Greyscale   作:零音霖

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EP7後編

「それでは、私達は一度本部に」

 署を出るともう真っ暗になっていた。

「寒いですねぇ。大丈夫ですか? 寒がりでしょう?」

「……ええ」

 梛はそう言いながらもコートをギュッと締める。そんな梛に瞠はフッと微笑む。

「この後もお仕事なんでしょう?」

 瞠は車に乗り込みながら梛にそう聞いた。

「はい。部下達にもそう言いましたし、仕事は溜まってるんですよ」

 梛はシートベルトを締めながらそう答える。

「例の取引までもうそんな時間もないですからね。お互い頑張りましょう」

「……はい」

 梛は暗い顔をするが、瞠が発進し始めたのと暗いのも相舞って気づかれていなかった。

 梛は、車窓から見える東京の街を眺めていた。

 

「ありがとうございました」

「次会うのは事件が終わってから、ですかね」

 梛は車を降りて警察庁へ入っていく。1人になった車の中で瞠はぼそりと呟く。

「帰るか……」

 

 瞠の自宅はごく普通の1LDKのマンションだった。家賃も平均といったところ。もちろん職場からは遠い。

 瞠は高校卒業と同時に家を飛び出した。嫌だったから、あの家が。初めてのバイトをした。帝都大生ということもあって家庭教師のバイトは他より時給が良かった。寝る間も惜しんで勉強とバイトをいくつも掛け持ちして寮の家賃と学費をなんとか払っていた。

「疲れた」

 瞠はスーツを脱いですぐベッドに倒れ込む。

 風呂も食事も後にして、瞠は眠りについた。

 

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい」

 梛は席に着くと、資料を取り出す。

「あ、室長が呼んでましたよ」

「室長が? わかりました」

 それを聞いて梛は資料をファイルに戻し席をたち、室長、三峰静留みつみねしずるの元へ向かう。

 

「三峰室長、お話とは……?」

 梛の声に反応してパソコンから目を離す。

「あ、ああ。唯川次長から直々にお達しがあってね、君を正式に例の事件の実働班のサポートとしてメンバーに加わってほしいそうだ」

「……それはまた……」

 仕事が増えたことに若干苛立つも、これでもっと唯川グループに突っ込むチャンスができた。

「わかりました」

「それじゃあ、頼むよ」

 

「なんで貴方がここに?」

 翌日、登庁してきた瞠が目にしたのは刑事1課の中会議室……ここ最近生田班と瞠が使っている会議室に梛がいた。

「サポート役です。それ以上は知りません。貴方のお父様に言われてきたまでなので」

「あの人が……」

「それに、唯川さん捜査から外されそうなのでは? 父親の権力でそのままですか?」

「何が言いたいんですか?」

 瞠は荷物を椅子に置く。

「唯川グループの話ですよ。最近動きがきな臭い。この件にも深く関わってるのではないかと思いまして」

「貴方が祖父のことまで持ち出したのにもそれが理由ですか?」

「……そうかもしれませんね。言えることはまだ何もありませんけど」

 瞠は梛の真正面の席に座る。

 その時、扉がノックされて原田と春樹が入ってくる。

「飲み物持ってきました」

「はい、瞠コーヒー。聖園は紅茶ね」

 原田は紅茶、春樹はコーヒを手にそれぞれ席に座った。

「他のやつは後から来るから。んで? 聖園はどんな情報を持ってきたんだ?」

 

「市川についてです。出来るだけ当時の資料を持ってきましたよ。それと5億円をほぼ突き止めました」

「どうやって?」

「宝飾品等に換金してたんです。ちまちまと。市川は幹部級でないながらかなりの信用を得ていて金の管理を任されていました。ヴァルキリーが壊滅する直前、現金数億を海外バンクに、残りは換金して逃亡し、元ヴァルキリーの詐欺集団に資金援助をしたというところですね。市川の言っていた通り市川はマルスを騙して逃げたことがあったみたいなので恨まれて命を狙われていたのは事実のようですし」

「換金方法ですが……‥ネットオークションやフリマアプリ、質屋や買取業者等さまざまな場所で変えてますね。大きな機材等は海外バンクから購入していました。とはいえ宝飾品が3分の2を占めていました。これが換金したであろうリストです」

 梛は太い紙の束をどさっと机に乗せる。1ページにつき2商品が載っている。

「市川はずいぶん流行というものに敏感なようで、人気作もリストにあります。美品のようなので市川自身がつけていたわけではないみたいですし、市川の趣味とは違うようですし」

 リストになっているものは清楚めなものが多い。それでいて人気ブランドの人気作や購入当時新作だったもので価値が倍近くにまで上がっていたものも存在した。

 市川の趣味はゴシックロリータ系統だ。逮捕当時の服装もゴシックめなカジュアルな服装だった。その辺りの有名ブランドのアクセサリーで希少性等で高い価値のあるものは入っていなかった。

「おはようございますー。えっとー、聖園さんですっけ?」

 女性2人と男性1人が部屋に入ってきた。春樹が後から来ると言っていた人たちだった。

「宮下です」

 ショートヘアの高身長の女性が名乗る。

「晴季はるすえです」

 スーパーロングの女性が名乗る。

「三河です」

 男性が名乗る。

「聖園です。上からのお達しでサポートに来ました。よろしくお願いします」

「サポート?」

 三河が聞き返す。

「はい。今日も新しい情報を渡しに来ました。何かあれば僕も現場に同行します」

「失礼ですけど現在の所属は?」

 宮下が聞く。

「警察庁警備局です。せっかくの内勤だったのに駆り出されてしまって。まぁ自業自得ですよ……」

 

「にしてもやりずれぇよ。警察庁の役職持ちがこんなとこにいたらよ」

 春樹がボソっと言う。

「現在次長の息子さんがご友人なのはやりにくくないんですか? いくら仲が悪いとはいえ」

「心情的には別だよーだって、麻布の頃からの友人だし?」

 麻布中央学園。私立の男子校で中高一貫。変人が多いとは言われるが昔からの名門校だ。

「それに、警部は向こうだって係長ですよ。ただの。でも麻布なら納得ですよ」

「何が納得ですって?」

 少し語気強めに瞠が続ける。

「変人ばかりで有名じゃないですか。20年前の火事騒ぎとか特に有名ですし」

 20年前、教室で焼肉していた結果引火して燃えたとかでかなりの騒ぎになったしネットでは今でも持ち出されるほどの事件だった。

「あーそれ瞠も関わってたやつ……」

「は、はぁ!? それを言うならお前も関わっていただろうが! 何自分はやってませんみたいな……!」

「あれ、班長たちだったんですか……」

 ドン引いた様子の部下たちだった。

 

「話、戻しますよ。とにかく、掴めているのはここまでです。リーダーと見られる佐藤以外は誰が居るのか、結局何人いるのかまだわかってない。これはこっちでも調べておきますが……まぁ今のところ言えるのはこれぐらいです。もう1週間後とはいえわからない事だらけです。目先の目標である国際サミットで何も起こさないことしか……」

「そう、ですね。とにかくこれからよろしくお願いします。聖園さん」

「……はい。唯川さん」

「それと、唯川グループのことについて知っていることがあるなら教えて欲しい。私が知っていることを話しますから。父のやった事を」

「別に、いいですよ。ご本人から聞きましたから。別に許せるわけではないですけど、本当のことを知れましたので、貴方のお爺さんのことを含めて」

「あの人から、直接? 本当のこと? 祖父?」

「……ええ」

 梛は口が滑りすぎたと、瞠は直接話されていたことと好きな祖父も関わっているということで顔が真っ青になっていた。

 

 

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