競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話   作:雅媛

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4 モブ(?)ウマ娘、トレーナーになる

 指導教官となってくれた元中央トレーナーの師匠は、当初、ボクに地味な雑用ばかりを押し付けてきた。

 ストップウォッチでのひたすらな計時、練習後のコースのトンボ掛け、選手のアイシング用氷嚢作り、さらには分厚い辞書のような運動生理学や栄養学の専門書を「来週までに読破してレポート提出」などという、あからさまな嫌がらせのような試練を与えてきたのだ。

 

 おそらく、三歳児の気まぐれを早々に諦めさせたかったのだろう。まあ、その気持ちは痛いほどわかる。

 自分で言うのもなんだが、ボクの外見は髪ツヤツヤの無駄に可愛い幼女だが、中身のせいで「幼女特有の無邪気な可愛げ」というものが壊滅的に欠如している。おまけに、両親の財力と権力でねじ込んできた甘やかされたボンボンお嬢様だ。そんな子供に地味で泥臭い裏方作業や、小難しい文献調査などやらせておけば、三日も経たずに「もうやだー!」と泣いて投げ出すと思ったに違いない。

 

 だが、残念だったな師匠。ボクの魂は『元社畜』なのだ。

 前世の理不尽な業務命令に比べれば、意味と目的がはっきりしている雑用などご褒美に等しい。むしろ、こういった基礎的な雑用や裏方の知識が、後々現場を回す上でいかに重要かをボクは骨の髄まで知っている。

 師匠だって、普段は多くのアシスタントを使って雑用を割り振っているが、もしスタッフが全員インフルエンザで倒れたとしても、必要な全工程を一人で完璧にこなせるだけの技術を持っているのをボクは見抜いていた。

「やれるけど、あえてやらずに人に任せる」のが一流のマネジメントだ。「いざという時にやれない」では、トラブルが起きた時に組織が回らなくなる。

 

 そんな前世の社畜イズムを遺憾なく発揮し、ボクは与えられた雑用を完璧に、なんならマニュアル化して効率化まで図りながらニコニコとこなしてみせた。専門書も前世のゲーム知識とオタク特有の謎の記憶力を駆使して読破し、完璧なレポートを提出した。

 結果、半年もする頃には師匠もすっかり白旗を上げ、ボクを「変な幼女」として正式に弟子と認めてくれるようになったのだ。

 

 同じチームで働く大人の兄弟子や姉弟子たちも、なんだかんだでウマ娘という存在に甘く、子供に激甘な人ばかりだったので、すぐにボクのことを職場のマスコット兼優秀なアシスタントとして可愛がってくれるようになった。

 彼らに重宝された一番の理由は、ボクが『ウマ娘特有の感覚を、人間の大人が理解できる論理的な言葉に翻訳できる』という一点にあった。

 

「ここを走る時、なんか地面がギュンッてして、脚がバーンってなるんです!」という同年代のウマ娘の擬音語だらけの訴えを、ボクが「第3コーナーの芝の反発が強すぎて、蹴り出しの角度がズレた結果、大腿四頭筋に過剰な負荷がかかっているようです」と通訳する。

 これが指導陣に大ウケし、ボクはチームになくてはならない存在として確固たる地位を築いていった。

 

 そんなこんなで大人たちに可愛がられ、知識をスポンジのように吸収すること約二年。

 ボクが五歳の誕生日を迎えた頃、『トレーナー資格試験』を受験する許可が下りた。年齢制限がないとはいえ、前代未聞の事態である。

 試験会場では周りの受験生(全員大人)から「迷子かな?」と生暖かい目で見られ、面接官からは「志望動機は?」と困惑気味に聞かれた。ボクは「可愛いウマ娘とイチャイ……コホン、ウマ娘の心身をサポートし、共に最高の景色を見るためです」と完璧な営業スマイルで乗り切った。

 

 筆記試験は前世の知識とこの二年の詰め込み学習で、勢い任せにゴリゴリと解いた。

 そして数週間後、なんか、受かってしまった。

 

 マジか。

 難関国家資格レベルの合格率だと聞いていたが、受かってしまったのだ。

 かくしてここに、『五歳の幼女トレーナー』が爆誕してしまった瞬間だった。

 

 合格の知らせを聞いた両親は狂喜乱舞して地元でパレードでも開く勢いだったし、姉のブラックタイド、友人のカメちゃん、カネちゃんにもクラッカーを鳴らして盛大にお祝いしてもらった。

 しかし、熱狂が冷めると同時に、ボクは一つの現実的な問題に直面した。

 

(資格は取ったけど……これ、今後どうするんだ?)

