Greyscale   作:零音霖

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EP7 贖罪 前編

 目的の駅に着くと、梛は近くの花屋によって花束を見繕った。菊とカーネーション、それからスターチス。仏花で無難なもので控えめなものを。おそらくは仏花といえど色はとても綺麗なのだろう。梛にとっては白と黒の濃度の違いでしか無いが、それでも。

 

 それからバスで15分程度。この地域で1番大きな霊園に着く。

 何度か訪れていたから梛は迷わず進む。東京とは違う涼しい風と、霊園だからか重い空気の中進んでいく。そして着いた。羽島家之墓。梛は元相棒である羽島枢の墓参りに来ていたのだった。

 

 梛は花束を置くと手を合わせる。謝罪、処罰の訴求。しかし梛は足音が自分の前で止まったことに気づいて、顔を上げる。その瞬間梛の顔は青くなる。梛の頭の中はぐるぐると回り演算しようとするが何も吐き出さない。

「申し訳ございません。あの……もう帰りますので。お目汚し……」

 梛が全てを言い終わらないうちに男は口を開いた。

「今から、少しだけお話をしたいんですが……大丈夫でしょうか。聖園さん」

 男の顔は心配そうに眉がたれていたが、いつもは気づくはずだがそんなこと梛は気づいていなかった。それどころではなかったのだ。

「わ、わかり……ました」

 男は羽島信彦。羽島枢の父親だ。

 

「どうぞ」

 お茶が出される。場所は羽島家の応接間。羽島家もそれなりの金持ちというものでこの辺りの一般的なものより、数倍の土地に立派な一軒家が立っている。

「どうも……」

「私どもは別にあなたの事を……」

「私が、私が引き金を引かなければ、息子さんは死ななかった。死ななかったんです」

「娘から、聞いていると思います。全ての経緯は警察庁の方から説明されました」

「今更、話とは何でしょうか?恨んで無いなら、何を……」

「死にそうだったから、ですよ。顔が。聖園さん」

 信彦はお茶を飲んで一息着くとまた話し出した。

「結論が、まだ着いていないのなら……」

「結論なら、着いています。いくらあの時、射撃命令が出ていようと、人を殺したのには変わりありません。それに、その射撃命令の中にはもちろん息子さんは含まれていません。その罪を私は忘れてはいけません。生涯を国に尽くす必要があります。誰よりも最前線に立ち、何度でも死地に舞い戻る必要がある、と私は考えているのです。何より、警察庁の方から〈命令〉を……まぁ全部言い訳でしかないですね」

 梛はズボンをギュッと握って話し終える。

「その覚悟を最後まで持ってください。私どもから言えるのは、それだけですよ。正直言って、覚悟はしていましたよ。東京の警察官になると言って出て行ったのですから」

 枢の事件が起きた3年半前から5年前ごろの時期は特に日本の治安は数十年前と比べると圧倒的に悪くなっていたからだった。それにより、警察官の銃規制が弱まったりなど影響も沢山ある。

「いつ死んでもおかしくないなか、連絡が全く取れなくなっては……」

 普通の、とはいえ数十年前と比べると凶暴性が段違いの犯罪者を対処する刑事部よりも、銃を当たり前に使ってくる犯罪組織に潜入するような公安部の方がバレれば死ぬ可能性も、その手で人の命を手にかけることも多いだろう。何より、羽島自身、北海道警察の警察官なのだった。

「自分は、一地方警察官ですし、出世スピードも一般的でさほど変わらず、でしたけれどそういった噂は耳に入るものなんです。急に連絡が取れなくなったり、辞めると言い出したら公安になったって、だから、覚悟していました。既に死んでいるのでは、とまで」

