「国家公安委員会委員長、
嵯峨周。最年少閣内入りしたエリートで国民の支持も熱い、次世代の総理大臣候補。
「何故、そんな人が」
「さぁ、僕にはわかりません。ただ、得はあるんでしょう……それでは」
梛と別れた後も瞠は難しい顔をしていた。
「唯川係長」
「聖園さんには警察勲功章の話も上がっています。それは2年前からの話ですが。警察勲功章は警察庁長官から授与されるものですが、嵯峨周も聖園さんを警察の英雄に、日本の英雄にしたいでしょう。つまり、次期天皇として持ち上げたいでしょうね。」
それに、と瞠は続けた。
「4月までには改正し正式に発表。10月ごろに式典でしょうかね」
「それにしても、あの手……」
榴輝は類の手の甲にあった古くなった火傷痕を思い出す。
「ええ、当時の証言でも扉を開けてすぐはもう火の海だったようで……足にも痕が残っているそうです」
「鉢合わせた、とかでしょうか?」
未莉は一つ思いつく。そうすればさっき梛が言った20分程度のタイムラグがあってもおかしくないのではないか。例えば、裏から逃げようとした犯人らだったが、類に気づかれてしまい、咄嗟に用意していたガソリンを撒いてライターで火をつけた。その時類の手や足にガソリンがかかり、引火し怪我を負った。当時の犯人らもガソリンを撒いての放火は認めている。
「どうでしょうか?」
未莉は推測を披露してみせた。しかし、瞠や榴輝が反応を示す前に、素晴らしいよ。と言った人物がいた。
「聖園さん!?聞いてたんですか?」
「申し訳ない……」
「先程は何故、この事を?」
榴輝は恐る恐る類に問うた。
「梛が居たからね……もしかすれば気づいているかもしれませんが、あまり言いたくないんです。これ以上の心配も怒りも抱いてほしくなかったから。もし宜しければもう少しだけ」
「ええ、大丈夫ですよ。ぜひお話しお聞かせください」
梛は早足で自宅へと向かっていた。早く1人になりたかったのだ。
自宅に飛び込むと、震える手で携帯を操作し、電話を掛ける。
「わざわざ橘さんを通す必要ってありましたか?それに、わざわざこんなことしなくても会いに行きますよ。もちろん貴方に合わせて。周さん」
「困るでしょ?梛くんもさ。まぁ梛くんのお誕生日も近いからお祝いも兼ねて、ね。叔父さんにご馳走させて」
じゃあ、といって周は切ってしまった。ため息が溢れる梛だった。
「それで、20分梛さんの下を離れていたんですね」
類は語った。20年前のあの日、2人の死体を発見した類と梛だった。しかし、類は違和感を感じて、奥の扉を通じて、奥の廊下へと向かった。それから裏口近くでガソリンを撒いていた犯人らと鉢合わせ、焦った犯人らは類に向かって余ったガソリンをかけた。そのガソリンは類の手と靴に掛かり、そして犯人らはライターを使って火をつけ、裏口から逃走した。引火した事で焦った類は急いで1番近くの全面窓がある部屋へ向かって、外に出た。当時の閑院別邸はそれはもうとてつもなく大きな家だったそうで、庭も広かった。庭の砂場でなんとか鎮火し終えた類は正面玄関から事件現場だった第一応接間に向かい、梛と共に脱出、それから通報した。
「それから、数カ月は嵯峨家と……」
「嵯峨家?」
瞠は思わず口に出す。
「ええ、あの嵯峨ですよ。国家公安委員会委員長の。周さんは雪さん……梛の母の弟なんです。それに東京住みで区は違いますけど同じような環境に住んでいましたので……ですが話し合いを重ねて私が梛を引き取り特別養子縁組を結ぶことになったのです」
「嵯峨さんは何故、そのまま梛さんを引き取らなかったのでしょうか?」
「第一、私に懐いていたというのもあるでしょうが、周さんはその後政界入りしましたから、閑院関連の莫大な不動産資産は管理も含めて大変でしょうしね」
閑院は不動産で大成功した。あのビルもそのビルもあの土地も閑院のものだった。一等地に立つ商業ビルだって。この聖園食品本社ビルも閑院が譲ってくれたものだった。当主だったは全てを梛と聖園家に託して亡くなった。その為に現在では管理会社であるユグドラシルビルは聖園食品の唯一の関連企業ということになっている。
「そうでしたか……今日は本当にありがとうございました」
「今日は収穫が沢山ですね」
「そのかわり残業も沢山ですよ」
未莉の一言に榴輝が愚痴を冗談混じりに重ねた。
「私が纏めておくので皆さん帰っていいですよ」
そんな会話をしながら警視庁へと戻っていった。