「続報です!隊長。唯川の御曹司を出せ、って……」
皆の目線が
「いや、あの、私は嫌われてますし、御曹司としての教育もあの人も後を継がせる気も無いので御曹司では」
「広義では御曹司だろ」
土井がつっこむ。
「唯川さん、インサイドホルスターです。どうぞ」
「え?」
「護身用です。今の日本は治安最悪で今までなら持てなかった刑事も外回り中の銃の常時携帯、銃を抜く事、威嚇射撃、実際に当てる事が全て以前より緩くなってます。どう見てもテロ犯相手に全部正当防衛で片づいちゃいますから。病院通いに当然監視は付くでしょうけど」
実際、1年半前から緩くなったのは事実だった。今まで普段は捜査中持てなかった刑事も持つようになった。そして、監視。まぁそうだろうなと瞠は思う。
「というか唯川さんって銃は扱えるんですか?」
「一応再研修は受けましたよ」
そうだ。色々緩くなった分、それほど治安が悪化し、銃を抜くべき事件が増えたということで全警察官の拳銃の再訓練が行われた。その中でリボルバーもピストルも。
「いくら唯川さんがご家庭の事情で色々あるとしても、唯川さんは一応唯川グループ創業者唯川眩夜の直系の孫ですよ。ここは僕が交渉を」
「お前も聖園の御曹司だろうが」
「しかも、今は無き名家のご子息」
「今は無き名家?」
聖園の跡継ぎが養子であることは知られていたがどこから引っ張ってきたのかは知られてなかった。くだんの事件から引き取られるまでの期間が空いたのと、そもそも梛は梛という下の名前が知られてなかったのもある。
「
「ああ、警察官僚汚職事件の」
「……身の上話はこの辺にしましょう。結局相手方は唯川さんの身を求めてるんですね?」
「はい。おそらく唯川と警察同時に脅しを掛けたい以上巨大企業の唯川グループ創業者の孫であり警察官である唯川瞠という人物は都合がいいのでは」
「それなら
瞠の敬語が外れ、一人称も俺になり、色々と不機嫌なようだった。
梛は過去のことでさっきからずっと顔が青いし瞠は瞠で仲の悪い家族の話で機嫌が悪かった。色々ありすぎる2人に呆れるしか無い土井と龍山だった。
足の裏に濡れた感覚がして見てみると真っ赤に血塗られていた。前を向くとリビングに男女が倒れていた。
「ママ、パパ!」
駆け寄って揺さぶるが答えることはなかった。
「梛くん!」
「類くん?」
類くん。梛のお世話係だ。今日は梛を小学校に迎えに行ったのだった。
ぐわり。急に抱き抱えられて世界が揺れる。世界は真っ赤だった。両親の血と燃え盛る焔で。
「吐けよ!おい!お前のことはこっちはもう知ってるんだ。警察のことぜぇんぶ吐いてこっちにつけ」
「……やだ。殺せよ。こっちはもう緊急信号発信済み。位置情報はバレてる。そろそろここをパトカーが取り囲むだろうよ」
煽るのもギリギリだった。殴られて、右脚には弾が命中して、かなりの出血でふらふらだった。
幹部らしき女の人が前に出てきて銃口を向けられる。
「アイツのことについて吐きなさい。知っているでしょう?お前ゼロなのだから。羽島枢について!」
梛は震える腕を伸ばし、銃口をぴったり頭につける。
「殺せば?僕はもうどうなってもいい。何も期待していない」
次の瞬間、梛は銃を奪い反動で立ち上がる。得意の射撃で次々に撃ち抜く。そして。
「大丈夫………うっ」
ほとんど無意識だった。そこに人の気配があった。その弾はしっかりと心臓を貫通していた。
あたりは地獄絵図だった。どれが誰の血かもわからないほど大量の血で溢れていた。世界は真っ赤だった。
拳銃は、ベレッタは梛の手から離れて床に落ちた。
痛い。ただそれだけだった。火事場の馬鹿力というべきか、アドレナリンが切れて脚も頭も再び痛み出した。
最悪。ただそれだけだった。そのまま梛は意識を手放したのだった。
「聖園さん?大丈夫ですか?聖園さん……」
