Greyscale   作:零音霖

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EP9 クイーンサクリファイス

 

 

「怪我してないんじゃなかったんですか?」

 瞠の頬には大きなガーゼがあった。

「すみません。三河さんに嘘吐かせてしまって。でもこれで少しは箔がつきます」

「190オーバーなだけで充分じゃないですか? ……他にはもう、怪我ないですよね」

「ええ、大丈夫ですよ。弾が掠っただけ。逆に運いいですよ」

 瞠はにっこり微笑む。しかし、梛の顔は不快そうに歪む。

「それで、わざわざなぜ、来てくれたのですか? こんな夜中に、足も……」

「痛みますよ、痛みます。でも今は唯川さんが心配だから来たんです。わかりますか? そもそも、僕が眠っている間1週間に一回は見舞いに来るような貴方なんですから、わかるでしょ、この気持ち」

 淡々と言葉を羅列する梛だったが、その目にはうっすらと涙が溜まっていた。そんな梛を見て瞠は驚いて、どうすれば良いのか慌てる。梛は感情が薄いというわけではないが、こんな形で感情を発露するのはあまりなかったからだった。

「すみません……」

「謝って欲しいわけじゃ……」

 涙を拭いながら、瞠の謝罪に被せる。

「ただ、ただ唯川さんが僕のことを心配してくれているように、僕はちゃんと唯川さんの事を心配しているんですよ」

「ありがとうございます」

 その言葉を聞いて、梛は表情を緩めた。

「それで、来た理由ですけど、色々ちゃんと話しておきたくて」

 

「嵯峨周は僕の母方の叔父です。先ほど、直接電話を掛けました。あまり進捗情報はありませんでした。ただ、僕の誕生日が後1ヶ月もないので、合わせてくるとは思います。まだ不確定ですけど」

 梛の誕生日は6月19日。今日は5月30日だ。

「周さんは、実母の事をかなり愛していた……いわゆるシスコンである事は当時小学一年生だった僕でも理解していましたから、それに、またとないチャンスでしょう。

 自分の血縁が国民の英雄になるのは。でもそんなの馬鹿馬鹿しい。1番は気に食わなかったから強硬手段に出ているだけですよ。僕を使って、世に復讐する為ですよ。だから周さんは政界進出をしたし、公安委員長になり、警察官の銃規制緩和などの法改正を行なった。後は、妹の血が入った子を英雄に仕立て上げるだけだったんですよ」

 

 梛は考えた。嵯峨周に勝つ方法を。並大抵のものでは出し抜かれる。そもそも今まで周の計らいで生きてきている。もちろん梛自身の能力はあるが、コネの力も強い。まぁ、そのコネの力はほぼ梛の思い通りにには使われていないが。梛は警備専務になる気は無かったし、そもそも準キャリアになるつもりも無かった。

 

「う……」

 翌日、朝9時。当庁してきた瞠のデスクには大量の書類。思わず声が出た。こうなることは分かってはいたがいざ目にすると気が遠くなる。

「おはようございます。傷大丈夫ですか? 今日も頑張りましょう」

 次々と当庁し、業務を開始する係員たち。流石に上も新規案件は放り込めないので現場にもう一度行く事はあっても心は比較的安らかに後処理が出来る。

 

 12時。昼休憩前にあらかたの報告書は完成した。

「唯川係長、尾上恭が目覚めたそうです」

 電話対応をしていた榴輝が瞠に報告する。

「そうですか。ではお見舞いがてらお話しを聞きにいきましょうか。約束は守らねばなりませんから」

「わかりました。着いていきましょうか?」

「いえ、大丈夫です。向こうには見張りの警察官もいるでしょうし。申し訳ございませんが後はお願いします」

 

 そして、昼休憩を終えた瞠は警視庁を去り、東京中央病院へと赴いた。

 

「お疲れ様です。唯川警部こちらです」

 瞠は案内されて病室の前に来た。

 

「こんにちは。尾上さん。遅くなってしまい申し訳ございません」

 尾上恭はベッドの上で拘束され、動けない状況だったが、首だけを動かして瞠を見つめる。しかし、何も言わずにそっぽを向いた。

 瞠はベッド脇の椅子に座って話し始めた。

「約束しましたから。いくらでもお話しを聞くと」

 その言葉を聞いて恭はぽつりぽつりと話し出した。

 

「全部、全部衝動的だった。うまく行っていたんだよ。あの時までは。クソ親から離れられて、あんだけ優遇されていたくせに捕まっていたクソ兄貴と違って、ちゃんと稼いで、着いてきてくれる奴らもいて、上手く行っていた。そしたら、また兄貴が殺人で捕まって……それで隠していたのに、バレて、もちろんまだ着いてきてくれる奴もいたけど離れていく奴らがいて……

 自暴自棄になって、ふらついていたところで職質された。そこで何かプッツン来てしまった。それで衝動的に突き飛ばして拳銃を奪った。でもこれじゃあのクソと一緒だ。血は争えないんだな」

「尾上さん、とても運の良い事に死亡者は出ていません。もちろん警察官から銃を奪い、発砲した事は悪い事ですが……」

「刑事さん……」

 恭は瞠の話を遮って再び話し始めた。

「刑事さんは唯川つったか? あの唯川。さぞかし良い暮らしをしたんだろう? しかし今ではあの唯川だ。国賊とも呼ばれたな」

 瞠は少々黙ったのち、口を開いた。

「少し、私の昔話をしても良いですかね。こうやって犯罪者に身の上話をするのは2年前にもしたんですよ」

「それがどうした」

「まぁ、聞いてくださいよ。あんまり外では言えない事ですし……まぁ、幼少期は良い暮らしをしていたでしょうね。ですが母は私を産んでしばらく後に亡くなってしまったそうで、父も冷たかった。それが悪化したのは父が再婚して後妻と父と後妻の間に子供が出来た後でした。完全に弟と妹の優遇。それで、何が理由だと思いますか?」

「んなもんあってないようなもんだろ。基本上の方が下の方が可愛いとか、単純に男の方が……女の方がとか」

 そう恭は吐き捨てる。長年の恨みを込めて。

「私の場合、明確に嫌われた理由があってしまったんです。父だと思っていた存在が腹違いの兄だった、という事ですね。祖父がどっかで撒いた種でしたらまだ良かったんでしょうけど、祖父が母をレイプした結果産まれてしまった子だったんですよ。私は。しかも私を産んだ結果亡くなった。だから、みんな冷たかったんです」

 

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