Greyscale   作:零音霖

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EP1後悔 後編

「となると…‥犯人はこの方ですか?」

 聞き込みから戻ってきた未莉はパソコンの画面を後ろから覗き込んだ。階段近くの防犯カメラの映像を見ていた。

 参考人達から話を聞いた隣の会議室で瞠は捜査指揮と情報を纏めていた。

「目情と映像から犯人は165cm前後男。そしてあなた方の聞き込みと参考人らの話から1人の男が浮かび上がりました」

 天野剣。同じ法学部1年生。

「話を、聞きに行きましょうか」

 

 天野剣は怯えていた。190cm越えの細マッチョに加え、ギラついた目。犯行を疑われてなくとも怖いだろう。

「深山……鞠さんとはお知り合いで?」

 口元に笑みを浮かべながら瞠は問いかける。

「え、あもちろん。何回か話したことがある程度ですけど……」

「ええ、聞いてますよ」

「変な噂だとか、聞いた事は……?」

「う、噂?」

「深山さんが恨まれてるだとか、金銭や恋愛のもつれなどです」

「な、無いですよ!刑事さんも他の皆にも話聞いているでしょうけど…‥深山さんは全くもってそんな人じゃなくて……本当に優しい人で……」

「では、ご実家関連は……?」

「え?」

「天野さんは恨みがあるでしょう。唯川グループそしてメルクリウス運送もとい旧深山運送の社長ら経営陣の深山一家に」

 瞠はパソコンを差し出す。

「は、はぁ?」

 天野は突拍子もない発言に驚くが、その画面を見て、目が泳ぐ。

「ビンゴ、でしたか」

 

 30分前。未莉はパソコンの検索内容に驚いた。

「深山運送の…‥インタビュー記事、ですか。15年ほど前のもののようですが」

 深山運送のCTO、最高技術責任者にしたインタビュー記事だった。CTOの名前は

「天野刃……」

「顔も似ている、名字も同じ、名前の系統も一緒、そして……天野刃さんは当時の深山運送の経営陣で唯一解任され、追い出されています」

 

「天野刃が貿易会社に着任したのは5年後ですし離婚もされてます。当然、生活には困ったはずです。貴方、最初は啓央幼稚舎に在籍していましたよね?しかし、ある時、自主退学し、公立の小学校に転校した。その事で深山家を恨んでいたのではないですか?」

「……」

「それで、天野さん。お父様が解任となった理由、ご存知ですか?」

「は?」

「悪すぎる女癖ですよ」

「はぁ!?」

「天野刃がカスなのは有名ですよ。なんてったってこれでも私、唯川の人間なのでね、そう言う噂というものは漏れ聞くものでして……周りの反応も遂にやったか、でしたし、あの時経営がギリギリだった中現れた唯川側の条件、知ってます?」

「……」

「天野刃の解任ですよ。あそこまで下劣なお爺様でしたけど…‥まぁああいう人間はめんどくさいですしねぇ…‥」

 瞠は嘲笑を含んだ息を吐いた。そして、ごく小さな声で「ま、人のこと、言えないんですけどね……」と呟いた。自分の身の上は闇すぎる、と考えた。

 

 天野はわなわなと震え始め、ダン!と机を叩く。そしてそのまま瞠の胸ぐらを掴み、怒鳴りかかろうとする。

「唯川であるテメェが何言ってんだよ!」

 それを見て皆焦って天野を取り押さえようとする。

 しかし、瞠は優しくその手を包み込んで、こう言った。

「公務執行妨害、現行犯逮捕です」

「…‥ざけんな!!」

 しかし、体格差によって、呆気なく取り押さえられ、手錠が掛けられた。

「続きは署で聞きましょう」

 

「唯川係長の煽り体質どうにかなりませんか?」

 未莉が呆れたように荷物を片付けながら嘆く。

「2年前以前は少なくとももう少し紳士的でしたよ。まぁ生田係長が散々困ってる姿見てましたけど…‥煽るってよりは猪突猛進タイプだったみたいですよ」

 三河がそれに応える。

「ああ、三河主任は例の……」

「早く目覚めてくれると良いんですがね」

 はぁ、と榴輝はため息をつく。前は色んな意味でSR上司だが今も色々な意味でSR上司だ。素の能力自体と上司としての対応力はURだが懸念点の多さでだいぶ減点される。

「聖園警部ってもう休職期間使い果たして辞職になってるじゃないですか……」

「目が覚めてるってだけでマシじゃないですか?それに国家公務員の再就職試験はあるわけで……」

 

