競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話   作:雅媛

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閑話 奈瀬トレーナーが見たモブ(?)ウマ娘

 あれは、歴史上の誰よりも恐ろしい『怪物』であった。

 

「五歳でトレーナー試験に通った、特例中の特例のウマ娘がいる」

 

 最初に私に入ってきた情報は、ただそれだけだった。

 話を聞いた時、私は鼻で笑いそうになった。いくら頭の回転が速かろうと、所詮は子供だ。試験のマークシートをパズル感覚で解いたか、よほどのガリ勉なのだろうと思っていた。

 だが、私の恩師でもあり、彼女の指導教官を務めていたベテラントレーナーから「お前のチームで助手をさせてやってくれないか」と頼み込まれた時の、彼のひどく真剣な声色が引っかかった。

 

「あの怪物を扱えるのは、お前くらいしかいない」

 

 数多の名ウマ娘を見てきた恩師にそこまで言われれば、断るわけにはいかない。

 ひとまずお試しという形で、週末だけ彼女を私のチームに引き受けることになったのだが……

 

「ぷいぷい〜♪ 奈瀬さーん、先週の各ウマ娘のラップタイム、エクセルで傾向分析してグラフ化しておきましたよー。あとスポドリも作りました!」

 

 ディープインパクト。通称『プイ』。

 天才、あるいは怪物と呼ばれている彼女は、一見すると予想以上に普通、いや、少し変わったところのある無邪気な幼女だった。

 極度の人見知りを発揮して大勢の前ではモジモジしているかと思えば、特定の相手、特に年上のウマ娘や私には急に距離を詰めてきたりする。しかし、基本的には黒髪がかわいらしい、ただの幼女に見えた。

 

 だが、ともに過ごす時間が長くなるにつれ、彼女の『異常性』が次々と露呈し始めた。

 

 まず一つ目は、底知れぬ頭の良さと、年齢に全くそぐわない『世間擦れ』した精神性だ。

 トレーナー試験に合格しているのだから知識があるのは当然だが、彼女のそれは単なる暗記のレベルを超えている。現役トレーナーの平均値と比較しても、業務の段取りが異常に手慣れているのだ。

 機材のセッティング、他チームとの練習馬場の割り振り交渉、さらにはスポンサー関係者への完璧な愛想笑いとお辞儀の角度。

 彼女の出自は、絵に描いたような大企業の社長令嬢であるはずだ。にもかかわらず、なぜあんな酸いも甘いも噛み分けた、歴戦の中間管理職のような哀愁と処世術を身につけているのだろうか。全くもって謎である。

 

 しかし、そんな精神の異常性すら些末な問題に思えるほど、私が戦慄したのは彼女の『走り』だった。

 

 プイがチームに慣れて数年経ったある日のこと。私のチームで一線級の活躍をしている芦毛のウマ娘、クロフネの併走相手が不在で困っていた時のことだ。

 クロフネはG1クラスの第一線で戦う、規格外のパワーとスピードを誇るウマ娘だ。当然、彼女の全力のトレーニングに付き合える併走相手を探すのは至難の業である。条件戦クラスのウマ娘では全く実力不足で、オープンクラスのウマ娘を連れてきてようやくどうにかなるか、というレベルなのだ。

 

「ボク、暇なんでクロフネさんのペースメーカーやりますよ?」

 

 ジャージ姿のプイが、ひょこっと手を挙げた。

 私は止めた。「怪我をするぞ」と。まだ小学生がG1ウマ娘のガチの調教に付き合うなど、自殺行為に等しい。

 だがクロフネが「プイちゃんなら大丈夫ですよ」と笑って受け入れたため、私はいつでも止められるようストップウォッチを握りしめ、二人のスタートを見守った。

 

 そして――私は、自身の目を疑うことになった。

 

