周辺の移動手段は囮だったというわけだ。
パン! 男らは銃を撃った。その瞬間、梛は瞠を突き飛ばし、もろに銃弾を腹に受ける。その隙に男らは逃げていった。
「聖園さん!」
火事場の馬鹿力と言うべきか、想像よりも強い力で突き飛ばされ、瞠はそのまま倒れる。
梛は撃たれたことにより一瞬、体勢を崩すが、患部を左手で抑えながら拳銃を片手で構え、男らの足を狙う。そして杖を手放し、駆けていく。
「聖園さ……!」
「唯川さんは陸路の方を!」
梛はアドレナリンでもう足の痛みも撃たれた痛みも無くなっていた。
「早く乗れ!」
マルスらは急いで乗り込もうとするが、もちろん梛が追ってくる。他の警察官らは梛の被弾を恐れて撃つことが出来なかった。
全員が乗り込み、発進したその時、梛は一歩踏み込み、大きく飛び乗る。
「海保がすぐ来るぞ。大人しく武器を捨てて……」
「逃げれないのはお前だぞ、お巡りさん」
ガハハ。嘲笑の渦が4人を取り巻く。
「この場で全員殺したって構わない」
梛はポツリと呟く。
「言うねぇ。どうせ殺せないくせに」
「7人だ。既に僕は7人殺している。この銃で、1人は仲間」
「ハッ……イカれた野郎ってこった」
「……どうせほっとけば死ぬだろうさ」
すぐ近くまで海上保安庁の船が迫ってきていた。
また、銃声が響く。撃たれたのは梛。そして右足を掠った。
梛は後退り、拳銃を構え、そのまま4発撃った。
その弾は肉を抉ることはせど、急所に命中することはなかった。
男らは痛みのまま、拳銃を落とし、その場にうずくまる。
梛はふらふらしながら拳銃を突きつけ歩み寄る。真っ赤に染まったその手で。
「9時24分。菱形龍樹、中山英治、難波大喜、田口清二、特別組織対策法違反、公務執行妨害で現行犯逮捕」
3人にとっては恐怖にしか映らなかった。大量の血を失いながら、こちらに向かってくる梛が心底怖かった。
3人を船にあった縄で縛る。撃たれているとは思えないありえない強さで。
「終わらない……僕は、僕は……」
4人から離れると梛はふらふらと甲板の手すりに捕まる。そのまま身を乗り出すようにして海の底へと堕ちていった。