Greyscale   作:零音霖

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カクヨム版EP6(5)が入っていなかったので追加しました。


EP6 後編

「パパ…‥父は貴方が‥‥追い詰めた?」

 芺威は俯き、こくりと頷く。

「嫉妬だった。なんでもできる彼が、輝いている彼が羨ましかった。私が罪を着せなければなければ今頃この席に座っているのは彼だろうね」

 芺威は仲間の不正を知った。そしてチャンスだと思った。罪を榧に被せ、出世コースから外し、あわよくば退職に追い込もうとした。しかし、想定外があった。閑院夫妻の死亡だった。殺しと放火を命令したのは芺威自身ではなかった。父親だった眩夜だったのだ。そこまでするつもりなどなかった。ただ、自分が榧より上に立とうとした。息子の詰めの甘さを誤魔化すために、眩夜は殺しを命じた。

「確実な証拠がない。追い詰めるための証拠がない。お願いします。私に協力してください。最後に、最後に警察官として、正義を守りたいんだ」

「……わかり、ました。それが真実なら、父の汚名を晴らしたい」

「しばらくはこっちで働いてくれるな」

「はい」

「警備局警備企画課総合情報分析室」

「ゼロナナ、I.S班ですか。またどうしてそんなところに」

「調査には便利すぎるからな。君の能力は買ってるよ」

「僕の能力は拳銃の腕だけでは?」

「それだけなら警察庁に推薦はまだしもそもそもゼロには配属されないよ」

「それは……そうですね」

「それに、見守って居たかったのだよ。臆病者の、せめてもの罪滅ぼしを模した何かのためにね」

 

 警視庁、公安部、小会議室。第6公安捜査第11係の執務室の扉を開けた梛はズルズルと座り込んでしまった。ポロポロと涙が溢れていた。

「珍しいじゃないか、梛。聖夜お兄さんがお話聞いてあげようか?」

「谷町さん……」

 

 喫煙可の都内の個室居酒屋、2人はそこで呑んでいた。

「珍しいね、タバコ」

「わざわざ喫煙可のとこ選んだんですから。それに週2本も吸いませんよ」

「なんで吸うの?」

「苦しくなれるから、好きなんです」

「へぇ、それでチョコレートバニライーヴィルを?」

 特徴的な焦茶色のそれを指して言う。

「悪いですか?苦しいだけじゃダメじゃ無いですか」

「それで?なんで泣いてたのさ。相当の理由があるんでしょ?」

 沈黙が続く。

「言えませんよ。本当に。ただ、異動が決まりました。警察庁に戻るんです」

「じゃあこっちに戻って来たら警部かぁ。同じだねぇ。お前係長出来んの?」

「さぁ?こっちに戻って来れる保証はありませんし、僕はさっさと国にこの首に縄をかけて欲しいんですよ」

「……俺はお前に死んでほしく無いけどなぁ」

「警察官が言っちゃダメじゃないですか?警察官は正義のヒーローなんですから」

「俺個人の意見だよ」

 

「う゛ぅ……」

「どうしよっかなー」

 梛はここまで酒弱かったっけ?数年前のことを思い出してみるがかなりザルに近かった。

「家どこ?送るから」

「神谷町駅……」

「いいとこ住んでんねぇ。とりあえず、タクシー呼ぼ。金出すから」

 

「おはようございます唯川さん」

 翌日、いつも通り登庁した梛だった。

「おはようございます。昨日の用事って何でしたか?」

「……異動です。警察庁に」

 一瞬、沈黙が流れる。

「また、同じところに?」

 梛は準キャリア、国家一般職、スペシャリスト候補として警察庁に採用されている。総合職と違って分野異動はないと言っていい。だから刑事局やその他の局に配属されることは無いだろう。

「全く同じところに行くわけ無いです。それにまたすぐどっかに異動になりますし」

「それで、私はどうすれば?」

「この大型事件が片づけば刑事部に戻せるみたいです」

「そう、ですか」

 瞠の手が止まる。

「そう、ですか」

「そもそも僕の監視役だったんでしょ?お父様の命令で」

瞠の瞳が梛に向けれらる。

「気づいてたんですか?」

「じゃあなんのためこんな部署作るんですか?わざわざ。公安の勝手がわからないノンキャリの次長の息子を危険分子と一緒にぶちこむなんて頭おかしいとは思いませんか?新設しなくたって別に他の課や捜査係の捜査範囲に入ってるんだから出来るじゃないですか」