 クロフネが凄まじい砂埃を上げて猛然とダートコースを駆け抜ける。その横で、プイは『並んでいた』。

 いや、ただ並んでいるだけではない。

 クロフネが額に汗を浮かべ、荒い息を吐きながら走っているというのに、横を走るプイは涼しい顔をして、あまつさえ手元のストップウォッチをチラチラと確認しているのだ。

 

「クロフネさん、残りハロン棒切りましたよー。右足の踏み込みが少し浅くなってます、重心をあと2センチ前にー!」

「はぁっ……! わ、わかった……っ!」

 

 異常だ。狂っている。

 彼女はまだ、トレセン学園に入学すらしていない少女なのだ。ウマ娘としての身体が劇的に成長する『本格化』すら迎えていない。

 それなのに、なぜG1クラスの猛者と余裕で並び、走りながらフォームの指導までできる?

 プイの走りは、他のウマ娘のそれとは明らかに異なっていた。地面を蹴るというより、宙を舞っている。極端に接地時間が短く、まるで重力から解き放たれて飛んでいるかのような、次元の違うストライド。

 

 走り終えた後、私は震える声で彼女に尋ねた。

 

「お前……今の走りは、なんだ……」

「えっ?」

 

 プイはきょとんとした顔で首を傾げたあと、能天気な顔でへらっと笑った。

 

「いやぁ、さすがクロフネさんですね! ボクみたいなモブじゃ、ギリギリついていけてるだけですよー。必死でした!」

 

 ……本気で、言っているのか?

 あんな涼しい顔で宙を飛んでおいて、『ギリギリ』?

 このふざけた少女は、自分の才能の異常さを微塵も自覚していないのだ。

 

 歴史上、圧倒的な力で時代を支配した『怪物』と呼ばれるウマ娘は幾人もいた。

 私がこの目で直接見た中で最も怪物に近かったのは、あの『シャドーロールの怪物』ナリタブライアンだろう。

 怪我をする前の彼女は、他陣営に「どうやれば勝てるのか全く分からない」という深い絶望を抱かせるほど、純粋な暴力のような強さを持っていた。

 

 しかし、おそらく。

 目の前で「ぷいぷい〜、奈瀬さんお腹空きましたー」と謎の鼻歌を歌いながら私の袖を引いているこの幼女は、あのシャドーロールの怪物すらも上回る。

 もし彼女がこのまま成長し、本格化を迎えてトレセン学園に入学したならば、間違いなく競馬界の歴史を根底からひっくり返す『英雄』になる。

 

(……この怪物を、他人に渡してたまるか)

 

 私の胸の奥底で、トレーナーとしての抑えきれない情熱と、どす黒い独占欲が鎌を首もたげた。

 彼女の才能を一番近くで見届けたい。私が、私の手でこの怪物を育て上げたい。絶対に逃がしたくない。

 私のチームを紹介してくれた恩師のベテラントレーナーには、今なら土下座してでも感謝の意を伝えられる。

 

「プイ。今日の仕事は完璧だった。……寿司、食いに行くか」

「えっ! ほんとですか!? やったー! 奈瀬さん大好き!」

 

 無邪気に抱きついてくる小さな身体を受け止めながら、私は密かに計画を練る。

 彼女は妙に大人の女性に懐く傾向がある。そして、褒められることと美味しいものに弱い。

 ひとまず他のトレーナーに目を向けさせず、私から逃げられないようにするためには、アメの使い方が重要だ。時に厳しく指導し、時にたっぷりと甘やかして、完全に私に依存させるように育て上げるしかあるまい。

 

 私が担当する最強のウマ娘にして、最強の助手。

 ディープインパクトという底知れぬ怪物の手綱は、この奈瀬文乃が絶対に握ってみせる。

プイちゃん(モブ)のルームメイトは?

  • モブ(クロフネ)
  • モブ(キンカメ)
  • アグネスタキオン
  • マンハッタンカフェ
  • ネオユニヴァース
  • ゼンノロブロイ
  • スティルインラブ
  • アドマイヤグルーヴ
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