「私は碇さんと一旦本部に戻ります。すぐ戻るので」

 そう言って2人は先に部屋を後にした。

 

「公妨書類面倒なのに良くやりますね。公安帰りだからですか?」

 書類を片付けながら言葉尻を強めながら言う。少しイライラしていた。

「そうなんですか?三河主任」

 片付け終えて鞄を持った雪乃は隣にいた榴輝に聞く

「2年以上前はこんなんじゃなかったですよ」

 榴輝が少し前と同じことを答えた。

 

 瞠と太一は覆面パトカーに乗り込み、発車する。運転しているのは太一だ。

 それからしばらくして入電した。

「警視庁から各局。殺人事案が発生。マル被は港区から渋谷方面逃走中。全域警戒配備。犯人は男、175cm前後。スーツ。逃走車種、白のボックス。ナンバー渋谷ん224。渋谷ん224」

「警視庁0001A了解」

「また殺人ですか……って、あれ!ん渋谷224じゃないですか?」

 太一は大通りの交差点、向こう側反対車線にいる白のボックスを指す。

「追いますか。運転に集中してくださいね」

「は、はい!わかってますよ」

 瞠は窓を開け、パトランプをつけ、スピーカーをオンにした。

「こちら警察、警察、パトカー通ります道を開けてください」

 その呼びかけに皆、出来る限り避け始める。白のボックスは気づいて左折する。

「渋谷ん224、渋谷ん224、渋谷ん224!白のボックス止まりなさい!」

 しかし、止まろうとしない。

「白のボックスカー!渋谷!ん!224!止まれ!止まりなさい!止まれって言ってるだろ!」

 そのうち前からも覆面と普通のパトカーの2台、後ろからもう一台のパトカーがやって来て挟み込まれる形になった。

 焦った白のボックスはそのまま看板に突っ込んで行って止まった。

「あーめんどくせぇ」

 書類の山になる事を予期し落ち込みながら、安全な場所に車を停めた。

 

「うわ、大麻臭っ」

 車から引き摺り出された犯人を横目に太一は思わず声に出る。

「碇さんは署の方に遅れることを連絡してください。あ、と皆さんは規制を……」

 瞠は警部として指示出しを始めた。制服警官らはそれに従い、ポリステープを貼り、野次馬の対処に当たり始めた。

 

「で、この方は……?」

 大麻臭いのは何処から出ているのだろうか、と瞠は手袋を嵌めて車内を漁っていた。ポケット、座席、様々なところに手を突っ込みながら聞く。

「ああ、あった。大量です。殺人に大麻も入れといて下さい」

 ごっそり出て来たジップ付き透明袋に入った大麻はそれは良いお値段するだろう。

「ああ、天野刃ですよ。帝都大学の先生をね……聖園の……」

 

 聖園、その名前を聞いて瞠は持っていた袋を落とした。

「あ、愛渼さんが……?死、んだ?じゃ、じゃあ梛さ……聖園さんは……」

 また、梛は親をなくした。その事実に瞠は激怒した。ずんずん歩いて行って、制服警官らを振り解き、囲まれていた天野刃の胸ぐらを掴む。

「ちょっ‥‥唯川さっ」

 太一は引き剥がそうとするが、無理だった。

 瞠は天野刃を揺すり、スーツのジャケットのボタンを外す。そこにはインサイドホルスターの中に拳銃、ベレッタM8045があった。取り出そうと手をかける。

「お前…‥お前……」

 そう呟いて、瞠は手を離した。ダンッと足を打ち付ける。ギリギリと拳を握り込み、感情を押さえつけようとする。

「あ、あ゛ぁぁぁぁ!!!」

 しゃがみ込み、頭を抱え、叫ぶ。

 皆、何も言えなかった。

 

「…‥唯川さん」

 署の廊下のベンチに項垂れている瞠だった。

 

