Greyscale   作:零音霖

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EP3 ホワイトナイトコンプレックス 後編

 府中警察署

 羽島枢がようやく拘置所に移送されるとのことで警察署の前はマスコミで埋め尽くされていた。

 若い警察官が、しかも元公安が実行犯とのことで連日ニュースはそのことで埋め尽くされていた。

 出てきた羽島枢に、皆驚きで何も言えなかった。枢は笑っていたのだ。反抗するでも無く、真顔でも、後悔の顔でも無く、笑っていたのだ。それから、叫んだ。

「この国をぶち壊そうとしたクソ蛆虫どもを利用して何が悪い! 俺は爆破事件で一般人を殺さないように調整した! 全部! 全部! あの人が生きるために! 何が悪い! 理解者はあの人だけだ!」

 

「これも全て梛のため、ですか‥……」

 ニュースからは羽島枢の語る動機が流れていた。

 曰く、日本を破壊する蛆虫どもを利用してでも閑院梛を助けたかったらしい。その他にもヴァルキリーやつい先ほどまで協力していた者たちを汚い言葉で罵っていた。

 記者たちの涙ぐましい努力で羽島枢の人生はここ数日で調べ上げられていた。中高は難関私立、大学も北海道大学。就職になると一転、東京で働きたいと上京、しかし国家総合職は受からず、それでも警察官を諦められなかったので警視庁に入庁警察学校に入校した。そこで枢は公安警察官への道を提示された。そして、枢は公安警察官となり、ヴァルキリーに侵入したが、あの日、後からやってきた残党から梛を守るために残党に協力し、爆破事件を練り始めた。

 

「春の園遊会は出席するでしょ?」

 東京、聖宮(ひじりのみや)邸。梛は再び上京し、聖宮冬人と会っていた。冬人は梛の為に紅茶を用意してもてなしていた。いわゆるアフタヌーンティーだった。

「秋は欠席しちゃったからね。けれど、陛下も最近はご体調が……」

 少し前は回復していて無事秋の園遊会を実施出来たがが再び病床に伏せることが多くなっていた。

「なんにせよ重いのがね……」

 正礼装は梛の場合勲章がどっしりとなる。

「それで、お妃様探しはどうなの? あの時の人とか良い感じって言ってなかった?」

 以前冬人が刺された時のお見合い相手の女性のことだった。

「ついてこれないって。まぁそうだよね」

 

 そもそも冬人が迎え入れられたのは以前の皇族には若い男性すらいなかったからだった。女系がどうとか言っている暇もなく、目の前に断絶が迫っていた。だからこそ現存していた聖、閑院家に要請した。

 復帰したとなれば欲しいのは子供なのだから、女性にとってそれは多大なプレッシャーとなる。

 若いとはいえ冬人だってもう30になる。

 

「あの人が、お見合いに応じたのもほとんど親の強制だっただろうしね。ただの、名ばかりの聖家と自由がない聖宮妃になるの、前者の方がマシだろうし。そもそも、金銭とあの時の社会的立場からいえばこっちが上昇婚なんだよ」

 戦後、宮家は臣籍降下。財産の大半は没収され困窮した旧宮家も数多くいた。聖も伏見も時代が下るにつれ要職に就き、高給取りということはあったが大きな成功といえる成功はしなかった。唯一といって良いのが不動産や競走馬を所有し、資産管理会社のオーナーをした閑院家ぐらいだった。その閑院家も事件によって一時期断絶した。

 対して、あの時のお見合い相手は社長令嬢、テーマパークのダンサーをしてたとの事だから、自由がなりより大事な価値観だという事ぐらい、考えなくともわかった。

「それで、梛の方はどうなの。閑院家当主の勤めはちゃんと家を閉じることなの、存続させることなの」

「そこを曖昧にしてあの人を良いように扱い扱われる。でもまぁ、人をちゃんと愛せるとは思えないから……それに死にたがりが家庭を持っちゃダメでしょ。ちゃんと畳むよ」

 

