競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話 作:雅媛
トレセン学園は全寮制だ。
一応、実家からの通学も絶対に不可能というわけではないらしいが、トレーニング施設の充実度や生活リズムを考えれば、基本的には全員が寮に入る。当然、実家がクッソ太いボクも、親元を離れて寮へと入寮することになった。
寮長のような特例の役職持ちでもない限り、部屋は基本的に二人部屋である。つまり、必ず『ルームメイト』ができるのだ。
百合ハーレム建設を目指すボクにとって、同室のウマ娘というのはまさに本妻候補、あるいはハーレムの要となる超重要ポジションである。どんなモブウマ娘の可愛い子が来るかとワクワクしながら、指定された部屋のドアを開けたのだが――。
「えっ……」
部屋の中で荷解きをしていた少女が、こちらを振り返った。
艶やかな栗毛のストレートヘア、吸い込まれるような美しい瞳、そしてどこか儚げで、お嬢様のような気品に満ちた佇まい。
ボクのルームメイトは、なんと『スティルインラブ』であった。
(ナンデ!? スティルちゃんナンデ!?)
ボクの脳内のオタク人格が、激しいパニックを起こして叫び回った。
いや、嫌だとかそういうわけでは全くない。むしろ大歓迎だ。前世のアプリゲームの育成シナリオもすごく良くて、めちゃくちゃ好きな公式ウマ娘の一人である。
だが、彼女のルームメイトはゲームの公式設定では『ネオユニヴァース』だったはずだ。なぜ、未実装のモブであるボクが彼女と同室になっているのか? ボクが一年飛び級して入学したせいで、世界のバグでも起きたのだろうか。
だが、すぐにボクは思考を切り替えた。
経緯はどうあれ、公式の尊いウマ娘ちゃんと同室になれたのだ。この奇跡のめぐり合わせと幸せを、今はただ噛みしめることとしよう。
「ぷいぷい〜♡ プイちゃんだよ! これからよろしくね、初めまして!」
ボクは年齢相応の(?)愛らしさを全開にして、あざとさ100%の挨拶をぶちかました。
が、スティルちゃんの反応は、文字通り『無』だった。
「……初めまして」
静かに、そしてひどく冷淡に一言だけ返し、彼女はすぐに視線を外してしまったのだ。
(うむ……ボクの可愛さが足りなかったか?)
少しショックを受けつつも、ボクはこっそりと彼女を観察した。
しかし、スティルちゃん、尋常じゃなく可愛いな。アプリの3Dモデルも最高に可愛かったが、三次元の実物はその100倍は破壊力がある。
ウマ娘は総じてルックスのレベルが高く、ボクも鏡を見るたびに「無駄に可愛いモブだな」という自覚はあるのだが、彼女のそれは次元が違った。圧倒的に美しく、近寄るだけで高級な花のような、ものすごくいい匂いがする。
これが、将来ティアラ三冠を歩むような王道ヒロインのオーラなのだろうか。
あまりの尊さに、ボクが思わず「ジーッ……」と穴が開くほど見つめていると、スティルちゃんは耐えきれなくなったように困った顔をした。
「……あの」
「はいな!」
「寮長に言って、部屋を変えてもらったほうがいいですよ」
「ナンデ!?」
出会って五分。まさかの同室解消の宣告である。
ボクが素っ頓狂な声を上げると、彼女は自嘲気味に目を伏せた。
「……みんな、私を怖がるので」
「怖い? いやいや」
ボクは全力で首を振った。
「美人すぎて、オーラが眩しくて近寄りがたいくらい怖いって言われたら、まあ納得するくらい超絶美人ですけど、スティル先輩」
「びじっ!? い、いえ、そういうわけではなくて!?」
「いや、どう見ても美人でしょう。このサラサラの髪とか、もうずっと撫でてたいくらいですよ、ほら」
「ち、違います!! そうではないんです!!」
ボクがストレートすぎる容姿の称賛を浴びせると、スティルちゃんは顔を真っ赤にして後ずさり、悲痛な叫びを上げた。
「私は……いざレースになると、その、すごく『はしたない』んです! 走る姿が怪物みたいで、同室の子はみんな、私を見るのが怖くて逃げていくんですよ!!」
悲壮な決意で告白するスティルちゃん。
そういえば、たしかゲームでは多重人格のように姿を現す『内なる紅』と呼ばれる衝動があったはずだ。他のウマ娘がそれを見て怯えるといったシーンもあった。
だが、その設定を思い出したボクの脳内に浮かんだのは、全く別の感情だった。
(はしたないスティルちゃん……ふむ、ちょっとえっちすぎないか?)