「えっ?ああ、はい。ちょっと思い出しすぎてしまって……。大丈夫です」
「それで、犯人らには事実を言うの?ボスも幹部も1人除いて昨日までに全員死んだしその1人は司法取引で20年もしたら監視付きでも出てこれるから戻るなんてそんな馬鹿なことはしないって」
梛は問う。
「ほんとにそうか?勝てば官軍負ければ賊軍。未遂は死刑ものだが完遂すれば何の罪にも問われない」
龍山が重ねる。
「アイツはそこまで馬鹿じゃ無い。僕が直接取り調べた。警察官の銃規制が緩まった分少しでも失敗すればその場で殺される危険性が高いことぐらい分かってるさ。そしてそこまで博打打ちでも無いから」
轟音と高い音が響いて空を見上げるとヘリコプターとドローンが飛んでいた。
「こっちの状況がバレたらどうすんだよ」
龍山は怒り心頭だった。
「唯川さーん。お持ちの特大コネで止めてください」
「聖園さん?貴方のお父様とお祖父様のご友人は今ブンブン飛ばしている東世テレビの重役さんでしょう?しってますよぉ?これでも唯川の人間なのでねぇ」
「本性がバレてるぞ唯川」
土井が呟く。
「眩夜会長。芙威さんからお電話です」
先日開業した唯川スカイハイタワーは日本で1番高いビルになった。地下5階から15階までの低層階を複合型商業施設と最上階、100階を展望フロアとしそれ以外を全ての唯川グループの全企業の本社オフィスとしている。その99階、唯川工業社長室とグループの会長室があるフロアだ。
その会長室で創業者であり、現在会長の唯川眩夜は電話を受け取った。
「アイツが?珍しい……芙威。何があった?お前から掛けてくるだなんて珍しいじゃないか」
数刻の沈黙の後、芙威は口を開いた。
「ニュースは、見ましたか」
「ニュース?待ってくれ。今見るよ。ネットか?テレビか?」
「どちらでも」
眩夜はパソコンでニュースサイトを開く。一面に出てくるのは立て篭もり事件の文字。
「大変なことが起こっているようだね。それで、私に何を頼りたいのかな」
「……犯人は、ヴァルキリーの元下級幹部です。犯人達はヴァルキリーの立て直しを図っているようで一般人を人質にとって旧深山運送第3倉庫に立て篭もりました」
「第3倉庫……」
「ええ、聖園梛が関与した事件です。それで、犯人達はヴァルキリーの上級幹部全員の解放を要求しました。さもなくば東京中を爆破するぞ、と。そして、そして……犯人達は人質の交換を要求したんです。唯川の御曹司を出せ、と」
「それで、私に連絡を?20年前から何も変わらないねぇ君は」
電話越しの芙威は焦っていた。
「何も決断できない。決断は間違う。そのせいで君は危うく……。それにしても驚いたよ。聖園梛のこと。すぐに消すんじゃないかと思っていたのだけれど。だってあの子の子供で生き証人なのだから」
「恨んでいたのは事実だ!でもあんなことまで……全部貴方が!」
「君が
電話は切れてしまった。
「すまない。すまない……瞠」
「ああああ!!!」
いまだブンブン飛んでるヘリコプターに流石にキレてしまった梛は電話をし出した。
「もしもし?父さん?」
「どうしたの?梛くん」
独り立ちをし、少し前まで色々あったとはいえ今の状況でも真昼間に連絡をしてくることなどなかったので、梛の養父、聖園類はびっくりした。
「仕事中にごめん。急ぎの用で」
「大丈夫だよ。昼休憩中だから」
「昼休憩って言ったって秘書部長は忙しいでしょ?じいちゃんにも色々……」
「大丈夫だから。安心して。それで用事って何?立て篭もりが起こってるようだけどそれ関連かな?」
「うん。今東世テレビがヘリコプターとか他社もドローンとか飛ばしてるみたいでさぁ。父さんやじいちゃんの知り合いにいるよね?テレビ局の重役さん。こっちが色々言っても止まらないみたいでさ。聞かれたり相手にバレたら困るんだよ突入状況とか」
