競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話   作:雅媛

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14 モブ(?)ウマ娘、悩む

 春のクラシック戦線の第一弾、『桜花賞』。

 この一生に一度の大舞台を見事に制したのは、スティルちゃんだった。アルヴさんは惜しくも二着。

 そしてレース後のウイニングサークルで、ボクは案の定、五万人の大観衆の前で桜の女王から濃厚な『ウイニング・キス』をされる羽目になった。

 

 翌日のスポーツ紙の見出しは『天才幼女トレーナー、今度は桜の女王と熱愛!? 二股か、それともハーレムか!!』とデカデカと書き立てられていた。

 まあいい。それはもういいんだ。世間からどう思われようと、そもそもボクは百合ハーレムを作るつもりでトレセン学園に来たのだから。スキャンダル上等である。

 

 だが、現在ボクは深刻な悩みを抱えていた。

 ――ハーレムの維持が、死ぬほど大変だということだ。

 

 スティルちゃんとアルヴさんの二人の面倒を見るだけでも、スケジュール管理、メンタルケア、そして夜の過剰なスキンシップへの対応で、ボクの心身は限界ギリギリのアップアップ状態だった。

 これ以上メンバーが増えたら、ボクは干からびて死んでしまうのではないだろうか。

 

 ということで、困った時の姉さん頼みである。

 ボクは休日の午後、同室のカメちゃんが不在の時間を狙って、姉さんの部屋へと転がり込んだ。

 

「プイは馬鹿だなぁ……」

「ぷいぃぃぃぃ……」

 

 ベッドの上でクッションを抱きしめながら現状を説明したところ、姉さんからは深い深い、そして呆れ果てたため息が返ってきた。

 

「私はてっきり、『百合ハーレムを作る!』なんて豪語するくらいだから、賢いお前なら、もっと先のことまでちゃんと計算して動いてると思ってたんだが」

「なにも! 考えて! いませんでした!!」

「本当にプイは馬鹿だなぁ」

「ぷいぃぃぃぃぃ……」

 

 ぐうの音も出ない。正論のサンドバッグである。

 姉さんは呆れながらも、ボクの隣に座って頭をポンポンと撫でてくれた。

 

「……そもそも、プイは本当は何をしたかったんだい? いろんなウマ娘にチヤホヤされたかったのか?」

「うーん……そう聞かれると、ちょっと違うかも」

 

 ボクは少し考えてから首を振った。

 

「私が思うに、プイは極度の人見知りだろう? 不特定多数のファンとかに囲まれたかったわけじゃなくて……ただ、『身近な誰か』に特別に構ってほしかっただけなんじゃないか?」

「…………あっ」

 

 図星だった。

 前世で孤独な社畜だったボクは、今世で優しくて強い姉さんや、両親にたくさん構ってもらえるのがすごく好きだった。

 だから今後も「いっぱい構ってもらえる特別な関係が欲しい」という寂しさと、前世のオタク特有の「可愛いウマ娘を侍らせたい」という雑念がまざって『百合ハーレム』なんていう身の丈に合わない大層な発想になってしまっていたのだ。

 

「自分の器を見誤ってたみたい」

「まあ、でもここまで来ちゃったら、選択肢は二つだよ」

 

 姉さんは指を二本立てた。

 

「一つは、全部捨てて逃げること」

「えっ、逃げるの!?」

 

 ボクが驚いて顔を上げると、姉さんは真剣な表情で頷いた。

 

「プイは頑張りすぎなんだよ。なんだよ、十二歳でG1ウマ娘二人の専属トレーナーって。控えめに言って異常だよ。指導教官の奈瀬さんすら、プイの才能に目が眩んであんまりおかしいと思ってないみたいだけど、客観的に見たら絶対におかしい。だから、もう無理ーって泣きついて、全部放り出して逃げてもいいと思う」

「うーん……」

 

 逃げるは恥だが役に立つ、というやつだろうか。

 確かにボクはまだ未成年で、中等部だ。精神的に限界を迎えて大人の保護下に戻るのが、誰かに咎められることではないかもしれない。

 

「その場合、今の担当の二人や、奈瀬さんとの関係は……ほとんど捨てることになるだろうけどね」

「……そうだよねぇ」

「まあ、だとしても」

 

 姉さんがそっと顔を近づけ、ボクの頬を愛おしそうに撫でた。

 

「私は、プイのお姉ちゃんであることは変わりないよ」

 

 至近距離で、姉さんの真っ直ぐな瞳と視線が絡み合う。

 ああ、なるほど。きっとボクがすべてを投げ出して逃げると言ったら、この人は自分の夢すら放り出して、どこまでもボクについてきてくれるのだろう。

 姉妹二人だけで、誰にも邪魔されずにイチャイチャと楽しく生きていく。それもまた非常に魅力的な提案だった。

 

 部屋の中に、甘く、静かな沈黙が流れる。

 姉さんの顔が、少しずつボクに近づいてきて……

 

「……いや、やっぱり逃げるのはないかな。スティルちゃんもアルヴさんも、ボクがいないとダメになっちゃいそうだし」

「……そっか。残念」

 

 ボクが首を振ると、姉さんは少しだけ寂しそうに、けれどいつものカラッとした笑顔に戻って体を離した。

 

「じゃあ、もう二つ目の選択肢。今の過酷なハーレムを、気合いで上手く乗りこなすしかないでしょう」

「うーむ……」

「スティルさんもアルヴさんも、プイにはもう文字通りぞっこんじゃない。何が不満なんだい?」

「不満というか……あんなに重い愛を貰っても、ボクからはあげた分だけ返せないじゃない?」

 

 向こうは2、こっちは1なのだ。物理的に身体が足りない。

 

「あー、もうそれは一対多の宿命として諦めるしかないよね」

「ええ……」

「ちなみに、その……二人からのキスとかスキンシップが嫌だったりするの?」

「いや、正直、めっちゃくちゃ嬉しいしちょっと興奮するかな……」

「なんだ、プイも完全にぞっこんじゃないか」

 

 姉さんが、人の恋バナを楽しむ女子中学生のようにニヤニヤと笑う。

 

「まあ、でもキャパオーバーなんだから、これ以上あまり相手を増やさないように気をつけることだね。上手くかわしなよ」

「かわすって、どうやって?」

「ひとまずスティルさんとアルヴさんはもう手遅れだけど、このまま隙を見せてたら、クロフネ先輩とかもガンガン乱入してくるでしょう? 適当に理由をつけて二人きりにならないようにするとか」

「……できる気がしないんだが」

 

 あのムチムチの暴力から逃げ切れる未来が想像できない。

 

「あと、この前入ってきたメサイアちゃんだっけ? あの子も、プイの走りを見せつけられて、完全に脳みそ焼かれた顔してたから。手遅れになる前に上手くやったほうがいいよ」

「上手くやるって……何さ」

「そして奈瀬さんは……まあ、あの人は大人だから、『私は逃げませんから食べないでください』ってアピールしとけば、とりあえず現状維持でどうにかなるんじゃないかな。ダメだったら諦めて食べられなさい」

 

 姉さんは、無責任にケラケラと笑いながらボクの背中を叩いた。

 

「何も解決してないし、上手くいく気が全くしないんだけど……」

 

 姉さんに相談して心が少し軽くはなったものの、具体的な解決策は「気合いでかわせ無理なら諦めろ」というスパルタなものだった。

 どうやら嵐はまだまだ続きそうである。




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