「逃げましょう。VIPフロアには緊急脱出通路もあったはずです」
「でも、僕は……まだ十分歩けません。それに冬人も、他の患者さんも……」
その返事に瞠は詰まってしまう。逃げるべきだが、どうすれば良い。
考えた結果、瞠はナースステーションに駆け込む。
「唯川さん!? いたんですか!? どこかに隠れていた方が……」
看護師らは瞠に驚きつつも心配する。
「逃げましょう私が先導します。マップを見せてください」
「わ、わかりました」
看護師の1人が院内マップを引っ張ってくる。通常のマップは7階が省略されている。VIP病棟と書いているだけで何もわからない。このマップは病院関係者のみが見れる詳細なマップだ。
「エレベーター同様、1階まで直接繋がっていて他の階からアクセス出来ない専用非常階段はあります。しかし、その後が問題なんです。1階に降りたあとはホールから出て正玄関か南出入り口、東出入り口、そして救急出入り口のどれかを使う必要があります。1番近いのはマップの通り救急出入り口ですが……」
「……大階段が近い」
「はいそうなんです」
救急出入り口、救命センターの隣には正玄関レベルとはいかないが上からの見通しがいい階段がある。つまりは見つかる可能性も高いという事だった。
「今の患者は?」
「20床のうち15床が埋まっています。歩けないのはうち3名です」
別のナースが情報を付け足す。
「看護師さん達は今何名で回していますか?」
「私と、遠島さん、手塚さん。それと今患者様のところにいますが田中さんと宇都宮さん、加古川さん、久本さんがいます。男性看護師はその4人です」
「私が先導します。必ず脱出しましょう」
「橋爪、吐きましたよ。聖冬人のお見合い相手もそれなりの家の子だったみたいなんですけど、元々テーマパークのダンサーで、深山鞠とはインフルエンサー仲間だったんです。それで、橋爪、いわゆる厄介オタクって奴でお見合い相手に粘着していたのが判明しました。橋爪と天野剣は相互フォロー状態でした。恐らく、橋爪は2人が会っていたところを見て殺そうとなり、しかし殺しきれなかった、逮捕する前に依頼か扇動したか……まぁ何かしたんだと。危ないグループと付き合ってたのはそうみたいなんですけど……」
未莉が署内を小走りで回りながら新たな情報を伝える。
「ありがとうございます。これから救急出入り口から脱出予定です。引きつけることは可能ですか?」
「わかりました。三河主任にもお伝えください」
「はい」
「唯川さん……?」
再び、梛の病室。梛は不安を隠せないでいた。
「僕は、歩けませんので。冬人や他の患者さんたちを優先して下さい」
「ですが……人数の観点でしたら、歩けない5人と男性看護師2名と私がエレベーターに、それ以外は階段で降りれば大丈夫でしょう? 1階のエレベーターホールの扉の先までは完全に専用のものですから」
「……わかりました。行きましょう。時間はありませんよね?」
梛は、はぁ、とため息をつくがその顔は少し誇らしげだった。
「唯川さん」
車椅子に梛を乗せ、病室を出る瞬間、梛は瞠の方を振り向いて心配そうにそう呼びかけた。
「どうか、しましたか?」
「いえ……大丈夫です。行きましょう。お願いします」
「……はい」
皆、一階までは降りることができた。しかし、この先が問題だった。扉はガラス製でなく、向こうが透けて見えない。しかし、立ち止まってはいられない。今再び交渉中で全員中央に戻ってきているとの報を受け、皆急いで扉から出る。救急出入り口のシャッターを開けるとすでに数名のSAT隊員が待っていた。鍵も開け、スムーズに脱出に成功したのだった。
「行きましょうか、皆さん」
瞠はSAT隊員を連れ、再び院内に戻って行った。7階に着くとSAT隊員を1番近くの病室に隠れさせ、PⅢで準備完了を知らせ、スーツのジャケットを脱ぎ、借りた白衣を羽織り、再び1階へと降りていく。
「お、お待たせしました。西野と申します」
瞠は西野と名乗って10人の犯人の前に出る。
「おう、十分待った。さっさと案内しろ」
「わ、分かりました」
瞠は全員をエレベーターに乗せ、自身も乗って7階へと向かった。
エレベーターが7階に着き、扉が開く。瞠は開くボタンを押し続け、犯人らを降ろす。
「おい! 聖冬人を呼べ。それが俺らの依頼主のご要望だ。ついでに聖園も呼べ。俺らの恨みを晴らす時だ」
リーダー格の男が振り返り、瞠に指示する。
「は、はい。あの……」
「なんだ?」
「皇族復帰問題とは関係無いのですか?」
「ああ? 何言ってんだ? さっさと連れてこい!」
どうやら冬人が旧皇族であることを知らないらしいとわかった瞠は小走りでSATが隠れている病室に向かうと、中に入り扉を閉める。
「すぐそこに来ています」
「わかりました」
瞠は隊員らの後ろに回り込み、拳銃を取り出す。ベレッタM8045。元々は梛に所持権があった拳銃だった。そして、ポケットの中の警察手帳を上から確認し、深呼吸をする。
「行きましょう」
隊員は扉に手をかけ、10を数え始める」
「5……4……3……2……1……GO」
その合図で扉を開けると勢いよく飛び出し、犯人らに銃を向ける。
「どういうことだ! お医者様がよぉ」
「こういう事です。大人しく投降しなさい」
瞠は片手で拳銃を構え、片手で警察手帳を見せる。
「警視庁捜査一課5係長唯川瞠と申します。貴方がたを特別組織対策法違反及び銃刀法違反で現行犯逮捕致します」