競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話 作:雅媛
裏山で温泉を掘り当て、見事にアルヴさんとスティルちゃんの仲を取り持った数日後。ボクは奈瀬トレーナーの執務室に呼び出されていた。
「アルヴのメイン担当は、お前に任せる。ちゃんと責任を取れ」
「……はい?」
コーヒーを啜りながら淡々と告げられた言葉に、ボクは間の抜けた声を漏らした
。
「いやいやいや、奈瀬さん! ボクはただ、ちょっとストレッチのついでに構いまくって、拗ねたから温泉掘って慰めただけですよ!? 責任って何ですか!」
「あれだけアルヴの感情をかき乱し、依存させておいて『構っただけ』だと? どの口が言うんだ、このタラシめ」
奈瀬さんは呆れたようにため息をついた。
「今、アルヴは私のアドバイスよりもお前の言葉を優先している。指導者として、これほど非効率なことはない。お前が手なずけたんだ、最後まで面倒を見ろ。手続きは済ませておく」
有無を言わさぬトップダウンの業務命令。
かくしてボクは、同室のスティルちゃんに加え、アルヴさんという将来のG1級ウマ娘二人を同時に担当するトレーナーとなってしまったのだ。
まあ、美人で才能溢れるウマ娘二人に囲まれるのだ。百合ハーレム建設を目指すボクにとって、悪い気はしない。
そう思っていたのは、最初の三日だけだった。
「プイちゃん、今日の午後は私のフォームを見てくれる約束よね?」
「ダメよ。プイは私と一緒に併走のメニューをこなす予定なんだから。ね、プイ?」
「えっ、あ、ええっと……時間を半分ずつにするのはどうでしょう……」
「「ダメ(よ)」」
右からアルヴさん、左からスティルちゃんに腕をホールドされ、逃げ場を失う。
問題は明白だった。スティルちゃんを構いすぎるとアルヴさんが盛大に拗ねてどす黒いオーラを放ち、アルヴさんを構いすぎるとスティルちゃんが『内なる紅』モードになって猟奇的な笑顔で圧をかけてくるのだ。
めんどくさい。ものすごく、めんどくさい!
右の機嫌を取れば左が怒り、左を宥めれば右が泣く。なんだこの綱渡り。
(もしかして、百合ハーレムって維持するのがめちゃくちゃしんどいのでは……? まだ二人だけなのに、すでにスケジュール管理と精神的フォローでボクのキャパシティはアップアップなんだけど)
前世の社畜時代、気難しい二人のクライアントの板挟みになって胃を痛めた記憶がフラッシュバックする。
しかも、精神的疲労に加えて、物理的な距離感も完全におかしくなっていた。
アルヴさんは自分の部屋があるはずなのに、夜になると当たり前のようにボクとスティルちゃんの部屋に入り浸るようになった。
そのまま三人でお風呂に入ることになれば、二人がかりでボクの全身を泡だらけにして素手や体で洗ってきたりする。ベッドに入る時も、ボクを真ん中にして左右から二人が潜り込んできて、腕枕や抱き枕にされる添い寝がデフォルトになってしまった。
(同性だからいいのか……? いや、いくらなんでもスキンシップが過剰すぎる。セクハラ一歩手前どころか、セクハラそのものじゃないか?)
