競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話   作:雅媛

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6 モブ(?)ウマ娘、入学する

 ボクはトレセン学園に『飛び級』で入学した。

 と言っても、天才だからといって五年も十年もスキップしたわけではない。たった一年の飛び級だ。ブラックタイド姉さんと、幼馴染のカメちゃん、キングカメハメハがボクより一つ年上なので、彼女たちの入学に合わせて特例で試験を受けさせてもらった形である。

 

「ぷっぷくぷー! プイちゃんもタイちゃんもカメちゃんも、みんなひどいよー! 私だけ置いてけぼりなんてー!」

 

 合格発表の日、一人だけ同世代として地元に取り残されることになったカネちゃん、カネヒキリが、ほっぺたを丸く膨らませてブーブーと文句を言っていた。

 

「ごめんねカネちゃん。でも、学園に入ったらいいトレーナーさん沢山紹介するし、一年待ってて」

「う、うーん……それならいっか! 絶対だよ!」

 

 チョロい。やはりカネちゃんは良いハーレム要員になりそうだ。

 

 ともあれ、無事に憧れのトレセン学園の制服に袖を通したボクたちだが、入学して最初の、そして最大の目標がある。

 

「まずは、担当トレーナー探しだな」

「ですねぇ」

 

 学園のカフェテリアでジュースをストローですすりながら、ボクは姉さんとカメちゃんに頷いた。

 トゥインクル・シリーズに出走するには、担当トレーナーとの契約が必須条件だ。

 

「プイは奈瀬さんにお願いするのか?」

「うん、その予定。ずっと助手としてこき使われて……いや、お世話になってるし、気心も知れてるからね」

 

 ボクは最初から奈瀬文乃トレーナーのところに転がり込む内定をもらっている。

 

「姉さんとカメちゃんはどうするの? 奈瀬さんに声かけてみる?」

「そうだな。まずは一度会って話を聞いてみたい」

「同じく」

 

 ということで、新入生恒例の『模擬レース』が終わった後に、三人でトレーナー回りをすることになった。

 

 その模擬レース自体は、かなり楽しかった。

 ボクはすでに奈瀬さんと組むことが決まっている、というか逃がしてくれないので、本来アピール目的の模擬レースでガチで走る必要はなかった。

 なので「どうせなら普段やらないことを試してみよう」と、一番距離の短い『ダートの短距離レース』にエントリーしてみたのだ。

 

 結果から言うと、かなり接戦になってしまい、ギリギリで1位をもぎ取る形になった。

 スタートから最後方に控えて、じっくり脚を溜める追込スタイルで走ってみたのだが、砂に足を取られて上手く加速できず、直線でなんとか前のウマ娘たちをゴボウ抜きにしたものの、ハナ差の辛勝だった。

 

 やっぱり、ボクは未実装のモブウマ娘なんだな。本気を出しても、短距離ダートじゃこのザマだ。もっと基礎能力を上げないと、三冠なんて夢のまた夢だぞ……

 ボクは自分の平凡な才能を反省し、百合ハーレムへの道のりの険しさに気を引き締めた。

 

 一方、姉のブラックタイドと、幼馴染のカメちゃんは凄まじかった。

 それぞれの芝の中距離レースに出走した二人は、他の新入生を全く寄せ付けない圧勝劇を演じてみせた。スタンドから見ていたボクが「うちの姉と幼馴染が最強に可愛いんですが!?」と叫びそうになるほどの圧倒的なパフォーマンス。

 あれなら間違いなく、どのトレーナーからも引く手あまただろう。

 

 レース後、ボクたちは予定通り、まずは奈瀬トレーナーの執務室を訪ねた。

 

「二人とも、今日のレースは悪くなかった。希望するなら、私のチームで引き受けるが?」

 

 奈瀬さんは淹れたてのコーヒーを啜りながら、いつものクールで受け身なスタンスを崩さなかった。来る者拒まず、去る者追わず、それが彼女のやり方だ。

 

「ふむ……私は奈瀬さんにお願いしようかな! なんだかんだでプイの世話にもなってるし、面白そうだ!」

 

 自己主張が強くて賑やかな姉さんは、静かで冷静な奈瀬さんの雰囲気が気に入ったらしい。

 しかし、カメちゃんは腕を組んで少し考え込んでいた。

 

「……私は、他のトレーナーも見てみたい」

 

 トレーナーとしての奈瀬さんの腕は、おそらく日本一だろう。だが、人と人との契約である以上、感覚的に合う・合わないは存在する。姉さんのような騒がしいタイプには、それをいなせる奈瀬さんのような寡黙な指導者が向いているが、カメちゃん自身も口数が少なく王者のようにどっしり構えるタイプなので、少し肌に合わなかったのかもしれない。

 

