Greyscale   作:零音霖

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EP8 フールズメイト 後編

「ふぅ……」

 瞠が伸びをして、腕時計を見るともう9時だった。本当に忙しい日はこんな時間に帰れないが帰れるなら帰ったほうがいい。

「流石に帰るか」

 そう呟いて立ち上がった。瞠も40が近づき、体は昔のようにはいかない。疲れた体を奮い立たせて捜査一課を後にした。

 

「……何かあったのか……?」

 ここはまだ東京の中心で人通りはまだまだある。しかし、やけに騒がしい。しかし、それの原因はすぐにわかった。拳銃を手に暴れている男がおり、数人その被害にあっていたのだった。残念ながらいくら警察官の規制が緩くなったとはいえ退勤中の今は拘束用のラップガンも拳銃も当たり前だが今は所持していない。何かあった時用のボディカメラは私服警官でも襟につけているが今はそれもない。持っているのはP IIIと警察手帳のみ。それでも、警察官として対処する為に、瞠はハザードを炊いて車を路肩に寄せた。後部座席に置いてあったタオル類を持ち出した。

 

 瞠は車から降りると、1番近くにいた被害に遭った男性と付き添っている男性に声を掛けた。

「あの……」

「あ、はい……」

「警察です。捜査一課5係長の唯川と申します。状況を軽く聞かせてもらっても? こちら傷を抑えるのに……」

 瞠は警察手帳を見せ、タオルを差し出す。

「ありがとうございます」

「ではその上からこのタオルを乗せて……もう少し強くて大丈夫です。そのまま……それで、何が?」

 瞠は止血の詳しい指示をしたのち、話を聞き始めた。

「わ、わからないんです、急に拳銃の音? が聞こえて、みんな倒れてて……誰も近寄れなくて……」

 男は暴れている男を指差した。

「……わかりました。救急隊員が来るまでそのまま抑えておいてくださいね」

「わかりました」

 瞠はその場から離れ、犯人の方へ近づく。そして、瞠は気づいた。犯人は尾上恭、尾上遥の弟だということに。

 

 サイレンの音が近づいてくる。救急車とパトカー、SATが乗っている特殊車が何台もやってくる。

 瞠のPⅢにも通知が入る。

 

「唯川、お前近くにいるよな」

 捜査一課長からだった。GPSを見ているのだろう。

「ええ……近くどころか、現場に」

「無茶するなよ。わかってるな」

「もちろん、それと犯人は尾上恭、恐らくどうでも良くなった末の犯行かと」

 

 しかしこれ以上近づくに近づけない。そうこうしている間に警察車両は増える。恐らくは公安の人間とみられる人たちも増えていた。次の瞬間、恭に一番近いところに制服警官が倒れているのが目に入った。もう1人も数メートル離れた場所に倒れていた。拳銃はここから獲ったのだろうと瞠は推測した。

 

「唯川さん!」

 私服だが、見覚えのある顔がやってくる。

「龍山さん。お久しぶりです」

「土井隊長からこれを。規定上これしか渡せませんが……」

 隊員の龍山優希が渡してきたのはラップガンだった。

「拡声器も貸していただけますか?」

「もちろん。とりあえずこちらに」

 優希に案内され、瞠はSATの特殊車の後ろ側に来る。

「お久しぶりです。土井隊長」

 瞠は隊長の部分に含みを持たせた。

「ああ、これを着けろ。インカムだ。それとホルスター。銃は渡せないがこれなら……これにさっき渡したラップガンを挿しておけ。あと拡声器だな」

 瞠はジャケットを脱いで装備していく。

「接続は問題ないか? 音量は?」

 瞠はインカムを指先でコツコツと叩いて調整する。

「ええ」

「じゃあ頼んだぞ。俺たちは後ろで支援する」

 

「こんばんは。私の名前は警視庁刑事部捜査一課第五係係長の唯川瞠と申します。貴方の、目的はなんでしょうか?」

 再び、瞠は犯人の方を向き、じりじりと詰め寄る。

「コイツが……コイツらが悪いんだ……俺は何も……何もしてなかったのに……」

「今すぐ、銃をおいて手を挙げなさい。話はそれからいくらでも聞きましょう。尾上恭さん」

 恭は瞠が名前を呼んだことに動揺したのか、銃を落としかけ、何かにつまづいた。瞠はそれの正体に気づいた。

「尾上さん。貴方は警察官をナイフで刺して拳銃を強奪しましたね?」

「……ああ」

 恭は渋々というように認めた。

「大人しく、銃を下ろしてください。そうすれば我々は貴方に危害は加えない」

 瞠は危害は加えないと言っているが、かなり焦りが滲んでいるし、殺気がこもっていた。しかし、囲まれてきていることや突発に起こした行動を振り返りパニックでいっぱいになっている恭にはそんなことには気づかなかった。

 

 梛は食事が喉を通らなかった。だから、せっかく作った夕食を放っぽり出してウォークインクローゼットにいた。

 ここには自分の服だけではなく、焼けなかった両親の服や時計、アクセサリーがある。梛が広いこの家を選んだのもこれが目的だった。

 梛は服を掛けたまま、抱き抱える。それから顔を埋めて息を吐いて、匂いを出来るだけ出来るだけ、肺に溜めようとする。匂いなどもう変わってしまったことなど梛にだってわかりきっている。しかし、20年前の流行りのデザイン、おそらく自分と同じ年ごろで着たであろうスーツや、普段着の匂いを取り込もうとする。涙が溢れて、止まらず、思わず梛はへたり込んでしまった。

「ママ……パパ……僕は……」

 ここに居ればより沈み込んでしまう。だから、梛はふらつきながらもウォークインクローゼットから脱出した。

 

「中継がつながっています。宮野さん」

「はい。こちら宮野です。今現場近くで中継を行なっています。現在、唯川瞠警部が尾上恭さんの説得を行なっていますが、平行線といったところです」

 つけっぱなしになっていたテレビからそんな内容が流れてきた。

「ゆいかわ、さん?」

 しかもこの場所から現場まで背景からしてそう離れてはいない。そもそも瞠の現在の自宅はタワーオブ麻布という日本一の高層マンションで、それなりに近い場所にある。

 梛の心拍が上がる。相手は拳銃を持っているらしい、既に制服警察官と民間人が何名も撃たれている。そんなことも聞こえてきたのもより、不安に駆られる原因だった。

 そのストレスからか、足が痛み始める。息を整えながら、机の上にあった薬とお茶を飲み込む。

 パン! という銃声がするとすぐに2、3度銃声が鳴った。

「今、取り押さえられました! SATによって取り押さえられました」

 その言葉がぐわんぐわんと梛の頭の中で鳴り響いていた。次の瞬間、梛の携帯が着信した。榴輝からだった。

 

「あっ! 梛さん!」

「唯川さんは? 唯川さんは! ……すみません、ちょっと気が動転しててあの……」

「いえ、唯川さんは無事です。安心してください。怪我も無いです。会いたければ東京中央病院にどうぞ。俺が案内するので」

「ありがとうございます。すぐ行きます」

 梛は再び深呼吸をして、椅子を手すりがわりにして立ち上がる。鞄を手に部屋を後にした。

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