競馬ミリしらウマ娘ファンがウマ娘化されていないモブ(?)ウマ娘に転生したので、頑張って百合ハーレムを作ろうとする話   作:雅媛

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8 モブ(?)ウマ娘、担当を持つ

 ルームメイトとなったはしたないスティルインラブだが、学年で言えばボクの一つ上の先輩にあたる。

 最初の数日は「スティル先輩」と呼んでいたが、どう考えても「スティルちゃん」と呼んだ方が響きが可愛いし、前世の記憶でもサイレンススズカが年上のエアグルーヴを呼び捨てにしていたので、ウマ娘界隈の体育会系ルール的にも多分セーフだろうと自己完結し、今はそう呼んでいる。

 

 そんなスティルちゃんだが、一つ上の学年であるにもかかわらず、未だにトレーナーと契約していなかった。

 

「いざ走ると狂気じみていて怖がられますし……普段は、そこにいても誰にも気付いてもらえないので」

 

 彼女は自嘲気味にそう言った。

 そういえば、前世のゲーム知識でもスティルインラブは普段の存在感がなさすぎるという特殊な設定があった。

 いや、しかし待ってほしい。こんな匂い立つような超絶美人のウマ娘がそこに立っていて、気付かないことなどあるのだろうか?

 いや、ない(反語)。

 

 絶対にあり得ない。トレセン学園の生徒やトレーナーの目は全員節穴なのだ。

 現にボクは一目で彼女の美しさに気付いたし、うちのブラックタイド姉さんも廊下ですれ違えば「おっ、美人のルームメイトじゃん」と普通に声をかけている。

 カメちゃんは気付いていなさそうだったが、そもそも他人に興味がなさすぎて、スティルちゃんどころか自分の隣に誰が座っているかにも気付いていない節があるからノーカウントだ。

 

 だが、理由は何にせよ、トレーナーが決まっていないのは事実だ。

 このままいけば、スティルちゃんのメイクデビューは今年の夏あたりになるはず。それまでに担当トレーナーを決め、本格的なレースに向けた調整に入らなければならない。

 

「ということで、ボクがスティルちゃんのトレーナーになりましょう」

「え? ……えええええ!?」

 

 寮の部屋でくつろいでいたスティルちゃんが、持っていた紅茶のカップを落としそうになった。

 

「最年少トレーナー、かつ現役生徒との二刀流ですから!!」

 

 ボクは胸を張って、五歳の時に取得したトレーナー免許(ラミネート加工済み)をドヤ顔で見せつけた。

 

 カメちゃんを担当している北原さんあたりを紹介してもいいのだが、こんな可愛くて速いウマ娘の才能と美貌を見つけられないような節穴トレーナーに任せるわけにはいかない。

 奈瀬さんに頼めば、ボクの紹介ということで間違いなく引き受けてくれるだろうが、それもなんか違う気がした。

 奈瀬さんはデータと理詰めを重んじる緻密な指導スタイルだ。スティルちゃんの『内なる紅』が爆発した時の、あの野生味あふれる感情的な走りとは、致命的に相性が悪い気がする。

 

 他の誰にも任せられない。なら、ボクがやればいい。

 同じ部屋で寝食を共にし、合法的に毎日イチャイチャ……いや、密なコミュニケーションを取れるのだ。完璧な布陣である。Q.E.D.証明終了だ。

 

「まあまあ、騙されたと思って。ボクの指導力は折り紙付きですよ」

「は、はぁ……」

 

 あまりの勢いと、同室のよしみもあってか、スティルちゃんは押し切られる形でボクとのトレーナー契約にサインしてくれた。

 

 さて、いよいよ担当としてのトレーニング開始である。

 ボクが最初に徹底したのは、『基礎練習』と『フォームチェック』だ。

 いくら才能があっても、怪我をしてしまえばそこですべてが終わる。今まで彼女もそれなりにトレーニングを積んできたのだろうが、今一度、柔軟や体幹トレーニングといった地味な基礎をみっちりと積み重ねさせる。焦って練習強度を上げて故障でもされたら、ボクの百合ハーレム計画が崩壊してしまうからだ。

 