「貴方は、何も分かってない!どういう気持ちで私が貴方のことを監視していたか!」

「唯川さんも死なないでって言うのですか」

「死ぬ気が無いのに死ぬ死ぬ言って構われたいだけでしょう?」

「一年半、病院に居ましたよ。とっくに傷は治癒してたのに。それに、そもそも全部、貴方のお父様とお爺様が悪いのに……」

「なんで……それを、知って?……それに爺ちゃんは……」

「はぁ?じゃあ唯川さんは自分の父親が何をしたか知っていた訳なんですね?まさかそれが理由で急に国家試験を受けなかったと?へぇそれが何になるって言うんですか?昇進スピードと地位と生涯賃金ちょっと捨てただけでしょう?どうせノンキャリでも唯川さんのことだからそれなりの椅子に座れるってのに。それでなんの釣り合いになるって言うんですか?」

瞠は黙って、俯いてしまう。

「明日は休みですし異動の準備もありますのでこれからも捜査は生田警部とどうぞ。話は聞いてると思いますが、こちらも上に通してますので問題ございません。では、次会うのは最低でも3年後でしょうか。お互い警視になって会えると良いですね」

梛は勢いよく扉を開けて出て行ってしまった。反動で閉まった扉は大きく音を立てる。

瞠は頭を抱えこむ。

「……最悪だよ」

 

「聖園さん、おはようございます」

「おはようございます」

警察庁勤務になってはや1ヶ月。業務内容はゼロとさして変わらない。調査範囲が違うだけで。

それぞれ誰が何を担当しているかなんて分かってない。政治関連を調査している。だからこそ次長直々に命令された企業への裏調査も楽に出来る。唯川グループは日本一と言って良い大企業なのだからその辺が絡んでいないはずがない。梛の元には少しずつではあるが最初の情報が集まってきていた。

例の国際サミットおよび大きな取引まで約2週間。警備企画課からは情報の面で後ろを支えていた。唯川グループも動きがあった。こんなおいしい機会そうそう無い。更に名声を強める良い機会だ。しかしまぁ大企業は大企業できな臭い話もある訳で。

(ああ、なるほどね……やっぱり繋がってくる訳か)

唯川グループの傘下企業の一つに怪しい動きを見つけたのだった。

(協力者候補ねぇ……)

怪しい動きの証拠と共に送られてきた関係者名簿を順にスクロールしていく梛だった。

実際梛はゼロ時代も数名の協力者と接触していた。警察内部の協力者……作業員も含め。作業員であった警視庁警部補、羽島枢は梛がその手で殺してしまった、のだがやはりそれも上が揉み消してしまい、自首するに出来ないまま、トラウマと共に過ごしていた。

[羽島光]

ビクリ、少し飛び上がった梛はそれをクリックして詳細に飛ぶ。やはり、枢の妹だった。充分すぎるスペック、性格、行動。それでも、梛は選べなかった。警察には恨みを持っているだろうから。本当のことを言える気がしなかったから。面と迎える気がしなかったから。

「はぁ、は、は」

息が荒くなっている事は気づいていた。もう何度もこんな事態は起きていた。

(くすり、薬、そもそも息を……落ち着け……大丈夫……大丈夫なのに)

大きな音を立てて椅子から転げ落ちる。

「聖園さん!?大丈夫ですか?」

バタバタと駆け寄ってくる音が遠くで聞こえている中、梛の脳内は依然、“声”が収まることはなかった。

 

「大丈夫ですか?聖園さん?落ち着いて!深呼吸しましょう!ほら吸って……吐いて……」

隣に座っていた同僚たちが、集まってくる。

「は、はー、ふー……薬、薬……鞄の、内ポケット白のポーチ……」

「白いポーチですね?えーとはい、ありました」

同僚のひとりが梛の鞄を探り、ポーチを取り出す。中にあったのは薬の袋。抗不安薬とあった。呼吸が落ち着いてきたところで薬を飲み込む。

「ごめんなさい。すみません。迷惑かけて。大丈夫です。あの、薬も飲んだんでもうちょっと待てばなんとかなりますので……」

「本当ですか?今後も何かあればちゃんと言ってくださいね。俺たちこんな部署で働いてますけど一応ちゃんと同僚として心配していますので」

「は、はい。ありがとうございます」

椅子を支えにして、立ち上がり、座り直す。机に伏せて、深く呼吸を繰り返す。心は大波が立って静まらない。

「病院、分かってるけど……」

再び、その資料へ向き直す。

 

「唯川さん?唯川さん?大丈夫ですか?」

生田班の班員の1人、新人刑事の原田幸はこの案件でもっぱら瞠に着いていた。暴れ馬の手綱を握る役として隣にいるのだ。とはいえ瞠は行動までの言葉が少ない、頭は良いから脳内シミレーションができれば即行動する。それでほとんど犯人を捕まえてきた。平凡な原田にとってはあまり役に立つことはないかもしれないが、それでも勉強にはなっていた。