「じゃあ、カメちゃんの相手を探すために、次は誰のところに行こうか」

 

 ボクたちが廊下に出て歩き出した、その時だった。

 

「おーい、プイ! ちょっといいか?」

「あ、北原さん」

 

 ボクたちに声をかけてきたのは、人の良さそうな男性トレーナーだった。

 前世の漫画『シンデレラグレイ』の主役級トレーナーであり、かの芦毛の怪物・オグリキャップの地方時代及び終盤の担当であった『北原穣』トレーナーだ。

 漫画では少し冴えないおじさんのような描かれ方をしていたが、実は「彼がいた頃の笠松では、カラスが鳴かない日はあっても北原の担当が勝たない日はない」と言われるほどの実力派、名伯楽である。

 こちらの世界でも中央に移籍し、ブイブイ言わせている優秀なトレーナーさんで、気さくな人柄ゆえに助手のボクともちょこちょこ交流があった。

 

「おお、いたいた。そっちの二人、お前の知り合いか? 模擬レースの走りがすっげぇ良かったから、スカウトしようかと思って探してたんだよ」

「なるほど。こっちがボクの姉のブラックタイド。で、こっちが幼馴染のキングカメハメハちゃんです」

「よろしく」

「よろしく頼む」

 

 二人が挨拶すると、北原さんは目を輝かせた。

 

「おおっ、いい面構えだ! で、もう担当は決まってるのか?」

「姉さんはさっき、奈瀬さんのチームに入ることがほぼ決まりました。でも、カメちゃんはまだフリーですね」

 

 ボクがそう答えると、北原さんは大げさに肩を落とし、それからボクの耳元でコソコソと囁いた。

 

「なぁプイ。今度から、見込みのありそうな良い子がいたら、奈瀬さんのところに行く前に俺のところに連れてきてくれよ。な?」

「えー。奈瀬さんに怒られちゃいますよー」

「……回らない寿司、奢るから」

「じゃあ次からそうします」

 

 ボクはノータイムで頷いた。

 寿司には勝てない。それに奈瀬さんは基本的に来る者拒まずスタンスなので、別の人に紹介したからといって目くじらを立てて怒ることはないだろう。ボク自身が離れると言い出したら地の果てまで追いかけてきそうだが。無事に買収成立である。

 

 北原さんは咳払いを一つして、姿勢を正し、カメちゃんの真っ直ぐな瞳を見つめ返した。

 

「……で、キングカメハメハ、だったな。単刀直入に言う。俺と一緒に、『日本ダービー』を目指さないか?」

 

 日本ダービー。

 ウマ娘にとって一生に一度の晴れ舞台であり、すべてのホースマンの夢。

 その言葉を聞いた瞬間、ボクは慌ててカメちゃんの袖を引いた。

 

「カメちゃん、ちょっと待って。北原さんは確かに優秀だし、すっごくいい人だけど……『ダービー』に妄執してるから注意した方がいいよ」

「えっ、そうなのか?」

「おいコラ! プイ、お前変な吹き込み方すんな!」

「オグリさんの時のこと、まだ引きずってるの知ってますからね?」

 

 そう。オグリキャップがクラシック登録の問題で、実力がありながら日本ダービーに出走すらできなかったことは、北原さんにとって一生のトラウマ、呪いのようなものになっているらしいのだ。

 中央にやってきてからも、彼は懸命に頑張っているが、未だにダービーを勝ったことはないという。

 

「まぁ、カメちゃんよりうちの姉さんの方が強いから、どっちにしろ北原さんがダービー勝つのは無理でしょ。姉さんが勝つし」

 

 ボクは胸を張って、身内贔屓100%の暴言を吐いた。

 

「そうだな私がダービーを獲る予定だからな」

 

 姉さんもドヤ顔で言い放つ。

 その言葉に、大人しかったカメちゃんの瞳に、静かだが熱い闘志の炎が灯った。

 

「ふむ……面白いな。姉様が勝つに決まっている? シスコンの妹よ、寝言は寝てから言え。ダービーを勝つのは、私とこのトレーナーだ」

「おおっ……! カメハメハ……!」

「まあ、見ててよ。ウチのブラックタイド姉さんの無敵の走りを見たら、カメちゃんも泣いて謝るからね」

「望むところだ、プイ」

 

 どやる姉さん、やる気満々で北原さんと固い握手を交わすカメちゃん、そして苦笑する北原さん。

 バチバチのライバル関係の勃発である。

 

 こうして、名もなきモブウマ娘であるキングカメハメハは、ダービーの亡霊に取り憑かれた北原トレーナーの元へ行くことが決まったのだった。

 ボクの知らないところで、日本競馬史を揺るがす恐ろしいコンビが誕生した瞬間であった。




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百合ハーレムどうする

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