「……」

 一般的に、警察官が職務中に死亡すれば殉職になるが、公安の場合はそうとも限らない。事件が解決するまでその死亡すら伏せられることだってある。

「全て、ヴァルキリー(あいつら)が悪いじゃないですか」

 梛は、何も返すことが出来なかった。諦めてるのだと推測がついたからだった。梛自身、もう両親の事件について何処か諦めがついていた。今更、という。別に大元は捕まったのだから、いいではないか。それが別件での逮捕だとしても、そのうち死ぬのだからいいではないか、と。

 

「さて、飛行機のお時間は何時でしょうか?よろしければ最寄りの駅まで送りますよ」

「い、いえ!そんな……」

「いいんです」

 結局梛は押し切られて羽島の車に乗って最寄り駅まで送ってもらうことになった。その車中、何気なくスマホを見る。

「うわっ!」

 梛は思わず声を上げる。

「すみません。驚かせてしまって」

「いえいえ、どうされましたか?」

「課長…‥元上司から着信が5件ほど……」

 橘からの電話が来ていたのだ。休暇中、というのもありサイレントモードにしていたおかげで気づかなかったが、急ぎの案件だろう。

「出ていいですよ」

「ありがとうございます」

 梛は羽島に感謝を伝えると、橘に折り返し始めた。数コールして、橘が出た。

「申し訳ございません。現在所用で北海道に……」

「と、いうことは墓参りかな」

「…‥はい」

「それはいいとして、急を要することでね。公安委員長が君に会いたい、と。セッティングする予定なのだが予定は空いてるかな?」

 国家公安委員会委員長。国家公安委員会は警察庁の上に立ち、その委員長は国務大臣がなる。

「委員長、ですか?何故……いえ、明日以降でしたら、何時でも」

「わかった。詳細が決まれば追って連絡する。元気で」

「ありがとうございます。橘さんも、体調にはお気をつけてください」

「ああ」

 梛は行けば担ぎ上げられることなど分かっていても、断ることなど出来なかった。

「公安委員長は閑院派になる、ということですか」

 羽島が呟く。しかし、梛は何も返せなかった。

 

 

 結局、瞠達は頭を下げて他部署から捜査車両を1台借りて、2台構成で車を走らせ、5係は埼玉県にある尾上の実家へと辿り着いた。もちろん、埼玉県警、所轄にはしっかりと連絡を入れている。

 一軒家のインターホンを押すとすぐに女性が出てきた。尾上の母親だろう。

「はい。どなたでしょうか?」

 スーツ姿の男女が複数名いれば怯えるのも無理はない。

「警視庁捜査一課5係の唯川と申します。息子さんの件で捜索差押令状が出ていまして」

「捜索……」

「令状が出ていますので、申し訳ございませんが強制となります」

「……分かりました。どうぞ」

 女性はすぐに5係を家に向かい入れた。

「それで、その。息子はまた、何か……」

「殺人未遂、とだけ」

 女性は何も言えなくなってしまった。

 

「ありました!古い携帯!」

 5時間後、未莉が叫ぶ。物置に置いてあった箪笥の中に探していたものはあった。5台ある。未莉はそれぞれ袋に入れて、物置から出てくる。

 

「皆さんお疲れ様でした。では、帰りましょうか。尾上さん、ご協力感謝します」

 しっかり片付けも終えて目的のものを回収し終わった5係は東京へと戻っていった。

 

 充電を終え、メールや着信履歴を確認して行く。

 2008年、2007年、2006年に差し掛かる。2006年4月。事件の起こった月だ。

 4月29日を開いた。事件翌日。そこにはこう書かれてあった。

[ご苦労。私が関わっていることはくれぐれもバレないように。]

 4月27日[それでは頼んだ]

 4月25日[先日話した通りに]

 ……3月15日[今度、君に会いたい。詳しく話しておきたい]

 などなど、その相手からは事件の数ヶ月前から頻繁に連絡が来ていた。恐らくこの相手が唯川眩夜なのだろうと目星をつけた。やっと、やっと証拠の一つが見つかった。その喜びで瞠は笑みが隠せなかった。




2026-05-25 2007年を2006年に修正しました。
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