「唯川さーん?行きますよ?」

瞠の目線の先を見ると男性が立っていた。黒いチェスターコート、杖、鞄、聖園梛だった。原田は一度か二度会っただけだったが梛の顔はちゃんと覚えていた。

「聖園さん、ですよね?髪はかなり切られてるようですが」

肩甲骨を越す程度にあった梛の髪は肩につかないぐらいになり、ポニーテールだったのがハーフアップにしていた。服装も高そうなスリーピースに身を包んでおり、今まであまり感じられなかった……いや、袖からチラ見えするスクエア型の腕時計はどう見ても三桁は行きそうな高級時計をしていたし、いつも着ていたパーカーやニットだって有名なドメスティックブランド、1着数万はするものを何着も持っているようで色々なパターンを見ていたし、シャツもネクタイもスラックスだってよく見ればそこらで手に入りそうもない代物だった。ただ、全体的な雰囲気がエリート感が無かったってだけで。

「こうして見ると聖園さんってやっぱり上流階級って感じしますね。だって、着ただけじゃ雰囲気出ませんよ。自分なんかが着たって、似合わないだろうなぁ。スリーピースなんて特に」

「着たいなら、着れば良いんじゃないですか?気分からですよ。こういうのは」

「……それもそうですね、で?どうするんですか?このあとは」

「どうするも何も私たちにも用事があるでしょう?すみませんね、待たせてしまって。では行きましょう」

「は、はい」

バタバタと瞠の後ろに着いていく原田だった。

 

瞠と原田は今現在取引現場になるであろう現場の周辺、各国の代表が乗った車が通るであろう道の周辺を見回っていた。どこに配備すべきか、死角はないか。

「さみ……唯川さーん……」

「ああ、はい。遅くなりましたがお昼、取りましょうか」

2人は近くのチェーンの喫茶店に入った。2階にある店舗というのもあって、窓側の席からは周辺がそれなりによく見えた。

「参考になりそうですね」

「そうですね。ここも良いでしょう」

 

「じろじろ見られてちゃ困るんですけど?何の用ですか?」

目の前に立っていたのは梛だった。

「何でいるんです?3年は会わないんじゃ無かったんですか?1ヶ月で根負けとは……」

「じろじろ眺めてたのも、着いてきたのもそっちでしょう?まさか、バレないとでも?んなわけあります?ヘッタクソな追跡で。よくこれまで検挙率トップ張ってましたね」

「貴方の神経が敏感なだけでしょう?今現在お仕事中のようですが、大丈夫なんですか?それに、貴方も役職持ちでしょう?」

「は、なんの心配を……」

「銃を携帯してないと不安で不安で仕方がなかったんですよね?襲われるかもしれない、そんな恐怖で神経は過敏になる。そんな中私たちが聖園さんを着けているのを見つけたということでしょう。聖園さんが所持していたあの銃は特別に許可されたものでしょう?今現在警察官の制式拳銃の中にベレッタ社製のものは含まれていませんから、半分は貴方に所持権があるはずです。そのような書類や証明証があると私は思うのですが、違いましたか?」

「残念ですけど、今は仕事中では無いですよ。拳銃の権利のいろいろは当たってましたけどもね」

「ではなぜこんな時間に?」

「病院ですよ。こんな時間しか取れないので。午後休とったんです」

「そうですか……で、なんで座ってるんです?」

梛はスムーズに何が問題でも?と言った顔で席に座る。

「慰謝料がわりにでも奢ってください。原田さんも、居てもいいでしょう?」

「え、あ、はい。どうぞ」

メニュー表を取り出して眺める。ランチメニューの欄からデザートメニューの欄までじっくりと見ていた。

「ガッツリ食べる気じゃ無いですか……」

「悪いですか?」

「いえ……」

梛は呼び出しボタンを押す。注文が決まったようだ。

「キャー!」

外から悲鳴が聞こえる。窓から覗いてみたところ、血が辺りに流れていることがわかった。

「この辺りで殺しですか……原田さん、応援をよろしくお願いします。行きますよ、聖園さん」

「わかってますよ」

3人は慌ただしく席を立つ。

 

階段の入り口を塞ぐようにして男が倒れていた。幸い、意識はあるようで、うめき声がしていた。犯人はすでに逃走した後で、格好もわからなければ目星も付かない。今は目の前のことをやるしかない。

「救急車も呼びました!それと、布です」

原田が報告と共に白い布を持ってきた。

「ありがとうございます」

瞠はすぐに出血箇所を圧迫し始めた。

「こいつ、例の取引の関係者の1人……」

梛は呟く。

「やはり、それではなんとしてでも話を聞かなければ」

 

 

 

 




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