中身がオッサンであるボクは、毎晩理性を総動員して耐え忍ぶ羽目になっていた。
それに、もう一つボクの理性を削り取ってくる要因があった。
至近距離で触れ合う二人から、頭がクラクラするほど甘くて、ものすごく良い香りがするのだ。シャンプーや石鹸の匂いとは違う、もっと本能に直接訴えかけてくるような芳香。
「なんか、二人ともすごくいい匂いがするんですけど、どんな香水使ってるんですか?」
ある夜、ベッドで左右から抱きつかれながらボクが尋ねると、アルヴさんがボクの首筋に顔を埋めながらクスリと笑った。
「香水なんて使ってないわよ。ウマ娘はね、遺伝子的に相性がいい相手の近くにいると、お互いにすごくいい香りに感じるらしいの。……ちなみに、プイちゃんからも、とびきり甘くていい匂いがするわ」
「ええ。とても惹かれる匂い……ずっと嗅いでいたいくらいです」
スティルちゃんも、ボクの耳元で甘い吐息を漏らしながら囁いた。
(フジキセキ先輩かお前らは。なんだそのロマンチックすぎるフェロモン設定は)
ボクは内心でツッコミつつ、とりあえず自分もいい匂い扱いされているなら役得だと割り切ることにした。
そんなギリギリの均衡が保たれていた日常に、決定的な事件が起きた。
休日のトレーニングコースで行われた、スティルちゃんとアルヴさんの二回目の併走の時だ。
「負けないわよ、スティル!!」
「アハハハハッ! 泥水をすすりなさい、アルヴ!!」
バチバチに火花を散らす二人。結果は、やはり今回もスティルちゃんの勝利だった。
フォーム改善の効果もあり、現状ではまだスティルちゃんの方に分があるようだ。とはいえ、アルヴさんも確実に実力を伸ばしており、その差は着実に縮まっていた。
「はぁ、はぁ……! 勝った、私の勝ちよ、プイちゃん!」
ゴール直後、息を弾ませながら紅ちゃんがボクの元へ駆け寄ってきた。
「お疲れ様です、紅ちゃ――んぐっ!?」
ボクが労いの言葉をかけようとした瞬間だった。
紅ちゃんはボクの肩をガシッと掴むと、そのまま強引に顔を近づけ、ボクの唇を己の唇で塞いだのだ。
(えっ!? ちょっ、うぇっ!?)
ただのキスではない。完全に口をこじ開けられ、生温かい舌がボクの口腔内を蹂躙していく。ウマ娘の圧倒的なフィジカルでホールドされているため、モブであるボクの力では身動き一つ取れない。
思考が真っ白になるほどの、濃厚なディープキス。
「んっ……ぷはっ……ふふ、勝利のご褒美、頂いちゃったわ♡」
唇を離した紅ちゃんが、糸を引きながら妖艶に微笑む。その後ろで、敗北したアルヴさんが「なっ、何抜け駆けしてんのよ泥棒猫!!」と般若のような顔で叫んでいた。
(な、なんでだよ! ボクのファーストキスだぞこっちは!!)
前世でも経験のなかった(悲しい)初めてのキスを、まさか同性のウマ娘に強奪されるとは。
とはいえ、ボクの口内にはまだ彼女の甘い唾液の味が残っており、正直に言えば『超絶美人のキス、まんざらでもなかったな……』とオッサン人格がひっそりとガッツポーズをしていたりもする。
だが、問題はその後だ。
この事件をきっかけに、ボクの担当陣営に『併走に勝った方が、プイにキスできる』という、意味不明な謎ルールが爆誕してしまったのだ。
「今日は私の勝ちね、プイ。……んっ、ちゅぅっ……」
「アハハハ! 今日は私のご褒美よ! んーむっちゅ……れろ……っ」
意味が分からん。
しかも二人とも、ただのバードキスではなく、毎回のように息が止まるほどのディープキスをしてくるのだ。
練習のたびに唇を奪われ、腰を抜かしそうになるボクは、ある日の夜、ベッドで両脇を固めてくる二人に耐えきれず抗議した。
「あのさ、二人とも愛が重いんだよ! いくら友達だからって、毎回舌まで入れるディープキスはおかしいでしょ! 友達関係でやるもんじゃないよ!」
ボクが真面目な顔でそう訴えると。
アルヴさんとスティルちゃんは、顔を見合わせ、信じられないものを見るような目でボクを見つめ――深々と、同時に深いため息をついた。
「「…………はぁ」」
「えっ、何。ボク何か間違ったこと言った?」
ボクが首を傾げると、二人は呆れたようにボクの頬を両側からつねってきた。
「ふぇっ!? ひゃめへ!」
「……ええ、そうね。プイの言う通りだわ。友達同士でやるものじゃないわね」
「全くです。本当に、この子は底なしのタラシで……救いようのない鈍感ですね」
「ひょれ、ひょうひうひみれすか!」
なぜため息をつかれたのか、全く理解できない。ボクはただ、百合ハーレムを目指す者として、友情の範疇を超えたスキンシップに警鐘を鳴らしただけなのに。
やっぱり、女の子の気持ちというのは前世からずっと、ボクには難しすぎるのであった。
百合ハーレムどうする
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積極的に増やす
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なんとなく少しずつ増える
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現状維持で増やさないようにする