Greyscale   作:零音霖

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新章突入です!


Other Half 警視庁刑事部捜査一課第5強行犯捜査殺人捜査5係
EP1 後悔前編


 窓の外は桜でいっぱいだった。春の陽気で明るく、暖かいピクニック日和と言った日だった。しかし、この部屋の中は陽光に照らされているはずなのにずうんと暗かった。

「早く、目覚ましてくださいよ。待ってますから」

 綺麗な男性からは様々な管が出ていた。中心静脈の為に首元からのカテーテルもあった。呼吸のための管もあった。

 あの事件の最大の功労者、聖園梛警部はもう2年眠ったままだった。

 

 

 警視庁、捜査一課。いつもここは喧騒に包まれている。

「おはようございます」

 朝10時。瞠は自分のデスクに座る。

 

 

 通称唯川事件と言われる一連の事件により、唯川グループ会長である唯川眩夜だけでなく多くの幹部勢の逮捕により、唯川グループは崩壊に至った。それにより失業者は推定30万人を超えた。あらゆる業種を抱えていた為に、混乱は未だ治らない。経済損失額も途方もない金額となった。

 金融、保険、運送、医療、工業、その他20社全てが解散命令となったからだった。勿論、即時とは行かなかった。1日にして30万人超が失業、生産停止などとなれば今以上の混乱は避けられない。しかも工業と医療が主にやらかしていた。

 唯川工業は唯川グループの親企業で、警察や自衛隊に装備品である拳銃や小銃を卸していたのだが、それが大型国際犯罪組織などに流していたことが発覚している。

 ヒュギエイア製薬は、違法薬物の流通に加担していた事が梛の捜査資料と梛の協力者だった羽島光による内部告発により、発覚した。

 

 一連の責任を取ったのは唯川グループだけではない。警察だ。

 唯川眩夜の息子である、唯川芺威は警察庁次長だったのだ。そして、閑院榧という人物が引き起こしたとされていた20年前の警察官僚汚職事件は自分が榧を陥れたかったからなすりつけたのだと、当時本当に汚職に関わっていた幹部勢を告発するとともに自首、退職した。

 しかし、一つだけ世に明らかになっていない事がある。警察官僚汚職事件とともに起こった閑院夫妻心中火災事件が実は惨殺事件だという事、そしてそれを指揮したのが眩夜だという事だった。

 汚職事件は芺威が証拠を提出したが、殺人事件の方は無いに等しい。松濤にあった閑院邸も取り壊され、土地は3つに分けて売られた。

 つまり、何もかもが難しいという事だった。

 

「唯川係長。もうみんな出ちゃってますよ」

 5係の新人刑事、御堂未莉巡査は動かない瞠を気にかける。

「え、ああはい。出ます」

 瞠はタブレットを閉じて書類を雑にまとめて鞄に入れる。そんな様子を6係長の生田春樹警部は悲しそうな目で見ていた。

「生田さん……」

 原田幸警部補はそんな様子の生田を心配する。

「分かってるよ。さ、俺らもやることは溜まってんだ」

 そう言うと再び目の前の仕事に取り掛かった。

 

 時は再び、2年前。事件直後。結局のところ、国際サミットは巻きではあったが全員無事で終わり、その後着々と構成員の逮捕に至っていた。しかし、あれから瞠は壊れたと言って差し支えなかった。

 瞠にとって祖父である眩夜くらやは、優しいおじいちゃんで、大好きな存在だった。それが、大罪人だった事は瞠の心を蝕んでいた。しかし、それよりも、奥深くに巣食っていたのは血どころか目の前で海の底へと落ちていった元バディ、聖園梛だった。

 

 啓央大学、東京第一キャンパス。ここで殺人疑いの飛び降り事件が起こった。

 瞠は2年前にも啓央大学の学生が飛び降りた事件を思い出した。

「被害者は深山鞠さん。複数の学生がこの第一棟から落ちてくることと……‥人影を見ています」

 ブルーシートの向こう側へと5係を案内しながら制服警官が説明する。

「深山……‥ですか」

「ええ、深山運送……‥メルクリウス運送ももう無くなってしまいましたがね。そちらの社長令嬢です」

 瞠の呟きに制服警官が答える。

「深山……‥2年前。聖園さっ……」

 瞠は空いている左手でぐしゃりと髪を掻きむしる。瞠の中でずっとこの2年間、聖園梛の存在が全てを支配していた。

「唯川さん……」

 警部補が瞠の背中をさする。

「大丈夫ですから!」

 気遣われていることに気づいた瞠はサッと避ける。

「すみません……‥本当に」

「いえ……」

 瞠は呼吸を落ち着け、向き直す。

「それで、人影を見た、という学生は? それと防犯カメラの映像を」

 

 啓央大学、第2棟第1中会議室。ここでは係長である瞠と碇太一いかりたいち巡査部長のみ残り、その他の榴輝、未莉、小幡雪乃巡査部長、菅野圭一巡査、小野燈巡査は聞き込みに向かった。

「君達が見たんですね?」

 太一は学生らに優しく聞く。そこまで離れてないとはいえ飛び降りというショッキングな現場に居合わせた学生達を労る気持ちで接していた。

 学生らは全員で20名。真下の部屋にいた2名、階段近くの部屋にいた6名、外で見ていた7名、そして被害者と思われる深山鞠と特に仲が良かった5名。

 

「は、はい。揉み合うってよりは、すんなりと落ちてきたって感じだったと思います。最初は自殺かと思ったんですけど、黒いかっこをした……‥男か女かどっちかわかんないですけど、とにかく人影があって、それで、突き落とされたんだと思ったんです。それに、屋上じゃなくて最上階の5階からでしたし……」

 

「その時は、話し合いでその部屋を使っていて……ふと窓を見たら人が落ちてきたのでびっくりしましたよ」

 

「ドン! っていう音がして、焦って降りてくる音がして覗いてみたら、確かに黒い格好をした人が降りていくところを見ました」

 

「鞠ちゃんは、いい子でしたよ? 別に恨まれてるとかは……‥ないような。家業の件ではあるかもしれないですけど、唯川グループはほぼ全員雇ってましたし、社長も鞠ちゃんのお父様のままでしたでしょ? だから……‥ねぇ、心当たりは特には……」

 

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