Greyscale   作:零音霖

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EP2 豪雨、逸脱 前編

翌日、聖園愛渼の通夜は朝から豪雨だった。愛渼は人望が厚く、様々な人が訪れた。

その中で瞠はただ謝罪の言葉を繰り返す事しかできなかった。結局、そんな様子を見た部下たちは一課長に相談、そして瞠はほとんど強制的に休暇に入ることになった。

 

1週間後、再び豪雨の日、瞠は自車で張り込んでいた。ぼーっと見つめながら時々ターゲットを写真に撮って、少し経てばリクライニングを倒して寝ているふりをしながらいろんなサイトを漁り情報を集める。結局瞠は休んでなどいなかった。いわゆる違法捜査をしていたのだった。

瞠の携帯に着信が入る。瞠は気だるげに相手を確認し、そして拒否した。それから瞠は雨音を聞きながら本当にしばらくの昼寝へと移行した。

助手席には乱雑にカメラやら書類やらが置いてあるが、一際大きなサイズの丈夫な紙に書かれているのは遺伝子鑑定だった。今日やっと届いたものだったが、瞠は結果についてずっと察してはいた。それは眩夜と瞠の物で、99%親子だと示していた。

そして瞠はまた着信で目を覚ます。気づけばもう暗くなり始めていて予定よりも寝過ぎていた。

目を擦り、リクライニングを戻して車を発車させる。未だ雨はやまない。

 

1ヶ月の休暇を終え、瞠は捜査一課に戻ってきた。相変わらず多忙なのには変わらないが、前よりは元気だった。

 

「みはる〜今暇?書類終わった?飲み行こうよ!」

春樹は書類仕事が終わったらしく、事件も入っていないので随分気楽だ。絶賛パソコンと睨めっこ中の瞠にとってはイライラの素だった。

「そんなこと言ってると事件来るので言わないで下さい」

どこでもそうだ。ナースコール、救急、消防、そして警察。暇だね、患者来ないね、事件ないねなんて言ったり、カップラーメンにお湯を注ぐと来るのだ、呼び出しが。

「唯川!」

どうやら当たったらしく瞠に呼び出しがかかる。

「はい。今行きます…‥ほ、ら、な」

怒りを込めて吐き捨て、瞠は席を立った。

 

「はぁぁぁぁ」

深い溜め息を吐き、デスクに突っ伏す。手には分厚い資料。

「最近、関東では連続殺人が起きてたじゃないですか。同様の手口で東京でも起こったらしく……未遂に済んだようですが」

「じゃあまた泊まり込みか…‥早期解決、頑張れよ」

そう言って春樹は退庁して行った。

「クソが…‥」

そう呟きながら時間を確認する。現在17時30分。合同捜査本部が建てられるのは警視庁だそうなので移動の負担は今はほぼないのが幸いだが。

「クソがぁ……」

瞠はダン、ダンと突っ伏しながら軽く拳でデスクを叩く。かと思えばスンッとして元に戻り、「皆さん泊まり込みの準備を」と言って資料を読み込み出した。瞠はずっとお泊まりセットは置いてあるのだ。瞠は警視庁側の責任者の1人として振る舞う事になる。

 

捜査本部は警視庁最上階の大会議室で行われる事になった。神奈川、埼玉、千葉、そして東京警視庁。4都県の所轄と本部の刑事、100名超が集まった。

警視庁の管理官と県警のそれぞれの担当係長つまりは警視と警部が前に座る事になる。捜査本部が立つ後3時間で最初の捜査をしなければならない。

 

現場は芸能事務所、Omnipotent Promotion(オムニポテントプロモーション)本社ビル1階ロビー。被害者は所属タレント、アイドルユニット、EnTeR(エンター)神庭慈雨(しんていじう)。元はBright Entertainment(ブライトエンタテインメント)に11年所属、2人組アイドルユニット、PygMaLioN(ピグマリオン)で10年活動、1年前に電撃引退したがオーディション番組に出演。番組内でのデビューとは至らなかったが、オムニポテントに引き取られ、番組内で特に人気だったが同じくデビュー出来なかったペア相手の財前頼世ざいぜんよりせと共にEnTeRとしてデビュー。番組内でデビューしたEGO:Automata(エゴオートマタ)よりは劣るものの、順調な活動を続けていた。

そして、以前の事件との共通点は、そのオーディション番組、 I:DoLL HOUSE(アイドルハウス)のファイナル脱落者という事だった。

 

「かなりの出血ですね。生きてるのが奇跡と言ったところですか」

現場は血だらけで手形やら踏んでしまった結果足形やらが沢山ついていた。

「被害者の神庭さん。かなりの生命力と運をお持ちなようで、もうすぐ手術も終わるかと」

「それで、小さなプラ製のフィギュア、ですか」

もう一つの共通点とはアイドルハウス、という名前の番組名に因んでかプラ製のフィギュアを落としていく事だった。

 