「と、いうことは犯人に胸ぐら掴まれて公妨で引っ張った数十分後に他の犯人の胸ぐら掴んで始末書ですか?」

 天野剣の取り調べが一旦終わり、榴輝は自動販売機で人数分の飲み物を買いながら太一と話していた。

「追加で拳銃出そうとして……」

「えっ!?」

 榴輝は思わず大きな声を出してしまい、焦る。

 現在、やはり未だ悪い治安のこの国において警察官の銃の使用がだいぶ緩くなっているとはいえ、瞠のやろうとした既に捕まえている反抗する気のない犯人に対して銃を突きつけること、というのは普通に始末書ものだった。

 

「まぁ、直前で踏みとどまったんですけど。んで、インサイドホルスター、腹に隠すやつあるじゃないですか、それに入れてた拳銃を…‥てかサクラとかリボルバーじゃないんですね、だいぶゴツいピストルだとは思いましたけど」

 次々と選択していく。ブラックコーヒー、カフェラテ、ミルクティー、緑茶……

「ベレッタM8045ね。黒いやつでしょ。そりゃ警察用よりはデカいよ」

「ああ、はい」

 太一は記憶から瞠の拳銃を思い出す。

「あの拳銃元は聖園さんが使ってたやつなんだよ。原田さんから聞いた。インサイドホルスターも聖園さんのもので」

 今も春樹の係にいる原田幸警部補の名前を出した。全部で7本のペットボトルを2人で持っていく。

「原田さんって関わりあったんですね」

「ああ、うん。2年前の唯川事件じゃ2人で行動することが多かったらしいし…‥そもそも唯川係長と生田係長は仲が良いし……」

「仲が良いならどうにかしてくれないと…‥あれを」

 あれ、と言われた目線の先には瞠。顔を上げようとせず、ずっと、伏せて考え込んでいるようだった。

「無理ですよー猪突猛進なのは前からですし」

 

「それで……?天野刃が聖園愛渼を殺した理由は何て言ってたの?」

 雪乃は未莉に聞いていた。女性陣は2人で休憩をとっていた。先ほど貰ったお茶を飲み終えれば皆解散の予定だった。

「聖園愛渼さんって、大学の先生ですよね?帝都大の。それで、帝都大には唯川係長の弟さんが在籍してて、それで天野刃は弟さんを殺そうとしてたらしいんです」

「弟……」

「だけど聖園愛渼さんが、弟さんが居るかどうか聞かれて居ないって答えたらしいんです。後ろから聞いていた学生によると。様子がおかしかったみたいですし、愛渼さんは気づいてたんだと思います、天野刃だと。それで、拒否された天野刃は激昂して刺した。それから車を奪って逃走」

 

「あの、唯川警部の弟さんがお見えになってます」

 署の職員が伝えに来てくれたが、瞠は未だ考え込んでいて気づいていないようだった。

「唯川さーん、ゆ、い、か、わ、さん!」

 太一がぶんぶんと瞠の肩を大きく揺すってようやく気づいたようだった。

「唯川さん?弟さんが来てますよ?」

「芺雅おうがが……?分かりました。行きます」

 瞠は目元を拭って一階へと向かって行った。

 

「芺雅、なんで」

「なんでって、兄さん。何度も何度も連絡したのに出ないから…‥そりゃ忙しいのはわかってるけど……ご飯用意してるから朝には帰ってきてよね。俺数日大学ないし……」

「ああ」

 返事を聞くと芺雅はさっさと帰って行った。

 

「唯川さんって弟さんと一緒に住んでるんでしたっけ?」

 さて皆一度家に帰ろうと片付けをしていた。そんな中太一が聞いた。

「あの億ションね。聖園夫婦の自宅と同じ……あ」

 それに榴輝が答える。

「てか、唯川さん、歳の離れた今まであんまり仲良くなかった弟への接し方分からないと思いますけど……弟さんは事件が…‥それに弟さんにとっては唯川さんが今頼れる唯一の血の繋がった年上の男性なんですからとにかくそばにいてあげたほうが」

 未莉は早く帰ったほうが良いと促す。

「血の繋がった、ね。確かに血は繋がってるでしょうよ……」

 瞠はフッと自嘲するように息を吐く。

「唯川さん?」

「半分どころか4分の1ってとこですけど……あーアドバイス通り帰らせて頂きますね。三河さん、引き続きよろしくお願いします。メールで状況報告頂ければ見ますので」

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