Greyscale   作:零音霖

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EP6 境界線

「それで、聖園さん。被害者の男と言い争いになっていた男に心当たりはございますか?」

 署で血塗れになってしまった服を変えて戻ってきた梛に瞠は向き直り、そう質問した。

「被害者はヴァルキリーと取引があった組織の一員で、現在は足を洗って一般人としての暮らしを始めたはずだったんですが……昔の恨みでしょうか。言い争いをしていたのはその男が組織を抜けるきっかけとなった……こちらは最初から一般人ですが」

「……先日起きた立て籠り事件、そして中学生殺人事件も関わって来そうですね」

 それを聞いたいた太一がぼそりと呟く。

「銃撃となれば疑うしかありませんね。場所も場所ですし」

 現場は神谷町公園。最寄り駅は神谷町駅。2駅先は霞ヶ関だ。

 東京の真ん中、といったところで銃撃ともなれば、あたりの警戒配備は一層強くなるだろう。未だヴァルキリーと唯川の起こした事件の影響は無くならないのだった。

 

「ありがとうございました。聖園さん。ご自宅まで送りますよ」

 瞠は椅子から立ち上がってそう言った。

「では、お言葉に甘えて。よろしくお願いします」

 ここから梛の自宅まではそう離れていない。しかし、2人の個人的な話をする貴重な時間なのだった。

 

「先日、橘課長が……僕の元上司です。警察庁の警備企画課の。その橘さんがやって来たんですよ」

「それで、要件は?」

 信号待ちの最中、瞠はバックミラー越しに梛を見つめる。

「復帰です。結局、あの人たちも鉄砲玉と宣伝役は必要なんですよ。中途採用の書類を貰いました。それで……」

「もう出したんですか?」

「はい。一応試験も受けることになりますし、ね」

 10月の国家一般職試験をもって4月から入校することになる。

「中途採用といえど、教育は他の人と一緒に受ける必要があるんですよ」

「……そうですか。わかりました。そこまで言うなら私は応援していますよ」

「……ありがとうございます」

 梛は感謝を告げるが、俯いていて瞠には表情がわからなかった。そうこうしている間に信号は青に変わり、動き出した。

 

「ありがとうございました。今度食事にでも」

「ええ。行きましょう。それでは」

 瞠は窓を閉めて去っていった。

 

「ああ、お帰りなさい唯川係長」

 榴輝は散らばりかけた資料を整えながら席から立った。

「何か、分かったことはありましたか?」

「ええ、こちらを」

 そう言いながら榴輝はパソコンの画面を瞠に向ける。

「聞き込みとSSBCの活躍、それから梛さんの証言によって、事件に関わった3名の身元が割れました。まずは被害者、穂木彰。元々ヴァルキリーと関わりのあったヤクザの一員でしたが、現在では足を洗い、介護施設で働いていました」

 榴輝はパソコンを操作して次の資料を出す。

「それから、揉めていた男。遊佐忠信。穂木の古い友人で、穂木がヤクザから足を洗うことになった要因の人です。遊佐の友人によると、誰にでも手を差し伸べてしまう優しい人、との事で」

「次に銃撃したであろう、尾上遙」

 太一が割って入って説明をしだす。

「ヴァルキリーの構成員の1人で、22年前の閑院夫婦心中火災事件において放火の罪で7年の実刑を……唯川さん?」

 太一は瞠の違和感を感じ取った。

「証拠はあるんですよね?」

 ビリビリと辺りを焼くような殺気と言うべきか、押し付けるような圧のあるオーラが辺りに広がる。

「え?」

「尾上が穂木を撃ったであろう証拠です」

「ええ、マエアシがバッチリと。顔が映っていましたし、拳銃も……」

「さっさと殺人未遂でしょっぴきますよ」

「そう言うと思ってもう逮捕状請求は作成済みです後は決済して頂くだけで」

 そう言いながら榴輝はパソコンを操作する。

「唯川さんのタブレット端末に飛ばしましたので、サインお願いします」

「どうせ交付されるのには数時間は掛かる。おはよう逮捕と行きましょうか」

 瞠はサッとサインをすると、すぐに裁判所に送った。

 

「今のうちに寝るなりちゃんとしたものを食べておきましょう」

 瞠のその言葉で雪乃は腕時計を確認する。

「とはいえ今は14時近いですよ」

「めんどくさい、というか」

 榴輝は、はぁ、と椅子に体を投げ出す。

「私たちはこういう仕事をしているのですからしっかり食べられてしっかり寝れる時は寝ないといけませんよ」

「それはそうですけどねぇ……」

 未莉も激務を嘆く。

 

「どうかしました?ああお帰りなさい。唯川係長」

 圭一が既にお湯を入れたカップ麺を、燈が菓子パンを抱えて戻って来たのだった。

「……どこか食べに行きませんか、という話をしていたのですが……」

 呆れたように瞠はため息混じりで言った。

「そういう話、していましたっけ?まぁいいですけど。じゃあ菅野と小野は置いていけば……」

「ちょ、ちょっと!入りますよ!?こんなんじゃ足りません!なんてったってまだ成長期!すぐ食べますからその間に決めといてください。どこでも良いですから」

「私は……まだ食べてないので……行きますよ。皆さんが行くっていうなら」

 燈はすぐにデスクにパンを置き、圭一はデスクに座るとかなりの勢いで麺を啜り始めた。

「じゃ、どこか行きますか?何食べたいですか?」

 束の間の休息が5係にも訪れたのだった。

 

翌、早朝。5係は尾上遥の自宅の扉前にいた。

何度、何度ベルを押しても尾上は出てこない。痺れを切らした瞠は直接ドンドンと扉を叩く。

「あんまりやり過ぎるとこっちが……」

榴輝はそんなことを言いながらも出てこない尾上にイライラを募らせていた。

 

「うるっさいなぁ。何?」

尾上は頭をぽりぽりと掻きながら出て来た。

「おはようございます。私、警視庁刑事部捜査一課第5殺人捜査の唯川と申し……」

「んで?何?そういうのいいからさっさと本題に……」

自己紹介を遮られた瞠は一層ニッコリと笑顔を作り、続ける。

「貴方に殺人未遂の疑いが。それと少々聞きたいこともありましてね……」

瞠は未莉からタブレットを受け取り、画面を見せる。逮捕状、その文字に尾上は、はぁ、とため息をつくと、「準備してくるんで」と言った。

「あぁ、それと。家宅捜査も出てまして」

 

尾上の自宅からはあっさりと拳銃が出て来た。ちゃんと唯川工業製のリボルバーだった。

尾上は殺人未遂、についてはこちらもあっさりと認めた。動画での証拠も、物的証拠である拳銃も出て来てしまっている。黙っている理由などなかったのだ。

「流石に22年前のことなんか忘れたよ」

「ではなぜ閑院邸に火をつけたのですか?貴方がそうする理由は?」

「それは汚職が……」

「閑院榧の汚職が大々的に報道され始めたのはあの事件の後ですよ」

「……」

瞠の追撃に尾上は黙ってしまう。

「何に怯えているのですか?私は祖父と父をあの立場から引き摺り下ろした張本人ですよ?」

「……捨てられてなけば、実家に古い携帯があるはずだ。何か残っている可能性はあるが……」

「ありがとうございます」

 

「それで、今から尾上の自宅を家宅捜索ですか?」

太一は車の後部座席から瞠に話しかける。

「令状取れたらの話ですけれどもね」

瞠は落ち着かないのかバックミラーで髪を撫で付けていた。

 

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