 警視庁、公安部

「お久しぶりです」

「おやおやぁ? 京都府警の教官様がお越しですか」

 谷町聖夜は相変わらず公安の警察官らしからぬダル絡みを梛にかましていた。

「事件の進捗を直接聞きたくて来たんです。これは業務です」

 梛はスーツから制服に着替えていた。

「そんなことしなくても、直接耳に入るだろ」

「どうでしょうか」

 

「そういやあの京都府警に移動した閑院警部、今第二会議室にいたよ。たしか道玄の元上司だっけ?」

 警察庁警備局警備企画課総合情報分析室。通称I.S班。全国各地まぁいろんなところから引っ張ってきた幅広情報を統括分析する組織だといわれているし、実際、業務はそのようなものだった。どんな情報も引っ張ってくる公安の中でも特によくわからない部署。道玄御咲(どうげんみさき)はそこにいた。

 3年目にして警察庁出向。ノンキャリアの中でも特に期待されていた。別の意味でも目はつけられていたが。

「そうです。頼りになる人でしたよ」

 御咲は当たり障りない事を言う。本音でもあったからだった。御咲は梛の上司として一警察官として、人として大変な思いをしてきて、それでもしっかりしている事に自分はここまで出来ないと思うから、尊敬していた。

「ふぅん。で、どうなの?」

「どう、とは?」

 御咲はこの部下のことが嫌いだった。御咲は歳が下だろうと階級が上ならば敬語は使うべきだと思っているし、その逆も然りだった。その辺の常識というものは問題児とてあるわけで、だからこそこの歳上部下は嫌いだった。散々役に立たないだの裏で愚痴っている係長よりも。

 そもそも御咲は警部補だ、主任だ。より重い責任を持つようになり、ヤンチャな部分が影を潜めた事で舐められている事に対応に頭を悩まされていた。

 

 

「あ、久しぶりです。道玄さん。元気してました? 僕もう京都戻るので」

 重苦しい雰囲気のところに梛の声が降ってくる。

「そちらの方は同僚の方ですか? 初めまして。閑院梛です」

「一応部下です」

「……初めまして、中谷です」

 微妙な空気を感じ取ったのか、梛は仕事が詰まってるから、それではといってさっさと去っていってしまった。

 後から谷町聖夜も出てくる。

「あれ? 梛くんは?」

「もう帰られました」

「え? マジで? 分かった。あ、小川課長になんか言われたらよろしくね」

 帰ったと聞くと急いで追いかけ始めた。まだ用があったらしい。

 

「では、我々も仕事に戻りましょうか」

 仕事は沢山残っている。

「はぁ……」

 ここで御咲は怒りがMAXになった。

「……あの、一応立場ってものわかってます? せめてですますぐらいは出来ないのですかね。出来ないなら愛嬌ってものを覚えてくれますか? 敬語使わなくても許されるやつと許されないやつはいるんですよ」

 その言葉を皮切りに、言い合いが始まった。

「あ? ガキが舐めた口聞いてんじゃねぇよ。ただのノンキャリの癖に、ノンキャリの中で出世頭だからって調子乗りやがって。麻布中央出て帝都大に行けずにノンキャリの奴には耐えられなかったか」

「いつまでも警部補昇任試験にすら受からない中谷さんが上に見つかるわけないじゃ無いですか。あ、逆の意味ではすでに目をつけられてるかもしれませんね。最近は働き方改革、コンプライアンス、パワーハラスメント……‥そういうのにはうるさいですし」

「これはパワハラじゃねぇのかよ」

「逆パワハラって言葉があるくらいですよ? と言いますか中谷さんの理論だと中谷さんが順当にパワハラしてませんか?」

「どこがパワハラっていうんだよ」

「そもそも、主任の指示には従わなければいけないってわかってますか? わかってないからこうなってるんでしょ? もう限界です。上に訴えますから」

 言い合いの末、御咲は背を向けて去ろうとした。が、中谷は御咲の腕を掴むと、壁に叩きつけた。

 流石に騒ぎを聞きつけた近くの部屋にいた人達が集まってくる。しかし、中谷は周りが見えておらず、拳が御咲の頬に直撃した。

「やめろ! 中谷!」

 中谷と同期の男が中谷を羽交い締めにして引き剥がす。

 殴られた頬は痛いが自滅してくれたことで中谷と離れられることに安堵する御咲だった。

 

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