「分かったよ。聞いてみる。梛くん、今度こそ無茶をしないでね」
「はい」
ピッ。通話が切れて4人の間に静寂が訪れる。
「とりあえず父が交渉してくれることになりました」
梛のその言葉に安堵のため息が溢れる。
「ボンボンって腹立つ時もあるけどこういう時役に立つよなぁ」
龍山がそう溢す。
「……それで!犯人の要求を呑むんですか?」
「お前、そういうの詳しいんじゃねぇの。容赦なくぶっ放してるし」
「アレは、急な判断を迫られた結果で……現場に出て犯人と対峙したのはアレがほぼ初めてで!そもそも!アレは、アレは……!それでも撃ったのは僕が、僕が……」
「あぁ……」
ガチ目に梛の人生色々ありすぎていることはこれまでの会話で全員理解しているので情緒不安定さよりも龍山に対して言葉を選べよ。の視線が刺さっていた。実際、土井にしてみれば龍山はノンデリ……正直すぎるところがあると常々思っていた。
明るいのはいいことなのだが。
「唯川警部のお父様から命令とか来てないんですか?」
打って変わって少しは口調が丁寧になった龍山は元の話へと戻した。
「無いな。まぁお上はお上で会議中だろう。迅速にしかし少しでも正確な判断を下さねばならんからな」
それはそうだ。一応上級幹部とボスが1人を除き全員死亡の上その1人も莫大なリスクを負ってまで再び組織を立て直そうとまでする人物でなく、司法取引済みで運が良けりゃ20年かもしくはもっと短い時間で戸籍を変えて別人として出て来れ、あくまでも組織から逃げることは出来るのだから壊滅といっていい。
しかし、こういった反社会組織はヴァルキリーだけでは無い上にヴァルキリーの残党はあちこちで暴れている結果日本の治安はかなり最悪になっている。そんな中で的確な判断を下すのは難しい。人には心があり、それぞれ違うのだから行動に起こさないと相手はどう動くのかわからない。
「隊長、唯川瞠を人質交換しろとのことです」
「そうか、わかった……はぁ」
さらにやってきた隊員がそう告げる。
「唯川、こっちはこっちでしっかりサポートする」
「それぐらいわかってますよ、何年こういう現場で顔突き合わせてると思ってるんですか土井隊長」
唯川スカイハイタワーからさして遠くはない場所に聖園食品の本社ビルが存在していた。もちろん唯川スカイハイタワーには及ばないまでもかなりの好立地に45階建のそのビルが存在していた。
聖園食品は食品業界で大手の大企業だ。各地にその工場が存在する。
「父さん、かぁ。慣れないねぇ」
聖園類。名字からわかる通り聖園食品の現社長、聖園創の息子で梛の養父でもあった。
聖園食品では秘書部長としてサポートに回っていたのだった。
類は最初からコネで親の会社に入社したのではなかった。否、本当の最初はそのはずだった。類が大学を卒業し、さぁ入社となった20数年前、聖園食品に事件が襲った。集団食中毒の発生だった。それがきっかけとなり聖園食品の業績はガタ落ち、一時期は倒産寸前までもあった。しかし社員一同の努力の結果、再び大手企業として名声を取り戻した。
そんな大事件の最中に類の就職が被ってしまった。創は思ったのだった。こんな事態の時に自社に大切な息子を入社させるなど出来ないし、世間も許さないだろうと。そこで妹の瑠夏と閑院楸
しかし、榧は雪が働きたいのも、とても優秀な医師であることも十分理解していた。それもあっていい感じの人手が当時の類だった。聖園食品の後継として、教育を受けていて、家柄の差はあるとはいえ後継というその辺りの理解も存分にあり、血縁。それだけで類は十分な存在だった。
それで、類は閑院家の執事、梛の世話役として働き始めた。
類が働き始めて3年が経ったあの日は梛の小学校へ迎えに行った帰りだった。GW前日で最初の引き渡し訓練の日だった。2人ともいたが家で人を招いて大事な話をするとかで引き渡し訓練には類が行った。ちょうど血縁なのも類が行った理由だった。