前世の記憶によれば、ウマ娘は健全なコンテンツであり、公式のガイドラインで「性的描写はNG」だったはずだ。なのに、自ら「走る姿がはしたない」と申告してくる公式ウマ娘。これは一体どういうことだ。
百合ハーレムを志すボクにとって、これは一大事である。自身の目で、早急に真実を確かめねばならない。
「じゃあ、今から併走しましょう!」
「……は?」
「ボク、まだ先輩の『内なる紅』とやらを見たことないんで! 見てから判断します!」
「……っ!? 何故それを!? ……わかりました。そこまで言うなら、後悔しないでくださいね」
かくして、なし崩し的にボクたちはトレーニング用のジャージに着替え、夜の練習コースへと向かうことになった。
ボクの目は、コースに入るなり一点に釘付けになっていた。
(おお……ブルマ姿のスティルちゃんのおみ足、素晴らしいな)
それが、ボクの正直すぎる感想だった。
この学園の指定ジャージであるブルマから伸びる、白くて滑らかな太もも。健康的ながらも女性らしい丸みを帯びたそのラインは、芸術点が高すぎる。
「行きますよ……っ!」
スティルちゃんが低く声を絞り出し、スタートを切った。ボクもそれに合わせて駆け出す。
走り出した直後、彼女の纏う空気が一変した。
それまでの儚げなお嬢様の面影は消え失せ、瞳は文字通り『紅』に光り輝き、口元には好戦的でサディスティックな笑みが浮かんでいた。彼女の恐れる『内なる紅』の顕現である。
「アハハハハッ! もっと……もっと見せて! 貴女の絶望する顔を! ぜぇんぶ、私が食べてあげるわ!!」
深夜のコースに、スティルちゃんの猟奇的とも言える高笑いと、物騒な言葉が響き渡る。
なるほど。確かにこれは、普通のウマ娘が見たら「怖い」と怯えて逃げ出すかもしれない。いつもの儚げで消えてしまいそうな雰囲気とギャップがありすぎる。
だが、ボクは違う感想を抱いた。
(『食べたい』……? それはつまり、ボクを性的な意味で美味しくいただきたいということだろうか。確かに、これは非常にはしたない。ガイドライン抵触ギリギリだ)
ボクは隣を猛スピードで走るスティルちゃんを見つめながら、冷静に分析していた。
激しい息遣い、汗ばむ肌、そして爛々と赤く輝く美しい瞳。怖いどころか、ただただ綺麗で、艶かしくて、最高にカッコいいじゃないか。
「スティル先輩!」
ボクは横にぴたりと並んだまま、余裕の笑顔で声をかけた。
「――っ!? な、なんで……!?」
『紅』の狂気モードに入っていたスティルちゃんが、驚愕に目を見開いた。
急に真横に現れたボクに、追いつかれたことを驚いているのだろうか。
(いや、そりゃあ追いつくでしょ)
と、ボクは内心で首を傾げる。確かにスティル先輩の走りは力強いが、感情に任せているせいかフォームが荒っぽくてロスが多いのだ。これなら、モブのボクでも並べないほどではないというのが正直なところだった。
「先輩、目が赤く光っててすっごく綺麗です! 『内なる紅』ってやつ、食べたいって言ってくれるのもちょっとえっちで最高だと思います!」
「えっ……? え、えっち!?」
「全然怖くないですよ! むしろもっとそのはしたないお顔を見せてください! あ、ペース上げますか?」
走りながら、横からニコニコと熱弁を振るうボク。
その予想外すぎる反応と、自分の全力疾走に涼しい顔でついてくるボクの異常なポテンシャルに、スティルちゃんの『紅』は完全にショートしてしまった。
「な、なな、何を言ってるんですか貴女はーっ!!?」
急ブレーキをかけて立ち止まったスティルちゃんは、顔を真っ赤にして、へたり込んでしまった。
夜のコースに照らされるその顔は、狂気からではなく、極度の羞恥心によって茹でダコのように染まっていた。だって先輩が綺麗だし、えっちで可愛いのが悪い。
「はぁ、はぁ……っ、貴女って子は、本当に……っ」
息を乱しながらボクを睨みつけるスティルちゃんだったが、その瞳にもう先程の暗い拒絶の色はなかった。むしろ、自分が最も忌み嫌っていた『内なる紅』を「えっちで最高」と斜め上の理由で全肯定されたことで、すっかり毒気を抜かれてしまったようだ。
「これで分かってもらえました? ボク、先輩の走り、大好きですから。部屋、変えませんよ」
「……勝手に、してください」
プイッと顔を背けながらも、彼女の口元は少しだけ安堵したように緩んでいた。
(ふむ、なるほど。これがギャルゲーによくある友情を確かめる好感度アップイベントってやつか。チョロ……いや、可愛いな!)
こうしてボクは、初日から無事に将来ティアラ三冠を取るかもしれないウマ娘のルームメイトを確保することに成功したのである。
トレセン学園での生活は、波乱と役得に満ちてスタートした。
百合ハーレムどうする
-
積極的に増やす
-
なんとなく少しずつ増える
-
現状維持で増やさないようにする