オーディション番組出演者連続殺人事件の犯行内容はシンプルだ。包丁でぐさり、そして直ぐに去る。ただ、番組名に因んでか小指くらいの大きさのフィギュアを落としていく。

「唯川係長、また都内で事件が……」

 榴輝がしゃがみ込んで捜査をしている瞠に話しかける。

「例の番組出演者ですか?」

 瞠は捜査を続けながら話を続けた。

「はい。現場は渋谷、 松濤(しょうとう)

「松濤?」

 松濤という地名を聞いて瞠は振り返った。

「来客のふりをしてぐさり、だそうで。しっかりと小さなフィギュアも落ちていたそうですが……今回は助からなかったようです」

「そう、ですか。わかりました。三河さんはここで現場指揮を。私は碇さんと御堂さんと共にそちらの現場に向かいます」

「わかりました」

 

「デカいですね。唯川さんのご実家もこんな感じですか?」

「私の実家はマンションですよ。まぁ祖父の方は一軒家でしたけど」

 イエローテープの近くでそんな事を話していた。

「昔はここに3つ分の土地に一軒の家が建ってたんだけどなぁ」

 それに返答するように一般人のおじさんが呟く。高級住宅街で大人しい人が多いとは言え流石に気になる人も居るらしく、野次馬もちらほらいた。

「松濤の制限って200平方メートル以上でしたよね?」

 高級住宅街には敷地面積の下限が存在し、松濤では200平方メートル以上、つまり60坪ないと建てることができない。この家も制限の3倍以上の広さをしているが、20年前はまたそれの3倍以上の大きさの土地に大きな家が建っていた、というわけだ。

「600坪ここに持ってた個人なんかあれしか居ませんよ」

「ああ、650坪の閑院別邸があった」

 おじさんが答える。それにピクリと瞠が反応する。

「閑院……お話ありがとうございます」

 にっこりと笑って感謝を告げる。

「おう」

 

「被害者は日野湊。例に倣ってオーディション番組、アイドルハウスの出演者です。腹部を包丁で刺された後、ぐりぐりとかき混ぜられ、抜かれることで損傷の激しさと大量出血で死亡」

 機捜隊員の真中は身振りをつけながら説明する。うへぇと未莉は痛そうだと顔をしかめる。

「これで5人目、ですか」

「いずれも包丁で刺されてはいましたが、ここまで念入りではありませんでしたよね」

 太一は先ほどの慈雨の事件とこれまでに起きた3件の事件を例に出す。

「おそらくは神庭さんが生きていた事により、念入りになったのかと」

 

 

 警視庁、大会議室。

 瞠らが戻った頃には既に人でごった返していた。

「こっちです」

 榴輝に呼ばれ前の方の席に呼ばれる。

「何かわかった事はございましたか?」

「血でできたゲソコンはあまりにも人が踏みすぎてわかりませんでした。指紋も従来通り手袋をしていたので検出なし。ただ……目情については今までの細身中背の男から一転、小柄の男との事で、複数人の可能性が出てきました」

「なるほど」

「それと、今SNSで話題になってるんですけど、啓央大の飛び降り事件の深山鞠、今回の被害者の日野湊と付き合っていた様で……」

 雪乃は情報を追加する。

「めんどくさくなってきましたね」

 

 犯人は犯行は大胆だが決定的な証拠は残さない。

「それでは、警視庁捜査一課5係」

 一課長の指名に瞠が立つ。

「警視庁捜査一課5係長、唯川です」

 唯川、その名字に皆、それぞれに好き勝手に言う。

「相棒失っておかしくなった公安帰り」

「あんな事件が起こったというのに未だ居座る心臓毛むくじゃら」

「いや、1ヶ月も休んでたじゃん。理由はあの聖園に関係してたから」

「あいつが居残れるのが不思議だ」

 それに対抗する様に瞠は声を張り上げる。

 

「5係の唯川です。恵比寿での事件に追加して渋谷区松濤でも事件が起きました。被害者は日野湊。また、日野は1ヶ月前に啓央大学で起きた飛び降り事件の被害者、深山鞠と付き合っていた様で…‥小幡さん、お願いします」

 瞠は雪乃にスクリーンに画面を映す様に頼む。雪乃はSNSに疎い人たちの為に開始前までに急いでスクリーンショットを分かりやすく編集していた。

「松濤での被害者、日野湊は知っての通り、アイドルオーディション番組、アイドルハウスの出演者です。このオーディション番組の出演者は元々事務所に所属していた研究生、本デビュー前のタレントの他に他事務所の研究生、俳優、アイドルとしてデビュー済み、一般人など様々な経歴がありますが、日野は一般人です」

 雪乃は緊張しながらもしっかりと報告していく。

「日野はデビューせずに番組が終わったのでもちろん一般人なのですが、ファン達にとっては違います。他のアイドル同様出演者は私生活を詮索され、そういった情報を拡散するSNSアカウントに情報を売られたりもします。そして、このアカウントは、いわゆる捨て垢、この為に作ったアカウントで日野の事件直後に深山鞠との関係を拡散しています。」

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