 

 一応、プロのトレーナーとして働く法的な権利は得た。だが、いくら中身が社畜でも、外見が五歳児のまま『ブラック上等なチームトレーナー業』をフルタイムでやる気は毛頭ない。過労死してまた転生する羽目になる。

 かといって、トレセン学園の教官職などに就いた日には、教えられる生徒の方が「なんで園児に教えられてるの私……?」とアイデンティティ崩壊を起こして困るだろう。

 とはいえ、せっかく取った資格を使わず放置しておけば、いざという時に腕が鈍ってしまう。

 

 今後の身の振り方にボクが短い腕を組んで悩んでいると、師匠がある人物を紹介してくれた。

 

「お前はまだ幼い。本格的にチームを持つのはレースを引退してからでいいだろう。それまでは、私のツテで優秀な現役トレーナーのところで『助手』として手伝いをしながら、実践経験を積むといい」

 

 そう言って師匠が引き合わせてくれた相手。

 それが、『奈瀬文乃』トレーナーだった。

 

(……あ! シングレに出てきたトレーナーさんじゃん!)

 

 ボクの前世の記憶がピコンと反応した。

 プリティーじゃない漫画『ウマ娘 シンデレラグレイ』に登場する、スーパークリークの担当トレーナー。ネットの噂では、彼女のモデルは『武豊』という凄腕の騎手らしい。

 実在の男性騎手を、ウマ娘の世界に合わせて女性トレーナーにした……つまり『武豊の擬人化の女体化』という、オタクでも一瞬脳の処理が追いつかなくなるような複雑な概念の存在だ。というか女体化はわかるが擬人化ってなんだ。武豊は人間じゃないのか?

 

 ちなみにボクの『武豊』に関する知識は、競馬ミリしらゆえに極めて乏しい。「何かの伝説を作った人らしい」ということと、「ウマ娘のテレビCMで、外国人のプロモーターっぽいおじさん(ルメールさん?)と一緒に楽しそうに出演していた愉快な日本人のおじさん」という認識しかなかった。まさかあの愉快なおじさんが、こんなクールビューティーな女性に変換されているとは。

 

 そう、奈瀬文乃トレーナーは、ショートヘアが似合う、スーツの着こなしが完璧なボーイッシュ系の超絶美人だったのだ。

 百合ハーレムを志すボクの高性能レーダーが、ビンビンに反応した。

 

(かっこいい……! 可愛いウマ娘たちを侍らせるのも最高だが、こういうクールな大人の女性トレーナーに可愛がられるのも、百合の重要な栄養素の一つ……!)

 

 ボクは二つ返事で「やらせてください!」と助手枠を引き受けた。

 

 こうしてボクは、奈瀬トレーナーの元で土日だけお手伝いをする生活をスタートさせた。

 主な業務は、彼女が立てたトレーニングメニューのデータ入力や、選手のタイム測定、たまにボク自身の走りを彼女に見てもらい、アドバイスをもらうといったものだ。

 彼女の担当ウマ娘がレースで遠征に行ってしまえばボクの仕事もなくなるため、かなり不定期な勤務ではあったが、気楽でちょうどよかった。

 

 奈瀬トレーナーは、口数こそ少ないものの、五歳児のボクを一人のトレーナーとして尊重してくれた。そして何より、なんだかんだでめちゃくちゃボクを可愛がってくれた。

 

「ほら、プイ。仕事終わりだ。メシ食いに行くぞ」

「わーい! 奈瀬さん、今日は何ですか?」

「お前がこの前いい仕事をしたからな。回らない寿司だ」

 

 クールな顔をして、ポンと高価な寿司を奢ってくれる。イケメンすぎる。

 カウンターで美味しいトロを頬張っていると、彼女はボクの目の前に置かれた付け合わせのニンジンの漬物を押し付けてきた。ニンジン嫌いなのだこの人は。

 

「奈瀬さん、ニンジン食べないんですか? ウマ娘の栄養源ですよ。はい、あーん」

「……私は人間だ。それに、生の人参をボリボリ食う趣味はない」

「えー、美味しいのに。じゃあボクが食べちゃいますね」

 

 呆れたように苦笑いしながらお茶をすする彼女の横顔を眺めつつ、ボクは心の中でガッツポーズをした。

 

(よしよし、大人の女性とのフラグも順調に建築中だぞ)

 

 見習い期間を終え、最年少トレーナーとなったモブウマ娘。

 ボクの野望は、名だたるレジェンドたちを巻き込みながら、着実に次のステージへと進んでいくのだった。




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