 同時に、走るフォームの抜本的な修正も行う。

 彼女のあの『内なる紅』が表出した時の野性味あふれる走り方は、確かに圧倒的なパワーを生む一つの武器だが、力任せすぎて無駄が多い。持ち味である闘争心は残しつつ、非効率な部分を削ぎ落としていく必要がある。

 

「もう少し、肩甲骨の可動域を広げましょうか。ここの筋肉が硬いですね」

 

 ボクは『フォームチェック』という大義名分のもと、ジャージ姿のスティルちゃんの身体を背後からペタペタと撫で回していた。

 うむ、柔らかい。そしていい匂いがする。役得である。

 

「ねえ、貴女」

「何です? 『紅』ちゃん」

 

 ボクが涼しい顔で答えると、目の前の少女はピタリと動きを止めた。

 

「……貴女」

 

 振り返った彼女の纏う空気が、一瞬で冷たく、そして刃のように鋭いものに変わっていた。

 瞳の色も、普段の優しい色から、血のような『紅』へと変色している。

 

「目の色まで露骨に変わるんですから、誰でも分かりますよ。まあ、変わらなくても気配で分かりますけどね」

 

 『内なる紅』に切り替わったようだ。記憶は共有しているようなので完全な二重人格というわけではないのだろうが、好戦的でサディスティックな雰囲気はずいぶん違う。

 

「なんで、こんな地味なことばかりさせるのよ」

 

 紅は、不機嫌そうにボクの手を振り払った。

 

「そりゃ、怪我せずにもっと速く走るためだよ」

「不要よ。私の走りこそが完成されているわ。こんなチマチマしたフォーム修正なんて……」

「へぇ? 歳下のボクに、こないだの併走で全く追いつけなかったのに?」

「ぐっ……!」

 

 図星を突かれ、紅は悔しそうに顔を歪めた。

 正直、単純なフィジカルのポテンシャルなら、現時点では本格化を迎えているスティルちゃんの方が間違いなく上だ。それでも、モブであるボクが涼しい顔で並走できたのは、彼女のフォームが感情任せで悪すぎるからだ。あんな非効率な燃費の悪い走りでは、最後の直線でバテてしまう。

 

「あ、あの時は……たまたま調子が悪かったのよ!!」

 

 紅は負け惜しみのように叫んだ。

 

「なるほど。じゃあ、もう一度やりましょうか」

 

 ボクはストレッチの手を止め、スタートラインを指差した。

 

 

 

 結果から言うと、ボクは彼女を完膚なきまでにぶっちぎってやった。

 

 ただのモブウマ娘だと侮るなかれ。

 こちらとて、幼少期から名伯楽である奈瀬トレーナーの元で知識と実地訓練を積み、さらに自身でも限界まで身体を磨き上げてきたウマ娘ぞ。

 感情に任せてただ足を回すだけの走りと、理論と修練の結晶であるボクの走りとでは、積み重ねたものが違うのだ。

 

 スタート直後から一切の無駄なく加速し、風の抵抗を極限まで減らしたボクの飛ぶような走りは、紅の獰猛な追撃を全く寄せ付けず、差をつけてゴール板を駆け抜けた。

 

「はぁっ……はぁっ……! 嘘、でしょ……っ!?」

 

 膝に手をつき、信じられないものを見るような目でボクを見上げる紅。

 その後、彼女が納得するまで何度か併走につきあって完膚なきまでにぶっちぎってやったら、ついに彼女も心が折れたのか、大人しくボクのフォーム指導を受けてくれるようになった。

 

 圧倒的な力とえっちなマッサージで、見事に本妻候補を調教……もとい、育成軌道に乗せることに成功したのだ。

 

 ただ一つ誤算だったのは、それ以降、スティルちゃんが紅の時も含めて、なぜか寮の部屋でも学園の廊下でも、ボクにやたらとベタベタくっついて構ってくるようになったことだ。

 今まで誰にも気づかれず、怖がられていた自分を真正面から打ち負かし、全てを受け入れてくれた存在に対する、彼女なりの依存と愛情表現なのだろうか。

 

(いや、百合ハーレム的には大歓迎なんだけど……なんかボク、彼氏みたいな扱いされてない?)

 

 嬉しい悲鳴を上げながら、ボクのトレーナー兼モブウマ娘としての忙しい日々は続いていくのだった。




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百合ハーレムどうする

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