類はその時期、榧がゴタゴタに巻き込まれていたのは知っていった。数々の汚職疑惑のことだった。多分その時誰がきたのかは知らないがその件だったのだろうと結論付けた。帰ってきた時には惨殺死体で見つけたのだから。亡骸に駆けつけたところで異臭とパチパチという焼けた音がするのに気づいてリビングのその先、廊下への扉を開けると火の海だった。じきにここも火に包まれる。類は梛を抱えて外に出て通報したが、結局半焼して取り壊しとなった。
そして、犯人は捕まったが有耶無耶になって放火のみの罪で収監された。榧は汚職を被疑者死亡で書類送検された。
梛に関して、京都に転居の案もあったものの、入学したばかりの学校を変えるのはどうなのかということと楸は京都府警本部長。関与を疑われ、各所調整で走り回った結果体調を崩して1年で病床に伏せた。その間、梛は聖園家で育てられることになったものの2年後、類が結婚したのもあって梛は特別養子縁組を結んだ。梛はすぐに「父さん」と呼んだが、もう20年近くは経つのに類はそれに全くというほど慣れていなかった。
「聖園部長、お昼休憩のところすみません。社長がすぐに来いと、お呼びです」
「ああ、うんありがとう。すぐ行くよ」
類はパソコン、書類、タブレット、スマホ、少し散らかっている机を軽く整え、カバンからゼリー飲料を取り出して、一気に飲んだ。いつもの事だった。昼はまともに食べられない。所属部員の管理もそうだが自分自身父である社長の側で秘書のような事をしている。一応業務時間内ではあるが急に呼び出されるのだ。部長としての仕事も沢山あるにも関わらず。
タブレットとスマホをカバンに入れて、小走りで社長室へと向かっていった。
「はぁ……」
いつもよりほんの少しだけ激しいノックをして社長室へと入る。
当の本人はソファーで紅茶を飲んでいた。
「今回はどうされました?こちらとしてもお話があるのでちょうど良かったですけどね」語尾に怒りが含まれている。
「話?半年後の海外視察の事だよ。諸々を組んでおいて欲しくてね。メンバーと行き先はもう決まっているからメールで資料を送っておいたよ」
「そうでしたか」
ギリギリの案件でなく安心した類だった。
「話というのは、今起こっている立てこもり事件の事かね?」
「ええ、空中での中継を辞めさせてほしいと、梛から」
「東世テレビにはもう話をしたよ。さっきね」
「それは良かった」
「梛は、元気そうだったか?」
さっきまでより一段と優しい目をして創はそう呟いた。
「ええ、おそらく」
「また、大変なところに身を置くのか、あの子は」
「一種の強迫観念でしょう。まだ病院にいた方が、と私どもは思いますけど。ああなって仕舞えば梛の好きにさせてやりたいですよ。梛の地獄の一片は私も見ていますから」
「でも銃持っててバレたらどうするんですか?一般人はショルダーは知っていてもインサイドは知らないとかあるかも知れないですけど、相手はマジの反社ですよ。騙せないでしょ」
少し丁寧にはなったが元が残っている口調で龍山が尋ねる。
「警察が拳銃を持っていることぐらい、知っているはず。それで調べなかったら相手は馬鹿ってだけですよ」
「それで1年半前撃てたのってそこにいた構成員が馬鹿ってだけです?」
「それは相手が手足縛らなかっただけです。ピストル突きつけられたので頭によせるフリして銃身掴んでそのまま奪ったってだけです」
「あっ!今、警察庁と警視庁から発表きました!ヴァルキリーのボスが昨日留置場で死亡したことと1年半前の事件で当時の被害者だった警察官が自己防衛のためと突入の際に別の警察官1名と幹部4名が死亡、そして幹部の1人が司法取引した。っと……」
情報を待っていた隊員が報告に来る。
「上の判断はよくわからないな」
土井がごちる。だがその通りだった。瞠を差し出せ、そう言ったかと思えば相手がぐらつく情報をここにきて発表。
「というか、上が守ってくれたということですか。また」
実際は特殊部隊が倉庫内に突入した時には梛以外死んでいたというのに。
「あっ、ブンブンうるさかったのが鳴り止んだ」
撮影ヘリとドローンが遠ざかり、人の声がより聴こえやすくなった。
「コネってすごいですねぇ」
「こういった時に便利なんですよ、コネっていうものは。ないよりはマシですから」龍山さんもご友人が聖園の御子息だからこう、ヘリが止まったわけですし」
「それもそうですね」
「気をつけてくださいよ」
梛の心からの声だった。
「分かってますよ」
梛は瞠に向き合い、ポケットから何かを取り出して襟の裏側に貼りつけた。
「公安らしさが出てますね」
超小型発信機だった。
「人質につけるのは違法でないと思いますが」
「常時携帯してるとこですよ」
「本当に、気をつけてください……」
梛は苦しそうな顔をしていた。
「本当に……」
「相手方の要求が変わった。幹部を殺したその警察官も一緒に連れて来い、だとよ」
想像通りだった。あの情報を聞いて犯人達が梛にターゲットするのは。
「上はどうなんでしょうか?聖園の力がどれだけあるのか…‥はたまた今閑院だと分かったところで閑院の力はどれだけ残っているのか、僕には分かりません」
「どうやって閑院だってバレてなかったんです」
「閑院の力が強くて情報統制してたから、じゃないですか?聖園類、私と養父は特別養子縁組をしているので書類上で父ですが血は直系ではありません」
「直系でない?じゃあ繋がってはいるということ?」
「そう、養父は僕の実の祖父のきょうだいの息子……従兄弟叔父にあたります。閑院と婚姻という繋がりを得た聖園はかなり力を持つでしょうし」
「実際、私が15歳ごろの話ですけれど閑院に子がいる、という話はあっても顔などは知りませんでしたから。入学式の写真などは出回りませんでした。啓央幼稚舎に子を入学させる親はその辺り理解している親ばかりでしょうし……」
「とにかくコネで隠されていた、ということ」
「聖園になってからは聖園として堂々と表に出ているのも、問題かなと。あの事件後聖園になるまでは休学していたので」
「とりあえず、相手はヤクザどころの話じゃない、国家転覆さえ狙っていたやばい組織の残党です!動きを考えなきゃ……」
そんなことは皆わかっていた。しかし、最適の方法など思いつかない。時間は過ぎ去っていく。
「行くしか、ありません。唯川さん、死なないでくださいよ。全部自分のせいとはいえ、もう死体なんか見たくないんです」
どこかふわふわと、消えそうで仕方がなかった梛になにか形が定まったような感じがした。ふらふらと歩いて行って落ちそうだった梛がしっかり意思を持ってオチに行くような、そんな感じがした。瞠は、あなたもですよ。とは口に出せなかった。そんなオーラのようなものを梛は身に纏っていた。
「お前か、あの方達を殺したってのは」
犯人の1人である男と人質になっていた男はいま、倉庫の外にいた。2人を大勢の警察官が囲んでいた。
「一つだけ、いいですか?」
瞠の冷たい声が当たりを貫く。この場にいる誰もそんな声は聞いたことがないほどに恐ろしく冷たい声だった。
「今朝見つかった水死体の事件、ご存知ですか?」
「はぁ?ああ、ニュースになってるんだから当たり前だろ」
「その方、警察官なんですよ。まぁ、それもニュースになっていましたからご存知でしょうが。捜査2課の刑事で色々探ってたらしいんですが……」
「な、何が言いたい」
犯人の男は焦っていた。
「関連があるのでは、というだけですよ。ヴァルキリー関連の詐欺事件だったようなので、まぁ知らないならいいですよ。それ以上、聞く価値ございませんので」
瞠の冷たい瞳の奥に怒りがメラメラと燃えていた。